第555話家族への想いです!

イナイから戻ってきた結論からは、まず俺は長めの休養期間を設けられるという事だった。

俺に疲労の自覚がないって事が決定打だったらしく、クロトの判断が下るまでは基本的な訓練以外は許可して貰えなくなってしまった。

なのでクロトが良いよって言ってくれるまで、二乗強化も気功仙術でしか使用するなと念入りに言われてる。

まあ、うん、多分原因は浸透仙術だとは思うけど、やっと覚えたのになぁ・・・。


あ、一応単品で、ゆっくりとコントロールの訓練をするのは許された。

ていうか、やっとかないとドンドン負荷増えるだけだと思うし。

ミルカさんに免許皆伝と認めて貰うという約束を果たす為にも、ここだけは譲れない。

もし駄目って言われたらブルベさんに直談判するつもりだった。


「・・・じー」


ただし、クロトの監視の下でという約束になってしまった。クロトの視線がとても痛い。

というか、クロトはクロトでやりたい事とかないのだろうか。

特に最近遊びにも結構興味持ってたみたいだし。


「クロト、暇じゃない?」

「・・・お父さんと一緒なら暇じゃない」

「あ、はい」


暇ではないそうです。最近時間があれば割と遊んでたイメージが有ったんだけどな。

まあ、クロトが良いっていうなら良いんだけど。


今日はもう終わるけど、仙術の訓練をする日としない日を決めた方が良いかもしれないな。

クロトの自由時間は作ってあげたい。

とりあえず仙術さえ使わなきゃ良いわけなんだから、他の訓練日にすれば良いよね。

その代わり他の人間の監視が付きそうな予感がするけど。


「んー、まあこの辺はおいおい相談しながら決めるかなぁ?」

「・・・?」


脳内会議のまま結論だけ口にしてクロトに伝えたせいで、クロトが首を傾げる。

今は繋がって無いんだから、それじゃ解るわけないよね。


「クロトの自由時間作りたいなって」

「・・・お父さん、僕と居るの、嫌?」

「違う違う。そんなわけはないって」


クロトが少し顔を俯けて言うので、慌てて訂正する。

上目づかいでちらっと見てる姿は、少しシガルと似ていた。

クロトって、動作がシガルと似てるのは何でなんだ。

イナイと一緒に居る時間の方が長いはずなんだけどなぁ。


「・・・お父さんが嫌じゃないなら、僕は嫌じゃない」

「そっか」


クロトがほっとした顔でトテトテ寄って来たので、俺もほっとして頭を撫でる。

この子変な所で落ち込むからなぁ。こういう所ちょっと怖い。

撫でながらしゃがんで、クロトを抱きかかえて立ち上がる。


「そういえばクロトって、出会った時からあんまり変わらないな」

「・・・多分、僕、あんまり大きくならない」

「そうなの?」

「・・・だって、僕の元はお父さんだから」


・・・あ、はい、すみません。身長小さくて本当に申し訳ない。

そうかぁ、クロトは俺をモデルに出来上がった存在だから、大きくなっても俺と同じなのか。

何か申し訳なくなってきた。ごめんよ、本当に小さくて。


まさかこっちに来てから一切身長が伸びないとは、お父さんも夢にも思わなかったんだよ。

いや、まあ、それより前から止まってたけどさ・・・。


「ごめんな、クロト。こんなに小さくて」

「・・・ううん、お父さんと同じ姿になれたら、僕は嬉しいよ」


少し首を傾げながら、何時ものぼーっとした表情で言うクロト。

それが本当にそう思っているのだと感じて、可愛くて頭を撫でる。

ただ、そこでふと気が付いた。


「よく考えたら、クロトって昔の俺なんだよな」

「・・・うん。姿は、そうだよ」

「なんで女物の服着てたの? それもわざわざ黒で作ってまで」

「・・・お父さんが昔、着てた、服」


今なんて? 俺が来てたって言った?

え、待って、そんな記憶ないんだが。

まじで、俺あんな可愛いドレス着てたの?


「クロト、俺そんな服着てた覚えが全くないんだけど」

「・・・僕も、お父さんの無意識に残ってたものから、引き出しただけだから」

「つまり聞かれても解らない、と」


俺の結論にコクンと頷くクロト。

まあ解らないならしょうがないけど・・・まじで俺あんな服着てたの?

ていうか、俺こんなに女顔だったのか。すげー今更だけど、俺昔の自分とか全然覚えてねーわ。

写真とかも確認しない口だったからなぁ。


「クロトって普通に大きくなれそうなのか?」

「・・・どうなんだろう」

「そこも解らないのか」

「・・・ごめんなさい」

「ああ、ごめんごめん、責めてるわけじゃないから。ただの確認だから」


まあ、その辺は一緒に暮らしてればそのうち解るよな。

三、四年たっても変化が無かったら、おそらくクロトはそうそう成長しないという事かな。

いやクロトの今までを考えると、自分の意志で成長できたりしないかな。

単に今は俺の子供の頃の姿で固定してるとか、そんなのありそう。


「まあ、のんびり一緒に確認すればいいさ。時間はいっぱいあるから」

「・・・うん」


また素直に頷くクロトの頭を撫でて、家路に就く。

強化を解くとクロトは少し重く感じるが、それが此処に居るという証明の様で安心する。

それに重いとしっかり持とうとするから、クロトも安心すると思うんだ。


「・・・お母さん、偶に羨ましそうにしてるよ」

「へ?」


抱え直していると、クロトが唐突にそんな事を言ってきた。

意味がちょっと分からなくて首を傾げてしまう。


「お母さん、って、どっちの?」

「・・・シガルお母さん、僕がこうやって抱えられている時、時々羨ましそうにしてる」

「まじか、それは気が付いてなかった」

「・・・だってお母さん、なるべく表情に出さない様にしてるもん」

「クロトは本当に良く見てんなぁ・・・」


シガルは何というか、急激に大人になろうとしている。

だからこういう、出会った頃の様な扱いが少し羨ましいのかもしれない。

最初の頃よく頭撫でたりしてたし。いや、今も撫でてるか。


クロトって、俺よりちゃんとシガルを見てるんじゃないだろうか。

そのうち「タロウさんは何で気が付かないの」とか言われないかしら。

・・・うん、言われそうだな。ちょっと気を付けておこう。


「・・・お父さんも、お母さんも、本当に聞かないんだね」


シガルに嫌われない様に新たな決意を胸にしていると、クロトはぼそっと呟く。

多分クロトと同じ存在の事だろう。


「クロトと同じ奴の事か?」

「・・・うん」

「聞いても仕方ないだろ。解らない事が沢山あるし、お前だって言いたくないんだろ?」

「・・・ごめんなさい」


俺の言葉にまた謝るクロト。

声音で怒ってたりとか責めてたりしてないって解ると思うんだけどなぁ。

今のクロトはちょっと謝る事が多すぎるな。


またうつむきかけたクロトを見て、俺は足を止めてクロトの額にデコピンを打った。

軽くなので痛くはないと思うが、クロトは目を開いてきょとんとした顔を見せる。


「シガルが言ってたろ。家族だし、力になりたいから聞かないだけだって。クロトが言いたいって思った時に言えばいい。それにクロトには遺跡の破壊で助けて貰ってるんだから、あんまり気にしすぎるなよ。悪い事は何にもしてないんだから」

「・・・うん、ありがとう、お父さん」

「どういたしまして」


少し恥ずかしそうにしながら礼を告げたクロトの頭を撫でて、俺も満足して足を動かす。

最近クロトを慰める相手は俺以外だったので、久々に保護者らしい事できたかな。


・・・最初はお父さんって呼ばれるのに抵抗あったはずなのに、今じゃもうしっくりくる。

クロトの事を可愛いと、面倒を見てあげたいと思う。

本当に、いつの間にかお父さんやってんな。


親父、か。

なあ、クソ親父。あんたにとって、家族って何だったんだろうな。

あんたには、俺がクロトに想う様な感情は無かったのか?


「答えなんか、ねぇよな」

「・・・お父さん、どうしたの?」


親父の事を思い出し、暗い顔をしてしまった。

そのせいで心配そうな顔をするクロト。

俺は慌てて笑顔を作り、クロトに何でもないと答えた。


そうだ、何でもない。もう、俺はあいつに囚われてちゃいけない。

愛する二人が居て、血が繋がって無くても可愛いと思える息子がいる。

俺はこの家族を大事にしよう。

あいつの様に、全てを壊すような真似は絶対にしない。


「お腹すいたし、帰ったら何か作ろうかな。クロトも食べるだろ?」

「・・・うん。お父さんの味付け、好き」

「そりゃー良かった」


その後の帰り道は、クロトに心配させない様に他愛ない話をしながら帰った。

うん、大丈夫。俺は大丈夫だ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る