第542話少しの間の休憩です!

「あのー、イナイさん」

「あん、どうした」


何やら作業中のイナイに声をかけると、彼女はこちらを見ずに返事をする。

何時もの事なので特に気にせず質問を続ける。


「俺達、そろそろ動かなくて良いの?」

「ウムルから人がまだ来ねぇんだから仕方ねぇだろ」


遺跡破壊から二日程経ったが、まだ誰も来る気配が無い。

なので俺達は未だに同じ所に留まっている。

水も食料も余裕であるし、そもそもイナイのテントが寝心地良いので何も問題は無い。

問題は無いけど、こんなにのんびりしてて良いのかな。


「皆が急がないなら良いんだけどさ」


遺跡の破壊はなるべく早めにやりたいと思ってるはずだ。

だから準備が整ってるならパパっと壊しに行くんだけどな。

今回の事で単純に破壊するだけなら全然問題ない事も解ったし。


「良い機会だから体を休めておけ。普段通り身体維持の訓練なら良いが、無理されても困るぞ。ブルベも言ってただろう。無理はすんなって」

「まあ、そういう感じの事は言われたけどさ」


とはいえ今回に限っては特に問題ない。

仙術の疲労は少しはあるが、最近の無理を考えれば全くと言って良い。

でもまあ、そういう事ならありがたく休ませて貰うけど。


イナイの言葉を聞いて、テント内に置かれたクッションに体を預ける。

そして今日は誰にも握られていない手を見ながら、ここ数日ずっと隣にいた女性の事を思う。


「ビャビャさんは、今日もアロネスさんと一緒かな」

「多分な」


遺跡を破壊してからこっち、ビャビャさんは俺に付きっ切りではなくなった。

むしろアロネスさんについて回っている。

でもあれは監視っていうより、アロネスさんに色々教わっている感じだった。

後なんか交渉してた。学校の講師に来ないかって。


「あれなら最初からああいう風にしてて欲しかった。俺のここ数日の苦悩は何だったんだ」


片腕がずっとぞくぞくする毎日だったから、結構きつかった。

くすぐったいのとは違う、ぞくっとする気持ち良さが腕から登ってくるのがとても辛かった。

いや本当に気持ち良すぎて辛いんだよ。

初日はまだ我慢出来たけど、日に日にぞわぞわするのが強くなっていくんだよ。

最終的に首元とか胸元とかもぞわぞわしてた。


「・・・おそらくだが、彼女はお前の心配もしていたんだろう。前回の事が有るからな」

「あー・・・俺が遺跡に一人で行って倒れるかもって事?」

「可能性が無いとは言い切れないだろう。それに態々アロネスがお前を指名した。お前を監視している方が両方を達成出来ると思っての事だろうよ」


そういえば遺跡に入る時も凄く心配そうだったもんな。

下手をすれば死んでいた様な目に遭っている人なら、その心配はしてもおかしくない。

むしろ俺が気楽に構え過ぎだったのかな。


「タロウさん、ちょっと残念なんじゃないの?」


そんな俺にシガルがジト目で言ってきた。

けど今日は機嫌が悪い様子は無い。普通に俺にべったりだ。

クッションに体を預ける俺に寄りかかる様に転がっている。

時々胸に顔を押し付けてきたりなど、今日のシガルはかなり甘えている。


因みにハクとクロトはグレットと遊んでいる。

特に最近はグレットが前程ハクを怯えなくなってきているので、ハクが凄まじくご機嫌だ。

このまま余計な事せずに仲良くなれると良いけど。

前にすり寄ってきたのに余計な事やって怖がらせてたからな、あいつ。


「そんな事無いよ。むしろ離して貰えてほっとしてる」


これは本当に真面目な話。

だって彼女が俺の手を握ってる間、シガルは微妙に機嫌が悪いし、イナイも機嫌が悪いわけでは無いけど様子がおかしかったし。

やっと解放されて本当にほっとしてる。


「ふーん。でも気持ちよかったんでしょ?」

「・・・いや、うん・・・その、まあ」


シガルの意地悪な問いに、もごもごしながら答える。

彼女にはビャビャさんの触手の手触りがどうだったのか話している。

手を繋いでいる俺の様子が何かおかしいと思ったらしく、問い詰められた時に素直に言った。


気持ち良かったのは確かだったが、だからって残念とは思って無い。

むしろ先の通り、我慢するのが辛かったのでほぼ拷問と変わらない。


「んー、ちょっとだけ、悔しいなぁ・・・」


シガルはそう言って俺の腕をさわさわと撫で始める。

俺が特に抵抗せずにいると、彼女は触る範囲をじわじわと広げていく。

そして不意打ちの様に、首元を甘噛みしてきた。


「ちょ、シガ、んっ・・・」


シガルの行動に慌てて退こうとするが、もう片方の手でがっしりと俺の肩を掴んでいた。

最近力強くなってますねシガルさん。逃げらんないんですけど。

いや待って、本当に力が強すぎる。本気で逃がす気が無いぞこれ。


「あむ・・・ちゅっ・・・んむっ・・・」

「うあっ、ちょ、シガ、ホント、まっ」


俺が止めるを一切聞かず、彼女は俺の体に手を這わせながら色んな所にキスをし、歯形が付かない程度に噛んでいく。

シガルを力づくで振り払うわけにもいかず、だが素の力だと最近勝てなくなってるせいで完全に組み伏せられる。


そもそもシガルが与える快感のせいで力の加減が上手く出来そうにない。

全力の彼女を引きはがすとなると怪我をさせかねないと思い、余計に抵抗出来なくなる。

そしてもやはマウント状態でシガルのなすがままになってしまった。


「シガルー、まだ昼間だしその辺にしとけよー」

「はーい♪」


俺の息が荒くなって力が入らなくなった辺りでイナイの止めが入り、心底楽しそうに返事をして止めるシガル。

俺はやっと止まった快感の強制にぐったりとして、クッションに体を投げだしている。

力が入らねぇ・・・。


「はぁ・・・はぁ・・・」

「あはは、タロウさんかーわいい♪」


ぐったりしている俺の様子を見て楽しそうに頭を撫でるシガル。

シガルさん、楽しいのは良いけど対抗心燃やす方向絶対間違ってるって。

あー、やっべ、体中ぞわぞわする。暫く大人しくしてないと服がすれるだけでちょっとまずい。


「・・・ねー、お姉ちゃん」

「どうしたー?」


ぐったりしていると、シガルが頭を撫でるのを止めてイナイを呼ぶ。

少し助かった。実はそれもちょっとぞわぞわしてる状態だったから。

シガルにされるの自体はむしろどんと来いって感じなんだけど、流石にテントでしかも真昼間からってのはちょっと。


実際その辺りもあって、今回の仕事が始まってからは一回もそういう事はしていない。

だってテントでって、絶対外から見てばれるだろ。俺は見せつける趣味は無いぞ。


「タロウさんの我慢してる顔見てたら、我慢出来なくなってきた」

「・・・お前」


シガルの言葉に作業の手を止めて、少し呆れた声で返すイナイ。

ちょっと待って下さいシガルさん。何言い出してんの。


「え、えへへ、ごめんなさい。ここ数日我慢してたから余計に、ちょっと」

「はぁ・・・解ったよ。あたしはクロト達の所にいるから」


続ける申し訳なさ気なシガルの言葉を聞いて、呆れた様に返してテントを出ようとするイナイ。

まってまって、何許可出してんのイナイさん。

だがイナイの退出は俺よりもシガルが許さなかった。

立ち上がったイナイのスカートをシガルが握って止めていた。


「・・・シガル、何のつもりだ」

「解ってるくせにー♪」


イナイはそれを振り払う事は無く、困った顔でシガルに問う。

だが反対に、シガルは心底楽しそうに答える。

そして立ち上がってイナイに抱き着く。


「ちょ、待て、あたしはしないぞ! 昼間からテントとか、あいつらにばれるだろ!」

「嘘だー。あたしちょっと確かめたもん、どれだけやったら中の反応が解るか。それぐらいじゃ人が居るかどうかは解っても、テントの中の様子は開けないと解らないでしょ」

「おま、おまえっ、何を確認してんだよ!」


本当だよ。今回に限ってはマジでシガルさん何の確認してんだよ。


「いや、こういう事する為に確認したわけじゃ無いからね? お姉ちゃんの作った物だし、どれぐらい行けるのかなーって、ハクと一緒に実験してたの」

「ま、まて! 確かにばれないけど、そういう問題じゃなくてだな!」

「ホラー、なら問題ないでしょ?」

「問題しかねえっ―――――んぐっ」


抱き着くシガルからどうにか逃げようと異議を唱えるイナイだが、その口をシガルが塞いだ。

シガルは自身の口で、イナイの口を塞いでしまった。


「んぐ!? んっ・・・んぐ・・・!」

「ちゅっ、んっむ・・・ちゅる・・・」


おそらくイナイは抵抗しようとしているが、シガルはがっしりとイナイの頭を掴んでいる。

しかもあれ、多分シガル舌入れてる。

そしてイナイはだんだんと力が抜けていくのが目に見えて判った。


「ちゅる・・・んはぁっ・・・えへへー」

「んあっ・・・くっ、この、えへへじゃ、ねえ、っつの」


にこやかなシガルと正反対に、若干ぐったりしてシガルに体を預けるイナイ。


「どーん!」

「うおっ!?」

「ぐえっ」


そしてイナイを担いだまま掛け声をかけて俺にダイブするシガル。

最後のカエルが潰れた様な呻き声は俺の物である。

いくら二人が軽いっていってもちょっときつい。


「えへへー、良いよね?」

「良いよねって、お前、断らせる気無いだろ」

「うん♪」


最早抵抗する気の無いイナイの言葉に、満面の笑みで頷くシガル。

そして昼間のテントの中で、夜の大魔神が降臨されたのであった。

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