第557話そろそろ本気で覚悟を決めました!

クロトの件、最近の俺の状況、イナイとシガルの事。

休養時間が沢山あるせいか、最近それらの事をよく考える様になっていた。

毎日毎日色々思い返して、考えて、悩んで、一つの結論に至った。


その事を、ハクには席を外して貰ってイナイとシガルに話してみた。

クロトには居て貰うつもりだったのだけど、何故か居てくれなかった。

後で教えてねと言っていた辺り、何かに気が付いていたのかもしれない。

あの子はやっぱり頭のいい子だ。


「えーっと、本気で言ってんのか?」

「タロウさん、良いの?」


俺が至った結論を聞いた二人は、可愛く首を傾げて聞き返してきた。

二人の顔は同じく疑問の顔だけど、二人共少し方向性が違う表情だ。

イナイは何処か心配する様な、シガルは何処か期待している様な顔をしている。


「うん。最近考えてはいたんだ。色々、思う所もあってさ」


二人の疑問に素直に肯定の返事をする。

ずっと、口には出していなかったけどずっと考えていた事を。

いつまでも先延ばしじゃ、二人に悪いと思っていた気持ちを。


多分二人は俺の我が儘にいつまでも付き合ってくれてしまう。

今までの二人から、それが間違いないと断言できる。

だからこれは、俺から言わなきゃいけない言葉だ。

俺を甘やかしてくれる二人に、誠意を見せないといけない事だ。


「ちゃんと、家族になろう。今の状態が家族じゃないなんて言わないけど、約束を形にしたものを作ろう。今更な事言い出してて悪いと思うけど、ちゃんと言わなきゃって思ってさ」


恋仲って事自体が慣れてなくて、イナイと俺はそのままずるずる行ってしまった。

そして『シガルちゃん』も、それに巻き込んでしまったままだった。

シガルはずっと俺を愛してくれた。イナイも俺の傍に在り続けてくれた。

いい加減、ゆるゆると関係を続けるのは止めないとと、思ったんだ。


「結婚、しよう。ちゃんと、家族になろう」


一度イナイとは誓っている。シガルちゃんも手放す気は無い。

俺は二人といつまでも共にありたい。

だからそろそろ、この話はちゃんとしないといけないと思ったんだ。


時間がある今だからこそ。余裕がある今だからこそ。

俺の体が、この先この世界でどこまで生きて行けるか解らないからこそ。

元気なうちに、二人を抱きしめられるうちに、ちゃんと形にしたい。


「・・・良いんだな?」


それでもイナイは、俺の顔を心配そうに覗いて聞いて来る。

彼女のその言葉には複数の意味がある事ぐらい、今の俺なら解ってる。

けど構わない。もう、決めたんだ。


「イナイが傍にいてくれるなら。なにも構わない」

「――――っ、そ、そっか。うん、そう、か」


彼女は俺の言葉に、そう答えるのが精いっぱいだったようだ。

応えた後、涙を浮かべて、俺の胸に抱き着いてきた。俺はそんな彼女を優しく抱き留める。


最初に告白してきた頃から変わらない、可愛いイナイだ。

彼女は強いけど、本当は涙もろい普通の女性。ただ強くあろうとしている人。

とても優しくて、暖かくて、素敵な女性。

そんな彼女に癒されて、だからこそ俺は彼女に応えたいと素直に思ったんだ。


「むう、解ってるけど狡いなぁ。タロウさん、私は?」


抱き合ってる俺達を見て、シガルが不満そうに頬を膨らませる。

彼女のその態度が可愛くて、思わずくすっと笑ってしまった。

その不満そうな顔が、本気で不満だと言っているわけではないだけに余計に可愛い。

本当にシガルはイナイも大好きだよな。


どこまでもまっすぐで素直。

ちょっと過激で思い込んだら一直線な所もあるけど、それが彼女の魅力でもある。

俺なんかと違って、本当にどこまでも強い女の子。

俺には無い強さを持っている子。心から尊敬している女性だ。

そんな彼女だから、俺は彼女の想いを受け止められた。


「ごめんごめん。シガルが居てくれないと困る。君が傍にいてくれないと俺はもうだめだよ。二人が一緒に居てくれないと、もう俺は俺じゃいられない。二人が居るから、俺は頑張れてる」


死ぬ気は無かった。この世界に来る前から心は折れていたけど、死にたいわけじゃなかった。

死にたくない。生きていたい。だから一人で生きる力を欲した。

その為に師匠たちの教えに素直に従っていた。

でも俺は、何かを諦めていた。俺の中は、ただただ空っぽだった。


きっとイナイが俺を好きになってくれなかったら、彼女が傍に在ってくれなかったら、俺はただ死なない為に毎日を生きていただろう。

彼女が居てくれたから俺はこんなにも暖かい気持ちを持てている。

こんなにも幸せな気持ちになれているのだと、心から感謝している。


シガルが居なかったら、俺はもう一度心が折れていた。

彼女が居たから俺は完全に折れる前に踏ん張れた。

厳しいけど優しい、どこまでもまっすぐてとても強い彼女が居たから俺は立ってられた。

そんな彼女が居るから、情けない俺を見せたくないとまで思う様になった。


二人は俺にとって、もう俺の一部だ。二人が俺の傍から居なくなるなんて、考えたくもない。

だから、ある意味これも俺の我が儘だ。


「シガルの事が好きだ。イナイの事が好きだ。二人の事を愛している。独りよがりで我が儘な結論から出た言葉かもしれないと、少し思ってる。けど、それでも、俺は二人を離したくない」


シガルを引き寄せ、素直に胸元に顔をうずめるイナイも抱きしめる。

二人を抱きしめて我が儘な告白を伝える。

君達が好きで、離したくなくて、その為に結婚をしようと。

どこまでも我が儘な自分に呆れるな。


「俺が、君達を離したくない。だからお願いします。俺と一緒に居て下さい」


うん、これだな。結婚しようていうのは確かな形として大事だけど、これが一番しっくりくる。

これは俺のお願いだ。ただの俺の願望だ。


二人と一緒にいつまでも生きていきたい。二人にいつまでも一緒に居て欲しい。

本当に我が儘な感情でしかないと自覚ているからこそ、二人に素直に伝えた。

二人が好きだからこそ、二人の素直な感情に従って欲しいから。


「ひぐっ、あたっ、り、めえ、ふっく、だろう、が、ひうっ」

「ほんとだよ、今更過ぎて何言ってんのって感じだよ『お兄ちゃん』」


泣き過ぎて上手く口に出来ないイナイの嬉しい返事と、初めて会った頃の様に俺を呼ぶシガル。

イナイは勿論だが、シガルも少し涙声だ。

おれも、あんまり嬉しくて、少し泣いてしまっている。


「ありがとう。本当に大好きだ。二人にはありがとうとしか、本当に言えない」


ありがとう。好きになってくれてありがとう。好きでいさせてくれてありがとう。

愛してくれてありがとう。愛させてくれてありがとう。


俺を、俺にしてくれて、ありがとう。

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