第530話硬鱗族の集落です!

「こいつは中々に未開の土地だな」


辿り着いた集落を見て、楽し気に言うアロネスさん。

何でこんなに楽しそうなんだろうか。


「アロネス様、何だか凄く楽しそうだね」

「そうですね、とても嫌な予感しかしませんね」


その様子を見て、ぼそぼそと話すシガルとイナイ。

イナイは傍にビャビャさんが居るので淑女モードだ。


「だい、じょう、ぶ」

「うーん、多分あの不安はこっちとは無関係なんですよねぇ」


何の話かというと、ただ今わたくしの手にはビャビャさんの触手が絡んでおります。

集落につくちょっと前ぐらいから、ずっとお手手をつないだ状態です。


勿論シガルがそれに対し、表面上は静かに異を唱えた。

イナイ先生もびっくりなぐらいの笑顔の威圧でした。

それに対しビャビャさんは相変わらず良く分からない感じで。


「こ、の方が、効率、良い」


と、相変わらずの可愛い声で答えられた。

遺跡を破壊する為には俺が必要だから、俺を押さえておけば変な事は出来ない。

だから俺を物理的に捕まえておく。

とまあ、という事だそうだ。


シガルは納得いかないという不満を笑顔の奥から出しながら、渋々了承。

イナイはそんなシガルに苦笑しながら同じく了承。

アロネスさんは勿論気にしなかった。


初めてちゃんとビャビャさんの触手に触ったけど、なんというか独特の感触で気持ち良い。

こう、ぶにぶにした柔らかボール握ってる様な、無意識に握りたくなる感触。

質感もしっとりしてて良いし、腕を握られてて嫌な感じはない。

・・・いや、これ握られてるのかな。絡めとられてるが正解かな。


「止まれ! 貴様ら何者だ!」


集落の入り口らしき所まで近づくと、青龍刀っぽい武器を構えた硬鱗族の男性達が俺達を止めた。

性別は全く判らないけど、声が男の人の感じだったから多分男だろう。

彼の眼は鋭く細められ、俺達を見つめている。グレットにも警戒をしている様に見える。

ただグレットは大人しくクロト乗っけてるし、そこまで張り詰めた感はないかな。


「俺たちはギーナ様の使いさ。族長に挨拶をしたい。通してくれねぇかな」

「・・・大半が人族の様に見えるが?」


軽く答えるアロネスさんの言葉を怪しむ男性。

だがそれでもアロネスさんはヘラっと笑って返す。


「ギーナ様は寛容な方だからな。人族でも敵対しなけりゃ受け入れるさ」

「ふん、甘い事だな」

「その甘さが有るから、あの方の下に集まってくるのさ」

「・・・あいつは来ていないだろうな?」


ドローアさんの事かな。態々確かめるって、よっぽどな揉め方したのかな。

記録の内容は聞いてないからどんな事話してたのかは知らないけど、見張りの人が聞く程って事はかなりのものだろう。


「ドローアの事か? あいつなら謹慎中さ。揉めちまった事でギーナ様の怒りを買ったからな」

「成程、本当に使いの様だな。しかしそうか、あの小娘は謹慎か。良いざまだな」


あ、そうか。本当に関係者か確かめたのか。

ぽけーっと話を聞いていると、腕の血が止まる感覚を覚えた。

うん、あの、ビャビャさん、若干締め付けがきついんですが。

どうしたの、ドローアさんの事で怒ったの?


「ビャビャさん、その、ちょっと痛いんですけど」

「あ、ご、ごめ、ん、なさい」


素直に言うと、すぐに力を緩めて謝るビャビャさん。

頭が下がって上目遣いでちらちらこっちを見ている。目は見えないけど。

謝罪のつもりなのか、触手が腕をさする様に動いている。

気持ち良いんだけど、なんかいけない事してる気になるのは何故だろう。


「で、入って良いか?」

「ああ。だが変な事はするなよ」

「解ってるさ。ドローアに続いて俺達もギーナ様の逆鱗に触れたかないしな」

「・・・確かにあの小娘よりは話が分かる様だ。人族に劣るか。本当に面汚しめ」


アロネスさんの答えに、悪意がめいいっぱい籠った声音で吐き捨てる男性。

今のってドローアさんの事なのかな。

身内だからこその怒りってやつか。変に口出しはしない方が良いんだろうな。

あんまり気分は良くないけど。


「案内をつけてやる」

「お、ありがたい。すまないな」

「構わん。変にウロチョロされるより、監視が居た方が良いというだけだ。おい、お前に案内を頼む。お前は族長にこの事を伝えに行け」


男性は部下らしき人たちに指示を出していく。

多分照れ隠しとかじゃなくて本当の事だろうな。

一度揉めた所の連中がまたやってきたなら、そうなってもおかしくないか。


しかしアロネスさん、息を吐く様に嘘吐いたな。

ドローアさんは謹慎なんかしていない。普通に仕事をしている。

出発前もレイファルナさんと一緒に何やら忙しそうにしていた。


でも言うとややこしい事になりそうだから黙ってよ。

イナイとビャビャさんも黙ってるし。


「こっちだ、付いて来い」


案内につけられた男性の言葉に従い、皆で付いて行く。

付いて行きながら集落を見回す。


山奥の森の中を切り開いた集落だからなのか、家屋は基本木造だ。

テントの様な感じの家もあるが、骨組みはガッツリ木で組んでるっぽいな。

あの布何か特殊な布なのかな。でないと雨の日辛そうだけど。


後はちらほらと小さい子も見かけた。

子供達もやっぱり男性と女性の見分けがつかない。

でも爬虫類系の愛嬌のある顔でこちらを見つめているのが可愛い。


「あの、所でビャビャさん」

「な、に」

「もう、腕痛くないので大丈夫ですよ。ていうかその、そこ腕じゃないですし」

「あ、ごめ、ん」


さっきからずっとビャビャさんは俺の腕をさすっていたのだが、その触手がだんだんと上にもあがってきて、袖から服の中に入っていた。

胸がくすぐったかった。なまじ感触が気持ち良いから、色々とまずい。


「むう・・・」


背後から「私、不機嫌です」オーラを感じる。

シガルさんどうどう。ビャビャさんに悪気はきっと無いから。言ったらすぐ止めてくれたから。


そんな感じでみんなでてくてくと歩き、周りと比べると一際豪奢な作りの家に辿り着く。

と言っても、本当に周りと比べるとだけど。

ここが族長さんの家かな。


様子を見ていると案内してくれた男性が扉をノックした。

そしてすぐに扉が開き、先程入り口で族長に伝えに走った人が現れた。


「既に伝えてある。入れ」

「おう、んじゃ失礼するぜ」


アロネスさんが真っ先に入っていくので、俺達も後ろから付いて行く。


「まて」

「あん?」


だがそれが途中で止められる。

アロネスさんが不思議そうに後ろを向き、俺も背後を見る。

するとグレットが入ろうとするのを止められていた。


「流石にこれを入れるのは止めて貰おうか」

「あー、そうか、そりゃそうだよな。んじゃどうすっかな」


アロネスさんも仕方ないという態度で彼に応え、グレットを見つめる。

うーん、じゃあしょうがないし俺も一緒に外に残ろうかな。


「シガル、ハク、クロト、申し訳ありませんがグレットの面倒をお願い出来ますか?」

「解った、外で待ってるね」

『解ったー』

「・・・はい」


俺が外に出ようと足を動かす前に、イナイがシガルとハクとクロトに頼む。

三人は元々グレットより後ろにいたので、そのまま外から手を振って応えた。

というか、クロトはグレットの上だ。


「俺も」

「お前はこっち」

「ぐえっ」


俺も一緒に外で待ってようとしたら、アロネスさんに襟首を引っ張られた。

痛い。

同じ様にビャビャさんも俺の腕を引っ張っていた。何故だろう。


「あの、俺居てもしょうがないと思うんですけど」

「阿呆か、お前こそいないと駄目だろうが」

「い、く」

「タロウ、良いから行きますよ」


アロネスさんに襟首を掴まれ、ビャビャさんに腕をひかれ、イナイに背中を押される。

何だこれ。


「じ、自分で歩きますって」

「そうしてくれ」


慌てて言うと、アロネスさんは呆れた様に返事をして手を離した。

ビャビャさんは相変わらず腕を持っている。


ていうか、なんか持ってる範囲広がってない?

最早俺の腕が完全に見えない状態になってんだけど。

その上さっきから、なんかぷにぷに力を込められてる。

俺の腕の感触確かめるみたいに触られてて、くすぐったい。


「もう良いか?」

「ああ、わりいわりい。頼む」


案内の人は俺達を待っていてくれたらしい。

なんだ、ギーナさんは気難しいとか言ってた気がするけど、案外普通じゃないか。

というよりも、こちらに気を使ってくれてる時点で大分良い人らじゃないかね。


「族長、ギーナ殿の使いをお連れしました」

「解った、通せ」


そして奥の部屋の前に案内され、その部屋の中から少しかすれた感じの声が聞こえた。

その声に対応して案内の男性が扉を開き、俺達に中に入るように促す。


「失礼します」


アロネスさんがヘラっとした表情をやめて、背筋を伸ばして中に入る。

俺達もそれについて行き、彼の背後に立つ。


「族長殿、お初にお目にかかります。私の名はアロネス・イルミルド・ネーレス。ウムル王国の錬金術師です。此度は故あって、ギーナ様の使いとして参りました」

「ウムル王国だと? なぜあの国の者がギーナの使いで来た」


頭を下げて告げるアロネスさんの挨拶に、族長らしき人は目を見開いて驚いた様子を見せた。

案内の男性も驚いている。

イナイとビャビャさんが続いて頭を下げたので、俺も一緒に下げる。

ちゃんとしてるアロネスさんに少し驚いて、かなり反応が遅れてしまった。


「我が国はリガラットと友好的な関係を築かんと、様々な事に協力させて頂いております。此度の事もその一環です」

「ふん・・・成程、ウムルと和解したという話は本当だったか」


ちらっとビャビャさんを見てからアロネスさんに視線を戻す族長さん。

あ、そっか。ビャビャさんがこの場に居る方が説得力有るのと、ビャビャさんは俺に張り付いてるから俺をここに連れてきたかったのか。

成程、必要だったのは俺自身では無かったと。


「我々はここを動く気は無い。あの小娘には何度も言っている」

「ええ、私共もそう聞いております。ただこの地の調査をしたのは彼らであり、私共の目では確かめておりません。一度ウムルでも調査をさせて頂きたく願います」

「つまり、お前たちは我々に立ち退けと言いに来たわけではないと言う事か?」

「それはこの地を調査してからでしょうか。もし本当に危険な物を見つければご報告致します。ですので、調査の許可を頂きたいのです。そしてもし何も危険が無いと判断した場合も、動く必要が無いとリガラットには伝える所存です」

「成程、リガラットに協力はしているが、リガラットに従うというわけではないという事か」


アロネスさんの言葉を聞いて、族長さんは目を細めて考えるような様子を見せる。


「・・・良いだろう。だが結果がどうあれ我らの判断は変わらんぞ」

「ええ、調査の先はリガラットの仕事ですので。私共はあくまで調査をしに来ただけです」

「解った。ここに滞在する間は我が家に泊っていくと良い。この集落には宿なぞ無いからな」

「いえ、こちらも調査ついでに野営の準備もしております。お気遣いなく」

「我らは別にどちらでも構わんが、山奥でのたれ死んでも関与せんぞ」

「ええ、許可さえ頂ければ私共はそれで」


目を細めたまま淡々と語る族長さんに、穏やかに答えるアロネスさん。

泊めてくれるならそれで良いと思うんだけどな。なんで断るんだろ。


「解った、好きにしろ」

「寛容な判断に感謝を致します」


アロネスさんは深々と頭を下げ、二人も一緒に頭を下げる。

ビャビャさんに引っ張られる形でも俺も頭を下げた。

さっき反応が遅れたので引っ張ってくれたっぽい。


「では、失礼致します」

「ああ」


族長さんの返事を最後に部屋を出て、家の外に出る。

するとこの家まで案内してくれていた人がグレットを撫でていた。

何か仲良くなってる。


「話は終わったか。族長はなんと言っていた」

「暫くこの周辺の土地の調査の許可を貰った。後で族長に確認しておいてくれ」

「解った」

「後俺達は適当にその辺で野営してると思うから、もし迷惑だと思った時はすぐに言ってくれ。場所を移る」

「解った、集落の者達にも伝えておこう」


アロネスさんの言葉を疑う様子もなく案内の人は頷いて応え、族長さんの家に入っていく。

えっと、周囲にはもう誰も居ないんだけど、好きに動いて良いのかな。


「さって、とりあえず野営の場所決めるか」

「アロネスさん、なんで野営にしたんですか? せっかく泊めてくれるって言ってたのに」

「イナイのテントの方が絶対寝心地が良い」

「あ、はい」


特に難しい理由とかなかった。

その気持ちは解るけど、その判断はどうなのだろう。

族長さんは別に気を悪くしてた風でもなかったから良いのかな。


さっきから俺の腕をムニムニしている感触を感じながら、アロネスさんの行動に追従する。

本当にこの人何考えてんのかなー。

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