第564話帰りの挨拶回りです!

「そうか、帰るのか。なら帰る日の前日には教えて欲しい。事前に教えて貰えば腕によりをかけて晩餐を作らせて貰うよ」

「ありがとうございます。その時は必ず」


結局最後まで同じ宿に泊まっていたのだし、帰るのは先だとしても近いうちに帰ると先ずは親父さんに報告をする事にした。

それ聞いた親父さんの好意の言葉に礼を言って、間違いなく伝えようと決める。


ドッドさん達がやってきたりもあって迷惑もかけてるのに、彼はとても好意的だ。

ギーナさんとも何かしらの繫がりがあるみたいだけど、その辺りは詳しく聞いていない。

ただ古い付き合いであろうことは察している。


「ちゃーんと伝えてあげてね。この人見た目と違って寂しがり屋だから、もし伝えられなかったら後で拗ねちゃうから」

「お、おい、俺はそんな事」

「有るでしょ?」

「・・・」


宿の女将さん、親父さんの奥さんが笑顔で言った事に親父さんは反論するが、彼女が続けた言葉で無言になった。

困った様な照れた様な、そんな感じに見える。

ただ親父さん無言だと威圧感有るから、付き合い薄いと解んないだろうなぁ。

ぶっちゃけ怖い。申し訳ないけどそう思う。


「また来てくださいね。できれば是非クロト君も」

「・・・お父さんが、来る時が有れば」


こちらはこちらで子供達同士で友情が育まれていた模様。

パリャッジュ君とクロトがそんな風に話していた。

でも何かこの子は本当にすぐ帰るてきな受け取り方をしてるっぽいのは気のせいかな。


その後はその報告を朝一でしたのでそのまま朝食を貰い、出かける事にした。

このままとりあえずあいさつ回りに行こうとしたのだけど、ここでイナイから止めが入った。


「質問だ。お前ら一番最初に何処に行こうとしてる?」


イナイから投げられた質問に、全員がギーナさんと答えた。

ハクもそう答えたのが一番意外だが、皆意見が揃ったのも意外だった。


「あいつこの間休みだったんだぞ。この時間にただ帰りの挨拶の為に会いに行って、会えると思ってんのか?」

「多分無理だと思うから、屋敷の使用人さんに時間がある時にって伝言お願いしようと思って」


イナイの質問に詰まる事無く答えるシガル。

そしてそんなシガルを見て、若干微妙な顔をする人間が一人。

その微妙な表情に気が付いたイナイは、その人物にジト目を向けた。


「おい、なんだその顔」

「ナンデモナイデスヨ?」


イナイの詰問に目を逸らしながら返すと、はぁと溜め息を吐かれた。

だってギーナさんの距離感って何となく近い人っぽくて、そういうの忘れるんですよ。

この世界には携帯電話とか無いから、事前連絡とかも取りにくいし。


「とりあえずギーナには帰るって話は伝わる様にしておくから、挨拶はあいつの都合の良い日の連絡がきた時な」


イナイのその言葉に全員素直に頷き、とりあえずギーナさんへの挨拶は保留。

その代わり基本事務仕事が多いレイファルナさんや、ドローアさんへ挨拶に向かう。

とはいっても彼女達も仕事中であり、今回はただ帰るという報告を先にするだけなので手短に済ませた。


「そうですか。皆さま、色々とお世話になりました。今は居ない主の代わりと言っては何ですが、心からの感謝を述べさせて頂きます」


レイファルナさんは二つの遺跡破壊の事と、最初の遺跡での出来事の両方のお礼を伝えてきた。

俺としては片方はお礼を言われているので別に気にしていなかったのだけど、彼女にとっては改めて言う様な事だったらしい。


「私からも感謝を。不手際の後始末を付けて下さった事に、どれだけの感謝の言葉を述べても足りません」


ドローアさんはこの間の遺跡破壊の為の交渉失敗の後始末のお礼だった。

けどあれはアロネスさんが一人で先にやった様なものだし、お礼はアロネスさんに言った方が良いと思う。

その旨を一応伝えたが、それでもウムル自体に礼をという事らしい。

後一応俺も当事者なので、謝罪も込みという事だそうだ。


スエリさんとフェロニヤさんも偶々タイミング良く居たので、二人にも挨拶をしておいた。

フェロニヤさんはぺこりと頭を下げるだけで、ほぼ反応は無かった。寂しい。

何か結局あの人がどういう人なのか解らないまま帰る事になるな。


「色々と迷惑をかけてしまったな。国としても個人としても。それに応えてくれた君達には本当に感謝している。また来る機会が有ればその時は出来る限り歓迎しよう」


今日は仕事モードだからなのか、相変わらず渋い声で対応するスエリさん。

最初会った時はちょっと怖い人だと思ったけど、なんだかんだ彼は気の良い人だった。


彼らとの挨拶を済ませて、今度はドッドさんが居る場所に向かう。

今日の彼は軍の訓練をしているらしく、訓練場に向かうとすぐに出会えた。

前に来た時は全然人が居なかったその場所に、様々な人種の人達が集まって訓練をしていたが、指示する側にいた彼は目立っていたのですぐに解った。


「わざわざ挨拶に来たのか。偶々会った時でも構わなかったのに、律儀だねぇ。でもまあ、まだ暫くいるんだよね。帰りの際は見送らせて貰うよ」


最初の時と変わらない、気さくな感じで彼はそう言った。

気楽すぎる時が有る人だとは思うけど、わざとそういう風にしているのかなと思う時もある。

実際どっちなのかは解らないけど。


そのままニョンさんとビャビャさんにも挨拶をと思ったのだけど、今は近くに居ないらしい。

なのでまた今度挨拶をしたいという伝言だけお願いしてその場を去った。


これで全員で挨拶に行くような相手はいなくなったので、この後どうするかを皆で話した。

するとそれぞれ少しやりたい事があるとの事だったので、全員ほぼ別行動になった。

ほぼなのは、ハクがシガルについて行ったからだ。この辺はいつも通りか。


しかし、イナイはともかくクロトは何処に行くんだろうか。

行き先を聞いても、危ない所には行かないって言われるだけだった。

クロトの事だから大丈夫とは思うけど、ちょっと心配だ。

まあグレットを連れて行ったので、多分変な所には行かないと思うけど。


因みに俺も俺で別行動で行きたい所があったので、単独行動だ。

他の皆は関わって無い、自分だけやっておきたい事。

それはこの街の学校に顔を出しておきたかった。


子供達に「またなー」と言われていたのに、結局顔を出せていない。

あの蛇顔の先生にも一言挨拶しておいても良いかなと思うし、俺は学校に向かう事にした

そして学校にたどり着くと、とある人物と出会う。

今日は近くに居ないと聞いていたので、挨拶を後回しにした人が、なぜかそこにいた。


「ビャビャさん」

「タ、ロウ、さん」


彼女の声音は俺と同じで、少し意外そうだった。

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