第539話ギーナさんが直接来た様です!

「・・・何でお前まで来るんだよ」

「自分の胸に聞けば良いんじゃない?」


心底嫌そうな顔をするアロネスさんに、ジト目で返すギーナさん。

毒薬事件から数日経ち、リガラットから硬鱗族の支援の人員がやってきた。

その支援人員の中に混ざって彼女もやって来たらしい。

アロネスさんがやった事を考えると来ても変ではないけど、まさか来るとは思わなかった。


「一応彼らに誠意を見せておかないとね。疑われっぱなしじゃ今後に支障が出るもの」


うんざりした様子でアロネスさんに言うギーナさん。

俺はてっきり彼女もアロネスさんの監視に来たのかと思ってた。

遺跡の事も有るし。

連邦の代表が来る事で硬鱗族に誠意を見せるって事かね。

でもあの出来事でお偉いさんが来るって、逆に何か有るって思わないかね。


「逆に怪しまれないか、それ」

「解ってる。それでも良いよ。一切顔を出さずに適当に扱われていると思われるよりはね。一応彼らと私達は対等の立場だから、面倒は避けられるなら避けておきたいの」

「誠意ねぇ・・・脅しの間違いじゃないのか?」

「あんたには一番言われたくない」


アロネスさんの冷静な突っ込みに、最初から解っていると答えるギーナさん。

流石に俺が考える程度の事くらい二人は解ってるか。

それにしてもアロネスさん、発言が完全なブーメランじゃねーか。

ギーナさんもジト目から若干睨み顔になってるし。


「ギーナ、様」

「ん、何、ビャビャ」


ビャビャさんがギーナさんの袖を引いて名を呼ぶと、アロネスさんに向けていたジト目は完全に消えて笑顔になる。

本当にアロネスさん、ギーナさんには好かれて無いな。しょうがないけど。

それともビャビャさんが好かれてるだけかな。


「ファルナ、に、ここ、来るって、言って、ます?」

「・・・」


ビャビャさんの言葉で笑顔が微妙に崩れ、ふいっと顔を背けるギーナさん。

まさか誰にも言わずに来たのかこの人。それで良いのか連邦代表。

というよりもこの人国家代表だろう。代表が何処に居るか判らないって駄目だろ。


「ギー、ナ、様?」


ビャビャさんは下から覗き込む様な動作をして、顔を逸らしたギーナさんに再度問う様に名前を呼んだ。

そこでギーナさんは顔どころか目線も宙を舞う。


「あ、後でちゃんと報告はするつもりだからさ。ほら、来なきゃいけないだろうって結論は変わらないし」


そして少しの時間思考する様に目を彷徨わせて、言い訳の様に口を開いた。

ていうか言い訳だった。俺にすら言い訳にしか聞こえないものだった。


「ギーナ、様」


だがビャビャさんは多くを語らず、ただ彼女の名を呼ぶ。

その声音はいつも通り可愛いが、言葉以外で語る様な雰囲気を持っていた。


「ギーナ様」

「・・・言ってないです」


そんな事は聞いていないと言わんばかりの「ギーナ様」に、とうとうギーナさんは折れた。

最後のはそうじゃないでしょうって言われてる気分になる物だった。

今回といいこの前の事といい、ビャビャさんが強い。


「じゃ、あ、誰でも良い、から、報告、してます、か?」

「・・・してないです。人員決まって出動の時にそのままついてきました」

「大事、な、報告は、必ず、して下さい。ファルナ、じゃ、なくても良い、です、から」

「はい、ごめんなさい」


ビャビャさんの言葉に気まずそうに謝るギーナさん。

尚、先程からアロネスさんがとても上機嫌です。すっげーニヤニヤしてます。

この人本当、こういう所はどうかと思うよ。


「ファルナ、が、他の仕事、していたん、で、しょうけど、報告は、して下さい。貴女の代え、は、居ないん、です、から」

「その、良かれと思ったのよ? それは本当だよ? どうせすぐ終わるし、今後必要な物の用意とかは私も手伝う気だったし」

「はい、解って、ます。でも、駄目、です」

「・・・はーい」


ビャビャさんのお説教に完全敗北し、項垂れるギーナさん。

つーかビャビャさん今回良く喋るな。

もしかしたら仕事に関する事だと良く喋る傾向なのかもしれない。

学校の時も楽しそうに話してたし。


「なんでビャビャは報告してない時『だけ』聞いて来るのかなぁ・・・」


だがビャビャさんはそれには応えない。いつもの沈黙モードに戻った様だ。

ギーナさん相手でもこうって事は、やっぱり仕事関連だけに口を開くのかなぁ。

前に頑張るって言ってた気がするんだけど、どうなったのかね。


「なんだよ、お前もいい加減じゃねーか」

「あんたと一緒にしないでくれる。私は部下の為を想ってしただけだから」

「それで部下に叱られてりゃ世話ねーな」


はんっと息を吐いて見下ろす様にギーナさんを見るアロネスさん。

対する彼女は「ぐぬぬ」と言わんばかりの表情だ。


「アロネス、もう一発要りますか?」

「そうだな、お互い報告ミスには気を付けようぜ。な、ギーナ」


優しい声音で放たれたイナイの不穏な言葉に、アロネスさんは良い笑顔で発言を訂正した。

何のコントだこれ。この人達、本当に偉い人なのかなぁと偶に思ってしまう。

クロトが変な影響受けない様に気を付けておいた方が良いかもしれない。

・・・いや、大丈夫か。あの子はポヤッとしている様に見えるだけで俺より賢いっぽいし。


「帰ったらファルナには謝るとして、遺跡の事に関してはイナイに言った通り任せるから」

「ええ、承知しています。お任せください」


そういえばイナイが彼女に報告に行ったんだっけ。そのまま遺跡の話もしていたのか。

今のギーナさんの言葉から察するに、彼女はこの場に留まらないんだな。

そりゃそうか。硬鱗族に信用して貰う為に来たのに残ったら意味無いか。


「で、そろそろ私も聞いて良いかな?」

「はい、何でしょうか」


ギーナさんの問いにイナイが小首を傾げて応える。

俺も何を聞かれるのかと思っていると、彼女は俺の手を指さした。

いや、俺とビャビャさんが繋がっている手を、が正しいかもしれない。


「いや、そのさ、ビャビャは何でタロウ君と手を繋いでるのかなーって」

「監、視、です」

「・・・うん?」


彼女の質問に、ビャビャさんは短く答える。

だがギーナさんは要領を得ないと首を傾げた。


「えーと、これはアロネスさんが好き勝手しない様にらしいですけど」

「うん? あー、うん。そう、そっか。・・・まあ良いか」


俺も一応フォローを入れてみるが、それでも彼女は良く解らないという感じの返事だった。

そして何かを諦めた様で、それ以上は聞いて来なかった。


「まあ、うん、その、ビャビャ、程々にね?」

「は、い」


そして何だかよく解らない言葉を発し、また短く答えるビャビャさん。

解っていたけど、やっぱりこの手繋ぎはギーナさんの指示では無かったんだな。


それならそろそろ手を放してほしいなーなんて思うんですよ。

この前握ったせいで感触良くてまた握りたい気分になるし、あれのせいでイナイはともかくシガルさんが若干不機嫌だし。

私泣きそう。半分自業自得だけど泣きそう。


ほんと困る。この数日本当に辛い。

もう遺跡とっとと壊して早く帰りたい。


「移動開始に後二日はかかると思うから、遺跡の破壊をやるなら四日後辺りにお願いね」

「解りました。お任せ下さい」

「うん、頼りにしてるね。じゃ、私は戻るから」

「はい、良い報告をお待ち下さい」


ギーナさんが去っていく時にイナイとした会話で、この拷問が少なくとも後四日続くと告げられたのであった。

硬鱗族の目もあって訓練もそこそこにしか出来ないから離れられない。辛い。

せめてビャビャさんの触手が気持ち良くなかったらまだ良いのに。

くそう、なんでこんなに肌触りが良いんだ・・・!

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