第562話そろそろ帰る頃合いです!
「タロウ、良い報告と少し残念な報告があるんだけど、どっちから先に聞きたい?」
ある日の朝、朝食を並べながらイナイがそう聞いてきた。
経験上残念な話は本当に残念な事が多かったので、あまり聞きたくないなぁ。
「良い報告だけきくって言うのは駄目ですか」
自分の気持ちを素直に伝えると、イナイはにっこりと笑顔を向けてきた。
うん、これ駄目なやつだ。しょうがないので大人しく両方聞こう。
「すみません、じゃあいい報告からお願いします」
頭を下げてイナイに話の続きを促す。
シガルはそんな俺達をクスクスと笑いながら隣で眺めている。
イナイはシガルをちらっと見た後、軽くため息を吐いて話を始めた。
「まず良い話って言うのは、結婚式の事だ」
「え、なんか有ったの?」
結婚式の話って、とりあえず帰ってからって事になってたよね。
イナイは帰る前から色々段取りつけてたのかな。
なんかそういうの知ると、のんびり休んでたのが申し訳ないな。
「端的に言うと、結婚式の資金が要らなくなった。後会場も探す必要がなくなった」
「ごめん、全然解らない」
結論だけ言われて察せるほど俺は優秀では無いのです。
お願いだから過程をお話しください。
その想いが顔に出ていたのか、イナイは話を続けた。
「いや、なんかさ、結婚式やるって話したらさ、ブルベとセルがすげー張り切り始めてさ。一応他国の貴族呼んだり、国上げてお祭りとかすんなよとは言ってるけど」
「・・・それ、本当に大丈夫?」
確実にふざけた規模でやると思うんだ、そのコンビだと。
ブルベさんもセルエスさんもイナイの事大好きすぎるもん。やらない筈が無い。
絶対こじんまりとした式とかやんねーと思う。
「・・・多分、大丈夫、だと思う」
「イナイ、こっち見て、こっち」
久々に目を逸らしながら答えるイナイ。ちょっとこっち向こうかイナイさん。
多分それ話の流れを予想するに、色々断れ切れずに頷いたでしょ。
イナイのそんな態度にシガルも少し困った顔をしていた。
「お姉ちゃん、大人しめのにしようねって言ったのに」
「うっ・・・す、すまん、その、断り切れなくて」
二人はその辺りの話をしていたらしく、シガルは解り易く不満を漏らす。
イナイはそれに対し、素直に謝った。俺にはただ眼をそむけたのに。
「むー。でもまあ、相手が陛下なら仕方ないか」
「すまん・・・」
シガルは一応不満を伝えたが、相手が相手という事でイナイを許した。
まあ王様だもんなぁ。一般人が文句を言える対象じゃないよなぁ。
でもそんな王様に文句を言えるのがイナイでは有るわけだけど。
「あのさぁ、良い話がそれって、残念な報告に嫌な予感しかしないんだけど」
「いや、こっちは本当に些細な残念な事だよ」
「そうなの?」
何だかさっきの話の後だと、残念って聞くと嫌な予感しかしないんだけど。
まあいいか、とりあえず素直に聞こう。
「そろそろ休暇は終わり。ウムルに帰らないといけない」
「あー、成程、確かにちょっと残念かも」
物凄く残念な事では無いけど、ちょっと残念かな。
帰る事自体は全然良いんだけど、ギーナさん達とお別れだし。
そういえば初期目的のアロネスさんの護衛は良かったんだろうか。
途中から完全に彼とは別行動だったのだが。
「帰る前に皆に挨拶しておきたいね。ギーナさんにもお世話になったし。ね、クロト君」
「・・・うん」
シガルが同意を求める様に言うと、クロトは素直に頷いた。
確かに帰る前に挨拶はしておきたいな。
少なくともギーナさんとレイファルナさんとドッドさん・・・あとは、ビャビャさんには、しておきたい。
彼女がどう反応するのであれ、挨拶だけはしておきたいよな。
「・・・僕、ギーナさんにちゃんとお礼したい」
「そうだね、クロトの力が使えるようになったのは彼女のおかげだもんね」
ある意味ギーナさんがいなかったら遺跡破壊は出来なかったかもしれない。
そう考えると、彼女は自分で遺跡を破壊する手を作ったと言えるのかも。
実行したのは俺達だけど、いろんな人の助けがあって安定して出来る様になった。
まあ安定してても俺は長期休養を言い渡される様だけど。
「俺はとりあえずかかわった人には皆挨拶しておこうかな。流石にそんなにすぐ帰る訳じゃないんでしょ?」
「そりゃな。ただ、まあ、こっちでの仕事も終わって、休暇もそこそことってるし、そーろそろ帰ってきてくれないかなーって、言われたんだよ」
「ああ、居る必要が無いのに他国にいつまでも居ないで欲しいてきな感じ?」
「おう、とりあえずまだ休暇自体はとってても良いから、近いうちに帰って来いとよ」
実際もう俺達ってこの国にいる理由ないんだよな。
早く帰ってこいと言われるのも当然か。むしろ今までが緩かったというべきか?
長期休養を許されている時点でとても緩いか。
『じゃあ帰る前にもう一回ぐらい遊んでもらわないとな』
ハクが何やら物騒な事を言ってるな。
町中で暴れたりしたら困るから、釘はさして置くか。
「あんまり無茶するなよ、頼むから」
『ちゃんと加減してるし、周りは見てるもん! タロウは私を子供扱いし過ぎだぞ!』
あら、珍しく思いっきり反論されてしまった。
ていうか、俺がハクを困った子扱いしてるのはやっぱ理解してたのか。
子供扱いするなと言われても、こいつ時々本当に子供っぽいしなぁ。
でも言われてみれば、ハクが無茶をした事ってそこまで多くは無いか。
「でもお前偶に駄々っ子みたいになるしなぁ」
『うー、シガルー! タロウが酷いー!』
思ってしまった事を口にしてしまい、ハクが完全に拗ねた様な鳴き声でシガルに訴える。
その際にシガルに飛びついたので、重かったのか「うっ」と呻きを漏らしていた。
ハクって見た目より重いもんな。
「はいはい、よしよし。タロウさんはハクを心配してるだけだから、ね」
『うー』
ハクを膝の上にのせて頭を撫で、機嫌を取るシガル。ハクはガルルと唸りながら俺を見ていた。
どうやら怒らせてしまったっぽい。ちょっと言い過ぎたか。
「ごめんハク、言い過ぎた。お前だってちゃんと気をつけてるよな」
『そうだぞ! シガルの迷惑にならないようにちゃんと気を付けてるぞ!』
やっぱり判断基準はそこなんだな。
まあいいか、それでストッパーになってるなら問題ないだろうし。
ただこいつの中でクロトとの喧嘩は、迷惑の中にカウントはされていないんだろうな。
シガルもにこやかに見つめてる事多いからなぁ。
仲裁するのは俺なんで勘弁してほしいんだけど。
「各々やりたい事、やり残した事が無い様にな。少なくとも一か月以内には出るからなー」
「あれ、イナイ、そんなにゆっくりで良いの?」
ただでさえ長期休暇明けの帰ってこいって話だし、もっと早めだと思った。
ひと月も猶予くれるのか。
「あたしがちょっとこっちで気になる事があるんでな。ブルベに頼んだ」
ふむ、なんかお仕事残ってたのかな。それともアロネスさん関連だろうか。
なんだかんだアロネスさんやらかしてるし、その辺りのごたごたが有るのかもしれない。
結果論で上手く行ったけど、この間の集落の件はアウトだしね・・・。
「そうなんだ・・・手伝えることなら手伝うよ?」
「ああ、ありがとう。手がいりそうなら頼むよ」
イナイは俺の言葉に笑顔で応えた。応えたんだけど、何か様子がおかしいと感じる。
何がどうとはっきりは言えないのだけど、何かがおかしい感じだった。
とはいえここでその時頼むという風に言った以上、追及しない方が良いんだろうな。
彼女が頼ってきた時にちゃんと頑張れる心構えだけしておこう。
とりあえず、まずは誰から挨拶しておこうかな・・・。
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