第559話定期連絡ですか?
「イナイ姉さん、今行ける?」
イナイ姉さんへの定期連絡をする為に呼びかけ、暫く待つ。
すると聞きなれた、何時もの姉さんの声が返ってくる。
『おう、グルド。変わりねぇか?』
「あー、今回はちょっと変わった事有ったかなぁ」
『あん、どうした』
姉さんが少し心配げに聞いて来る。
ただそれだけで、俺の事を気にしてくれていると思えて嬉しくなる。
なっさけねぇなぁ。タロウの奴に格好つけたのに、全然駄目じゃねえか。
『おーい、どうした? マジで大問題か?』
「あ、ああいや、そこまでじゃないんだ。何て説明しようかと思ってさ」
ちょっと黙ってしまったせいで、変に心配をかけてしまった。
まあ実際どうしたもんかな、とは思ってんだが。
暫くはこのまま過ごすつもりだが、この先の事を考えるとちょっと相談しておきたい。
「あのさー、ちょっと相談したい事があってさ」
『おう、どうした?』
「何ていうか、女の子拾ったんだよ。訳アリっぽいの」
『・・・おう?』
俺の言葉に、困惑する様子を感じる声音で返すイナイ姉さん。
まあ当然だろう。こんな事いきなり言われたら困るよな。
俺も正直困ってんだけど。あいつろくに自分の事喋んねぇから扱いに困る。
やっとある程度まともにしゃべれる様になった筈なのに、全然喋りやがらねぇ。
むしろ会話という点では以前より通じなくなってやがる。
「その娘、なんか呪いでもかけられてたらしくてさ。しかもかなり碌でもないやつ。んで、何とか会話ができる程度にはなったんだけど、碌に自分の事話さなくてさ。どうしたもんかなって」
『何かややこしいな。ふさぎ込んでるとかなら無理に聞き出しても逆効果だろ。暫くそっとしておいてやった方が良いんじゃねえのか?』
扱いに悩んでいるという事を伝えると、姉さんは暫くほおっておけと言う。
だがあれは塞ぎ込んでいるというか、俺を警戒している気がする。
助けてやったのに腑に落ちん。
「いやー、何か解んねぇけど、警戒されてるんだよなぁ」
『・・・お前、何したんだよ、その子に』
「な、何にもしてないよ! ほんとだよ!」
疑う様な声音に焦って反論する。流石にその疑いは受けたくない。
だが腕輪の向こうから少しくすっと笑う声が聞こえた。
あ、これ揶揄われたな。くっそ、笑い声も可愛いな。
『わりいわりい、冗談だよ。そこウムルか? それとも国外か?』
「国外だね。その上本人は何処から来たのかだーんまり」
ウムル国内だったらもっと話は簡単なんだけどなぁ。
一旦面倒見てくれる所に連れて行くのも簡単だし。
・・・いや、あいつどこかに預けるのは少し怖いな。下手に暴れたら大変な事になるし。
呪いのせいかと思ってたら、あいつ呪いが無くても戦えたんだよなぁ。
相手しろとか言われた時はどうしようかと思ったぞ。
つーか、全快したせいなのか何なのか、呪いが解ける前より強くなってやがる。
『なら連れて来たら面倒だな。まあ拾った以上はちゃんと面倒見てやれ。ウムルに連れて来るにしても、ちゃんと本人が事情を話してからだぞ』
「へーい」
まあ、そこはしょうがないかな。
実際このままあいつ連れまわしても、面倒しか起こさない気がするし。
ある程度あいつの身の上というか、事情というか、色々聞き出してからかなと思う。
最初の頃の質問には多少答えてたのに、最近全然話さないのだけはどうにかしねーとなぁ。
『あー、そうだ、こっちもお前に言っとく事あんだよ』
「うん、どうしたの?」
姉さんから俺に報告って珍しいな。どうしたんだろうか。
・・・もしかして子供が出来たとかかな。
なんか腹大きくなった姉さん想像すると、ちょっと辛くなってきた。
でも姉さんの子供だったらきっと可愛いだろうなぁ。いや、間違いなく可愛いだろう。
『結婚をちゃんとしようって話になってな。式とか時期決まったら連絡するから』
「あー・・・うん、決まったら教えて。必ず行くから」
あー、そっか、タロウの奴ちゃんと結婚するのか。あーあ、これでも完全に夢も見れねぇなぁ。
まあ、あいつと姉さんのべったり加減を見てたら、そんなのありえねぇと解ってるけどな。
シガルちゃんも喜ぶだろうな。あの子タロウにベタ惚れだし。
いや、そういう意味では最近の姉さんもそうだけど。
兄貴の式の頃には、姉さんのタロウに対する態度が甘えてる感じだったからなぁ。
見てて辛かったから、その辺り直視しない様にしてたけど。
『なんだよ、なんか気に食わないのか?』
やっべ、声のトーン無意識に落ちてた。馬鹿か俺は、解り易すぎるだろうが。
焦りつつも冷静を装い、口を開く。とりあえず誤魔化さなきゃ。
「いやぁ、姉さんも結婚かぁと、何だか寂しくなって」
『あはは、何だそりゃ』
俺の答えに幸せそうに笑うその声が、余計に胸を締め付ける。
あー、キツイ。これきっつい。
姉さんが幸せそうなのはとても嬉しいんだが、俺の精神がキツイ。
姉さんの相手がタロウじゃなかったら一発殴りに行きたい。
でもあいつなら多分大人しく殴られるんだろうなぁ。あいつはそういうやつだ。
だから、許しちゃったんだよなぁ。
「まあ、決まったら是非呼んでよ。絶対行くから」
『おう、お前が来てくれると嬉しいよ』
そんな風に言われたら、当日どれだけ辛くても泣けねーじゃん。
けど泣いたら色々ばれるよなぁ。どっちにしろキツイんだけど。
『そうだ、その娘の事はブルベにも言っとけよ。もしこっちに連れてくるつもりならだけど』
「あー、一応言っておこうかなって思ってる。最悪トラブル持ち込みする可能性も考えてるし」
あの娘の呪い。あの強さ。明かに何か面倒事を抱えているのは間違いない。
なるべくこの国で済ませてはおきたい。
流石に何年も放浪してるのに、面倒事が起こったから帰って来たとか、ちょっとな。
念の為連絡は入れておくつもりだけど、出来れば迷惑はかけたくない。
「ただまあ、女の子だからさぁ、何か有ったら姉さんに頼りたいなぁって」
『実姉に頼れよ』
「ぜっっっっったい嫌だ」
『お前らさぁ・・・』
俺の全力拒否に呆れた声を出すイナイ姉さん。
けど嫌なもんは嫌だ。あいつに頼るぐらいならミルカに頼るわ。
ミルカはミルカで妊娠して大変だろうから、そんな事できねーけど。
『まあ、何か困ったら言ってこい。ある程度は相談に乗ってやるから』
「ごめんね、ありがとう姉さん」
やっぱイナイ姉さんは何だかんだ優しいなぁ。面倒見が良いと言うか何と言うか。
本当に変わらないよなぁ、この人。自分だってこれから大変だろうに。
それに甘える俺も、大概昔のままのクソガキだな。
『じゃあ、またな』
「うん、またねー」
姉さんが通話をきったのを確認して、大きく息を吐く。
普段なら癒しの時間なんだが、今回は心が辛かったなぁ。
そっかぁ、結婚かぁ。そうなると本格的に子供も間近だなぁ。
腹膨らんでる姉さんは見たくねぇなぁ。流石に見たら泣きそう。
「誰と話していたんだ」
「んー、尊敬する姉貴分だよ」
「そうか」
いつの間にか傍まできていた嬢ちゃんに答えると、そっけない感じに返された。
聞かれたから答えたのに。何か最近、呪いかかってた時の方が会話出来てた気すらしてくる。
「・・・」
「・・・」
会話が始まらない。続かない。お互い見つめあったまま動かない。
何だよ、俺に何しろって言うんだよ。
嬢ちゃんぐらいの歳の女の子の望む行動なんか解んねぇぞ。
「あー、その、なんだ。そろそろ食事にするか」
「あの吐きそうになる物はもう二度と口に入れんぞ」
「わーってるよ。ありゃ病人食だよ」
「よくもあんな物をずっと・・・」
嬢ちゃんにずっと食わせていた物の文句を言われながら、今日の食事を用意する。
だってお前、あんなに弱ってたんだから仕方ねーだろ。
俺だってどこまで回復したらまともなもの食わせるか迷ってたんだよ。
そんなに根に持つ事ねーじゃねえか。
「つーか、文句あるならお前も自分でやれよ」
「しらん」
「しらんじゃなくて覚えろつってんの!」
「ふんっ」
鼻鳴らして顔背けやがった。
こいつ、ほんと可愛くねーな!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます