第578話予想外の実力です!
「ふっ!」
「くっ、つぅ!」
予想外の速度で振るわれる片手剣を慌てて弾き、崩れた体勢を即座に戻す。
剣を青眼に構え直し、悟られぬ様に身体強化をかけて息を整える。
これは甘く見ていたら大怪我する。
「くくく、流石の貴様も面を食らった様だな」
口角を上げながら愉快気に口にするその様は、先の俺の焦りの様子を見てだろう。
確かに完全に予想外の速度で、仙術が無ければ躱せなかったかもしれない。
「さあ、行くぞ!」
そして俺と同じく身体強化した体で全力で踏み込んで来る。
淀みなく鋭い踏み込みに全力で警戒し、剣筋を予測して今度は体勢を崩さずにいなす。
だが片手剣であるせいか、いなされる事を予測していたからか、切り返しが更に早い速度で降って来た。
「くっ」
剣だけで対処するのを諦め、体捌きも合わせて自身の剣で滑らす様にして躱す。
キインと鉄同士をこすりつけ合う音を響かせながら、そのまま背後に回ろうとしたが、裏拳が眼前に迫って来た事で無理矢理体を捻って横に飛ぶ。
何とか間に合い躱せたが、あのまま突っ込んでいたらまともに食らっていた。
「ちぃ! 相も変わらず良い反応をしおる!」
慌てて体勢を直して構えるが、あちらも無茶な動きだった様で追撃は出来ずに構え直していた。
あの動きを見せたにもかかわらず向こうは落ち着いているし、息も乱れていない。
強化魔術も綺麗に保っている。それどころか籠められている魔力量も中々の物だ。
「親父さん、今回ちょっと本気で怖いんですけど」
「ぬかせ、まだ貴様の本気には程遠かろうが!」
いや、確かに全力戦闘ならまだまだギア上げれるけど、親父さん前よりめっちゃ強くなってね。
前回は仙術で対処出来たけど、今回もう強化魔術無しだと怖くて無理だぞ。
それに何なのその片手剣。今までずっと大剣だったじゃないですか。
小回りがきいてて凄く攻め辛い。
「まだまだ上げて行くぞ小僧!」
「げっ」
親父さんはその宣言通り、本当に更に速度を上げて来た。
その事に驚きつつも、対処可能なスピードだと判断して剣を合わせる。
ただ今までと違い親父さんに剣を振った後の隙が無い。これは崩しに行かないと駄目だな。
「……………穿て!」
「ん? うげっ!」
剣を合わせながら親父さんがボソボソと呟き始めたと同時に魔力の流れを感じ、何をする気かと思ったら近距離で氷の槍が発生して降って来た。
そして同じタイミングで別方向から剣が降って来る。
あ、これ無理。避けられない。障壁で防ごう。
どちらの攻撃も障壁を張って防ぎ、後ろに下がる。
「ちぃっ! 障壁とは卑怯だぞ!」
「いや、親父さんも魔術使ってるじゃないですか」
「私は良いのだ私は!」
「ええー」
気持ち良いくらい我が儘な発言である。それでも何でか楽しいのは何でなんだろうなー。
実は親父さんとこうやって剣を合わせるの、何だかんだ楽しい。ちょっと怖いけど。
「お父さんの卑怯者ー! 負けちゃえー!」
「そんな、シガルちゃん酷い! ぐ、ぐぬぬ、ええい、小僧め! すべて貴様のせいだ!」
「流石にそれは理不尽すぎますよね!」
凄まじい気迫で切りかかってくる親父さんに抵抗しながら叫ぶ。
だが親父さんは意に介さず、片手剣で素早く細かい剣を振るって来る。
さっきと同じ状態になってるな。マジで親父さん強くなり過ぎじゃねーかな。
元々大振りなだけで剣筋自体は綺麗ではあったのが、細かく刻む斬撃になった事で鋭さが段違いになっている。
親父さんの最高速自体はそこまで無茶苦茶速いわけじゃ無いんだけど、細かく刻む事によってその速さが上がった様に感じる。
「ええい、いい加減反撃してこんか!」
「割と真面目に反撃の隙が無くて困ってるんですけどね」
「ふん、あの強化魔術を使えば良かろう!」
「技に力押しで対抗って、自分の師匠的にちょっと」
どうしても勝たなきゃいけない勝負なら兎も角、こういう時に力押しする気は無い。
つっても基本が強化状態で同じぐらいで、ちょこちょこ仙術強化使ってる状態だからなぁ。
今でもやり過ぎ感は有る。
「・・・えっと、えと、お爺ちゃんも頑張ってー」
「ふを!?」
「――――ふっ」
クロトが親父さんに声援を送った瞬間、親父さんの動きが鈍った。
その隙を逃がさずに剣を走らせ、親父さんに脇腹手前で剣を止める。
・・・良いのかなこの勝ち方。何かちょっと申し訳ない。
「しまっ、くっ、ぐぬぬ」
「はい、お父さんの負けー」
「ま、待ってくれシガルちゃん、今のはあれだ、ちょっと驚いてしまったんだ!」
ですよね。明らかにクロトの声援の瞬間動きおかしかったもん。
ていうか応援されて驚くって、親父さん応援されない自覚有るのね。
「・・・お爺ちゃんごめんなさい、応援したら、駄目だった?」
「~~~~! そ、そんな事は無いぞクロト君。お爺ちゃん嬉しかったよー!」
シガルに訴える親父さんだが、クロトが申し訳なさそうに聞いて来た事で慌てた様子を見せる。
そしてクロトを持ち上げて、ご機嫌を取る様に笑顔でそう口にした。
「・・・良かった」
「お爺ちゃんも嬉しいよ! いやー、クロト君は優しい子だなぁ!」
クロトがホッとした顔を見せた事で、親父さんもほっとした顔になり、続いてでれーっとした顔になった。
完全にデレデレである。そんなにお爺ちゃんって呼ばれるの嬉しいのかな。
「はいはい、お爺ちゃん。じゃあ今日はもう良いね?」
「ぬっ、い、いや、シガルちゃん、さっきのは納得が」
「い、い、ね?」
「・・・はい」
シガルに強めに言われ、悲しそうに折れる親父さん。
だがそんな親父さんの頭をクロトが撫でた事ですぐに復活した。
クロト、グッジョブ。
「クロト君、おやつでも食べるか!」
「・・・うん」
「よーし、じゃあお婆ちゃんにお願いしに行こう!」
クロトの返事を聞く前に既に足が動いていた親父さんは、俺達を置いて家に入って行った。
甘いもの好きだから、クロトも普段より若干反応が早かったな。
シガルはその光景を溜息を吐いて眺めていた。
「はぁ・・・もう、クロト君嫌な思いしないと良いけど」
「んー、大丈夫じゃない? 親父さんでれっでれだし」
「だと良いんだけど」
はぁともう一度息を吐きながら、俺に寄りかかって来るシガル。
そして彼女を抱きしめながら頭を撫で、ご機嫌を取る俺。
あれ、やっぱり俺と親父さんってあんまりポジション変わらなくね。まあ良いけど。
「お姉ちゃんまだ戻ってこないね。何時頃戻ってくるのかな」
「そんなに遅くならないとは言ってたし、暗くなる前には帰って来るよ」
イナイはこの場に居ない。お城の方に行っている。
俺達はその間に親父さんに挨拶に来て、後でイナイも来る予定だ。
グレットとハクは庭の端で丸まって寝ている。流石に今日のハクは人型だけどね。
「俺達も行こっか」
「んー、もうちょっとこうしてたいかな」
「汗臭くない?」
「それが良いんだけどなー」
シガルって前にも似た様な事言っていた様な気が。匂いフェチなのかな。
俺もシガル達の匂い好きだけど、自分の汗臭い匂いはあんまり好きじゃないんだけどな。
まあシガルが喜んでるならいっか。もう暫くこうやっていよう。
このまま立っているのも何だし、シガルを抱えてそのままグレットの傍まで移動。
俺はグレットに寄りかかり、シガルは俺に寄りかかる。
移動の間シガルは一切動かなかった。可愛い。
あー、前も後ろもあったかい。これ寝そう・・・。
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