第526話大人の事情はややこしいです!
「うーん・・・」
「どうしたのタロウさん」
腕を組みながら唸る俺を見て、シガルが首を傾げて下から覗き込んでくる。
ちょっと上目遣いで小首をかしげている感じなのが可愛い。
「いや、動けるようにはなったんだけど、何となくまだ調子が悪い気がするなと」
目を覚ましてから既に10日以上たっている。
体も動くようになったので調子を確かめるの込みでの訓練をしているのだが、どうにも調子がおかしい気がする。
寝てた時間を考えると前回よりも長い日数伏せっていたのに、回復しきっていない感じがする。
いや、単に寝てる時間が長すぎて体の感覚が少し鈍ったか?
「クロトには、今の俺はどう見える?」
「・・・いつもの、強くてカッコいいお父さん」
「あ、えっと、うん、ありがとう」
聞きたい事と違ったんだけど、とりあえず特に問題は無いのかな。
ていうか、そこまで言われるとやっぱ照れる。
照れを誤魔化すようにクロトの頭を撫でて礼を言うと、クロトは頭を前に差し出してきた。
犬か。
「今回月の半分も寝込んでたからな。まあ、クロトが大丈夫って言ってんなら大丈夫だろ。ミルカも問題ないって言ってたし」
自分の不調を確かめている俺に、イナイがグレットに寄りかかりながら言う。
グレット君最近良いクッションになってないですかね。
因みにハクは竜形態でグレットの傍で丸まっている。
最近になって、傍に居ても何とか震えだす事は無くなりつつある。
ああやって並んで丸まってると、どっちもペットみたいに見えるな。
そういえばハクは、この国にいる間は元の姿でも大丈夫だよとギーナさんに言われたらしい。
なので最近はずっと竜の状態だ。
「うーん、単純に鈍ってるだけかな」
前回も少しだけその感じはあったから、前より期間長かった分余計になのかもしれないな。
暫くはまた休みなしで体動かして戻さないとな。
となると、もう少しだけ遺跡の破壊待ってもらわないと駄目かもしれない。
そう思い、ちらっとイナイを見る。
「遺跡に関しては気にすんな。とりあえずまだ他の国に行くこたねえし、リガラットの遺跡の破壊はまだ実行に移すまでに時間がかかる」
「あれ、そうなの? 行けるならすぐにでもって言われると思ってた」
「遺跡の在る場所で生活してるやつらが居てな。前々からあのへんは地盤が危ないから避難して欲しいっていう事で話をしてたんだが、中々な」
あー、成程。遺跡の事は話せないからそういう名目で避難させてたのか。
けどずっとその土地で生活してきた人にとっては、そう簡単にできる事ではないか。
「ギーナさんが言っても駄目なの?」
「ギーナがどれだけこっちで英雄視扱いされてたとしても、全員が全員ギーナの言う事を聞くわけじゃねーよ。同じく全員が奴隷だったわけでもない。人族の集団に対抗する為に連邦に所属はしても、ギーナに従う為に入ったわけじゃない連中もいる」
あー、言われてみると確かにそうか。
ずっとそこで生活してきた人達とかも居るはずだもんな。
「ギーナ達は出来るなら早めに壊しておきたいと思ってる。だからこの間の遺跡破壊からずっとその地に住む部族たちと話をしているらしいが、上手くいってねえみてえだな」
「となると、まだ期間伸びそうな感じ?」
「そうだな。ただあんまり伸びる様なら先に他国に行くとは言ってる。一応今あたしらが此処に居るのと、リガラットへの義理もあっての長期滞在って状態だな」
「成程。てことはその交渉が駄目そうなら、一旦ウムルに帰るのかな」
「そうなるな」
うーん、正直に遺跡が有るから壊しますって言っちゃ駄目なのかなぁ。
あの遺跡危ない物なんだし、言ってしまった方が良い気もするんだけど。
「遺跡壊しますって言っちゃ駄目なの?」
「駄目だ」
「でも言わないと余計に時間かからない?」
「言った方が逆に面倒になる可能性の方が高い」
「え、そうなの?」
危険な遺跡なんだから、言ってしまった方が良いと思うんだけど。
ていうか、その地に住んでる人達は遺跡の存在を知らないんだろうか。
「よく考えろ。先祖代々過ごしてきた土地から出てきた遺跡を「危ないから壊そう」なんて言われて、はいどうぞって素直に言うか? 被害にあうまで信じやしねーよ。だからリガラットにある遺跡はどちらも人が見つけられない様に隠してある。見つけて近寄らねえようにな」
土着信仰的な考えも発生すると、ややこしい事になるのかね。
もしくはご先祖様が作られたものを壊すなんて、的な感じか。
どちらにしても面倒な事になりそうな気配がする。
「それに生活の場を移したくないって連中だって多い。耕した畑、建てた家、積み上げてきた生活基盤。それらを捨てて別の土地へ行けって言われてんだ。実際に起こるかどうか解らない危険とやらより、自分達の生活の方が大事なんだよ」
「でもギーナさんの事だし、ちゃんとその辺考えて避難促してるんじゃないの?」
「勿論な。けど若い連中はともかく、年より連中はなかなかその土地から腰を上げないもんさ。それはごく普通の事だ。ずっと過ごしてきた土地を離れたくないっつう当たり前の気持ちだ」
確かにそういうのは、元の世界にいた時にもあったな。
危険だ、避難しろっていわれても、自分は動かないって頑なな人達。
それはそれでその地に愛着を持っているという事なんだろうけど・・・。
「本当に危険な目にあってからじゃ、後悔すら出来ない可能性も有るのに」
「人間、経験しねぇと考えが変わらないなんてのは良くある事だ。それに遺跡を破壊したいってのはあたしらの都合だ。そこに住んでる人間にしたらこっちの言葉こそ横暴な言葉だよ」
イナイは大人だなぁ。いや、俺もそうならないと本当は駄目なんだろうな。
しかしそうか、そりゃそうか。
元々住んでた人達からしたら、何を訳の解らん事を言い出すんだって感じか。
その土地が危険って言ったところで、今までずっと住んでるわけなんだし。
「難しいねぇ」
「そうだな。ギーナの国は共和国だから余計にな。王制ならもう少し無理はきくんだがな」
「あ、そうなの?」
「王命って事で出来ない事はない。勿論元々住んでる人間への補助をちゃんとしねえと、後々国として色々な問題が出るけどな」
そっか、ギーナさんの国の方向性だと、あんまり無理を通すこと自体が出来ないのか。
「ギーナの主義に関わる事なら無理にでもやる可能性はあるが、こればっかりはな。ウムルでもどうにか本人達に納得させてからやる様な事だし、色々と厳しいな」
「そっか」
苦虫を噛み潰したような顔をするイナイに、それ以上何も言えなくなる。
彼女は彼女で他にも色々と考えてるんだろうな。
「タロウさん、訓練はいったん休憩で良いんだよね?」
「へ、あ、うん。体の調子も確かめられたし」
イナイとの会話が途切れたところで、シガルが唐突にそんな事を聞いてきた。
何だろうと思い返事をすると、グイッと手を引かれる。
されるがままにしていると、シガルは俺をグレットに寄りかからせて座らせ、自分はその前に陣取って俺に寄りかかる。
「ほら、お姉ちゃんもこっちこっち」
「え、あ、お、おう」
有無を言わさぬシガルの態度に、戸惑いながらイナイも従う。
シガルさん、強い。
「・・・」
クロトが物欲しそうに見ている。呼ばないと来なさそうだな。
おいでおいでしてあげるとトテトテと傍に来て、イナイの隣に座って体重を俺にかける。
最近は本当に素直に甘える様になって来たなー。
「んー、落ち着く。タロウさんの匂いかいでると安心する」
「あー・・・解る」
俺に顔を擦りつける様にしているシガルと、俺と同じ様にクロトを撫でているイナイが不思議な同意をしている。
俺何か変な匂い出てるのかな。自分でかいでも解らないんだけど。
ていうか、なんかちょっと恥ずかしい。
「・・・あんがとな、シガル」
「んー、何の事ー? あたしはタロウさんとくっつきたかっただけだし、独り占めは良くないって思っただけだよ?」
「ははっ、そうかよ」
「わわ、そんなにワシワシ撫でたら髪がぐしゃぐしゃになっちゃうよ。今日は綺麗にしてきたのにぃ」
何か二人が仲良さげだからいっか。
俺も二人の匂いは何となく解るし、傍に居ると心地いいから似たようなもんだし。
多分シガルはさっきのイナイの表情で気を遣ったんだろうな。
背中はグレットで暖かくて、前はイナイとシガルで暖かい。
そのせいで眠たくなってきた。瞼が重い・・・。
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