第491話ブルベさんとリンさんの近況ですか?
「イナイとタロウは仲良さそうで安心だね。シガルちゃんとの仲もいいみたいだし」
楽し気に私の肩に顔を乗せ、甘えるように抱き付いて来るリファインの頬にキスをして頭を撫でる。
彼女は嬉しそうに頭をその手に押し付けて来る。まるで愛玩動物がもっとなでろと意思表示するように。
「起こしてしまったかな」
「起きてたよ。ブルベが傍から離れた時から」
「君を出し抜く事は出来そうにないな」
「当たり前じゃない。あたしに勝てると思ったら大間違いだよ」
自信満々に笑う彼女に、少しだけ意地悪をしたくなる気持ちが湧き上がる。
目を細めて彼女に笑顔を向けると、彼女は野生の勘で何かを感じ取ったのか後ずさろうとした。
逃がさないよ。
彼女の頭を撫でていた手で彼女の頭を押さえ、肘で背中を固定し、逆の腕は彼女の腰を抑えている。
彼女は次に何が起きるのか頭でも理解できている様だが、相手が私なため振り払う事も出来ずに狼狽えながら構えている。
未だ慣れる様子の無い、可愛い反応をする彼女の唇を、私は乱暴に奪った。
「ん~~、んむ・・・んっ・・んんっ」
最初の一瞬は体を固くし、その後に甘える様に私を受け入れ、次に応える様に返してくる。
彼女は何時まで経っても、最初の反応が可愛らしい。
「んんっ・・・んはぁ・・・・ふぁ・・・」
唇が離れた後の、上気した、何も思考が出来ていない彼女の顔が堪らなく可愛らしい。
このままの勢いで押し倒したくなる。だが私はこの後もやる事がある。彼女もそれは同じだ。
なので気持ちを誤魔化す様に軽口をたたく。
「私は勝てたかな?」
「うっ・・・うう・・・ブルベきらーい」
「ははっ」
私の言葉に顔を赤くし、頬を膨らませる彼女は昔と全く変わらない。
本当に、私が好きになった騎士は、いつまでたっても魅力的だ。
ただの惚れた男の惚気話だろうが、私にとっては彼女ほど魅力的な人間は居ない。
「さて、私は行くよ。リファインもやる事があるだろう?」
「まあね、その為に寝てたんだし」
「頑張ってね」
「出来れば代わってほしい」
私の励ましの言葉に、死んだ目で応えるリファイン。
彼女はここ数日、ずっとこんな感じだ。
お茶会と夜会に連日で出ており、精神ががりがりと削れる音がすると言っていた。
傍にねーさんとミルカが居るので滅多な事は無いと思うが、彼女は元々貴族の世界は嫌がっていた口だ。いつか爆発するのではという心配がある。
何せ最初は騎士の立ち振る舞いすら、彼女は嫌がったのだから。
「そろそろ限界?」
「何時だって限界ー」
ぐでんとベッドに転がる彼女に苦笑し、立ち上がった腰をもう一度下ろして彼女の頬を撫でる。
彼女はキョトンとした顔でそれを受け入れていた。
「無理、そうかい?」
一瞬何を言われたのかが解らない表情だったが、すぐに彼女は意味を理解し、優しく笑った。
「大丈夫だよ。あたしはブルベの横にいる事を決めたんだもん」
「・・・ごめんね、好きな生き方をさせてあげられなくて」
「ばーか。泣き虫ブルベが変に気を遣ってんじゃねーよ」
「ははっ、懐かしいね、その言い方」
昔は本当に、良く泣かされたのものだ。
彼女は手加減というものが下手過ぎるからね。
「愛してるよブルベ。だから大丈夫。本当に無理になったらちゃんと泣きついてあげるからさ」
「そうしてくれると嬉しい。君が傍にいるだけで、私にとっては力になるのだから。これでも少しアロネスに嫉妬していてね。君はどうにも彼に頼る傾向がある」
「あははっ、アロネスが聞いたら大爆笑するだろんっ―――」
ケラケラと心底おかしそうに笑う彼女にもう一度口づけを、深くゆっくりと、彼女の存在を確かめる様に抱きしめながら口づけをして、彼女を離す。
彼女は先ほどと同じように上気しているものの、何処かからかう様な目を私に向ける。
「可愛いねー、ブルベ」
彼女はにやにやしながら私の頭を撫でる。
つまらない嫉妬心と独占欲からの行動が、彼女にとっては楽しい物だったのだろう。
「・・・さっきは勝てたんだけどな」
「あははっ」
悔しさを隠さずに呟く私を楽しそうに笑う彼女を見て、本当に大丈夫だなと思えた。
少なくとも今は、本当に無理はしていない様だ。
「さて、本当にそろそろ行くよ」
「うん、行ってらっしゃい、ブルベ」
「ああ、愛しているよ、リファイン」
「あたしも、愛してるよ」
もう一度お互いにお互いを求め、名残惜しさを見せながら離れて、部屋を出る。
彼女が笑顔で手を振る姿を噛みしめながら、扉を閉めた。
「いつまでもお熱い事ですね」
「うわぁ!」
いつから居たのか、一切の気配無く私の横にねーさんが立っていた。
「陛下、このような時間にそのように騒いでは皆様にご迷惑ですよ」
「い、いつから居たんですか」
「お二人が熱いキスを貪っていた辺りからでしょうか」
「なんで扉閉めてるのに聞こえるんですか・・・」
「耳が良い物で」
良いってレベルじゃない。話し声ならともかく、そんな音が漏れるような雑なつくりにはしていない。
絶対に意志を持って中の状況を探ってる。
その上私にもリファインにも気配を感じさせていない時点で確信犯だ。
「リファイン王妃の身だしなみを整えに来たのですが、最近の彼女の頑張りを考え、邪魔をしない様にと思ったしだいです」
「・・・それは、ありがとうございます」
「いえ、陛下の為でも有るでしょうから。家臣として当然の事です」
淡々と喋る彼女の言葉を全部信じるつもりはない。
彼女の性格は知っている。こう言いつつ腹の中では私やリファインをからかって楽しんでいるだけだ。
この人は昔からそういう人だ。
「はぁ、あんまりやり過ぎないで下さいよ・・・リファインの事、頼みます」
「勿論です、彼女も私にとっては可愛い教え子ですから」
ただそれでも、昔から私達を知る、頼りになる人なのは間違いない。
彼女が傍にいるという事は、リファインにとって力強い筈だ。
「陛下も、無理はなさりませんように。貴方の代わりは居ないのですから」
「・・・もっと前から聞いていたでしょ、ねーさん」
「はて、何の事でしょう?」
タロウ君に言った事を言われ、やはり彼女は性格が悪いと認識する。
とはいえ彼女が本当に心配をしていてくれている事は、重々承知している。
「潰れないでね、あの子みたいに」
「・・・解っています。私は父ほど弱くはありませんよ」
「そうある事を、祈っているわ。貴方達皆、ね」
「ええ、勿論。私達はそんなに弱くないですよ。特にアロネスはね」
「あははっ、あの子は本当に昔から悪戯っ子だったからね」
ひとしきり笑ってから、お互い職務の顔を作る。
王と、家臣の顔に。
「では行って来る。後は任せた」
「はい、陛下。いってらっしゃいませ」
彼女が頭を下げるのを見届け、背筋を伸ばして前に進む。
折れないさ。今更折れるわけがない。
リファインの為に、仲間たちの為に、何より彼らが傍にいてくれるように、自分の為に。
私は父とは違い我儘だ。
全てを守って全てを抱えたまま、前のめりに倒れる迄は折れてなどやらないさ。
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