第543話大魔神が大暴れ中のクロト達ですか?

『相手しないと私はシガルの所に行くぞー』

「・・・お前、そう言えば僕が相手すると思ってるだろ」

『そ、そんな事無いぞ』


僕の言葉に狼狽え、キュルキュルと鳴き声を上げるハク。図星か。

いつもいつも僕がそんな挑発に乗ると思ったら間違いだ。

そもそも最近は心を平静に保てない事が多かった。今の僕はその程度の挑発じゃ揺らがない。


大体お父さんとお母さん達がゆっくりいしているのを邪魔したくないのはお前もだろう。

シガルお母さんが最近不機嫌なのを解ってたからこそ、こいつは今日お母さんから離れてる。

少なくとも夕方までは戻るつもりはないはずだ。


「・・・相手ならさっきからしてるだろう」


体を丸めて僕達の傍に転がっているグレットを撫でながら答える。

さっきからずっとハクの相手はしている。

ただこいつが望む物ではなく、盤上遊戯でだけど。


『もう何回目だと思ってるんだ! いい加減私のやりたい事させろ!』


盤上にバァンと前足を叩きつけ、折角並べたコマが飛んでいく。

地面に落ちる前に黒で全て拾って手元に集める。


「・・・壊れるだろ。これしかないんだから壊れたら怒るぞ」

『へえ?』


ハクはその言葉を聞いて、ニヤッと笑った。

こいつが何をしようと考えたのかすぐ解ったけど、僕は反応せずに静かにコマを並べなおす。

ハクがどれだけ暴れたいと思っていようが、他者の大事な物を壊して怒らせる様な性格悪い事をする奴では無い事ぐらい解ってる。


『むー、つーまんーないー』


僕がろくに反応しなかった事でつまらなそうに転がり、グレットに寄りかかってぺしぺし叩く。

グレットは顔を上げて困った顔で僕を見つめているが、その間にハクの分のコマも並べ終える。

並べ終わった後にグレットを撫でながらハクに声をかける。


「・・・お前、あれほど僕に勝つのを楽しんでたじゃないか」

『最近勝ったり負けたりだもん。一気に強くなりすぎだ。狡いぞ!』

「・・・僕はお前と違って仮想戦もやってる」


今までやった勝負を反芻して、自分でコマを動かしての仮想戦。

勿論本人が相手じゃない以上、完全に本人との勝負にはならない。

それでも自分の手数を増やす為の糧にはなる。


それに狡いというならお前の方だ。

勝ったり負けたりというけど僕は負け越している。

元々僕より遥かに強かった上に、特に努力もせずに元々強いお前の方が狡いだろう。


「・・・さあ、もう一局やるぞ」

『むー・・・じゃあ、条件を付けるならやってやる』


どうせ私が勝ったら一戦勝負しろとか、そういう事を言う気だろう。

実際ずっと付き合って貰ってるのは確かだし、少しぐらいは譲歩してやろうかな。


「・・・なんだ」


僕がハクの言葉に反応を示した事で、奴は嬉しそうに跳ね上がる。

そして楽しそうにキュルーンと鳴いた。

言葉になって無いから、ただのご機嫌の鳴き声だろう。


『お前が勝ったら一戦やるぞ! 良いな!』


何で僕が勝ったらなんだ。普通はお前が勝ったらじゃないのか。

普通逆だと思うんだけど。


「・・・僕が勝ったらで良いのか?」

『今は私が勝ち越しているからな。勝ったのに別の勝負でも勝ってしまったら可哀そうだろう』


なんでこいつ、自信満々に勝つ気なんだ。腹が立つ。

盤上遊戯はともかく、そっちの勝負は一度も勝った事無いだろう。

・・・まあいいか。


「・・・それでいいよ」

『よぉーし。加減はしないからな!』


元々了承する気でいたのでハクの提案を受けると返すと、ハクはご機嫌にキューキュー鳴きながら前に座る。

ちょこんと座る様は、少し可愛らしいと思う様になった自分が居る。

でもこれはハクを可愛いと思っているわけじゃ無く、お父さんの思考やお母さん達と一緒に行動していた影響だ。


けして目の前のこいつ自身を可愛いなんて思って無い。

それはあんまりにイラッとするから、絶対ない。


『どうした? お前が先手だろ?』

「・・・なんでもない」


ハクに声を掛けられて、意識を盤面に戻してコマを動かす。

僕がコマを動かした事でハクも盤面に目を落とし、竜の前足で器用にコマを動かす。

いつも思うけど、こいつ器用だな。あのずんぐり前足で良く動かせるもんだ。


『グレットー、偶にはこっちに頭よこせよぉー』


コマを動かしながらグレットをぺしぺしと叩き、またグレットに困った顔を向けられる。


「・・・また怯えられたいのかお前は」

『むー、そうじゃないけど、お前の方ばっかり頭が有って狡い』

「・・・そうやって叩くからだろ」

『加減してるもん!』


こいつはこいつなりに加減をしてるんだろうけど、グレットにとっては結構痛いんだ。

だからおしりや胴体ならともかく、頭を叩かれたくないから僕に頭を向けている。

大体そういう事するから怖がられるんだ。


けどグレットは困った顔で僕とハクの顔をきょろきょろと見比べた後に、ゆっくり立ち上がってハクの後ろまで歩いて行き、ハクの背もたれになる様に転がった。

ただやっぱり、これで良いのかという怯えが見える気がするけど。


『えへへー、良い子だグレット』


ハクはそれが気に入ったのか、グレットをぐりぐり撫でる。

だからその力加減をしろ。グレットの顔が完全に我慢してる顔じゃないか。


「・・・嫌がってるだろ。また嫌われるぞ」

『う、そ、そんな事無いもん!』


僕の言葉に反論するが、すぐに撫でるのを止めた。

多少は自覚有ったんだな。

そしてグレットに寄りかかって盤面に目を戻す。


『よーし、負ける気がしなくなったぞ!』

「・・・言ってろ」


けど悔しい事に、この言葉は真実になった。

日が落ちるまで勝負をしたのに、この後は一回も勝てなかった。

一度も勝てなかった事を悔しく思っていると、ハクが帰り道でぼそっと言った。


『何で勝たないんだよ・・・』


今日一番イラッとした。

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