第528話避難の説得ですか?

「だーかーらー、此処に居ると危ないって言ってるじゃない!」

「ふん、やかましいわ。なぜ出ていったおまえの言う事なぞ聞かねばならん」

「私じゃ無くて、ギーナ様が言ってるの!」

「それこそ知った事では無いな。あの子娘には人族と対抗する為に手を組んでも、下僕になるつもりはないと言った筈だ」

「あー、もう、話にならない!」


こちらの言い分を一切聞く気が無いと答えられ、頭をがりがりとかきがなら怒るドローア。

普段は静かで冷静な彼女だけど、ここに来てからずっとこんな感じだ。

何度話しても意見は平行線。進展する様子が無い。


「我らが動かぬからとお前をよこしたんだろうが、答えは変わらん。我々はこの土地を動く気は無い。お前と違ってな」

「あー、そう、そうですか。じゃあもしそのまま死んでも文句はないって事よね」

「無論だ。そんな事が本当に起こるならな」

「へぇー、そう、それは部族の総意ととって良いのよね、族長さん?」


彼の言葉に、ドローアはニヤッと口を歪めた。

嫌な予感がする。


「相変わらず生意気な小娘が。構わん。もう我らに戦い以外で構うな」

「はっ、それこそあんたらなんか要らないわよ。私一人に勝てないで何が戦闘部族よ。雑魚が」


族長の言葉に、想いきり挑発する態度で返すドローア。

腹が立つのは解るけど、あんまりそういう事しない方が良いと思う。

でも二人の関係を考えるとしょうがないのかな。


「貴様・・・!」

「事実でしょ。優しいギーナ様に感謝しなさい。その気ならあの方一人で全滅させる事も容易いんだから」


ドローアの言葉に、ギリィッと歯を鳴らす族長。

彼もギーナ様の戦闘を見た事がある人だ。だから知っている。あの人の強さを。

ギーナ様は勝てる勝てないなんて次元の人じゃない。

根本的に立っている場所が違い過ぎる。比べる事すら叶わない。


「出ていけ! もう貴様と話す事など無い!」

「こっちこそ! さっきの話ギーナ様にちゃんと伝えるからね! もう知らないわよ! いくわよフェロニヤ!」

「ああ、小娘に言っておけ! 誰をよこしてくるとしてもお前だけは二度とよこすなとな!」


二人の会話をハラハラしながら聞いていたせいで、ドローアの言葉に少し反応が遅れる。

そのせいで引きずられてしまった。痛いよ、ドローア。


「ったく、くそ親父め」


族長の、父の態度に文句を言いながら歩を進めるドローア。

彼女を見る周囲の目も何処か刺々しい。

僕に対する目はそれほど厳しくないのに、彼女に対する目は何処か攻撃的だ。

彼女は彼らの説得に自ら手を上げたけど、完全に逆効果だったんじゃないかな。


「でも、言質とったわよ。向こうと違ってやっぱりこっちは楽勝だったわね」


ドローアが不思議な事を言った。

先程までの会話は終始喧嘩しかしてない無かったはずだ。

何の言質だろう?


「あれ、フェロニヤ気が付いて無かったの?」


首を傾げる僕に、ドローアが不思議そうに聞いてきた。

不思議なのは僕の方なんだけど。

どう考えてもさっきの会話に、避難の了承の言葉は無かった筈だ。


「あのクソ親父、何が起こっても構わないって言ったのよ。なら好きにさせて貰おうじゃない。その結果部族が壊滅しても自分達が悪いんでしょ。あいつがそう言ったんだから」


・・・あ、まさか、ドローア。

彼らを避難させずに強行する気じゃ。

駄目だよそんなの。家族を殺す事になるかもしれないよ。


「何考えてるか解るけど、私はやるつもりよ。録音の技工具でさっきの会話も記録してるから言い逃れも出来ないわよ。それに放置して親父達が死ぬだけならともかく、関係のない周辺部族が巻き添え食う様な事は許せないわ」


ドローアの目が本気だ。これは僕が止めても止まらない。

でもそんな事をギーナ様が許すとは思えない。

その辺りはどうするんだろうか。


「ま、このままじゃギーナ様が許してくれないだろうから、どうにか案は考えないといけないわね。ファルナかビャビャに相談しようかしら」


ここでスエリやドッドに相談しようと言葉が出ない辺り、彼女の二人に対する認識が良く解る。

でもドッドは兎も角スエリは結構頼りになるよ?

・・・今、僕もちょっと酷い事考えちゃった気がする。


「本当、無駄な矜持だけを掲げる人間は無様だわ。あいつは私だけじゃなく、フェロニヤにもかなわない事すら解って無いわよ」


それは別に構わないけど。

だって僕は彼らに安全な所に移動して欲しいだけで、喧嘩をしに来たわけじゃない。


それに力で従えるんじゃ、僕らを従えていた人間達とやる事に大差がない。

僕達はそういう弾圧に抵抗する為に戦ったんだ。

少なくともギーナ様直属の僕達がそんな事をしてはいけない。


「不満そうね、フェロニヤ。でもこれはあいつが下した決断よ。部族を存続させるための選択肢を与えたのに、従わなかったのはあいつらよ」


不満を隠していない僕から顔を逸らし、こちらを見ずに彼女はそう言った。

その言葉は、僕にはとても本心とは思えなかった。


彼女は確かに、昔は少し攻撃的な人だった。

元々はギーナ様の強さに平伏して従う様になった人だ。

けど今の彼女はそうじゃない。ギーナ様の優しさや本当の強さについて行ってる人だ。

ビャビャやファルナと同じく、僕達が笑顔で暮らせる国を作る為に努力している。


それに伴って彼女は、昔と違って物静かで頼りになる女性になっていった。

さっきの様に叫んでいる姿を見たのは本当に久々だ。

昔の彼女を知っていれば確かにあれも彼女だろうと思う。

けど僕の正直な気持ちは、彼女らしくないなと思った。


本当にこのままやるつもりなんだろうか。

それはきっと、後悔を生む選択だと思う。


ギーナ様だけじゃなく、少なくともビャビャは止めると思うけどな。

彼女達にどういう風に説明するつもりなんだろうか・・・。

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