第549話クロトの決断です!

「クロト君、落ち着いた?」


笑顔でクロトにお茶を出し、頭を撫でるシガル。

声をかけられたクロトは、お茶を受け取ってコクンと頷く。

少なくとも、クロトと同じ様な存在の話をしてる時よりは大分マシだ。


「クロト、その、話させといてなんだけど、話すのが辛い時は言って良いんだぞ?」


抱きかかえているクロトの頭を撫でながら言うと、クロトはお茶をゆっくり飲みながら頷く。

うーん、頷いてはくれるし落ち着いては居るけど、何か考えこんでるっぽい。

普段なら返事の声ぐらいは出してくれるのになぁ。


『クロト』

「・・・なんだ」


珍しく、ハクがクロトの名前を呼んだ。

するとクロトは、ずっと黙っていたのに顔を上げて口を開いた。

・・・ちょっと悔しいとか思って無いし。


『そいつ、強いのか?』

「・・・多分、今なら弱い」

『なんだ』


ハクが何気なしに聞いた一言に応えたクロトだが、俺はそれを聞き流さなかった。

今なら弱いって事は、そこまで警戒しなくても大丈夫なのか?

後でイナイかブルベさんに言った方が良いよな、これ。


『なら、出会ったら消滅させる』

「・・・多分それが、一番幸せ、か」


ハクが物騒な事を言うと、クロトはそうした方が良い呟いた。

最初に言ってた時もそうだけど、クロトはその存在の目的を知ってる様な感じがする。

でも聞くとまた、さっきみたいになりそうで怖い。

特にさっきのクロトは完全におかしくなっていた。あれはまずい。


「・・・殺して、あげなくちゃ。僕が、やってあげなくちゃ」


もう最近完全に癖になっている、両手を胸で握る動作。

その両手が赤くなりそうなほどに力を込めて握られていた。

クロトの様子にシガルも心配げな表情を見せる。

勿論俺もクロトの言葉の真意が解らず、胸にざわついた物を感じていた。


「クロト、困ったら頼って良いからな」


クロトの頭を撫でながら言うと、クロトは握っていた手をゆっくりとおろしてコクンと頷く。

どうやら今のクロトは俺を頼るという選択肢が無いっぽい。

うーん、心配だなぁ。この子割と、思い込んだら一直線な所有るし。

前に記憶取り戻したときがそうだったしなぁ。いきなり消えたりしないかが心配だ。


「ねえ、クロト君」


俺がクロトの様子に悩んでどうした物かと考え込んでいると、シガルがクロトに声をかける。

膝をついて目線に合わせ、クロトの手を取って優しい笑みで。


「クロト君が決めた事、やらなきゃいけないって思った事、私達にも手伝わせてくれないかな。きっと、力になれると思うんだ。内容を今は言えなくても良い。気持ちが落ち着いてからでも良い。ただ一人で抱え込まないでね。私達は家族なんだから」

「・・・うん、ありがとう。シガルお母さん」


シガルのとても優しい、いつか聞いた覚えのあるとても優しい声に、クロトは頷く。

俺が落ち込んでいた時に、飛竜の事件の時に聞いた優しい声。

その声は、シガルの優しさはクロトに届いたらしい。

クロトの反応を見て良い笑顔を見せるシガルを見て、そう思った。


「・・・お父さん」

「どうした?」

「・・・多分、イナイお母さんは予想してると思うけど、遺跡の破壊は早めにやった方が良い」

「そうなの?」

「・・・あいつは今、力が足りない。だから足りない分を、遺跡に求める」


ああ、遺跡にある力を求めるのか。

クロトは取り込まれる感じだったけど、復活したそいつはそのままだから問題ないのかな。

となると確かに、遺跡破壊を速めた方が良いか。


「・・・でも、そうすると、きっと、お父さんの体がもたない」

「え、マジ?」

「・・・多分、今回と同じ期間でやり続けたら、いつか倒れる」


あれー、マジか。割と余裕あると思ってたんだけどなぁ。

もしかしてこの、相変わらず微妙に回復してない状態が原因かしら。

実は浸透仙術を使えるようになった辺りから、なーんか回復が鈍いのよね。

動けないわけじゃ無いけど、何となく調子が戻らない感じがするというか。

実際動かすとちゃんと動けるから何かよく解らん。


でももしこれが原因だとすると、なぜそうなるのかね。

まだ浸透仙術を使いこなせていないせいで、負荷が回復しきらないんだろうか。

でも気功の流れ自体は平常通りなんだよな。


「・・・でも、ゆっくりでも、破壊していけば、きっと出会う」

「出会うって、そいつにかい?」

「・・・うん、だから」


そこで言葉を切って、クロトは顔を上に向けて此方を向く。

その目はいつものぼーっとした目では無く、力強い、何かを決めた目に見えた。

普段しなさ過ぎる顔に、俺は少し面食らってしまう。


「そいつの相手は、僕がやる。やってやらなきゃいけない。だから、誰にも手を出させないで」


ちゃんとクロトのまま、今までにない程強い口調で、俺にそう言った。

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