第561話ギーナの後押しですか?

「女の子同士で色々と暴露していこう会を今から開催します」


真顔でそう言った私に、どう反応したらいいのかという様子を見せる参加者たち。

ファルナ、ビャビャ、ドローア、フェロニヤが参加者となっている。

一人男が居るけど気にしてはいけない。彼がこういう場に居る事は割といつもの事だ。


「あのー、ギーナ様、女の子というには私達はもう厳しいと思いますよ?」


ファルナが容赦なく突っ込んできた事にもひるまず、私は視線をビャビャに向ける。

ビャビャもそれを受け取ったのか、頭をこちらに向けてきた。

あと私はまだ若いもん!


「単刀直入に聞きます。ビャビャ、タロウ君に惚れてない?」


遠回しに聞くのが面倒だったので、本当に単刀直入に聞いてみた。

私の行動にファルナとドローアが気まずそうな顔をする。

フェロニヤは、また始まったという感じの顔だ。よく解ってるじゃないか。


「ギーナ様、今日はどれだけ飲んだんですか?」

「まだ5本しか飲んでないよ! 大瓶5本!」

「・・・どれもギーナ様でも酔える物じゃないですか。明らかに飲み過ぎですよ」


ファルナが溜め息を吐きつつ聞いてきたので、ここに集まる前に飲んだ量を伝える。

酒瓶の現物を見て頭を抱えるファルナとドローア。

美味しかったです!


「ギーナ様、言い難い質問で酒に頼るのはやめましょうよ。体壊しますよ?」

「こんな事素面で聞けないし、それ次第で勢いつけないと言えない事も有るもん!」


ドローアの進言にあっはっはと大笑いしながら返す私。

我ながら酷いと思うけど、このぐらいのテンションでなければやってられない。

だって彼女の言葉次第では、私は絶対に言いたくない言葉を言わなければならない。


仕事なら出来る。仕事なら背負う命を考えれば決断できる。

けど、今回私が言うべき言葉は、私自身の感情から来るものだ。

それを彼女に言ってあげたい。けど、言いたくない。その後押しをお酒に頼った。


「ギーナ様、には、私は、どういう、風に、見え、ますか?」

「今言ったじゃん。どう見てもあの子に好意を持っている様にしか見えないって」


私はビャビャの問いに応えながら、次の酒を開ける。

器に注ぐ事なくそのまま飲み干し、ぷはぁっと息を吐いてから口を開く。


「ビャビャは、どう思ってるのさ。実際の所」

「良く、解り、ま、せん。けど、彼を、見て、いると、辛い、です」

「辛い?」

「は、い。辛い、です。けど、傍に、行くと、話す、と、それが、なくなるん、です」


彼女はそこまで言い切ると、顔を俯かせてしまった。

ビャビャは自分で理解していないのだろうか。

今の言葉こそが、タロウ君の傍にいたいのだという明確な答えだと。


だからは私は彼女に言いたいけど、絶対に言いたくないと思ってしまった一言を口にする。

酒の力をもって、自分の素の感情では辛くて言い出せない一言を。


「良いよ、行ってきて。あの子が受ければだけど」

「「「―――――え?」」」


私の言葉に、フェロニヤ以外の声が重なった。

彼は彼で驚いているが、少し目を天井に向けた後いつも通りの顔になった。

おそらく私が何故酒に頼ったのか理解したんだろう。

彼は小間使いやってた頃の名残なのか、仕える人間の思考を読んでの行動に慣れている。


「ビャビャの好きなようにしなさいよー! ていうか明らかに好きって言ってんじゃん! もうさ、私への義理とか忠誠とかどーでも良いから好きな男の所に行ってきなよ!」


やけくそ気味にビャビャに私の言葉を投げつける。

拒否など許さない。お前の感情など知った事ではないとばかりに叫ぶ。


ビャビャはこの国に大きな貢献をしてくれた。

彼女にとってそれは自分の夢を叶える事でもあったのだろうけど、私の夢を叶えてくれる行為でもあった。

私の仲間として、あくまで私に仕える部下として、国おこしの手伝いをしてくれた。

彼女がいなければ、今のリガラットは間違いなく無いと言える程だ。


本心からすれば彼女に国元を離れて欲しくない。

有能な人間だからというだけじゃなく、信頼する仲間だから、友人だから離れて欲しくない。

けど、だからこそ、友人だからこそ彼女が一番幸せな選択を取らせてあげたい。


「無意識に歯止めかけてっでしょ。この国の仕事とか、この先の事とか、私への義理とかがさ。ならそんな物全部捨てちゃってよ。私は皆が幸せになって欲しいんだから」


そう言いながら、さらに一本酒を開ける。

段々酒の味がしなくなってきた気がするが知った事か。

またそのまま口をつけて、酒瓶を持ち上げる。

半分ぐらい一気に飲んだところで立ち上がって、ビャビャに指を突き刺して口を開く。


「反論は認めないからね! ビャビャは幸せになる権利があるんだから! 少なくともこの国では誰よりも幸せにならないと駄目な人なんだからね!」


ビャビャに向って叫んでいると涙が出てきた。

彼女に幸せになって欲しいという気持ちは本心なのに、寂しいって気持ちが強くなる。

ふざけるな、そっちの顔は今要らないんだ。その為に酒に頼ってるんだから。


「どんな形でもいいから、彼が帰る前にちゃんと決着をつける事! でないと絶対後悔するから! 良いね!! 解った!?」

「は、は、い」


テーブルにだぁんと酒瓶と叩きつけ、ビャビャを威嚇するように叫ぶ。

酒瓶とテーブルが粉砕した様な気がするけど、そんな事は些末な事だ。

とりあえずビャビャの肯定が確認できたので良い。


「おーし、じゃ、その景気づけにもうい――――」


新しい酒瓶を手にしたところで、私の記憶は途切れた。

流石に7本は、少し無謀だったかもしれない。

でもそうでもしないと言えなかったんだもん。


・・・幸せになって欲しいけど、本当に離れて欲しくないんだ。

ごめんね、面倒な友人で。

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