第518話新しい力の使い方です!

さて、理屈は解ってんだけど実際出来るかね。

やってみるしかないわけだけど、あまり自信が無い。

とりあえずやるだけやってみるか。


揺らぎを感じ取れたおかげで気が付けた事だけど、ヒントはかなり最初に貰っていたんだ。

木を破壊したあの技。あれは力を流し込んで破壊したわけじゃなかったんだ。

根本的に元々木が持っていた命の力だけでやった物。

だから特別力の流れを感じなかったし、いきなり爆散するに至った。


手元に集めてから力を使ったり、力を放って伝えてたわけじゃない。

力そのものをその場で発生させていたんだ。

気功の流れを感じ取ろうとしていたんじゃ、いつまでたっても気が付けなかった。

感じ取った時点で既に攻撃を食らうんじゃ何の意味もない。


浸透仙術の力は周囲の命そのものを引き寄せて力に変える。

手元に命を引き寄せられるって事は、上手く使えば遠隔操作も可能って事なんだろう。


つまり気功を流し込む時の様に命の力を自分の意志で操って、遠距離の命に干渉。

自分に手元に引き寄せるのではなく、自分が決めた地点に瞬間的に命を集めて力に変える。

そして空間を破裂させる様に力を爆散させ、衝撃と気功の一撃を加えていた。


そんな感じなんだろうけど、これ難しすぎる。

引き寄せるだけならなんて事無いけど、狙って操るってキッツい。

思った位置に上手く干渉出来ない。


「こ、のっ!」


この際上手く行かなくても良いので、とりあえず何とかやってみる。

するとミルカさんの50センチ横辺りの空間に、バァンとはじけた様な衝撃が走った。

なおその最中、明らかにミルカさんの目線が俺の操った動きを追いかけていた。


「初めてにしては上出来」


おろ、以外。

下手くそ的な事言われるかなと構えていたら、褒められちった。


「あとは、慣れて覚えると良い」

「あ、そういう事」


今なら集中すれば、ミルカさんから周囲の生命力に伸びる微かな揺らぎが見える。

そういう物が有るんだと意識して視なければ気が付けないほど小さな揺らぎだけど、確かに見えている。

見えてんだけど、これに同じ技で対抗しろつってんだよな、これ。


「今見ての通り、上手く操作出来ないんだけど、数多過ぎない!?」


俺が一つの操作でも見当違いの方向に打ってたのに、10以上放ってくるつもりだ。

慌てて対応しようとするが、ほぼ全部見当違いの方向に力が走る。

その上ミルカさんと違って、揺らぎがデカい。

浸透仙術を使えなければ判らないとはいえ、使えたら一発で解る乱れ方をしている。


多分狙った位置に発生させるには、あれだけ綺麗に操らないといけないんだ。

揺らがない様にしているんじゃなく、狙った位置に攻撃する技術を使った結果揺らいでいないのが正解だ。

つまりは、このままじゃ通用しないって事だね!


「ちょ、無理無理!」


迎撃を諦め、体捌きと体に回している気功でガードでどうにか乗り切る方向に変更。

一発も相殺できなかったから、数は変わらず多いままだ。

それでも何とか負傷を手足だけで済ませて、大きな負傷も無く何とか乗り切る。

足下に来た攻撃を最後にミルカさんに視線を戻そうとして、視界に入ったのは彼女の拳だった。


「がっ、つうっ!」


ギリギリ直撃を受けない様に頭をずらし、食らいながらも飛びのく。

そりゃそうだよな、仙術だけに対処なんていう甘い事を許しては貰えないわな。


「ほら、どんどん行くよ」


ミルカさんはそう言うと、今度は仙術での攻撃をせずに突っ込んでくる。

その動きはとても鋭いが、単純な早さなら俺の方が上を行っている。

防御に徹すればいくら彼女の技量が高くても何とか―――。


「あぐっ、かはっ」


蹴りを避けようとした瞬間、動こうとした方向から浸透仙術の攻撃を食らった。

寸前で気が付いて何とか仙術の直撃は避けたけど、彼女の蹴りをもろに食らってしまった。

そうか、そういう風に別方向からの時間差攻撃とか同時攻撃が出来るのか。


蹴りの衝撃で動きの止まっている俺に、彼女は追撃の正拳を俺の顔にめがけて放つ。

それを頭を下げて躱そうとした瞬間、動いた方向に揺らぎを感じる。

不味いと思って横に避けると、吸い込まれるようにまた蹴りを貰う。


「んぐっ」


まだ今は見えている分、食らう瞬間に身構えられるからさっきよりはましだ。

でもそれが解っているからか、彼女は打撃に気功を乗せ始めた。

しかも浸透仙術での攻撃だから、気功を抜くのではなく自分の操る気功をぶつけて消さないといけない。


気功を抜こうとして食らったのも、理由は遠隔攻撃と同じ。

遠距離に放った気功を、自分の意志で操って攻撃を加えたんだ。

普通なら自分の手から離れるはずの力を操作して、俺の体内で留めさせた。


「理解した後の飲み込みは良い。けど、技術的には流石に無理か」


ミルカさんの呟きに心の中で同意しながら、彼女の攻撃を捌くことに集中する。

打撃は最悪貰っても良い。けど浸透仙術を体内に食らうのだけは不味い。それだけは全力で避ける。

けどこのままじゃ完全なじり貧だ。


もう避けること自体は出来るんだし、3重強化を使うか?

・・・いや駄目だ、多分使っても通用しない気がする。

このまま考えなしに勝負を挑んでも、何も出来ずに限界が来て倒れるだけだ。


無謀な攻撃は彼女の教えには無い。

微かでも勝機のある行動ならともかく、ただ強化しての突撃に勝機は無い。

リスクを背負ってでも実行に移すのは勝機がある時だ。

浸透仙術の対処を思いつかないまま勝負を仕掛けるのは、ただの自殺行為だ。


彼女の浸透仙術の遠隔操作の精度は、見える範囲なら少なくとも10は自在に使える。

その力を一点に集約すれば、きっと威力も上がるだろう。


彼女はその力を、俺の逃げ道を無くすために今は使っている。

だから勘違いしそうになるけど、この技は防御にも使える。

実際一度それで防がれているし、防御でこっちが体を潰されかねない。


やっぱりこっちもある程度遠隔仙術の攻撃を潰せないと、反撃は叶わないな。

つっても、どうする。

俺の技量はさっきの通り、狙った位置には当てられない。


・・・いや、狙った位置に当てる方法はあるには有るか。

彼女みたいに格好良いスマートな使い方じゃないし、結局教えられた技は使わないけどあるにはある。

ただ、彼女に何度も通用はしないだろうな。やるなら殆ど一発勝負だ。


浸透仙術を磨いて体術をもっと磨いた未来なら、また違う勝負を仕掛けられただろう。

だけど、今の俺には選択肢が無い。

彼女に一撃入れるには、これしか思いつけない。


不甲斐ない弟子で申し訳ないけど、無様な戦い方を仕掛けさせて貰う!

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