第529話会議の空気が重いです!
怖い。どんどん空気が重くなっているのが解る。
最初笑顔だったギーナさんが完全に真顔になってるのが要因だ。
「こ、この通り言質を取った記録も有ります。ですので」
「却下」
ドローアさんの説明を、有無を言わさない迫力で遮るギーナさん。
それに伴い場の空気が凄まじく重くなる。
誰も動けないどころか、口を開く事すら出来ない。
ギーナさんの表情はただ真剣なだけの筈なのに背筋がぞくぞくしてくる。
内臓をわし掴みにされた様な怖さだ。何これ泣きそう。めっちゃ怖い。
『苦い。シガル、これあのお茶より苦いよ』
ハクは全然気にせずお茶を啜っていた。お前本当に無敵だな。
その図太さだけは尊敬するわ。真似する気は無いけど。
よく見たらイナイも殆ど動じてないし、ニョンさんは相変わらずニコニコしている。
この人らつえー。
「私がそんな事を許すと本気で思って言ったのかな。わざわざイナイ達も呼んだのにこんな話をされるとは思わなかったよ」
ギーナさんの鋭い目がドローアさんに突き刺さる。
今日ここに俺が来たのは、遺跡を壊す算段が付いたという話を受けての事だった。
けどその交渉をしてきたドローアさんの口から語られたものは、かなりの強行策だった。
ギーナさんの態度がいつもと違うのは、それが原因だ。
内容は端的に言えばこうだ。
遺跡の土地はドローアさんの故郷で、そこにいる部族出身だったので話をつけに行った。
そしてその土地で族長と口論になった物の、何が起こっても自業自得という言質を取った。
なので住人を無視して遺跡の破壊を実行しよう、という話だった。
「ふぅーーー」
ギーナさんが重苦しく息を吐いて、背もたれに体を預ける。
それを見て、ドローアさんが肩をびくっと震わせている。
「イナイ。いや、ステル卿、こちらでの確認をする前にお呼びして、この様な事になってしまい誠に申し訳ありません。貴国には何度もご迷惑をおかけして、謝罪を何度しても足りません」
「いえ、今回は算段が付いたという話の場に私がいて、リガラットで話を精査する前にタロウを呼んだ私の落ち度も有ります。一度そちらで落ち着いてお話をしてから望むべきでした」
話の内容が良くなかったという事で、現状此処に居るトップ同士の謝罪が始まる。
二人の言葉が何処まで真実なのかは俺には解らないが、イナイが呼んでるからと言われてここに来たのは事実だ。
「ありがとうございます。ですがこの調子では、我が国での遺跡の破壊は後回しにした方が良いかもしれません」
「こちらとしては、未だ暫くお待ちする事に何ら問題はございませんが」
「その寛容さには感謝致します。ですが現地民との話が完全にこじれてしまっている以上、最早お待ち頂くのは失礼となります。どうか、自国の事をご優先ください」
「・・・そうですか、解りました。今すぐにお返事は致しません。本国と連絡を取り、その上でのお返事をさせて頂きます」
うーん、なんかヤな流れだな。
でもなぁ、俺も正直さっきの話に同意は出来ないんだよなぁ。
だって、そこに住んでる人巻き添えにしてぶっ壊せて事でしょ?
やですよそんなの。上で阿鼻叫喚の地獄絵図になるのなんて見たくないっすよ。
前回は皆なら大丈夫と思ったからやっただけだ。
「さて、ここからは身内の話といこうか」
静かな声な筈なのに、部屋全体に声が良く通る。
彼女の視線の先に居るドローアさんが若干震えているのが解る。
「ねえ、ファルナ」
「は、はい、何でしょうか」
「あなた、彼女と一緒に来たわよね。内容は聞いていたの?」
「は、はい」
「へえ、その上で私が許可を出すと思ったんだ」
「い、いえ、そのままやるつもりはありません。先程の案にも続きが」
「ふうん」
ドローアさんではなく、レイファルナさんに聞くギーナさん。
だがその目線はドローアさんに向いたままだ。かなり目つきか鋭い。
聞かれた本人はチラチラとドローアさんを見ながら応えている。
ただレイファルナさんは若干焦ってる雰囲気はあるけど、怖がってる感じじゃ無いな。
皆もしかして慣れてるのかな。俺は今のギーナさんめっちゃくちゃ怖いんだけど。
「はん、たい」
そこで今までずっと黙っていたビャビャさんが口を出した。
それによってレイファルナさんの説明が止まる。
「どんな、理由あっても、私は、反対」
「ま、ビャビャはそう言うよね」
相変わらず可愛らしい声だが、普段より幾分か硬い声でビャビャさんが反対だと告げる。
ギーナさんもその言葉が当然とばかりに返事をした。
まあ、ビャビャさんならそうだよな。
あんなに人との共和望んでる人が強硬策に賛成はしないだろう。
「ですが遺跡の危険性が確認出来ている以上、破壊は急務と考える事。彼らには申し訳ないが、彼らの意地で他部族が危険に合う可能性を考えると、俺はドローアを責める気は起きません」
「このボンクラと意見が合致するのは気に食いませんが、俺も同意見です。放置すれば彼らの命が無くなる可能性どころの話ではないと思えば、彼女の行動にも納得できます」
だがビャビャさんの言葉に、ドッドさんがかばう様に意見を口にし、意外な事にスエリさんがそれに追従した。
いや、わざわざ気に食わないって一言付け加えてるけど。
「そうね、そこに関しては私も理解を示せるわ。気持ちは解る」
ありゃ意外。あそこまで怖い雰囲気出してたからてっきり全否定かと思ったのに。
「けどその行為は、私達にとって胸を張れる事かな。当たり前に、自分達にとって普通の生き方をしてきた所を力でもって支配された者達に、その行為を胸を張って伝えられるの?」
だが続けたギーナさんの言葉に、ドッドさんもスエリさんも口を噤んでしまう。
奴隷支配からの解放を願って戦った人達には、否定の言葉が出ないだろう。
「全てが解決したのちの世にこの事が何時か知られるかもしれないとして、貴方達は胸を張れるの? 他の部族を助ける為に彼らを犠牲にしたのが正しかったと、そう子供に言えるの?」
「わ、私は・・・」
全員に言っている様でもあり、ドローアさん一人に言っている様にも見える。
彼女の視線はずっとドローアさんから動いていない。
そしてそれを受けた彼女は何かを言おうとして、何も言えずに項垂れてしまう。
重苦しい沈黙が部屋を支配する。
辛い。そんな辛い中ハクはズゾゾとか音を上げてお茶飲んでんじゃねえよ。
なんでお前そんなに図太いんだよ。羨ましい。
竜形態だから可愛いのが腹立つ。短い前足で器用に持ちやがって。
「なあ、その土地ちょっと見に行ってもいいか? 許可下りるなら交渉もやってきてもいいぞ」
「は?」
暫く誰も言葉を発せない中、何故かアロネスさんが手を上げて発言をした。
ギーナさんも予想外だったのか、目を見開いて驚いている。
「え、いや、交渉って、結構気難しい部族よ? 今回の事もあるし難しいと思うけど」
「解ってっけど、ついでついで。本命は遺跡周辺を一応見ときたいんだよ。時間がかかってもどっちみち破壊はしたいんだろ。ついでに交渉が上手く行けば僥倖って事でよ。何かあった場合もウムル側で責任はとるから」
「うーん・・・」
ギーナさんが方眉を上げてアロネスさんを見つめた後、ちらっとイナイを見る。
だがイナイはどこか気まずそうに視線を逸らす。
多分アロネスさんの真意を訊ねたんだろうけど、こういう時の彼は誰にも解らないです。
「アロネス、何考えてるの?」
「お前らは本当に俺を疑ってかかるな」
「どの口が言うのかなー?」
「あ、悪かった。悪かったから拳を握るな。握らないで下さいすみません」
ニッコリ笑顔で拳を握るギーナさんを見て後ずさるアロネスさん。
こういうの見ると、この人本当にギーナさん怖いんだなと解るな。
「・・・何考えてるか解らないし、何するか解らないから監視を付ける。それを認めるなら許可を出すよ」
「うっわ、信用ねえなぁ。まあ当然か。俺はそれで構わねえよ。変な事する気はねえしな」
「ほんとかなぁ・・・」
絶対何かする気だろこいつっていう、ダメな方向で信用されてると思いますよ。
ぶっちゃけ俺も何か企んでんじゃないのかなーとか思ってる。
「ビャビャ、監視は貴女にお願いするわ。こいつが何かしたら容赦なく取り押さえて良いから」
「私、で、すか?」
「うん、お願い。ファルナは今ちょっと離れてほしく無いし、ドローアには行かせられない。スエリとドッドはあの部族とは多分反りが合わないだろうから、喧嘩になりかねない。貴方の仕事はちゃんと詰まらせないように手を回すから。お願い」
「わか、り、ました。ギーナ様、の、命ならば」
あれ、ニョンさんとフェロニヤさんが選択肢に入ってない。
あの二人じゃ駄目なんだろうか。
話がまとまっているのを聞きつつドローアさんをちらっと見る。
俺には表情が良く解らないが、目は閉じられて項垂れているのを見るに大分気落ちしているのではないだろうか。大丈夫かな。
「ドローア、貴方はファルナを手伝いなさい。いいわね?」
「は、はい」
ギーナさんに声を掛けられ、慌てて顔を上げて返事をするドローアさん。
その声は少し震えていた。
「あ、悪い。もう一つ良いか?」
「ん、何、アロネス」
「タロウ達も連れて行きたいんだが」
「・・・まさか、そのままやる気じゃないでしょうね」
アロネスさんが俺を連れて行きたいと言った事で、ギーナさんの目が細められる。
「ま、まてまて! 監視つけるんだろうが! 出来るわけねえだろ!」
「・・・それもそうか。良いわよ。彼らが良いならね」
ギーナさんの態度に慌ててアロネスさんは否定し、ギーナさんも納得した様だ。
そして二人の視線が俺に向かう。
うーん、どうしよう。別に行くの自体は構わないんだけど。
俺はイナイの意見を聞こうと彼女を見ると、彼女はこくんと頷いた。
・・・やべえ、どっちだろ。行けって意味か好きにしろって意味か。
まあ、良いや。行きたくないわけじゃないし、ついてきゃ良いか。
実際下見はしておきたいし。
「良いですよ、俺は」
「うっし、じゃあそれで決まりだな」
俺の返事を聞いて、嬉しそうに言うアロネスさん。
やっぱりこれ、なんか企んでないかな。
「・・・許可出したの失敗したかな」
最後にギーナさんが後悔した様子で呟いていた。
俺もなんかそんな気がします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます