第517話見えない先に視える物です!
「ぎぐっ!」
くっそ、また貰った。
動きのパターンを変えたのに、それでもまだ駄目なのか。
「ぐっ!」
損傷を即座に治すが、その際の痛みが強くなっている。
いい加減食らい過ぎて、仙術のダメージを誤魔化せなくなってきてるな。
「段々、反応が遅くなってきてる」
治療の痛みで反応が鈍り始めた瞬間、ミルカさんが接近して来た。
けど見えない攻撃よりもまだ見える攻撃の方が、食らうにしても覚悟がある分マシだ。
それに二重強化の速度なら、逃げに徹すれば彼女の攻撃にまだ対応出来る。
「あっ」
逃げようと足に力を込めて、力が上手く入らずふらつく。
ミルカさんがその隙を見逃すはずもなく、強烈な蹴りが側頭部に叩き込まれた。
「~~~っ!!」
やばい、意識が飛ぶ。ここで飛んだら本当に終わる。
意識を全力でつなぎ止め、歯を食いしばって全力で飛びのく。
だが着地の際にまたふらついた。上手く体に力が入らない。
気功はまともに回してるし、乱れてもいない筈だ。
体の機能自体も正常に機能している。
ちゃんと動かせる状態になってる筈なのに、意識が飛びそうな状態が治らない。
視界が狭まって、体がふらつく。力が上手く入れられない。
「・・・そうか、初めてなのかな」
ミルカさんが話しかけてくる声が聞こえてくるけど、どこか遠く感じる。
この状態自体は知っている。極度の疲労で限界が来た時にも同じ状態になった。
訓練時も何度かなった覚えがある。
けど今は、そうならない様に気功を回しているのに、なんで治らない。
「タロウ、思考が顔に出過ぎだよ」
「うぐ、いい加減それも直さないとなぁ・・・」
「だね」
ポーカーフェイスとまではいかなくても、焦りがばれる様な顔はいい加減隠さないと。
でも、ああくそ、くらっくらする。
「身体性能は正常な状態。けど頭がくらくらして、力が上手く入らない。そんな所でしょ」
「あー、まあ、うん」
どうせ隠しても仕方ない。隠したところで異常はバレている。
それに完全に言い当てられているんだ。なんて答えようが確信が有って言ってるに決まってる。
「それ、単純に血を流し過ぎ。仙術と魔術で繋いでるけど、普通なら死んでてもおかしくない量流してるから。あの負傷でも続けて戦闘って初めてでしょ、タロウ」
「あー、そういえばそうかも」
今まではここまでボロッボロになってたら、それ以上戦闘続行はしていない。
ボコボコにされても、死にかけの状態なんてなったのは覚えがない。
記憶は無いけど、バルフさんとの勝負の後は大分やばかったと思うけど。
「どうする。やめる?」
ミルカさんが意外な事を言った。その表情はいつもの眠たげな顔で思考は読み取れない。
いったん休憩にするかと聞いているのだろうか。
それとも、もうこの勝負自体を止めようという話だろうか。
いや、悩む必要なんてない。どっちだろうと俺の答えなんて決まっている。
「続ける」
「そう、こなくちゃ」
ふらつく頭と体を意識して支えながら、狭まった視界でミルカさんを見つめて答える。
彼女は嬉しそうに笑っている様に見えるが、そんな事を気にしてる場合じゃない。
強化と保護をかけているおかげでまだ立っているが、多分魔術が切れたら確実に倒れる。
浸透仙術でガンガン体の機能を動かしていても、負傷の方が大きくて回復が追い付いていない。
いい加減彼女の攻撃をどうにかしないと、本当に何も出来ないで終わる。
加減をされているのは解ってる。
勝負を始めてからずっと、容赦ない攻撃はされても手加減をされている。
さっきの蹴りで仙術を使わなかったのが良い証拠だ。
あの一撃で仙術を使っていたら、俺はもう終わっていた。
逃げ回っても食らう上に、こうなった以上逃げ回るのも無理になって来てる。
なら頭を回せ。さっきから食らってる攻撃の正体を感じ取れないなら、頭で考えろ。
彼女はヒントはくれてる筈だ。
『タロウ、さっきからタロウを動かしている力は、一体どこに在る。それが解って無いなら、私の技は躱せない』
考える限り、ヒントはあの言葉かなと思うんだが。
今俺を立ち上がらせている力は、魔術と仙術。
けど根本的に浸透仙術が無いと今の俺は立ってられない。
となると、仙術の力が何処にあるかって話だよな。
浸透仙術の力は、周囲から命を集めて体に回している。
命の力は、この世界のどこにでも存在している。空気中にだって無いわけじゃない。
だからこそ、常時体を動かせるレベルの生命力を引き寄せながら俺は体を動かしている。
世界にある生命力が少なければ、俺はとっくに周囲の命を全部吸い上げて、俺の命も無くなって死んでいる。
「がはっ」
今度は軽いのだけど、また見えない攻撃を腹に貰った。
ミルカさんは相変わらず動いていない。
動いていない?
本当にそうか?
あの人は自分の体の使い方に長けている。
動いていない様に見せている可能性だって十分ある。
いや、動いていたとしても、結局見えない事とつながりはないか。
「ごぶっ」
ああくそ、本当に容赦ないな。
逃げ回る余裕が無いのを理解して、綺麗に急所に攻撃を入れて来る。
彼女が望んでいるのはきっとこの先の筈なんだ。
この攻撃をいなして、その上での肉弾戦を望んでいる筈なんだ。
あれだけ身体能力を極限まで突き詰めた人が、仙術の打ち合いだけを望んでる筈が無い。
だから、早くこの攻撃を躱せるようにならないといけないのに。
「がっ、げぼっ」
人形が踊る様に、不可解に跳ね回される。
なす術が、本格的に無くなってきている。
動き出してもその先で攻撃を食らい、止まれば勿論連打で食らう。
食らう端から治療をして仙術で身体機能をブーストし続けているけど、明かに負傷に追いついていない。
ヤバイ、視界が真っ白に染まっている。
何も見えない。耳鳴りがする。体が正常なまま異常をきたしてる。
その時、何かが視えた。いや、感じたの方が正しいかもしれない。
視界が塞がっている以上、実際に目で見えたわけじゃない。
周囲にある生命力そのものが揺らいで、俺の傍で爆ぜた様に感じた。
それと同時に衝撃も感じ、体を跳ね飛ばされる。
「―――っ」
今のはまさか、もしかしてそういう事か。
ああくそ、ヒントはもっと初めの方にくれてたんじゃねえか。
気が付くのが本当に遅いな俺は。
ボロッボロになって、視界もふさがって、感じ取れるものは魔術と仙術の力だけになって、やっと解ったとか。
本当にこの師匠には頭が上がらない。
俺の性格と愚鈍さを理解して、その上で最適な教え方をしてくれていたのか。
くっそ、何が勝負だよ。まだ勝負を始めれてもいねーじゃねえか。
恥ずかしいなぁ、もう!
「ぐぬがぁっ!」
まだ視界は白いままだし、体に力が入っているのかも良く解らない。
けど、動かないわけにはいかない。
だってやっと見えたんだ。躱す方法が解ったんだ。
例えきっちり躱せなくても、無様に今できる全力で飛びのいて躱す!
「・・・視えたか、偶然か」
何とか攻撃を躱すと、ミルカさんが呟いたのが聞こえた。
けどまだ一発躱しただけだ。彼女はあの攻撃を連打できる。
まだ体は回復していない。出来る限り負傷は抑えないと。
全力で逃げ回って回復に専念だ。
「答え合わせといこうか」
そう言って、彼女は案の定連打で攻撃を仕掛けてきた。
見えない視界のまま、その攻撃を集中して視る。
数が多い。全部完全に躱すのは無理だ。
手足のダメージは受け入れて、頭と胴体に食らわない様にだけ気を付けて連打を躱すしかない。
「ぐっ、つぅ」
やっぱ避けきれない。
でも攻撃のタイミングが解っているから、食らう瞬間に気功纏ったガードも出来る。
体内にさえ食らわなきゃ、回復速度の方が上を行く。
これなら行ける!
「まぐれじゃ、なかったか」
「どうやら、そうみたい」
ミルカさんの言葉に対する返事は、自分でもそう思ったからだ。
自分でも最初、もしかしたらまぐれかなと頭によぎっていた。
なので連打を躱せて、かなり安心した。
「理解できたなら、出来るね、タロウ」
「やってはみるけど、こっちは期待しないで欲しいなぁ」
今理解したばかりの技を、まともに使える自信はない。
けど、師匠がそういうなら仕方ない。やってみますかね。
自分でも、今理解した物が正しいのか確認したいしな。
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