第499話シガルの身体変化の本領発揮です!
「そういえばタロウさん、体は大丈夫?」
「ああうん、そこまで限界ギリギリまでやったわけじゃないからね」
今回も仙術はかなり使ったが、バルフさんの時と違って限界超えては使ってない。
シガルが短期決戦で仕掛けてきたのも理由だけど、バルフさんの時程使う必要が無かった。
その代わり強弱付ける暇なく攻め立てられたので、気を抜いた後の負担がきつかっただけだ。
目を覚ました後は少し筋肉や筋に痛みが走っているけど、その程度ですんでいる。
「そっか、やっぱり強いなぁ」
「いや、結構追い詰められてたんですけど」
「そんな事無いよ。タロウさんは今回も自分から攻めてはこなかった。隙をついて来なかった」
隙をつくか。確かにシガルの身体変化は少し時間がかかる様だった。
あの間に攻撃をしていれば、それで終わった可能性は大きい。
でもあの時は普通に訓練だと思ってたし、あんなとんでも技が出て来るなんて思って無かった。
「それにバルフさんとの勝負を見たから、良く解ってるよ。タロウさんの本気はあそこから。それ以上を引き出せなかった時点で、あたしはまだまだ弱いよ」
両手を胸元でぐっと握り、その手を厳しい目で見つめるシガル。
シガルは何処まで走って行くのだろうか。その先にはもう、俺なんか目に入ってない気がする。
そもそも、もう彼女と俺の差はほんの少しだ。
おそらく俺がこのまま停滞していれば、あと2,3年で完全に追い抜かれる。
それに本気はあそこからっていうけど、魔力も殆どなかったから動くの諦めたぐらいだ。
シガルはあの時意識失ってたせいかもしれないけど、過大評価してると思う。
あそこから戦闘行為も出来ない事は無いが、それは命を削る。
流石に惚れた女の子との訓練で命を削る勝負とか、俺はしたくないぞ。
「またそのうち挑むからね、タロウさん」
「お手柔らかに頼むよ・・・」
顔を上げたと思ったら、まるで強い相手を見つけたハクの様な笑顔で俺に告げるシガル。
今回でも冷や汗かいたのに、これ以上強くなったシガルとか本当に怖い。
次までにあの熱線、何かしらで防御する手段考えないとやばいな。
弱い方はともかく、強い方は完全に防御が不可能な威力だった。黒ローブで防御できるかな。
リンさんの攻撃に耐えたし衝撃は行ける気がするけど、熱がどこまで耐えられるか。
「ま、とりあえずそろそろ食事にしようや。良い時間だぜ」
「そうだね、手伝うよお姉ちゃん!」
『今日は何食べるのー?』
話が一段落ついた所を見計らってイナイが席を立ち、シガルもそれについて行く。
ハクもその後ろを、パタパタと羽を動かしながら歩いて行く。
竜形態だと子供らしい感じの動作で可愛いのに、何で人型になるとシガルよりデカいんだ。
最近段々俺よりデカくなってる感じもするし。
「ああ。タロウは先に汗流してこい。あたしらはお前が起きる前に行ってるから」
「あー、んじゃ、お言葉に甘えとくね」
イナイの言葉に従い、汗を流しに行かせてもらう。
多分俺が寝てる間に仕込みも終わらせていたっぽいし、手伝う事も無いのだろう。
部屋での食事は最近イナイに作って貰ってばかりで、俺作って無いな。
ああそうか、俺が最近余裕が無かったから、イナイが甘えさせてくれてただけか。
・・・今度何かで返さないとな。今日の変な雰囲気も気になるし。
汗を流した後皆で食事をとり、俺は一息ついてベッドに腰かけた。
ハクは食事が終わると、ベッドを一つ占領していつもの様に丸まっている。
本当に食う寝る遊ぶを体現した奴だな。
シガルとイナイは食事の片づけをしている。
俺もやると言ったのだけど、何故か混ぜて貰えなかった。
なので一人寂しくベッドに腰かけている。さみしーなー。
なんて思ってぼーっとしていると、二人が戻って来た。
「うえっ?」
二人の姿を見て、思わず素っ頓狂な声が出た。
だって、二人の姿がいつもとあまりに違い過ぎたから。
「・・・なんだよ、変な声出して」
「あはは、予想通り♪」
イナイは何処か恥ずかしそな、それでいてどこか拗ねている様に見える。
シガルは物凄く楽しそうに俺に飛びついてきた。
「うわたっ・・・あ、あの、シガルさん?」
「なーにー?」
シガルが俺に馬乗りになり、胸を強調する体勢で怪しげに笑う。
服はどっから持ってきたのか、普段着ている様な服ではなく煽情的な衣服を着ている。
普段のシガルは健康的で動きやすい感じなので、あまりにも雰囲気が変わっている。
「なんで俺は、上に乗られているんでしょうか」
「解ってるくせにー♪」
俺の問いに、口角を妖し気に上げながら応えるシガル。
目の前にいる女性がシガルだとは解っているのだけど、普段とあまりに違い過ぎてどうにも腰が引ける。
今のシガルは戦闘訓練の時と同じ様に、大人サイズになっている。
勿論色んな所が大きくなっており、目のやり場に困る。
「いや、何となく予想はつくんだけど、なんでまた大きくなってるのかなーって」
「その方が、いつもと違う事も出来るから、ね」
俺の胸を撫でながら、しなだれかかってくるシガル。
シガルの体についている柔らかい物が、俺の体に触れる。
そこで、袖を引かれる感触を覚え、そちらを見るとイナイがつまらなそうに俺を見ていた。
「あたしには、何も無しか?」
「あ、いや、そういう訳じゃなくて」
少し目を背けながら拗ねるイナイの姿を、改めてちゃんと見る。
彼女もシガルと同じく、いつか見た様に大きくなっている。
そして服装も同じく、明らかに男を挑発するような衣服だ。
「ほーら、お姉ちゃん、こっち」
「うおっ」
こっちを見ないイナイの腕をシガルが引いて、無理矢理俺に抱き付かせる。
俺は反射的に二人を抱きしめるが、いつもと違う二人の感触に戸惑ってしまう。
「な、何すんだよシガル」
「お姉ちゃん、素直になんなきゃ、ね?」
「うっ・・・わあったよ」
シガルは終始楽し気で、イナイは顔を真っ赤にさせながら俺を見つめる。
その体は今だ俺に押し付けられており、戸惑いながらも俺の体は反応している。
「こ、こういうのもお前が喜ぶかなって、シガルと相談して、やってみたんだ。どう、かな」
顔を真っ赤にさせながら、上目遣いでチラチラとこっちを見るイナイ。
何時ものきりっとした目と眉が、今はへにゃっと垂れている。
今のイナイを見ていると、何か目覚めてはいけない物が目覚めそうだ。
「ほーら、タロウさん。そろそろ正気に戻ってくれないと、お姉ちゃんが本当に拗ねちゃうよ」
シガルの言葉で、意識を少し正気に戻される。
あぶねえ、今なんか違う扉を開きかけてた気がする。
「綺麗だよ、イナイ。こういうイナイも良いね」
イナイを抱きしめて頭を撫でながら言うと、彼女は応える様に頭を俺の胸に押し付けた。
多分照れているんだろう。こういう所ずっと変わらなくて可愛いよなぁ、この人。
「あたしは聞かなくても解るからいいやー」
シガルは俺の太ももを撫でながら、楽しそうに笑っている。
普段はともかく、こういう事になるとシガルさんマジで独壇場だな。
「じゃあそういう訳で、今日は三人でいっぱい楽しもうね。タ・ロ・ウ・さ・ん」
太ももからゆっくりと手の位置を上にずらしていきながら、耳もとで囁きかけるシガル。
・・・今日のシガル普段よりいっそうノリが良いな。体力持つかしら。
「あ、あたしも、ちゃんと、構えよ」
顔は上げず、まだ俺の胸に顔を埋めたままイナイは素直な意思を伝えて来る。
普段と違う姿と服装で迫っている事も相まってか、耳まで真っ赤な事に今更気が付いた。
この人らしい甘え方に、言葉に出来ない愛おしさが溢れる。
「・・・良かった」
シガルが小さく優しい声で呟いていたが、すぐににやけた表情に戻って俺に襲い掛かって来た。
その夜のシガルさんは今までで最強であった事を、翌朝の俺は抜け殻の様な気分で思い知った。
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