第531話寝床を探します!

「この辺で良いか。そこそこ集落から離れてるし、目も無いだろ」


集落からかなり外れた山の中、比較的地面が平らな所を見繕ってアロネスさんがイナイにそう言った。

イナイはそんな彼を呆れた顔で見てからテントの部品を出していく。


「なんだよ、あっちに泊まった方が良かったか?」

「いいえ。身内だけの方が気楽なので、こちらで構いませんよ」

「じゃあなんだよ」

「・・・そろそろ何が目的か言っても良いのではと思っただけですよ」


イナイはテントを組み立てながら、今回の真意を訊ねる。

それに対しアロネスさんは困った顔をして頭をかいた。


「目的も何も、遺跡の下見とこの土地の調査をしたかっただけなんだが」

「本当にそれだけですか?」

「本当に何もないぜ。調べられるなら調べたかっただけだ。ただの興味本位だな」

「ふうん?」

「信用してない顔だな」

「当たり前でしょう」


アロネスさん素敵にダメ方向に信用されているな。

イナイは問い詰めるのを諦め、テントの組み立てに集中し始める。


「タロウ、こちらの分の組み立てをお願いします。残りは私がやりますので」

「了解、こっちの分だね」

「タロウさん、あたしも手伝うよ」

「ん、ありがとうシガル」


イナイに指示されたので、テントをシガルと一緒に組み立てる。

今回は俺達の分とアロネスさんの分、んでビャビャさんの分とグレットの分だ。

こっちが一つ組み立ててる間に、イナイさんの組み立て速度が速い速い。


因みに俺達が組み立てているのはグレットの分です。グレット君テント独り占めだぜ。

それを解っているのかグレットも自分の分のテントの支柱を咥えて持ってきている。

お前ほんと賢いよな。


俺が握ると口を離し、ガフっと誇らしそうに鳴く。

褒めろって事かな。とりあえず頭をなでてあげよう。

するとゴロゴロとのどを鳴らしながら顔を擦り付けて来た。

図体はでかいけど可愛い。


「がんばれ若人ども~」

「貴方も若いはずなんですけど、ね!」

「うおお!? 支柱投げるとか無茶苦茶するなよ! 岩に突き刺さってんじゃねえか!」

「ちっ!」

「おい、今の舌打ち絶対聞かせる気でしただろ!」


何か向こうが騒がしいけど巻き添え食いたくないので置いておこう。

なんか硬めで重めの物がガアンってぶつかる音がした気がするけど、気にしない気にしない。

一回だけじゃなくて何回も聞こえるけど気にしたら負けです。

私は黙々と指示された分を組み立てるのです。怖いし。


「わた、しも、手伝う」


ビャビャさんが何故か、俺では無くシガルの方に向かって言った。

シガルも意外だったせいか、驚いて視線が俺と彼女を行ったり来たりしている。

助け舟出した方が良いかな。


「えっと、俺達ですぐ終わりますから。あ、でもあっちは近寄らない方が良いと思いますよ」


ちらっと向こうを見ると、テントは全部出来上がりつつある。

ただ周辺にテントと関係ない鉄柱が数本地面に突き刺さっている。

いくつか岩に突き刺さっているあたり、投げ方がマジだ。


「そ、う。解った」


ビャビャさんは俺の言葉に素直に頷き、クロト達の方へ向かった。

表情は変わらず解らないけど声音が少し残念そうだったな。

やっぱりあの人は喋った方がいい人だよなー。黙ってると何考えてるのか解らん。


「タロウさん、気になるの?」

「へ?」


くいっと袖を引かれたのを感じて視線を向けると、シガルが下から覗く様に俺を見上げていた。

その表情は、どこか不安そうだ。


「まあ、気になるは気になるよ。あの人いい人だし」

「・・・そうだね、良い人だと、あたしも思う」

「何か気になる事有るの?」

「・・・ううん、ごめん、何でもない。テント早く組み立てちゃお」


シガルは俺の問いに応えずに作業に戻っていった。

どう見ても何でもないって顔じゃないんだけどなぁ。


「だああああ! いい加減にしろよ! 一発かすったじゃねえか!」

「当たり前でしょう! 本気で投げているのですから!」


そろそろあっちも収集付かなくなりそうだなー。止めた方が良いかなー。

いやうん、とりあえずグレット君のテント組み立てよう。

怖いからって、問題の先送りなんかしてないよ?










「くっそ、酷い目にあった」

「自業自得です。普段の行いが原因です」

「だからってあれは無いだろうあれは。あんなもん食らったら死ぬぞ!」

「貴方なら頭に食らわない限り問題ないでしょう」

「問題あるわ!」


テントをすべてくみ上げ、夕食を食べながらもまだ二人は言い合っている。

けどなんだかんだ仲が良いからだよな、この二人のいがみ合いって。


「まったく、何事かと思えば痴話喧嘩とは人騒がせな」


因みに二人のいがみ合いが止まった理由は、二人の争いの音で様子を見に来た硬鱗族の人が来たからだ。

俺には見分けがつかないけど、どうやら集落の入り口で対応してくれた人らしい。

せめてものお詫びに夕食に誘ったら、驚くほど素直に席に着いた。


勧められたのなら理由がない限り断らないのがここの礼儀、と後でビャビャさんに教えられた。

アロネスさん完全に泊るの拒否したんだけど、それは大丈夫なんだろうか。


「勘弁しろ。イナイと夫婦とかお断りだ」

「それは私の言葉です。あなたの様な問題児が夫など、想像したくもありません」


俺もこの二人がくっつくのは嫌です。


「人族の事情は知らんが集落には子供も居るんだ。ただでさえよそ者が来ていて皆気にしている。遅くにあまり騒々しくしてくれるな」

「あー、それに関してはすまん」

「お騒がせして、誠に申し訳ありませんでした」

「謝罪はもうさっき聞いた。次から気を付けてさえくれれば構わん」


夕食前に既に一度謝っているのだが、改めて二人は謝罪を口にする。

それに対し、俺が差し出した汁物を啜りながら応える男性。


うーん、やっぱギーナさんに聞いていた印象と違うな。

かなり優しめの対応だし、気難しい印象は感じない。


「美味いな、これは。良ければ集落の者に今度振舞ってくれんか」

「あ、はい良いですよ」

「そうか、ありがとう」


料理を振舞うぐらい別に良いかと思い気軽に応えると、頭を撫でられた。

うん、子ども扱いされてますねこれは。

何でイナイは大人扱いなのに、それより大きい俺が子ども扱いなんだ。


すみません、解ってます。服装と立ち振る舞いですよね。

まあいいや、別に。説明するのも面倒だし。


夕食を食べ終わった後は彼は礼を言って集落に戻り、俺達もテントで寝る事にした。

結局アロネスさんとの話は有耶無耶なままなんだけど、本当にどうするんだろ。

遺跡の下見って言っても、入ったら即破壊しないとまずい状態になる可能性も有るのに。

あの人は本当に解んないなー。

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