第579話居場所は何処ですか!

あの後少しウトウトしながら皆で丸まっていたが、イナイがやって来た事で目が覚めた。

シガルはもう少しくっついていたそうだったけどね。

そのせいで彼女はイナイを引き込もうとして、家人に挨拶が済んで無いからと叱られ、気まずそうにしながらシエリナさんに引き合わせに行っていた。


シガルは家に帰って来ると、普段より子供に戻る気がする。

個人的にはそういう所は可愛いと思うけど。


親父さんに挨拶に来た頃で10歳ぐらいだったから・・・今で13か14ぐらいだっけか?

まだ普通に可愛い女の子やってておかしくない歳だな。

ていうか俺はその年齢の子に身長抜かれそうなのか。

いや、多分もう抜かれてるんだよなぁ。なーんか目線がすこーし高い気がするんだよなぁ。


挨拶をした後はイナイも暫く居間で寛いでいたのだが・・・いやくつろいではいないな。

常に背筋を伸ばしてピシッとしたステル様やっていたし。

夕飯時になってシエリナさんが腕を振るおうと言った所で、イナイは手伝いを申し出た。


「お母様、お手伝い致します」

「あら、良いんですよ、お客様は座っていて」

「何かしていないと落ち着かないもので。良ければ手伝わさせて頂きたいのです」

「そうですか、ならこちらの分の処理をお願いできますか?」

「はい、お母様」


そして今、台所でにこやかにシエリナさんを手伝うイナイと、その光景を何故かハラハラした様子で見つめるシガルと親父さんという、変な光景が出来上がっている。

親父さんは兎も角、何でシガルまで。イナイが身内以外にはあの調子なのは何時もの事なのに。


「何を心配しているのか知りませんが、アナタはクロト君をお風呂にでも連れて行ってあげなさい。まったくうっとおしい」

「うっと、シエリナ、私はお前がイナイ様に失礼をしないか心配でだな」

「イナイさんは私達の娘ですよ。アナタの態度こそ認めていない様で失礼ではないですか」

「うっ、い、いや、だ、だがな」


シエリナさんに完全に負けている親父さん。

親父さん的には上司が娘になった様な物だし、やり難さは有るんだろうな。

前回も親父さんは、最初の確認以外でイナイの名前を呼べてなかったっけか。

今も名前は呼べているけど様付けに戻ってるし。


「お父様、お気遣いは大変ありがたく思いますが、気軽に接して頂いて結構ですよ」

「う、は、はい、それは、重々承知しているのですが、何とも私も心の準備が付け難く」

「はい、ゆっくりで構いません。ですがいつかは娘と認めて頂けると嬉しく思います」

「ま、まさか私なんぞが認める認めないなどと偉そうな事は!」


という感じに、親父さんとイナイの関係はなかなか進んでいない。

これは親父さんに助け舟を出そうと、クロトにゴーサインを出す。

クロトは俺の気持ちを汲み取ってくれた様で、胸元でぐっと手を握って応えてくれた。

そしてトテトテと親父さんの下まで向かい、袖をくいっと引く。


「お、おお、どうしたクロト君、お爺ちゃんに用かな?」

「・・・お風呂、行くの?」

「おお、そうだね、行こうか。今日もお爺ちゃんが色々お話をしてあげよう」

「・・・うん、行こ」


作戦は上手く行った様で、親父さんはご機嫌な様子でクロトを連れて行った。

ただイナイとシエリナさんの笑顔が崩れないのが怖い。あの二人こういう時本当に何考えてるのか解らない。

ある意味親父さんの方がイナイと打ち解けてるんじゃないのか、これ。


「シガル、貴方もそこに居るならイナイさんを手伝いなさい」

「あ、うん」

「タロウさんはお寛ぎくださいな」

「あ、俺も手伝いますよ」

「お気持ちは大変嬉しいのですが、流石に4人は・・・」


言われて台所を見渡す。別にいけない事は無いぐらい広い台所なのだが、確かに邪魔かな?

それに何だか「良いからこっちくんな」と言われてる感じがするので、怖いし大人しくしてよ。

・・・俺っていつまでたってもこういう所弱いな。もう諦めてるけど。


「シガルが旅立つ前と同じぐらい小さければ、邪魔にならなかったかもしれませんね」

「酷い。娘の成長ぐらい素直に祝ってよ」

「おめでとうシガル」

「心が全く籠って無いよ。雑だよお母さん」


あの親子、何時もそうだけど仲が良いのか悪いのかよく解らん。

シエリナさんの行動からシガルを大事に想っているのは解るんだけど、二人の距離感とか関係性は未だに不思議な物が有る。

険悪では無いんだけど、時々攻撃的な雰囲気というか。






「何だか解らないけど怖いなー。なー、グレット」


居場所が微妙に無いので庭に出てグレットに話しかける。

グレットはいつも通り首を傾げ、言いたい事は通じていない様に見えた。

こっちはこっちで何だかなー。


『タロウ、暇なのか?』

「んー、ちょっとなー」

『じゃあ私の相手するか?』


わくわくした顔でハクが訊ねて来たので、嫌な気持ちを隠さずに顔に出す。

大体こんな所でやったらシガルに迷惑がかかるぞ。

以前ただ力比べした時だって地面が粉砕したんだから、もしこんな所でお前が暴れたらシガルに絶対怒られるぞ。


「シガルの家潰れるぞ、ここでやったら」

『・・・それは多分シガルに怒られるな』

「そうだよ。だから今日は大人しくしてろ。また今度相手してやるから」

『ほんとだな! 最近タロウとはやって無いから絶対だぞ!』


しまった。何かすげー期待した目でこっち見てる。

これはもう、そんな事言ったっけとか誤魔化せないな。

今度また演習場を借りるか、それとも何処か広い土地でやるか。

いや、いっそハクの住んでた山に戻るのも有りだな。あそこなら迷惑かからないし。


「そういえばイナイ、城から帰って来たのに仕事の話も結婚式の話もまだして無いな」

『シガルも話して無いな』

「お前寝てたじゃん。話とか聞いて無いだろ」

『だって皆シガルの父親ばっかり構うんだもん。暇だったんだもん』

「やっぱり寝てたんじゃねーか」


ここにきてシエリナさん達に挨拶してからハクは殆ど寝ていた。

俺達の会話なんて一切聞いてない筈だ。

こいつ会話自体は好きみたいなんだけど、自分があまり構って貰えないと寝てるよな。

リガラットでも大半寝てたし。


『むー、グレットー、退屈だよなー?』


ハクが不満そうにグレットに抱き着くと、一瞬ビクッとするものの俺の視線に気が付いて「驚いていませんよ?」とでも言いたげに伏せ直す。

良いのよグレット君、慣れてくれたのは嬉しいけど、無理はしなくて良いのよ。

でもまあ、前にみたいに震えてないし、本当に慣れつつはあるのかな。


「シガル達は夕食の用意してるけど、グレットは先に食べるか?」

『食べる食べる』


グレットの為に事前に作っておいた肉を取り出すと、ハクが返事を返す。

そのせいでグレットが「僕のご飯じゃないの?」っていう顔をしてしまった。

首を傾げながら下から覗く様に伏せるから、俺が悪いみたいじゃないか。


「お前、今シガルが作ってるって言っただろうが。これはグレットの分だよ」

『何でだよー、別に食べれるから平気だぞー』


いや、平気なのは知ってるけどさ。

お前の胃袋が何処のフードファイターだよ状態なのは良く知ってる。


「ったく、食べたかったら台所に行ってこいよ。ちょっとつまみ食いならさせてくれるだろ」

『うーん・・・今は邪魔じゃないかな』

「何で俺にはぐいぐい来るのにシガルには気を遣うんだ」

『だって友達だもん!』

「俺は?」

『タロウも友達だぞ』


じゃあ何でそんなに扱いが違うんですか。訳が解らないんですが。

まあいいや。しょうがないので以前作って腕輪に入れておいた燻製肉をハクにあげて、グレットにはただ肉を焼いただけの物を渡す。

並んで美味しそうに食べる様は、ハクが竜形態なら可愛かっただろうな。


「はぁ・・・嫁の実家で自分の居場所が解らない旦那ってこんな感じだろうか」


感じというか、まさしく今がそうか。

別に邪険に扱われてるわけじゃ無いのは解っているけど、何となく居場所が解らない。

しょうが無いので夕食が出来るまで、グレットと一緒にぼーっとしているのであった。

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