第540話初の仕事での遺跡破壊です!

「うっしゃ、いくぞぉ!」

「・・・おー」


パアンと手を叩いて気合いを入れ、それに追従するクロト。

ついでにグレット君ががおーっと大咆哮を上げて、何故かハクもご機嫌にキュルーンと鳴いた。

ハクの方が鳴き声が可愛いって確実に詐欺だよな。

因みに入るのは俺とクロトとイナイだけです。他の方は見送りです。


「気合いが入ってますね、タロウ」


イナイが困った子を見るかの様な視線を向けて俺に言ってきた。

そりゃあ入りますよ。これ終わらせれば一旦帰れるんだから。

やっと遺跡破壊のゴーサインが出たのです。これでここ数日の拷問が終わる。


ほんと、本当に辛かった。肌触りが良いっていうのがとても辛かった。

気持ち良い事を我慢させられるのがこんなに辛いと知ったのは初めてだった。

これならミルカさんにボコられる方が楽だ。


ごめん、嘘。あれはあれで辛いです。

流石にこの間程ボコボコにされるもはもう勘弁です。

何回死にかけたか判らない。


『きをつけてねー!』

「・・・うん、ありがとう。気を付ける」


昨日からアロネスさんに召喚されている木精霊さんがクロトに声をかけている。

クロトも礼を返している辺り仲良いのかなと思うんだが、どっちも無表情過ぎる。

いや、無表情っていうよりも二人共ぼーっとした表情か。

特に木精霊さんに関しては、声だけ明るくて物凄く違和感が激しい。


木精霊さんはこの辺りの植物の調査を先行してする為に呼び出したそうだ。

というか、アロネスさんが言うには調査だけなら彼女一人で何とかなっちゃうそうだ。

けど外聞が悪いから本国から人呼んで、そのメンバーに引継ぎして帰るらしい。


「しかし、イナイ本当に来るの?」

「不服ですか?」

「いや、不服っていうか・・・」


前回の事を考えると、俺とクロト以外が遺跡に行くのは少し怖い。

イナイが倒れたらと思うと、お腹の下辺りが何か嫌ーな感じになる。

なるべくなら付いて来て欲しくはない。


「貴方の心配は解っていますよ。ですが私は行かなければなりません」


だがイナイはそれが職務だと答える。

俺達だけではなく、責任有る者の随行が必要だと。

それは解っちゃいるけど、どうしても心配なのは変わらない。


「そんなに心配なら貴方が守って下さい。今の貴方なら出来るでしょう?」


彼女は俺の手を握り、目をまっすぐに見てそう言ってきた。

その表情は馬鹿にする様なものでも、揶揄う様なものでも無い。


「・・・イナイ、それはちょっと、狡いと思う。断れないじゃん」

「ええ、私は大人ですから。知りませんでしたか?」


ため息交じりに返した俺の言葉に、彼女はいたずらっぽい笑みを見せてそう言った。

本当に勝てないなぁ。そして可愛いなぁ。

こうなったら意地でもイナイには無事なまま遺跡から出て貰わないと。


「お姉ちゃん、気を付けてね」

「大丈夫ですよ、シガル」

「タロウさんとクロト君も、無茶しない様にね」

「解ってるさ。無事に帰ってくるよ」

「・・・平気」


心配そうに見送るシガルに、皆で大丈夫だと返す。

クロトはシガルが張り切る時と同じ、胸元で手を握る動作をして返している。

表情からは解り難いけど気合入ってるんだな。

さって、では行きますかね。


『では、少年、気を付けてな』

「はい、ありがとうございます」


遺跡までの階段を作ってくれていた土精霊さんに礼を言って、その階段を下りていく。

彼はついさっきアロネスさんに召喚され、入り口を確保してくれていた。


「タロウ、さん!」


そこで、びっくりするぐらい大きな声でビャビャさんが俺の名前を呼んだ。

声自体はそこまで大きかったわけでは無いけど、彼女が大声を出したのを初めて聞いた。

そのせいで皆驚いて彼女を見ている。勿論俺もだ。


「気、を、つけて、ね」


だが彼女は驚いている俺達の事は特に気にせず、ただそれだけを言った。

とても心配そうな、心から案じてくれているのだと判る声音だった。


「ええ、行ってきます」


俺は彼女に笑顔で返す。彼女は遺跡で倒れてその被害に遭っている。

倒れた記憶はまだ消えてはいないだろう。心配するのは当然だ。

だからなるべく不安を与えない様に笑顔で返す。

彼女の表情は解らないから不安を払拭出来たかどうかは解らないけど、少しは効果があったと思いたい。


そして今度こそ階段を下りて遺跡に入っていく。

俺自身は遺跡に入る前から仙術に関しては準備は万端だ。

いつでも来やがれ。


「やはりここの遺跡も、構造は同じだな」


ビャビャさんの目が無くなった事でイナイは口調を普段に戻す。

でももう彼女にはばれてるし、気にしなくて良いと思うんだけど。


「基本全部同じなんだね、中の構造」

「そうだな。クロトが居た遺跡だけが、少し違っただけだな」


確かに、クロトの居た遺跡と石櫃はこの間見た物より豪華だった。

装飾が綺麗だった事を考えると、やっぱりクロトの居た遺跡は特別だったのかもしれない。


「・・・ねえ、イナイ。今、凄く怖い事考えついたんだけど」


クロトの居た遺跡は特別だった。今の所同じ様な遺跡は見つかっていない。

けど、もしその特別な遺跡が『見つかって無いだけ』だとすれば。

それは知らない内に、とんでもない化け物が生まれている可能性が有るんじゃないだろうか。


「クロトの時と同じ遺跡が在るかもしれない、とかか? んなもんクロトの遺跡調べた時にもう出てる。つーか思いつかねぇわけねえだろ」

「アッ、ハイ」


続きを言う前に答えを言われた。ていうか馬鹿にしてんのかって顔された。

だって俺遺跡の中身見たの今回で3度目なんだもん。知りませんよそんな事情。

そのまま会話は無くなり、黙々と下まで降りていく。

そして前と同じ、石櫃のある部屋までやってきた。


「石櫃の蓋、開いてるんだね」

「そりゃな」

「そういえばアロネスさんから魔人の封印方法は聞いたけど、リガラットではどうしてんだろ」

「こっそりギーナの手の人間に接触して、空の結晶渡してたんだよ。世間にゃ大きな声で言えねぇけどな」


成程、やっぱり同盟前から繋がり自体は在ったんだな。

そうじゃなきゃあんなにスムーズに行くわけは無いか。


「・・・おとうさん、大丈夫?」

「大丈夫大丈夫。クロトこそ大丈夫?」

「・・・平気」


クロトが心配気に聞いてきたので、そっちこそ大丈夫かと返す。

どうやら今回のクロトは随分余裕がありそうだ。


「あたしにも解る様に頼む」


そんな俺達を見て、イナイが説明を求めた。

やっぱりイナイには見えてなかったか。


「クロトが遺跡に入った辺りからかな、核に力を引き寄せようとする力が発動してた」

「何、入ってすぐにか?」

「うん、入り口の時点でだね。んで奥に行く程段々と強くなっていってた。多分前回もこういう感じで段々衰弱していた所に、一気に持ってかれたんだろうね」


今日は入る前からクロトと繋がっている。

だからはっきりと見える。遺跡の核が。そしてその力の作用が。


クロトが俺の心配をしたのは、イナイを守る為に全開で浸透仙術を使っていたからだ。

そして俺が心配したのは、クロトじゃない変な力の塊の様な物がクロトを覆っていたからだ。

だけど今回はどちらも問題ない。俺もクロトも遺跡の機能に負ける様子はない。


俺はさっきから邪魔な力の流れを無造作にぶち壊し、クロトはクロトで追いかぶさってくる力を別種の力で弾いている。

けどこのままじゃ、核を壊すのに集中出来ないな。


「・・・おとうさん、あそこ」

「ありがとう、クロト」


クロトが指さした先を確認せずに仙術で打ち払う。

するとさっきまで邪魔でしょうがなかった、力を吸い上げようとする流れが消えた。

今の俺とクロトは半分思考が混ざっている様な状態になっているので、ある程度お互いの考えている事が解るから出来る事だ。


「まいったな。本当にこれはお前らにしか無理だな。何やってんのかさっぱり解んねぇ」

「仙術使えないと何にも見えないと思うよ?」

「使えても見えねーんだよ。一応かろうじては使えんだぜ?」

「あー、でもミルカさんなら見えるよ。多分」


浸透仙術なら見えるはずだ。そして防げるはずだ。

核や機構そのものを壊せるかは判らないけど。


「さって、じゃ壊させて貰おうか」


核をまっすぐに見据え、この手に力を集めていく。

ゆっくりと、しっかりと、自身の力に変えていく。

力が増してくるのが解る。前回と違って、ちゃんと力を扱えている手応えを感じる、


「じゃあ、イナイはクロトと一緒に外に出ておいて。俺も壊したら転移で逃げるから」

「解った。・・・気を付けてな」

「・・・おとうさん、がんばって」


イナイは少し残りたそうな雰囲気だったが、クロトの手を引いて外に向かう。

部屋を出ていく際、クロトは手を振ってエールを送ってくれた。


「ふぅ・・・順調すぎて少し怖いけど。仕事の一発目ぐらいは順調で良いよな」


最近不意の出来事とかボロボロになったりとかで、平穏な事が無かった。

偶にはスムーズに終わってくれても良いだろう。

クロトの意識が有るからか、核の存在も前よりはっきりと見える。


「・・・意志が有るのか無いのかは解らないけど、お前を一方的に破壊する事を謝っておくな。ごめんな、これは壊させて貰う。恨んでくれて良い。呪ってくれて良い。けど、こっちも大事な人間の為に譲れない。お前が居ると、クロトが危険なんだ」


意志が有るのかどうか判らない核に対し、謝罪を口にする。

こんなもの、ただのエゴだとは解ってる。

けどこいつは、もしかしたら生まれる事が出来たかもしれないんだ。

俺はそれを家族の為に叩き潰そうとしている。


「ごめんな」


少しの罪悪感を持ちながら、それでも家族の為に容赦なくギリギリまで溜めた力を振るう。

酷い我が儘だ。でもこれは、これだけは譲らない。

たとえ悪人になっても、俺は家族の為に力を振るう事だけは躊躇しない。


放った仙術の力が核に届く。

確実に破壊できる見込みをもって放った力は、間違いなく核を破壊した。

それを見届けて俺は遺跡を超えて上空に転移する。

眼下では遺跡が倒壊した事でその上にある土地も崩れていっている。


自由落下しながら体の状態を確かめる。

うん、今回はどこにも異常はない。何も問題なく終わらせられた。

体の状態を確認し終わり、下に見えるイナイ達の所に転移する。


「おかえり。また派手にやったな」


帰ってきた俺をアロネスさんが愉快気に迎えてくれた。


「ええ、どうせ壊すなら遺跡ごと壊した方が良いでしょうし、もし変に機能が復活とかしたら怖いですからね」

「ま、確かにそうだ。後は任せて休んでな。お疲れさん」


彼はそう言って、水筒を俺に投げて渡す。

そして言葉通り後始末をしに行った。

精霊さんたちの力で、倒壊した後の地面をもっと派手に崩すつもりらしい。

地盤が緩くて危ないって名目を本当にさせる為だそうだ。

硬鱗族の人にそのうちこの地盤沈下を見せるらしい。


「おかえり、タロウさん」

「お疲れ様、タロウ」

「・・・おかえり」

「ただいま。今回は珍しく完全無事だよ」


そして俺を出迎えてくれた家族に、ちょっとおちゃらけて応える。

だって五体満足って久々じゃない?

ここ最近は定期的にボロボロになってた覚えが有る


「お、疲れ、様」

「ありがとうございます。ビャビャさんも心配かけましたね。でも今回上手く行きましたし、もう大丈夫ですよ。安心して下さい」


ビャビャさんもほっとした声で労ってくれた。

でももう大丈夫だ。しっかり対処出来る。


「う、ん。あり、がとう」


彼女は俺の言葉に、嬉しそうに礼を言った。

優しい彼女の事だ。子供達が被害に遭ったら、とかも考えていたんだと思う。

安心で来たなら良かった。


「これで、今回の仕事はいったん片付いたって事で良いのかな。もう片方の遺跡はまだ行けないみたいだし」

「あー、あれ、俺言って無かったっけ?」


俺の問いに、仕事を精霊さん達に任せきったアロネスさんが戻って来て良く解らない事言った。

何かすっげー嫌な予感がする。


「俺達このままウムルの人員が来るの待って、このまま同じ面子で次の遺跡に向かう予定だぜ。向こうの話もついたらしい」

「え、じゃあ、もしかして」

「勿論ビャビャもついて来る」

「う、ん」


え、ちょ、何でビャビャさん答えてんの。ていうか何でその話を俺が聞いてないの。

イナイの方を見ると、彼女もびっくりしている。


「ア、アロネス。私も聞いていませんよそんな話」

「だって言ってねーもん」

「なっ! 何で言わなかったんですか!」


イナイはアロネスさんに詰め寄るが、彼はあっけらかんと答える。

これは酷い。


「いや、なんとなく面白そうだっ――――」


その答えを言い切る前に、イナイにボディーを決められてアロネスさんは崩れ落ちた。

残念ながら同情する気は一欠片も浮かんでこない。

畜生、つまりそれってここ数日の拷問がまだ続行されるって事じゃん。

くっそ、俺の気合返せ!

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