第546話身軽な王様です!
「やあ、お帰り」
遺跡破壊から車で帰る事数日。
街に着き、報告の為にそのままギーナさんの家に赴くと笑顔で迎えてくれる男性が居た。
すっげー見覚えのある王様がラフな村人スタイルで立っている。
隣に軽装の鎧着たウッブルネさんとリンさんも居る。
つーかリンさんはやっぱ鎧なんですね。ドレス姿似合ってたけど普段はしないんですね。
「陛下、お早いですね」
俺とシガルは彼の存在に驚いてるけど、イナイが通常運転で対応していた。
というか、口ぶりから最初から知ってたな。
アロネスさんも動じている様子が無いし、おそらく事前に連絡とってたんだろう。
直接来なきゃいけない用事でも有ったんだろうか。
「イナイ姉さん達と違って、移動手段になりふり構わず来たからね」
そう言って親指で庭をさすブルベさん。
一応気が付いてはいたけど、そこでは和やかにお茶をしているセルエスさんの姿が在った。
旦那さんも来ていて二人で笑顔でお茶をしている。ていうかイチャついている。
あそこ何か別空間になってるよ。めっちゃピンク色してる。
テーブルについてるのに対面じゃなくて、隣で旦那さんの腕に抱き着いてるし。
用意されてる菓子をセルエスさんが持って旦那さんに食べさせたりしてる。
セルエスさんってあんなんだっけ?
「相変わらず仲が良いですね」
「いや相変わらずっていうか、最近は周りの目を完全に気にしなくなってきてるっていうか」
セルエスさんの様子を見て呆れた様な声音で言うイナイと、少し困った様子のブルベさん。
俺が知らなかっただけであの二人ってあんな感じなんだ。
ていうか、セルエスさんって旦那さん相手には結構バカップル系の行動なのか。
・・・今、お前も人の事言えねぇよって誰かに言われた気がした。
「陛下も同じ様にされては如何ですか?」
「い、いや、それはちょっと」
「ロ、ロウ、何言ってんの!」
ニヤッとした顔でブルベさんに言うウッブルネさん。
言われた本人達は慌てて否定している。つーかリンさんが予想外に顔真っ赤だ。
そういえばリンさんはこういうので揶揄われるの苦手だったっけか。
「はいはい、玄関先でいつまでも騒いでないで入った入った。人数多いし庭の方が用意が楽だから庭に回ってもらえる? 私はちょっと離れるから用意が出来たら座って待ってて」
そこでギーナさんが家から出てきて手をパンパンと叩きながら俺達の移動を促し、彼女自身はどこかに出かけていった。
まあこっちはグレットも連れてきてるし、とりあえず庭に行かなきゃとは思ってたけど。
彼女に言われてぞろぞろと移動すると、セルエスさんが今気が付いたかの様にこっちを向いた。
絶対気が付いてたと思うけどなぁ。
「皆お疲れさまー。タロウ君は特にねー」
彼女はそう言って立ち上がり、俺に近づいて来る。
そうか、今の俺の仕事ってセルエスさんも勿論知ってるよな。
でもやっぱ負担はクロトにかかってるって意識を定着させたい。
俺よりも間違いなく重要だ。
「ありがとうございます。でもクロトが居るから出来る事なんで」
「そうねー、それは確かにー。クロト君お疲れさまー」
セルエスさんにそれを伝えると、彼女はクロトを抱きしめて頭を撫でながら労う。
ただその最中頬ずりとかしてるんですけど、自分が楽しんでませんか?
クロトは抵抗もなく、されるがままになっている。
首カックンカックンなってるけど大丈夫かクロト。
「クロト君にも何かないと不公平よねー?」
ただセルエスさんは、頬ずりしながらも目線がブルベさんに向いていた。
どうやら俺の意図を完全に理解してくれている様だ。流石セルエスさん。
その視線を受けたブルベさんはというと、優しい笑顔でクロトを見てから頷いた。
「そうだね、彼に対しても報いねばいけないね。今回の事も含めて、ね」
良かった。これで少しはクロトにも報酬なり何か有るかな。
クロト自身はあまり興味がない可能性も有るけど、頑張った報酬は有っていいと思う。
「というわけで、タロウ君もお疲れさまのぎゅー」
「んぐっ!?」
ブルベさんの言葉に満足してクロトを見つめていると、いつの間にか俺の傍まで迫っていたセルエスさんに抱きしめられた。
俺の頭を胸にギュッと抱える様に抱きしめ、後頭部を撫でられている。
下着の固さ以外の柔らかさが感じる物が、思いきり顔に押し付けられている。
「もが、もがが」
「あん、そこで暴れるなんて、タロウ君ってばやーらしー。息がくすぐったーい」
驚いて離れようとすると、びっくりするぐらい強い力で固定された。
どれだけ離れようと暴れても頭だけ全然動かせない。
絶対遊んでるよこの人! ていうか、息が出来ないです! いやマジで!
お願い本当に離して! 頭が白くなってるから!
「・・・セル?」
「あははー、冗談冗談ー」
「ぷはぁ! はぁ、はぁ、はぁ・・・き、気絶するかと思った・・・」
イナイの静かな言葉を受けて、若干動揺しながら手を離すセルエスさん。
俺はやっとまともに呼吸できた事で、そんな事には構ってられなかった。
苦しかったぁー。胸に顔うずめて呼吸困難で気絶とか本気でしたくないぞ。
「あはは、やっぱり君は相変わらず可愛いねー。いいこいいこ」
そんな俺の様子を見て、今度は普通に頭を撫でるセルエスさん。
楽しそうだなぁ、本当に。
「皆さま、席のご用意が出来ております。どうぞ」
俺達が騒いでいる間に庭に複数のテーブルが用意されて、使用人さんの一人が声をかけてきた。
ただ見た感じ、人数より多めに見えるのは何でだろうか。
「何だか多くないですか?」
「ギーナ様からは側近の皆様全員集まられると聞いております。その分のご用意もさせて頂きました」
ああ、なるほどそれで。
ブルベさんが居て、ギーナさんの側近の皆も来る。
となると、かなり大事な話をするって事よね。俺も居て良いのかな?
「あの、ブルベさん、俺居ても良いんですか?」
「むしろ居てくれないと困るよ。君と君の家族の話をするんだから」
ブルベさんは俺の言葉に笑顔で答えたが、目線が俺に向いていない。
彼の眼はクロトに向いている。
「クロトの事、ですか?」
「うん、そうだよ」
という事は、クロトのあの話か。
クロトが言っていた、目覚めたと思わしきもう一人のクロト。
クロトからあの話を聞いた後、イナイと相談をした。
ただその話を聞いたイナイは一旦俺達にその話を誰にもしない様にとだけ言って、また後で話をしようと言った。
ブルベさんの言葉から察するに、国元に相談していたのだろう。
それで彼が直接ここにきて、ギーナさん達も交えて話をするという事か。
ただ、それはそれで少し嫌な感じもする。
彼が直接来たという事は、それはそれだけ真剣なのだろうと思う。
ただ、彼が真剣である事と、クロトにとって良い決断がされるかどうかは別問題だ。
もしかしたらクロトにとってはあまり楽しくない話になる可能性も有る。
「タロウ君、相変わらずだね。大丈夫、君達に悪いようにはしないさ」
「へ?」
「顔、顔。不安でいっぱいだ、って顔してたよ」
「あ、えっと、すみません」
もはや何時もの事だけどやってしまった。
でもまあ、今回はそれで良かったかな。はっきりとトップから大丈夫だって言われたし。
「少年、案ずるな。我々が来たのは単純にギーナ達に危機意識を持たせる為だ」
「そーそー。あたし達が本気で対処しないとやばいって思ってるって理解させる為だから。タロウがそんなに不安になる必要はないから大丈夫だって」
続けてウッブルネさんとリンさんにも安心しろと声を掛けられてしまった。
よっぽど深刻そうな顔してたな、これは。
「ただその際に彼自身の言葉を直接聞きたかったのもあるんだ。そしてそれをギーナにも聞かせたかった。彼女はある意味一番力強い協力者だからね」
「あー・・・確かに力強いですね」
リンさんより強いもんなぁ。これ以上に強力な協力者いないよな。
となると話し合いは彼女が戻ってきてからか。
テーブルに着々とお茶の用意がされているし、のんびり待ちますかね。
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