第573話グレットのアピールです!
カンカンと高めの音を鳴らしながら釘を打ち付け、打ち込み過ぎない様に気を付ける。
屋根の上の高所作業だが、最近もっと高所を舞う事が多かったのでさして怖くない。
久々に金槌を握るけど案外体は忘れてない様で、丁度いい加減で作業を進めていた。
そして頼まれていた作業が終わった所で、責任者の人を呼ぶ。
「ニョンさん、こっち終わりましたー」
「お~、ありがとう、助かるよ~」
声をかけると、相変わらずのんびりした声で返してくるニョンさん。
今日は家畜の小屋作りを手伝っている。
と言っても、骨組みはほぼ終わってからの外壁を作る作業だけだったけど。
木材も既に加工済みで準備されていたので、本当に後は打ち付けるだけだった。
技工系の事は最近やって無かったから、結構楽しませて貰った。
こういう作業系って、やっぱり好きなのかもしれない。
なんだかんだ技工関連の作業は全般的に楽しんでやっているし、薬の調合もわりかし楽しい。
その内本格的にイナイの補助出来るぐらいに頑張ってみるかな。
「グレット君も頑張ってくれるから、助かったよ~」
ニョンさんはグレットを撫でながら、持っていた穀物類の何かをグレットの前に出す。
グレットは掌に乗せられた小さな食べ物を、手を噛まずにちゃんと穀物だけ食べた
あんなでかい口してるのに器用だ。相変わらず肉以外も美味しそうに食べるな、お前。
グレットはついさっきまで家畜を追いかけて纏め、牧羊犬の様な仕事をやっていた。
因みに羊の様な家畜だ。ただサイズがちょっと大きいかな?
途中で一匹咥えて移動しているのを見た時は焦ったけど、本当に咥えているだけだった。
はぐれたのを無理矢理連れて帰って来たらしい。
褒めて褒めてという感じでしっぽを振って、目の前に置かれた。
なお、家畜は震えて動けなかった模様。でもこれはしょうがないよなと思う。
イナイとシガルは、クロトと一緒に別の家畜小屋に行っている。
というか、シガルが若干はしゃいで、イナイがシガルの面倒を見て、俺は俺で作業をしているから二人にクロトが付いて行っている、という感じだろうか。
珍しくシガルが完全に子供に帰っていたので、好きにさせてあげている。
しかし何ていうか、ニョンさんには悪いとは思うんだけど、羊が羊世話している様に見える。
上着を着てるから良いけど、脱ぐとニョンさんが何処に居るのか一瞬解らなくなる。
一度本気で見失って、探知で探してしまった。
「ニョンさんって、こういう仕事が主なんですか?」
「そうだよ~。家畜とか、農耕とか、そっち系がお仕事だね~」
新しく作った家畜小屋を眺めながら聞くと、のんびりとした肯定の返事が帰って来た。
この場には俺が手伝った小屋以外にも、既に昔から在るらしい建物も複数在る。
かなり年期入ってる感じの建物も在るので、戦争より前から在った建物も有るっぽい。
少し離れた所には畑も数多く在って、色んな物が植えられていた。
見た事無い物も色々有ったので訊ねたら「この辺りはもう良いやつだね~」と言っておもむろに収穫を始めて渡されてしまった。
おかげで魚を消化したのに、今度は野菜系が増えた。今日は野菜尽くしかな。
「にしても、人があんまりいませんけど、まさかこの人数で全員とかじゃないですよね」
「もっと居るよ~。けど今日はちょっと少ないね~」
「他の方はお休みですか?」
「ううん、仕事だよ~他の所に教えに行ってるんだ~」
ああ成程、もしかしてここはモデルケース的な場所なんだろうか。
今面倒見ているのは羊の様な家畜だけど、向こうには牛や豚の様な家畜も居る。
様々な家畜を育てて、色々試しているのかも。
「でもそうなると、大変ですね。この人数で回るのはきついでしょう」
小屋の数はかなり多いし、少人数でやれる様な規模じゃないと思う。
家畜の育て方には詳しくは無いけど、2,3個の畜舎ならともかく、二桁越え所じゃない量の家畜小屋が有るのだから。
周辺に居るのは探知で調べても10人も居なかった。
「うん~? そうでもないよ~。流石に畑は大変だけど、家畜の方はやろうと思えば一人でも出来るよ~?」
「え、この数を?」
「うん~。慣れたら案外簡単だよ~」
彼に言われて、だだっ広い土地を一度見渡す。そして家畜の量をもう一度確認する。
うん、無理。慣れとかそういう問題じゃなくて、絶対無理だって。
だって確実に4桁に届きそうなぐらい家畜が居るもん、この周辺だけで。
一人じゃ絶対無理だって。
「いや、これ、絶対無理でしょ」
「う~ん、皆そう言うんだよねぇ~」
「普通そうだと思いますよ?」
「でも僕は出来るけどな~」
ああ、解った。この人イナイ達と同じだ。こっち方面に異様に優秀なんだ。
でも畑仕事とかはそこまで得意じゃないって事は、別にやってる人も居るんだろうな。
「畑とかはフェロニヤにも手伝ってもらってるんだけどね~」
「ああ、あの無口な人」
「あはは~、あの子滅多に喋らないからねぇ~。でも顔見てると大体解るよ~?」
それは単純に、貴方がたの付き合いの長さのなせる業だと思いますよ。
俺は正直あの人全然解らないですもん。マジ何考えてるのあの人。
どんな人なのか結局全く解って無いんだが。
「むしろ顔に出る分、ビャビャより解り易いと思うな~」
「でも彼女は話すととても解り易い女性ですよ」
「あはは~、大人でそう言えるのは君だけだろうね~」
大人でって言いながら、何故俺の頭を撫でるのか。言ってる事とやってる事間違ってませんか。
いやまあ良いけどさ。
でも何となく言わんとする事は解る。あの人子供相手には良く喋ってた気がするし。
『あははは! いいぞいいぞー! いけいけー!』
「ぶむううぅぅぅぅううう!」
そこにハクの楽し気な鳴き声と、牛に似た鳴き声が響いた。
眼を向けると、ハクが牛の様な家畜の上でロデオをしていた。
何やってんだあいつ・・・。
「ニョンさん、すみません・・・あれ、迷惑ですよね」
「あはは~、まあ良いんじゃないかな、楽しそうだしさ~」
本当に良いんですか? 多分あれかなりストレス与えてると思いますよ?
しかしあの牛、中々凄いな。怖がってるんじゃなくて、ハクに腹を立てている。
「グレットより強いな、あの牛」
ボソッと呟くと、グレットがびっくりした様に目を見開いてこっちを見てきた。
珍しく意味が通じたっぽい。普段全然通じないのに。
するとグレットは抗議の様にガウガウ鳴いた後に、ずんずんと牛の下へ向かって行く。
何するつもりだろうかと思っていると、暴れる牛の手前で立ち止まった。
「ぐるがああああああう!!」
そしてビリビリと空気が震えたかと思う様な咆哮をあげて、牛を睨むグレット。
吠えられた牛は驚いて固まってしまっている。ついでにハクも驚いていた。
そして尚もグルルルルと吠えるグレットに委縮した様に、牛は大人しくなった。
『どうしたグレット。何怒ってるんだ?』
グレットの様子を見て、心配げにパタパタと羽根を動かしながら飛んで近づくハク。
ハクの接近に一瞬びくっとしたグレットだったが、逃げずにハクが近づくのを待っている。
そしてふふんと言っているかの様な雰囲気で俺の方を向いた。
ああうん、ごめんよ、牛よりお前の方が強いよ。俺が悪かったよ。
「あはは、面白い子だね~」
「その、すみません」
「良いよ良いよ~」
本来あんまり良くはないと思うけど、ニョンさんは笑って許してくれたので助かった。
グレット君、普段の会話が通じないのに、通じなくて良い時は通じるのね。
今度から気を付けよ。
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