第538話タロウ達の仕事の予定です!
「手伝いとかしなくて良いのかな?」
昨日の話し合いなのか何なのかよく判らない出来事の翌朝、イナイに渡された朝食を受け取りながら彼女に聞く。
朝食前の早朝に硬鱗族の人がやって来て、リガラットからの移動要請を受け入れる旨を伝えてきたからだ。
「止めておきなさい、邪魔になるだけです」
イナイにはっきり邪魔だと言われてしまった。
でも確かに昨日今日来た人間で、その上他国の人間が手伝いに入っても邪魔になるだけか。
生活の仕方も違うだろうし、必要な物とかも解らないもんな。
「それに彼らは私達に良い感情を持っていません。不快にさせかねませんよ」
「あー・・・それはやっぱり昨日の出来事でかな」
「ええ。彼らは疑心暗鬼になっているでしょうね。その真偽がどうであれ、ね」
イナイはちらっとアロネスさんを見るが、彼は美味しそうに朝食を食べるだけで応えない。
普段通りのアロネスさんに完全に戻っとる。
しかしそっか、疑心暗鬼か。
昨日の話を聞くまでは正直そういう思考に至って無かったけど、いろいろな状況を整理して考えるとそうなっておかしくない。
毒の存在だって、アロネスさんが用意したんじゃないかって思うよな。
そう考えると疑ってる人間が集落の中うろうろしてても気分悪いと思う。
もしかしたらアロネスさんはそれも考えて集落の外での寝泊まりを望んだんだろうか。
どこまで考えて動いているんだろう。
「ギーナ様には移動の為の支援なら惜しまないという言葉を頂いております。彼らが準備と移動に必要な間の水と食料もすぐに用意されます。彼らの手助けは本職に任せ、私達は私達の仕事を優先しましょう」
俺達の仕事、ってなると遺跡の破壊だよな。
以前レイファルナさんから聞いてるからある程度の位置は解ってるけど、流石に正確な位置は解って無い。
アロネスさんが既に調べてたりするのかな。それともビャビャさんに教えて貰う感じかな。
「た、だ、それも、また後、で。彼らが、居なく、なってから」
「ええ、勿論です。場所の確認などの動きも、今の彼らにとっては不審な行動に見えるでしょう。彼らの移動準備が整うまでは暫く大人しくしておく方が良いでしょうね」
ビャビャさんの言葉にイナイは頷いて応える。
そうなると、一番じっとしておいてほしい人ってアロネスさんじゃないだろうか。
この人が一番疑われてると思うんだけど。
「何だか状況変化が目まぐるしくて、今回あたしついていけてない」
『大丈夫だシガル。私も解って無いよ』
「・・・」
シガルが若干寂しそうに言ったので、ハクがフォローなのかよく判らない事を言う。
今回は話し合いの場に殆どいなかったもんね、シガルさん。
でも何となく、状況からある程度内容把握してそうな気もするのよね。頭良いし。
ただハクはついていけてないっていうか、気にして無いだけだろ。
ただクロトが、シガルとイナイに視線を往復させたのがちょっと気になる。
もしかしたらクロトは昨日の出来事全部解ってるのかもしれない。
下手をするとアロネスさんが何やったのかも解ってそう。
「そういえば土地の調査とかは誰がやるの?」
硬鱗族の人達はあくまで一時的にここを離れる事を了承しただけだ。
ここに戻れる様になったのなら戻ってくる前提での移動と言っていた。
そこだけは譲れないし、了承できないなら自分達で解決の手段を探す、と。
ぶっちゃけ彼らでの解決は無茶だと思う。
植物が自生しているっていう事は、一か所に自生しているなんて事は可能性が低い。
勿論いろいろ条件が有って一か所にしか生えない事も有るけど、そんな事ばかりじゃない。
もし彼らに出来る事が有るとするならば、山を完全に焼き切る事だ。
そんな事をすれば山に生きる者たちは死に絶えるし、それであの毒草が根絶するとは限らない。
どちらにせよ、彼らにはもはやどうにもならない。
「リガラットとウムルで共同だな。ただ土地の調査と遺跡の破壊は別物だから、遺跡を破壊してからの調査になるけどな」
俺の疑問にはアロネスさんが答えてくれた。
まあ遺跡の破壊に何人もいたら困るもんな。崩落の巻き添えとか大変な事になる。
となると、今は完全な移動待ちになるのか。
「暫く、は、ゆっくり、していた方、が、良い。彼らの、為にも、私達の、為に、も」
「そうでしょうね。私達は下手に動かずにいる方が良いでしょう。少なくとも彼らの準備が終わるまでは」
ビャビャさんの言葉にイナイが同意する。
俺も同じくかな。向こうにとっては俺たちの一挙一動に不安を覚えかねない。
助かった子供達ぐらいじゃないかな。素直に信用してくれるのは。
「でもそうなると、約束果たせないなぁ」
「約束? 何の約束ですか?」
「いや、食事を良ければ振舞って欲しいって言われたじゃない」
「そういえばそうでしたね。気持ちは解りますが状況が状況です。止めておきなさい」
「だよねぇ・・・」
イナイの言う事が正しいよな。
もし料理振舞った後に誰か倒れたらシャレにならないし。
変な疑いをかけられそうだし、大人しくしておこう。
そう決めて、器に残っている食事を食べ切る。
「ご馳走様。美味しかったよ、イナイ」
「それは良かった」
食べ終わった器をイナイに渡し、伸びをする。
洗い物は全部後で纏めてする予定だ。
「ん?」
そこで手に柔らかい、ここ数日で触りなれた手触りの良い感覚を覚える。
ビャビャさんの触手だ。
彼女の触手が腕に絡みついている。
「あのー、もうこれ必要無いのでは」
「だ、め」
「いや、流石のアロネスさんも何もしないと思うんですよ」
「だ、め」
どうやらアロネスさんの監視は未だ継続の模様。
シガルさんが私に素敵な笑顔を向けられています。
いつもながら笑顔の威圧が器用だなぁ。
まあ彼女も仕事だし仕方ないよな。諦めよう。
・・・ちょっと仕返しにこの触手の感触楽しませて貰ったりしても良いかな。
意識して握り返すのはなるべく我慢してるんだよなぁ。
そう思って、少し腕に絡んでいる触手をにぎにぎしてみる。
すると弾力があり、手に吸い付くような肌触りが一層触り心地良く感じた。
あ、これ、まずい。本当に癖になりそうなぐらい握り心地が良い。
「んっ・・・」
俺が彼女の触手の感触を楽しんでいると、不意にそんな声が耳に入った。
聞き覚えがある可愛い声だけど、普段より幾分高めの声。
その瞬間、イナイとシガルの視線が俺に突き刺さった。
「・・・」
「・・・」
どっちも俺を見たまま言葉を発さず、笑顔でこちらを見ている。
そしてその視線の先に居る俺は脂汗を流しています。
二人とも何も言わないのが本当に怖い。
そして皆の食事が終ると、二人共笑顔を崩さずに洗い物を抱えて席を立った。
なので俺も立ち上がろうとすると「良いですよ、タロウは座っていて」「タロウさんはビャビャさんとゆっくりしていて良いよ」と言われてしまった。
有無を言わせない何かが在ったせいで俺はそのまま着席。
「くっ・・・くくっ・・・」
そんな俺達を見て、アロネスさんが俯いて震えていた。
やっぱりこの人腹立つ。
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