第552話クロトに聞いた上でもう一度相談です!
「そうか、クロトの奴そんな事言ってたか」
ブルベさん達の話し合いは終わったらしく、イナイはクロトの様子を見に来た。
その際に、クロトが言ってた事をイナイには伝えておいた。
クロトには何か思う事があるようだと。
尚、今のクロトはシガルと一緒におやつを作っています。
最初はシガルが「クロト君が元気になる為に甘い物を作ってあげよう」って話だったんだけど、クロトが手伝うって言って一緒にやっている。
ハクはその傍でわくわくした雰囲気で出来上がるのを待っている。
シガルの周りをチョロチョロする様は、完全に飼い主の周りを動くワンコだな。
「俺は、クロトがやりたいならやらせてやりたい」
「・・・そうか。まだそれらしい遺跡自体見つかってねぇから何とも言えねえが、捜索自体はやる事に決まった。ただしこれも大っぴらには出来ねぇ」
「うん、遺跡の存在自体がそういう扱いだもんね」
そうなると、やっぱり遺跡を破壊して回っての、偶然の出会いを期待するしかないのかな。
向こうが大人しく遺跡を回ってればその偶然はあり得るだろうけど、そうじゃないならどこかで討伐される可能性がある。
「ただ、そういう話なら、情報を回して貰える様にブルベに頼んどく」
「いいの?」
「本人がけりつけたい、つってんだろ?」
「それはそうなんだけどさ」
一応機密にしなきゃいけない事なんだろうし、不味くないのかな。
それに相手は危険な存在だ。知らせて駆けつけるまでの時間で何が有るか解らない。
俺達に知らせる時間が有るなら、そっちで対処した方が早いはずだ。
「クロトがやりたいって、珍しく強く言ってんだ。やらせてやろうぜ」
「イナイ・・・うん、そうだね。ありがとう」
イナイが優しい笑みをクロトに向けながら口にした言葉に、嬉しくなって礼を言う。
俺が言う事では無いのだろうけど、それでも嬉しかった。
あの時のクロトは、明らかに何かを決心した、強い想いを決めた目をしていた。
出来るなら、それは叶えてやりたい。
「勿論人命優先だから、無理な可能性はある。けど、出来る限りはやってみる」
「うん、それでもありがとう。クロトも喜ぶと思う」
そこに関しては仕方ない。
流石に人死にが出てて、その上今も被害が、なんて時に悠長な事は言ってられないだろう。
クロトだって、きっとそこは理解しているはずだ。
あの子は賢い子だ。気持ちとは別の『あり得る事』を理解していると思う。
けど、その上で俺に頼んできたんだ。自分にやらせてほしいって。
だったら、俺はクロトに出来る限りをやってやろう。
「それに聞いた限り、そいつ今は弱いんだろ?」
「そうみたいだけど、それはクロトより、って事じゃないかな。一般人からしたら強い可能性あると思うよ、俺」
「ありえるな・・・クロトはその辺りは解ってそうか?」
「本人はその存在が一時感じられただけって言ってたし、詳しくは解らないんじゃないかな」
むしろ解ってるなら、それこそ今からでもそいつの所に向かって行きそうだと思う。
それぐらい、あの時のクロトからは強い意志を感じた。
でも今シガルと一緒に楽しそうにお菓子を作ってるクロトを見ると、その気配は無い。
おそらく、あの子も適当に出歩いても会えると思って無いんだと思う。
「そうか・・・ならその辺りも含めて、もう一度ブルベと少し話し合ってくるよ」
「ごめんね、イナイ」
「何謝ってんだよ。元々あたしらの仕事だ。そこは気にすんな」
イナイに再度負担をかける事を気にして謝ると、彼女は素敵な笑顔で笑った。
そして俺の頭をくしゃくしゃと撫でて、言葉を続ける。
「それとクロトに報酬を出す事も決まった。遺跡破壊もそうだが、今回の危険の連絡の有用性も含んでんな。もし今後も同じ様な事があれば教えて欲しい、とよ」
「成程、そっちの利点も考えられたわけだ」
クロトと同じ様な存在が、今回現れた一体だけとは限らない。
事実今、クロトとそいつの二体がこの世界に現れた。
三体目は無い、なんてことは誰にも断言できないだろう。
「後は、遺跡破壊のペースは落とす様に言っとく」
「え、なんで」
「バカかお前、このペースでやってたら倒れるって言われたんだろうが。根拠は知らねえしクロトにしか解らねぇ何かがあるんだろうが、倒れられたら困るんだよ」
「あ、はい。すみません」
怒られちった。でも確かに途中で倒れたら逆に迷惑だもんな。
早めに片づけたいだろうけど、二度と片付かなくなったら話にならない。
お言葉通り、もうちょっと休養して、クロトにOK貰ったら行く感じにしようかな。
イナイのお説教に自分の考えを改めていると、彼女は俺の胸に体重を預けてきた。
「心配の種は、なるべく減らさせてくれ。無理させてるって、こっちゃ思ってんだからよ」
「あ、うん、その、ごめん」
「馬鹿、謝んな。大人しく抱きしめてありがとうつっとけ」
「・・・うん、ありがとう」
イナイの言う通り、彼女を抱きしめて礼を言う。
彼女にそう言われたからじゃない。本当に感謝を込めての言葉だ。
しかしそっか、無理してると思わせてたか。そんなに無理してるつもりはないんだけどな。
ちょっと疲れは確かにあるけど、本当にそれだけのつもりだった。
「・・・シガルも、心配してたからな。労ってやれよ」
「あー、そっか、了解」
イナイとシガルでその事話してた感じなのかな。二人共に心配かけてたか。
まだまだだなぁ。いつになったら頼りになる人間になれるのやら。
俺が現状にため息を吐いていると、イナイは俺からゆっくりと離れた。
ちょっと残念に思いながらも素直に離す。もう少し抱きしめていたかった。
「じゃあ、今の話ちょっとあいつらに言って来るよ。あいつらも暇じゃなくてな、早めに戻らないといけねえんだ」
「ん、解った、行ってらっしゃい」
イナイに手を振って見送ると、彼女は何故か少し悩む顔を見せて動かなくなった。
どうしたんだろうかと首を傾げていると、彼女はゆっくりと俺に顔を近づけてきた。
そして軽く唇に触れるキスをして、少し照れ臭そうに笑う。
「行ってきます」
「うん、いってらっしゃい」
彼女はちょっと恥ずかしそうな笑みのまま、その場を離れていった。
俺はそんな彼女の背中に向けて言葉を送る。
以前よりはキスで照れる事は減ったとはいえ、相変わらず可愛らしい反応を見せる。
多分出かけのキスをちょっとやってみたくなったものの、やったら恥ずかしかったんだろうな。
「みてたよー?」
背後からニヤニヤしているんだろうなと解るシガルの声が聞こえた。
振り向くとやっぱりニヤニヤしている。
まあ、広くない台所内でやってたし、当たり前っちゃ当たり前だか。
「お姉ちゃんも相変わらず可愛いよねー、行ってきますのキスで可愛く照れるとか」
「シガルは照れないもんね」
「照れないってわけじゃないけどね。それよりも傍にいて、求めて貰えて、求める事が出来る。そっちの喜びの方が大きいだけだよ、あたしはね」
シガルはそう言って、さっきのイナイとは違う、思いっきり求めるキスをしてきた。
俺も彼女を素直に迎えて、ゆっくりとお互いを確かめる様に堪能する。
暫くそうして、シガルは満足そうな笑みで離れる。
「逆にタロウさんは前より慣れちゃったよねー。ちょっとだけつまんない」
「いや、そりゃ、これだけ積極的な子が恋人だったら、多少は慣れるよ」
「まだまだ照れることの多いイナイお姉ちゃんを見習っても良いんだよ?」
「それ、シガルが楽しいだけでしょ」
軽口を叩きながら、シガルはクロト達の元へ戻っていく。
今気が付いたが、お菓子を焼く作業はクロトとハクでやっていた。
ハク、その手でフライパン持つの難しくない?
・・・しかし、実際どうしたもんか。
クロトの願いを叶えてやりたいけど、情報収集能力は俺には無いからな。
その上休養もとれと言われちゃったし、何とも歯がゆい。
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