幸せの形、確かな物と不確かな物。

第576話樹海の家は落ち着きます!

「かぁ~、帰って来たぁ~」


ぐっと体を伸ばしながら、その気持ち良さからの呻きが入った声音でイナイが口にした。

帰って来た場所は樹海の家だ。

イナイが首をゴキゴキと鳴らしながら「あ~」と呻いているのは、ここまで運転していた疲れからだろう。

後でマッサージでもしてあげますかね。


「お姉ちゃん、王都に方に帰らなくて良かったの?」


シガルが体を伸ばしているイナイに、聞いて良いのかという様子を出しながら問う。

問われたイナイは相変わらず体を伸ばしながら、解しがてらに体をシガルの方に捻る。

そしてそのまま口を開いた。


「連絡はしてるから、数日休んでから行くよ。後行くのはあたしだけでも良いんだけど、お前らはどうする?」

「俺は親父さんに挨拶に行きたいかな」

「えー・・・」


イナイの質問に俺が答えると、あからさまにシガルが嫌そうな顔をした。

いやでも、どっち道挨拶には行かないとでしょ。

結婚式しますよって報告もしないといけないんだから。

特にシエリナさんには報告しておかないと後が怖くない?


「シガル、ちゃんと親孝行してやんな」

「うぅ、はぁーい」


イナイに苦笑されながら言われ、シガルは渋々了承した。

そんなに親父さんに挨拶をしたくないか。

俺は好きなんだけどなぁ、親父さん。今回はどういう絡まれ方するかな。

実はそれがちょっと楽しみになっていたりする。


『イナイー、ちょっと遊んできていいー?』

「良いけど、樹海から出てくれるなよ?」

『大丈夫ー。グレット、いこー』


ハクはイナイの返事を聞くや否や、子竜の姿でグレットを誘って外に飛んでいった。

グレットは丸まって転がっていたのだが、渋々という様子で立ち上がって行った。

すげー行きたくなさそうだったな。


遊んで来るって、何か狩りに行くつもりだろうか。

結界壊したりしないと良いけど。そういえば俺、結界の装置見に行ったことないな。

機会が有れば見せて貰おう。


「あいつ、ほっといて大丈夫かな。グレットも」

「平気だろ。樹海は広いし、あいつが遊ぶには丁度良いだろうよ。人もこねーしな」


人に見つかる心配とかはしてないんだけど・・・まあ良いか。

イナイが大丈夫って言うならそれで良いや。

あいつが危険な目に会うっていうのも想像つかないし。

亜竜ぐらいなら相手にならないからな。グレットの事もちゃんと守るだろう。


「じゃああたしは食事の準備でもしようかな。お姉ちゃん疲れたでしょ」

「あー、今日は甘えるわ。頼む」

「はーい。クロト君、手伝ってくれる?」

「・・・うん」


シガルはクロトに声をかけ、台所の方に向かって行く。

クロトも素直に頷いて後ろをトテトテと付いて行った。

あの二人はやっぱり親子っていうより、姉弟みたいだよなー。

あと数年したら大分違うんだろうけど。


「じゃあ俺はイナイの体でも解そうか」

「あー? お前も好きな事やってて良いんだぞ」

「うん、だから」

「・・・あっそ、なら頼むわ」


やりたい事をやろうとした結果がそれなので、何の問題も無い。

その事を伝えると、彼女は照れくさそうに頼んで来た。なんかこっちもちょっと照れくさい。

気を取り直して、彼女にはソファに寝て貰おう、と思って思い直す。


「イナイ、普段俺に使ってくれる薬剤貸してくれる?」

「ん、ああ」


イナイは俺の言葉に素直に頷き、腕輪から薬剤を取り出す。

それを受け取って、更に彼女をお姫様抱っこで抱きかかえた。

彼女は少しだけ驚きの様子は見せたが、抵抗せずに俺の腕の中に納まっている。

ただ少し不満そうな顔をこちらに向けた。


「何すんだよ」

「ん、折角ならしっかりやってあげようかなって。ベッドの方が楽でしょ」

「移動するにしても抱える必要はねーだろ」

「まーまー」

「何がまーまーなんだか」


俺の言い分に呆れながらも、何処か嬉しそうにしているイナイ。

そんな彼女を抱えて彼女の部屋に運び、ベッドにゆっくりと下ろす。


「薬剤使ってマッサージは良くやって貰ってたけど、俺がするのは初めてだっけ」

「あー、そうだったか?」

「多分、そうだと思う。・・・手足ぐらいはやったかな?」


お互いに気の向いた時にどちらともなくやる事が有るので、その辺の記憶はあいまいだ。

因みに夜の完全に伸び切ったイナイの体を解す事は少なくない。

シガルと二人がかりで揉んであげる事が多々ある。


逆にシガルを揉む事って少ないんだよな。偶にやるけど基本彼女からが多い。

若いから元気って事なのかね。

でもやってあげると気持ち良さそうにしてるので、凝ってないわけでは無いのだろう。


「じゃあ脱がすね」

「ば、馬鹿、脱ぐっつの」

「良いから良いから」

「良いからじゃねえっつの!」

「げふっ」


服を脱がせようとしたら腹に蹴りを貰ってしまった。

指先が綺麗に筋肉の隙間に入ってめっちゃいてえ。

親指立ってたから狙って突き入れてる。苦しい。


「う、ぐぐ、イナイ、これ、きついって」

「調子に乗るからだ、バカタレ」


フンとそっぽを向かれ、放置される俺。

彼女はその間に服を脱ぎ、綺麗に畳んで端に寄せていた。

やっぱイナイは綺麗だなー、なんて思いながら眺めているうちに痛みが取れて来る。

回復した頃には彼女はもう下着姿になっていた。


「ほれ、やってくれるんだろ。早くしてくれ」

「あーい」


ベッドに寝転がり、もう回復しただろうと俺に行動を促す。

返事をして彼女の上にまたがり、手にした薬剤を彼女の肩に付けて伸ばし、ゆっくりと上から下に解していく。

吸いつくような彼女の肌に触れていると、こっちが気持ち良くなる錯覚に陥りつつも、真面目にマッサージを続ける。


彼女達と触れ合うのは好きだが、真面目な時は真面目にやっとかないと後が怖い。

なので今は真剣にイナイの全身を解していく。

つーか、イナイさん肩ガッチガチじゃんか。もっと早くに弱音吐こーぜ。

腰回りも明らかに凝ってるし、人にする前に自分の体に気を使って欲しい。


「んっ・・・んんっ・・・あっ・・・はぁ・・・んあっ・・・ふぐぅ」


気持ち良さそうな呻きを漏らすイナイに満足しつつ、足先まで全て解す。

指の間とかも気持ち良いんだよなー。

彼女の小さな足をグニグニと揉み終わったところで、溶け切っている居るのを確認。

その心地よい状態を邪魔しない様に仰向けにする。


「・・・ふあ?」

「ん、後ろ終わったから前側をするだけだから、そのままぽーっとしてて良いよー」

「ふぁーい・・・」


視線の定まっていない蕩けた顔で、俺の言葉に返事をするイナイ。半分寝てるな。

彼女の体が完全に脱力している事を確認しながら、また上からゆっくりと解していく。


「はっ、あっ・・・んああ・・・あうっ」


正面からやると彼女の艶っぽい声がダイレクトに届き、蕩けた顔がどうしても視界に入る。

端的に言うと、イナイさんエッチです。いや、そうしたの俺だけど。

けど彼女にはそんなつもりはなく、ただ単にマッサージでそうなっているだけだ。

・・・我慢、我慢だ俺。


心を落ち着けて、前向きでも全身やり終わる。

終わって一息吐いた頃には、イナイは完全に眠っていた。

なんだかんだここまでの運転疲れはやはりあったんだろう。

ずっとイナイの運転だったからな。疲れないはずが無い。


「着替えー・・・させるより布団かけてあげる方が良いか」


起こしかねないし、布団を上からかけてこのまま寝かせてあげよう。

食事の用意もすぐに終わるものじゃ無いし、数日ゆっくりしてからって言ってたから他の事も問題ないだろう。

彼女に布団をかぶせ、色々我慢した自分へのご褒美に彼女の頬にキスをし、今度はシガルの手伝いに台所に向かう。


「シガルー、手伝いに来たー」

「あれ、お姉ちゃんは?」

「寝ちゃった」

「そっか。でも今日は駄目でーす。あたしが達がやるのー。ねー、クロト君」

「・・・ねー?」


二人して鏡のように首を傾げて「ねー?」と言い合っている。

クロトは微妙に疑問形な気がするけど。


「じゃあ、しょうがない。外で軽く動いて来るよ」

「はー・・・あ、無茶しちゃだめだからね!」

「しないしない。本当に軽くやって来るだけだから」


と言いつつ、内心突っ込まれなければ浸透仙術少しだけ使うつもりだった。

先にくぎ刺されちゃったら出来ないなぁ。大人しく他の事やって来るか。


「んじゃ、ちょっと外に出てるね」

「はーい、いってらっしゃい」

「・・・いってらっしゃい」


俺が軽く手を上げると、小さく手を振るシガルと、ピンと体ごと伸ばしながら手を振るクロト。

どっちも可愛いな。なんて思いながらそのまま外に出る。

樹海の景色は相変わらずで、何だかホッとするな。

変わらない何時もの風景って落ち着く。後俺、田舎者なせいか、山手の方が落ち着くのかも。


さて、不意に時間が空いちゃったな。

何すっかなー。

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