第498話ネタ晴らしをしてもらいます!

俺が意識を失った後、シガルはすぐに回復した。

どうやら俺の強化と違って、シガルのアレはそこまで体に負担は無いらしい。

ただ、魔力を異常に消費するので制限時間が短いそうだ。


短いという割には、俺と同じぐらいの時間戦えてたんですがそれは。

暗に俺の制限時間が短いと言われた気分です。いや、短いんですけどね。

今更だけど、俺は強い相手には短期決戦しか望めないないんだよなぁ。

ミルカさんの半分で良いから、もうちょっと体捌き良くなりたい。


俺の方は大人化したシガルに嬉々として抱えられて宿に帰って来たそうです。

お姫様抱っこで。お姫様抱っこで!

意識が無かったとはいえ、シガルにお姫様抱っこで!

めっさはずい。


「じゃあタロウさんも起きたし、種明かししよっか」

「良いのか? シガルの切り札だろう、あれは」


シガルが今日の戦闘の種明かしをしようというが、良いのだろうか。

何だかとても特殊な魔術っぽかったし、イナイもそれを気にしてシガルに聞き返した。

魔力の流れから、竜の魔術の系統というのだけは解っているけどさ。

あ、シガルさん今は普段の恰好ですよ。


「そうだけど、もう見せちゃったし。それにまだまだ見せてない物も有るしね」

「末恐ろしいな、お前は・・・」


俺とイナイの反応に笑顔で応えるシガル。まだ何かあるのか・・・。

あ、そういえばこの子魔導技工剣も持ってんだった。

俺が渡した銃も有るし、結構幅広い手札の持ち主だよな。


「とはいえ、やった事の説明自体は凄く単純なんだ。ね、ハク」

『まあな、使えるかどうかは別として、やった事は至極単純だよ』


そこで何故かシガルはハクに声をかけ、ベッドで丸まっていたハクがむくりと起き上がった。

パタパタと小さな羽を動かしながらテーブルまでやって来て、椅子にチョコンと座る。

前足がテーブルの上にチョンと乗っているのが可愛い。

俺、ハクは人型よりも竜形態の方が可愛くて好きだわ。小動物感ある。重いけど。


「あれはハクが教えた、って事か?」


俺がハクを見ながらどうでもいい方向に思考を巡らせていると、イナイが話を進める。

その目が何となく冷たい気がするのは気のせいでしょうか。


『そうだ。私が教えた。あの魔術は郷の竜の中で唯一私だけが使う魔術だ』

「・・・ハクの巨大化はただの身体変化では無かったって事か」


ハクの答えに、イナイが呟くように返す。

言われてみれば確かに、今思い返すとおかしい所が有るか。

ハクは子竜状態でも力は強いけど、巨大化した時の力は明らかに今より強い。

強化魔術を使った様子も無いのに身体能力が増していた。


でも図体大きくなるし、力はそんな物なのかなーって思ってた。

今度俺も身体変化の魔術ちょっと使える様にしておこう。

あんまり必要ないと思って全然練習してなかったから、どんな物か良く解って無いし。

つーかあれ、普通に難しいんだよ。


『初めてタロウと戦った時も強化魔術は使わなかっただろ。使う余裕が無いんだあの状態。あの身体変化に強化を重ねるのが凄く難しくて、安定しない』

「ああ、それでお前、ポヘタの城で初めて強化魔術を見せたのか」


あの時は驚いた。てっきり使えないとばかり思ってたから。

強化全部重ねて何とか対等まで持っていけたんだよなぁ、あの時。

今はあの時よりも魔術の効率上がってるからもっと強くなってる筈だけど、ハクは明らかにそれより強くなってるっぽいんだよなぁ。


『今はそれも、そうでもないけど』


キュルーンと楽し気な鳴き声を響かせながら、ハクは言った。

つまり、あの成竜形態で強化を使えるって事ですかね。

マジすか。それもう強いってレベルじゃ無くね。俺もう勝てないんじゃないかな。


『このままじゃまだあいつには勝てない。だから私は止まらない。あいつにだけは何時か勝つ』


今度は獰猛に歯を見せながら、唸るように鳴く。

あいつって、クロトの事かな。

そう言えばこの間も負けたって言ってたっけか。

クロトはクロトで大丈夫かなぁ・・・。


「えーと、ちょっと話が逸れちゃったけど、要は未来の自分を魔術で作り出す物なんだ」

「未来の自分?」

「と言っても本当に未来の自分になるわけじゃなくて、そうなる可能性の姿になる魔術」

『けど、限りなく近い未来の姿。だから、自分の意志で姿形は変えられないんだけど』


てことは将来本当にシガルはああいう感じになる可能性が高いって事なのか。

やっぱり身長抜かれるんですね。

スタイルも良かったな。あの時はまじまじ見る余裕なかったけどかなり色っぽかった。

イナイさん、なんか目が凄い冷たくないっすか。


『あの魔術は全盛期と思われる力を強制的に顕現する魔術。だからその力が今の自分と遠ければ遠い程、変化していられる時間は短いし、その姿で出来る事しか出来ない』

「ん、どういう事?」

「つまり、身体能力とかは全盛期の状態になれるけど、魔術で無理矢理なってるから、余裕が無いと魔術が使えないの」


ハクの言う事が良く解らなくて聞き返すと、シガルが丁寧に答えてえくれた。

それでハクは意外と色んな魔術が使える割に、火と空を飛ぶ魔術しか使わなかったのか。

あの二つは使い慣れてるから、あの状態でも使えるんだろうな。


「俺にも使えるかな」

『タロウは無意味だと思うぞ』

「私も、そう思う、かなぁ」


なんでだ。別に身長伸びたいからとかじゃ無いんだけど。

成長したシガルの魔術は、明らかに威力が上がっていた。

それなら俺もその全盛期の姿とやらになれるのなら、魔術の威力も上がるんじゃないのか。


「タロウさんの考えている事は解るけど、多分タロウさんはこの魔術じゃ変われないと思うよ。あたしは大人になった事で、単純な年齢成長による能力強化も有ったからあの魔術が使えただけで、魔術の技量自体がそこまで上がったわけじゃないもの」

「そうなの?」

「うん、だってあたし普段の状態だと『視えない』から。視えるとそれだけで魔術行使に差が出るのは、タロウさんも解っているでしょ?」

「あー、そういう事か・・・」


つまりあの時のシガルは、緊急時の俺と同じで普段より魔術行使のレベルの段階が上がるのか。

あれ、それってつまり、今のままでも視えたらシガルの方が上って事じゃね?


「つーこたぁ、あたしも意味ねーな」

『あれは未熟な自分を無理矢理成熟させる物だ。イナイは既に完成している。そこからの成長はまた種類が違う』

「完成された物を更に強くする物じゃ無いからねー、あれ」


そっかぁ、手札が一つ増えるかなぁって思ったんだけどダメだったか。

でも言われると確かに、今の俺が成長しても無意味だよな。

既に身長は一切伸びる気配が無いし、筋力もただ鍛えた以上の筋力が付く事は無い。

全盛期の姿って、正直体だけなら今が全盛期っぽいもんな。


「身体変化してると二重強化が使えないから、タロウさんよりちょっと早いぐらいにしかならないんだよねぇ。やっぱりタロウさんの四重強化に追いつくにはまだ足りなかったや」

「あー、やっぱりあれ、強化殆どして無かったんだ」

「うん。普段の魔術の強化は出来るんだけど、竜の魔術で成長してるせいなのか、そっちの魔術が使えないの」


それもあの強さか。シャレになって無いな。

それに今ので確信した。今の俺の四重強化は、未来のシガルの二重強化に劣る。

単一の強化で押されていたんだ。間違いなく、勝てないだろう。


「あと今回タロウさんは翻弄されてたけど、あそこまで通用するのはタロウさんだけだから」

「シガルの位置が把握出来なかったやつ?」

「そうそう。あれ単純にあたしの波長と完全に同じ魔力を、普段の私がそこに在るかのように置いて気を逸らしてるだけだから。はっきり視えるタロウさんはばっちり引っかかる、って訳」


え、つまり俺が見ていたシガルは、魔力の塊だったって事?


「じゃあ、あのいきなり現れたのって」

「幻影で私の姿を出して、上からあたしの魔力を置いて、あたし自身は魔術で隠れて自身の魔術の流れも出来る限り消してた。解り易く見える所に居るせいで、気が逸れちゃったでしょ?」

「つまり最初の牙の爆散や、土塊の攻撃と、近くで聞こえた声は」

「そ、目眩まし、ってわけ」


やられた。かんっぺきにやられた。

俺の戦い方を全て理解した上で、全部逆手に取られてる。

かてねぇー。


「手がばれる前に勝負を決めに行ったんだけど、流石に魔力が足りなかったや」

「ハクと同じ熱線の攻撃は怖かった」

「あたし決定打になる様な高火力技って持って無かったから、一生懸命ハクの真似したんだ。中々凄かったでしょ!」


最近見てなかった、ちょっと子供っぽい笑顔の鼻息荒いシガルだ。

何だか可愛くて頭を撫でてしまう。

シガルは一切抵抗せずに、当然のように手にすり寄って来た。


『あれ使って負けたのか』

「うん。やっぱりあたしのは、威力が落ちる方も発動が遅いのが難点だね」

『それでも竜でもないのに使えるシガルは凄いと思うぞ』

「えへへ、ありがと」


ハクはシガルの手を全部知ってるんだな。

最近ハクとよく何かをやっていたのは、この為だったのか。

それが全て俺に向ける為っていうのは、少し怖くも有るが。


「でもまだあれじゃ勝てないって判ったし、もっと頑張るよ!」


シガルさんお願い、もうちょっとゆっくり成長してください。

私の心が折れてしまいます。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る