第496話シガルの奥の手その2です!
怖かったぁ!
やべえ、ちょっと本気で死ぬかと思った。めっちゃ心臓がバクバクしてる。
何だよあの全方位攻撃、身に振ってくる直前まで一切感知できなかったぞ。
「うぉお!?」
雷全部防ぎ切ったと思ったら、今度は下から魔力の籠った岩が飛んできてる。
体術で破壊するにも数が多いし、含んでる魔力量が尋常じゃないから体で受けるのは怖い。
『数多の氷槍を!』
形振り構わず魔術を全力で使い、氷の槍を自身が出来る最速で生み出していく。
魔力量が完全に負けている事は解っちゃいるが、何にも考えてないわけじゃない。
『暴風よ、吹き荒れろ!』
氷の魔術を放つと同時に、その後ろから風の魔術を放つ。
これで岩にぶつける速度も上がるし、岩も氷と風の両方の衝撃を与えられる。
それにこっちは上で向こうは下だ。重力の力も有れば魔力量の差は何とかなるだろ。
そしてその思惑通りに全ての攻撃を相殺し、岩と砂が砕け、粉末が中空に広がっていく。
「ちょ、まっ!」
だがその隙間から、巨大な炎の塊が見えた。また作り出すまで気が付けなかった。
岩の攻撃は、あれを作る為の目くらましか時間稼ぎか。
やべえ、さっきの雷より魔力量が半端じゃねえぞ。あんなの食らったら熔ける!
「本当に容赦ないなぁ!」
「本気で行くって言ったからね! 奥の手も有るって言ったよ!」
情けなく叫ぶ俺に、シガルは心底楽しそうに叫ぶ。
こうなったったら流石に訓練だからどうこう言ってられない。あれを防御できる自信が無い。
あの炎にねじ込まれてる魔力量は、ハクの熱線より上――――まさか。
「全てを穿て、竜の咆哮」
ついさっきまで全てを無詠唱でやっていたシガルが、詠唱して魔術を完成させる。
その瞬間、発動前から防げないと思っていた魔力量が、数倍に膨れ上がった。
ヤバイと思った瞬間には既に閃光は放たれ、空を穿ち、彼方まで赤い柱を伸ばしていく。
「―――っ!」
流石にあれをまともに貰う訳にはいかない。あんな物は防御も出来ない。
展開されている魔術阻害を全てすり抜け、シガルの背後に転移して躱した。転移が使えなかったら対処不可能だったぞ。
そしてそのまま無防備な彼女の背中に軽く仙術を突き入れようとして―――。
「甘いよ、タロウさん!」
俺の拳は躱されて完全に空を切り、逆にシガルの蹴りを反撃に貰ってしまう、
仙術は勿論当たらず、蹴りで間合いを取られてしまった。
距離を離すための蹴りの筈なのに、威力がとんでもない。ガード出来たけど腕が軋む。
追撃に土塊の魔術も打ち付けられてしまったが、こっちは何とか障壁で防げる程度の威力だった。
「タロウさん、素直すぎるよ?」
防御した土塊が舞いシガルを見失うが、彼女はそれ以上の追撃をせずにそんな事を言ってきた。
晴れた視界の向こうでは大人びた、というか、完全に大人の妖しげな色気の感じる表情で指をちっちと揺らしていた。
小さい時と同じ服だから今の恰好は結構凄い事になってるんだけど、そういう事気にしてる場合じゃない。
素直すぎるとは、背後に転移した事だろうか。
確かに戦法としてはありきたりだったし、単純すぎたかもしれない。
でもあの熱線を、あの威力の攻撃を放っておきながら、次の行動にラグが無いのは反応が良すぎると思うの。
「ネタばらしするとね、あたしも『今なら見える』んだよ?」
「―――あ」
まさか今の彼女は、今の俺と同じ物が見えているのか。
この視界を彼女も持っているのか。
それじゃあ俺が何処に転移したのかなんて、バレバレすぎる。
さっきから彼女の魔術の流れが読めない事にも納得できるな。
・・・あれ、今なんか違和感があったような。
なんか、おかしい。自分の思考に、何か間違いがある気がする。
「でもね、見える様になって解ったんだ。見えるからこそ不利になる時もあるの。こんな風に」
「がっ!?」
いつの間にかシガルが俺の懐に潜って、拳を突き立てていた。
いや、違う、むこうにシガルが居―――居ない!?
そんな馬鹿な、ついさっき迄、拳を突き立てていた今さっき迄そこに居た筈!
それに目の前のシガルも移動が見えなかったとかじゃない、転移を使った気配もなくいきなり現れた!
「せあっ!」
「―――――!!」
一撃目で完全に胸を突かれ動けなくなった俺に、彼女は更に正拳を連打で重ねる。
身体保護も4重強化も突破する、一撃一撃が尋常じゃない威力の連打を貰い、意識が飛びかける。
それでもなんとか意地で、小さな、ほんの小さな仙術を彼女に放つ。
指ではじく程度の小さな力しか使えなかったけど、そのおかげで彼女の動きが一瞬止まった。
その隙を逃がさずに転移魔術を使い、大きく距離を取りながら治癒魔術を急いでかける。
これは完全に肋骨が折れてる。早く治さないと。
「逃がさない」
耳元からシガルの声が聞こえ、傍にシガルの存在を感じる。
強化を解いたら彼女に追いつけない事は解っているが、それでも負傷して身動きが取れないよりはましと思い、仙術を体の正常化に回して無理矢理体を動かす。
だが声を振り払うように腕を振るとそこにシガルはおらず、だが何故かそこにシガルが居るように感じるし『視える』。
俺の目には、何も無い筈のそこにシガルが存在するように、居る様に『視えて』いる。
「三度目だよ、タロウさん!」
だが現実はシガルは動いておらず、また全方位からの魔術が放たれる。
今度は全部炎とか、勘弁してくれ。
『爆炎を此処に!』
俺はなるべく同じ量の炎をを作り出し、ぶつけていく。
今迄と同じくやはり魔力量は完全に負けているが、俺の方もただの火弾を作ったつもりはない。
『爆散!』
着弾と同時に全て爆発させ、ただ炎をぶつける以上の威力を出させる。
実際の物理法則なんぞ知った事か。とりあえず思いついた端から試してどうにかするんだよ!
「くっそ、無理か!」
発想は悪くないと思ったんだけど、防ぎきれずに突破されてしまった。
でも威力は減衰しているから、これなら障壁を全力で張れば防げる。
「は?」
障壁を張って着弾に構えていると、目の前で炎が大きく広がり視界を塞いだ。
いや、違う、俺の障壁を覆う様に炎が纏わりついている。
「え、なに、燻製? 蒸し焼き? 酸欠?」
障壁と保護で暑さは今のところ感じていないが、酸欠は怖いな。
なんて思っていると、炎が唐突に霧散した。
「ばぁ」
「げっ!」
霧散した炎の中からシガルが熱線を放ってきた時の構えで、障壁に手を翳した姿で現れた。
まってまって、あの魔術まさか無詠唱でも放て――――。
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