第553話王の決断ですか?

「成程、今なら見つけて処理は余裕、という事か」


話し合いが終わった後、ギーナから仲間内だけで話せる様にと部屋を用意された。

そこでタロウから受けた相談の内容をブルベに話し、出た結論はそれだった。

勿論その結論はあたしも同じだ。


「タロウの口ぶりからはそう聞こえたな」


タロウはクロトにあまり話させたくないみたいだから、また聞きの話ではある。

実際あたしもさっきのクロトの様子は異常だと感じた。離れている間も少し話をしていた様だし、シガルが気分をほぐす為に話させないようにしていたのも解ってる。

だから今回はクロトには訊ねないでおいた。ちょっと仲間外れみたいで寂しいけどな。


それに一応、シガルからも話を聞いた上でそう感じた事だ。

おそらく今のその魔王とやらなら、あたし達でも倒せる。

ハクが問題なく倒せるという時点でそれは確定だ。


「ハクに言ったら悔しがるかもしれねぇが、あいつが勝てる以上、現状は対処に問題はねぇ。ただあるとすれば」

「こちらの遺跡の破壊速度と、あちらの発見速度」

「ああ。そうだ」


ブルベの返しに頷く。

現状、その存在とやらは遺跡を捜し歩くのが目的の可能性が高い。

それなら早めに遺跡を壊す必要がある。だが、そう話は上手く行かない。


「タロウ君の体の負荷か・・・本人は解っていないんだよね」

「ああ、自覚症状はねぇらしい」

「となると、余計に不味いね」


本人に自覚症状があって、自身で判断できるなら何も問題ない。

けど現状タロウはクロトに言われたから体がおかしいかもしれない、なんて言ってる状態だ。

そんな奴に自己判断で動けるかどうか聞くのは、怖くて出来やしねぇ。


「タロウ君の休養期間は長めに考えた方がよさそうだね」

「ああ、悪いが頼む」

「構わないさ。そこは今更焦っても仕方ない。元々壊すべきがどうか悩んでいた物を、壊した方が良いと解ったのは彼らのおかげ。そして壊せるのも彼らのおかげ。そう思ってるよ」


そういいつつも、ブルベは笑顔を見せずに考え込む様子をみせる。

何を考えているのかは大体察しはつく。

現状、自国で見つかっている遺跡の破壊自体は、遅れても何の問題もない。

問題は他国にある遺跡だ。


勿論その他国にある遺跡の中には、あたし達の知らない遺跡の存在も含んでいる。

今回クロトと同じ存在が生まれた事が何より、私達が見つけられていない遺跡がまだまだある可能性を証明している。

私達が管理している、もしくは共同で管理している遺跡に現れたなら対処は容易い。

けど、もし未発見の遺跡を回る事をそいつが選択すれば、おそらくどんどん力をつけるだろう。


そしてこちらは遺跡の存在を知った時、タロウが緊急時であっても動けるかどうかも大事だ。

遺跡の本当の破壊はあの二人にしか出来ない。なのに動けないじゃどうしようもない。


今回は二回連続でやっただけだから倒れていないだけ。そしてどの程度で倒れるかは解らない。

つまりタロウの遺跡破壊の間隔はさらに時間を空ける必要が出て来る。

タロウが悪いわけじゃないが、色々とタイミングが悪いな。


それに悩む理由がもう一つある。

ブルベが少し悩む様子を見せているのは、あたしに何と答えようか迷っているからだ。

あたしはブルベが結論を口にするまで黙って待つ。


「・・・姉さんには悪いとは思うけど、もしその存在と出会ったら私は斬るよ」

「やっぱ、駄目だよな」


そしてやはり、思った通りの答えが返って来た。

あたし個人の感情では、出来る事ならクロトの願いは叶えてやりたい。

けど、人命の安全を考えるなら、そんな悠長な事はしていられない。


クロト自身、そいつがどれだけの力を持っているのか正確な把握はしてない。

なのに時間を稼いで、クロトの到着を待って、なんて事をしていたら事故が起きる可能性は小さくない。

ブルベの判断は命を預かる物として、当然の結論だ。


「そうねー、兄さんが出会ったら、そうするしかないわよねー?」


だがそこで、話を黙って聞いていたセルが笑顔で口をはさむ。

ここに居る全員がセルに注視するが、セルの表情は変わらない。

いつも通りの緩い雰囲気だ。


「なら、私達が駆け付ければ良いだけよねー? ねー、アロネス」

「あー・・・まあ、そうなるか?」


セルはアロネスの方を向き、ニコニコしながら同意を求める。

アロネスは頭をかきながら悩んでいるが、否定をする気は無い様だ。


「けど、遺跡の中まで追跡はしねーからな。わりぃがあの中では対処できる自信がねぇ」

「そこに関しては私も気を付けないとねー。なるべく外で拘束するようにしないとねー」


ブルベの言葉を待たずにどんどん話を進めていく二人。

慌ててブルベが口を挟もうとすると、リンが先に口を開いた。


「ねえねえ、私なら大丈夫じゃないかな。ほら、昔次元の裂け目壊した要領でぶった切れば」

「どうなんだろうなぁ、あの時と違って目に見えねぇからな」

「リンちゃんはミルカちゃんの仙術見えないけど無理矢理無効化したし、もしかしたら出来るかもだけど危ないよー?」


最早決定事項と言わんばかりに話を進める三人を見て、ブルベは頭を抱える。

だけど多分、こいつらはこうなったらもう止まらない。

後は下手に被害が膨らまない様に、周りで上手く補助するしかない。


「・・・セルとアロネスはともかく、リファインは駄目だよ。王妃が動いたら目立ちすぎるよ。ただでさえ本気でやると目立つんだから」

「えー、じゃあ騎士として行けば良いじゃない」

「セルやアロネスみたいに人の目をごまかして戦うって出来ないだろ、君は・・・相手がよっぽど弱いならともかく、それなりの力を持ってるみたいなんだから」

「えー・・・はーい・・・」


もう止まらないと判断したブルベは、どうにかリンが面倒を起こすのは防ごうと説得を試みる。

リンも自分が大人しく戦うなんて出来ないと解っているから、不承不承ながら納得したようだ。

でも結局それは、残り二人には許可を出したのと変わらない。


「まったく、いたずら小僧とわんぱく殿下にはかないませんな」

「あー、ひどーい。私そんなにわんぱくじゃないもんー」


呆れた溜め息を吐きながらのロウの言葉にセルが異を唱えるが、それは無理があると思う。

お前子供の頃はリンと殴り合いするようなわんぱく娘だったじゃねーか。

仲良くなったきっかけが殴り合いって、男の子じゃねーんだから。


いや、それはともかく、だ。


「セル、良いのか?」


今回の事は全面的にブルベが正しい。

その存在が危険なら即時対処が当然の行為だ。ブルベは何も間違っちゃいない。

あたしが伝えた願いは、ただのあたしたち家族の我が儘だ。


「イナイちゃんの真面目なお願いを断るのは、妹分としてできませんねー?」

「こういう所で借りを返して、イナイが色々文句を言い難い様にしとかねえとな」

「あー、ずるいー! あたしもそっち混ざりたいー!」


にこやかに言うセルと、ニヤッとした笑いで続くアロネス。

その様を見て、仲間に入りたいと叫ぶリン。

・・・公私混同なんだけどなぁ。今更な事だが、こいつらちょっとあたしに甘すぎるだろ。


「セルもアロネスもずるいよ。私だけ悪者みたいじゃないか。私だってそっちが良い」

「あ、ブルベも狡い! あたしに駄目って言っておきながら狡い!」


ブルベが仲間に入りたそうに二人の元へ寄っていく。

こいつら集まると本当に昔のままだな。


「聖騎士様、今日は怒らねえのか? 王様らしくねぇって」


ギャーギャーと完全に子供に戻っている四人を見ながら、ロウに訊ねる。

今日はいやに静かだな。


「ふむ、どこぞの国の王が近隣におられるのか? 少なくとも私は知らんな。それに聖騎士とは誰の事だ? 今ここにいるのは何処にでもいる中年しか見受けられんが」

「ははっ、確かに」


ロウの言葉に思わず笑ってしまった。

そうだな、今ここにいるのは王とし大っぴらにやって来た訳じゃない。

なら、仲間内で居る時ぐらいは良いよな。


「でもお前は中年っていうか、もう老人に足突っ込んでるからな」

「残念ながらまだまだ老人になる気は無いのでな。もう少しオッサンのままでいさせて貰うぞ」


あたしらがガキの頃からオッサンの癖に。

お前と同じ世代で現役で前線出れるのってカグルエさんだけだぞ。

まあ、だからこそあたしらガキンチョは、あんたら頼りにしちまうんだが。


「次の世代が育たねぇぜ?」

「それはすまん。誰もかれもがひよっこに見えてな。中々目が離せんのだ」

「あんたからすりゃ、たいていの人間はそうだろうよ」


全く、どいつもこいつも甘いな。

あたしも人の事はいえねぇが、本当に甘い。


「セルエスはお姉さん思いだねぇ」


セルエスの行動を和やかに見つめるこの旦那も大概だな。

言ってる事理解した上でこの言動だからな、こいつ。


けど、こいつらの好意はありがたく受け取ろう。

これならクロトにいい返事をしてやれそうだ。

タロウの休養に関しては、どういう風にさせっかな。

あいつほっとくとまた倒れそうなんだよな・・・。

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