第548話クロトの語る魔王です!
暫くお茶を飲みながら待っていると、ギーナさんがニョンさん達を連れて戻って来た。
どうやら直接集めてきたらしい。
あれ、でもレイファルナさんが居ないような。
「ファルナー、集まったからきりの良い所で来てねー!」
首を傾げていると家に向かってそうギーナさんが言ったので、おそらく家で何か仕事をしているのだろう。
皆の分のお茶を使用人さん達が用意してくれた所でファルナさんもやって来た。
ギーナさんは使用人さん達に指示を出し、使用人さん達は全員頭を下げて下がっていく。
おそらく話を聞かせないためだとは思う。
「さて、じゃあ話を聞かせて貰って良いかな」
残るべき面子だけが残ったのを確認し、ギーナさんが開始を告げる。
視線はブルベさんに向いている。向けられた本人と言えば、何時もの余裕の笑顔だ。
「まずはこの国で確認されている遺跡の破壊が無事済んだ事を祝っておかないかい?」
「大事な話がすんでからね」
笑顔で応えるブルベさんに苦笑して返すギーナさん。
そんな二人を見て、ギーナさん陣営は少し悩む様子を見せていた。
あー、でもファルナさんだけは平常通りだ。あとビャビャさんは解らん。
「そうだね。話す前にまず聞きたいのだけど、リガラット陣営は彼の、クロト君の実力を知っているかい?」
ギーナさんの言葉に頷いて、ギーナさん達全員を見る様に問うブルベさん。
クロトの実力って意味だとギーナさんだけは知ってるんじゃないかな。
他の人は多分クロトが暴れている所とか見てない筈。
「一応私は知ってるよ。そうね・・・多分私達であの子に勝てるのは、ニョンとフェロニヤぐらいじゃないかな」
ギーナさんの言葉にざわつくリガラット陣。ただレイファルナさんは驚いた様子は無い。
さっきの反応も考えると、クロトとの訓練見に行ったりしてたのかな。
連絡くれたのも彼女だし。
「そ、そんなに強いのですか、この子は」
驚いた様子でスエリさんがギーナさんに問う。
まあ顔は蜂みたいな感じなので、驚いてるのかどうかよく解んないんだけど。
少なくとも声音は驚いている。
「そうね、はっきり言ってドッドとスエリは相手にならないわよ。ドローアとビャビャは時間稼ぎが出来る程度」
今の発言から察するに、ビャビャさんドッドさんより強いんですね。
そうですか、めっちゃ強いっすね。
ちらっと彼女に向けると、俺の視線を感じたのか首をかわいく傾げていた。多分。
いやごめん、本当に解らないんだよ・・・!
しかしフェロニヤさん、強いとは聞いてたけど本当に無茶苦茶強いんだな。
クロトに勝てるレベルか。ニョンさんもそうだっていうのは何か納得。
「で、ですが時間稼ぎなら俺達だって出来ると思うのですが」
ドッドさんがギーナさんの言葉に思う所を告げると、ギーナさんは一瞬考えるそぶりを見せる。
けどすぐにドッドさんの方を向いて口を開いた。
「いや、やっぱ無理だね。ドッド、これは単純な強さの問題じゃなくて、相性の問題もあるの。ドットとスエリはおそらくクロト君に対応できない」
「相性、ですか?」
「そ、相性。クロト君特有の能力。それに対応できるのがフェロニヤとニョンで、時間を稼げそうなのがドローアとビャビャってだけよ」
ああ、クロトの黒の力か。確かにあれ破壊出来ないと話にならないもんな。
つまりニョンさんとフェロニヤさん破壊出来るって事か。何だあの化け物二人。
いやでも、そうじゃなきゃ勝てるとは言わないかぁ。
「彼が強い事は解りました。ですがそれと何の関係がある話なのでしょうか」
スエリさんは最初の驚きから回復して、冷静にギーナさんに問う。
この人仕事モードだと本当に渋い良い声だよな。声優似合いそう。
「彼の事情は前に話したよね。彼の正体が何なのか」
「ええ、まあ」
「今回、その彼と同じものがどこかに生まれたらしいの。それも彼と違い、完全な災厄な形で生まれた可能性が高いみたい」
「成程、つまりこの集まりはその警戒の為、という事ですか」
ギーナさんの言葉でこの集会の趣旨を即座に理解するスエリさん。
そしてその言葉を聞いて、皆も納得した様子を見せた。多分。
向こうの陣営半分ぐらい表情が解らないからね。もう判断するの諦めようかな。
「私もまだ本人に事情を詳しく聞いてはいない。けど彼に問いを投げるならば、その場にギーナもいた方が良いと思ってこの場を設ける様にお願いしたんだ」
「そ、我が儘王様のお願いでこの場は開いてるってわけ」
「酷いなぁ。すぐ集めるって言ってくれたから来ただけなのに」
「こんな話断れるわけ無いでしょ。解ってるくせに」
トップ同士の軽口の投げ合いに、どっちの陣営も少し微妙な顔をしている。
言葉に何か裏が無いかとか考えてるのかな。
「ま、そんなわけでクロト君、良いかな?」
「・・・はい」
ギーナさんに呼ばれ、トテトテと寄っていくクロト。
その様子に彼女を怖がる気配は無い。本当に大丈夫になったんだな。
「じゃあクロト君、教えて欲しいんだけど、その生まれたやつってどんな事が出来るのかな?」
「・・・殺す事しか、出来ない」
「殺す、とはどういう事かな、クロト君」
ギーナさんの問いに答えたクロトの言葉は、俺には要領を得ないものだった。
どうやらそれは他の人もそうだったようで、ブルベさんが再度問う。
「・・・憎いから、殺す。恨めしいから、殺す。妬ましいから、殺す。殺したいから、殺す。そうとしか考えられないのが、フドゥナドルという存在。全てを憎み、恨み、ただ鏖殺する存在」
クロトの言葉に場の雰囲気が剣呑な物に代わる。
俺もその言葉には驚いていた。
なんだそれ。クロトとは大違いな存在じゃないか。
「それは、その憎しみは、どこから来るものなのかな」
「・・・最初から。生まれたその時から、全てが憎い。全てが恨めしい、妬ましい。だから全部殺したい。生まれた時から死ぬまでそう思ってる」
ブルベさんの静かな問いに、淡々とクロトは答える。
その答えは不穏そのもの。
「殺したくて殺したくて堪らなくなって、殺しても殺しても心は晴れなくて、殺せば殺すほど自身にドンドンと積み重なる様に憎しみが増えていく。死にたくないという想いをどこかに持ちながら、死ぬことこそが自分の救いだと理解して、それが解っていても殺したい」
「クロト、くん?」
だが段々と、クロトの様子がおかしくなって言っていた。
いつもののんびりした声音では無く、感情が高ぶっているのがはっきりと解る。
声をかけたギーナさんの事も意に介していない。
「ああそうだ、ずっとずっと救われたくて、それでも憎くて、全てが憎くて恨めしくて、殺したいけど殺したくない。でも殺さないと殺せない。妬みも何もかも全て殺してしまい―――」
「クロト!!」
これ以上はまずいと感じて、駆け寄ってクロトの名を叫ぶ。
その声が届いたらしく、クロトははっとした顔を見せて、落ち込んだ様子で俺に顔を向けた。
「・・・ごめん、なさい」
「あ、いや、謝る必要はないよ。大丈夫か、クロト」
「・・・うん」
謝るクロトの頭を撫でる。この前もそうだったけど、クロトはこの話をするとおかしくなる。
この場を設けて貰ったのに申し訳ないけど、これ以上はクロトに無理させたくない。
そう思いギーナさんとブルベさんに目を向ける。
「うん、いいよ。ちょっと休憩してきて。ごめんねクロト君」
「・・・ううん、今のは僕が悪いから。ごめんなさい」
「君の心理状況を考慮せずにずけずけ聞こうとした大人達が悪いんだよ。そう、あいつが悪い」
「え、私だけかい!?」
謝るクロトに対し、ギーナさんも謝った上でブルベさんを悪者にする。
慌てるブルベさんの様子にリンさんはクスクスと笑っていた。
「ま、まあでも今のでその存在の危険性は理解できた。クロト君と同じ事が出来る上にその思考だとなると、その存在はかなり危険だと思う。今後の対策はこちらでするとして、彼には少し休んでもらおうか」
取り繕う様に言うブルベさんだが、若干焦っているのが見て取れる。
アロネスさんとイナイも声を殺して笑っていた。
俺はブルベさんの言葉に頭を下げて、クロトと一緒に一旦その場を離れようとする。
「シガル、私はこの場を離れるわけにはいきません。クロトを、お願いできますか?」
「りょうかいです!」
俺が離れる際にイナイがシガルに頼み、ハクを伴って俺達と一緒にその場を離れる。
ハクは特に何を言うでもなく、パタパタと可愛く羽根を動かしながらついてきた。
クロトが何かあると大体言って来るのに、少し珍しい。
いや、今はクロトの事だけ気にしておこう。
余計な事は後だ。
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