第489話邪魔が多いです!
「ギーナが最近、俺に当たりがきついんだが」
アロネスさんが本当に泣きそうな顔でテーブルに突っ伏している。
それを見ているイナイの表情は、顔に思い切り『うざい』って書いてある。
時刻は夕方で、食事も既に終えて三人でのんびりしている所に彼はやって来た。
ハクは本日ドッドさん達に勝負を挑んだらしく、その後の流れで彼らと食事に行ったそうだ。
大丈夫なのかと心配になったけど、今回は特に問題になる様なやり方をしなかったらしいのでほっとした。
今日は遅くまで帰ってこないらしい。
クロトは何故かあれだけ怖がっていたギーナさんに会いたいと言ってきた。
ギーナさんに伝えると彼女も了承してくれて、今日は帰ってこないつもりだそうだ。
ちょっと心配だけど一人で行きたいと言われたので、素直に見送った。
だから今日は三人でいちゃついてたんすよね。
んで、イナイが甘え始めたあたりで彼がやって来たから、イナイさんの機嫌が悪い。
「自業自得だろうが。聞いたぞ、条件。しかも契約書として文面に残してるから違えようもねえしな」
「くっそ、あいつなら気が付かねえと思ったのに!」
「お前、10年以上前の小娘のあいつならともかく、国を興すために揉まれまくった今のあいつだぞ。その上お前の性格も知ってて気が付かねぇわけねえだろ」
先日の謝罪の件は、俺だけでなくアロネスさんにも行っていたらしい。
一応俺の名目はまだアロネスさんの護衛、という事になっているので、彼に対する不敬という事だそうだ。
同じくウムル王国に対しても正式に謝罪を向けた文書などを送ったらしいが、アロネスさん以外は皆やんわりとした対応だった。
彼だけが、ギーナさんが怒る様な要求を突き付けたらしい。
完全に自業自得じゃね?
「アロネスさん、全部自分が悪いんじゃないですか」
「あー、へいへい、そうですよー」
唇を尖らせながら返された。聞く気が無いなこれ。
とりあえず愚痴言いたいだけなら、帰ってくれませんかね。
冷たい様だが、タイミングが悪かったんだよこの人。
俺達三人で楽しんでいる時に来たから、イナイさんがすげーテンション下がってるんだよ。
「アロネス様はどんな条件を出したんですか?」
「あー」
シガルがお茶を出し、首を傾げながらアロネスさんに聞くと、彼はイナイに目を向けた。
イナイはそれを受けて、首を横に振る。
「内緒。わりいな」
「聞かない方が良さそうな事だっていうのは解りました」
シガルは二人の答えに不満を持つ事無く、納得した様子だ。
イナイが首を横に振ったって事は、国家機密的な物を条件に出したのかな。
アロネスさんが出す、国家機密に関わる条件か。嫌な予感しかしない。
しかも言い方から、おそらく本命の理由は隠してた感じだし。流石アロネスさん、嫌らしい。
「でも腹立つからって、いちいち俺の仕事を見に来て、わざわざついて回るとかさぁ。それだけならまだ兎も角、報告を書面じゃなくて一対一で口頭報告させた上に、穴見つけてねちねち言ってきたりさぁ。俺があいつ苦手で言い返しにくいからって酷くね?」
「言い返せないからって、ああいうやり方で本人以外巻き添えにしたから怒ってんだろうが」
「なんの反論も出ないっす」
イナイの冷たい言葉に、アロネスさんはまたもテーブルに顔を伏せる。
一応彼も、自業自得だという事は解ってるみたいだ。
「一応、保険もかけときたかったのは事実だったんだよ。こんな俺でもな」
「そこに関しては同意しておく。けど、もうちょっとあっただろう」
「ついでに思いついちまったんだよ。最初は良い意趣返しが出来ると思ってたのになぁ」
「意趣返しもクソも、ただのお前の八つ当たりだろ、あんなもん。相手がギーナじゃ無かったらウムルっていう国自体が外道だと思われんぞ」
アロネスさん、マジで何やったんだ。凄く気になるけど、教えてはもらえないんだろうな。
とりあえず今度ギーナさんに謝っとこ。
「言いたい事はそれで全部か?」
「何だよつめてぇなぁ。いつもならもうちょっと聞いてくれんじゃねえか」
「いつもならな」
アロネスさんは不満を隠すことなく、イナイにぶつける。
当のイナイは話を聞く気が無い。とっとと帰れと言わんばかりだ。
内容が内容ならきっと優しい対応だったのだろうけど、相手がアロネスさんで自業自得だったせいで取り合う気が無い。
「はぁあ~、皆のイナイ姉さんも、男が出来ると変わっちゃったねぇ~」
「素直に出て行くのと、ボコボコにされて出て行くのと選ばせてやる。いや、やっぱ一発殴る」
「じゃっ!」
余計な一言で今の沸点の低いイナイを怒らせ、危険を察知したアロネスさんは転移で即座に消えた。
あの人本当に迷惑だな。怒ったイナイを静めるのって、俺の役目なんだぞ。
「あんのやろう、ざっけんなよ! 全部てめえがわりいんだろうが! あたしゃギーナに後で頭下げたっつの!」
「お、お姉ちゃん、落ち着いて」
「い、イナイがいつも頑張ってるは解ってるから、ね」
俺に抱きしめられ、シガルに手を握られて、ふぅふぅと怒りで荒くなった息を整えようとするイナイ。
はぁーと、深いため息を一度吐くと、俺に体重を預けてきた。
「あいつ、ああいう所全然成長してねえから、ほんと嫌になる。どれだけ回りが頭下げてっと思ってやがんだ。それでも実績が有るし、能力が有るから余計に始末に負えない」
「あ、あはは、アロネス様優秀な錬金術師だもんね」
「あたしはあいつが無能だった方が、平和だったんじゃないかって常々思う」
イナイの目に光の無い。今迄も色々あった事を思い出している様だ。
彼女を慰めようと抱きしめる力を強めると、彼女も俺の腰に手を回した。
そして―――ノックの音が部屋に響いた。
「・・・出て来るね」
流石のシガルも真顔になって、ノックに対応しに行った。
何だ今日、間が悪い日なのか。
「どなたですか?」
「ニョンです~。おすそ分けに来たんだ~」
シガルがドアを開けると、そこには紙に包んだ何かを抱えているニョンさんが立っていた。
おすそ分けって事は、何か食べ物だろうか。
「ハクちゃんとの食事が宴会になっちゃったからさぁ~。そこで即席で作った燻製とか、おすそ分けにね~」
「あ、ありがとうございます」
紙袋を受け取ると、中には色んな物をとにかく燻製にしようとしたのだろうと思う程、雑多に食べ物が入っていた。
酔っ払いの所行だな、これ。
「ニョンさん、ありがとうございます。後で頂きます」
「ん~・・・」
イナイがニョンさんに礼を言うと、ニョンさんは首を傾げた。
その様子に俺とシガルがキョトンとしていると「邪魔しちゃったかな~?」と呟いて、一言「ごめんね~」と言って去って行った。
「なあ、シガル。今あたし、態度に出てたか?」
「ううん、出てなかったと思うけど」
「くっそ、食えねえなあいつ。人の良さそうな面しやがって」
イナイが何か良く解らない所で悔しそうにしている。
多分、さっきのイラつきが表に出てたかどうかって所なんだろうけど、ニョンさんが食えないっていうのは良く解らないな。
気が付いて察してくれたんだろうし、良い人だと思うんだけど。
「流石にもう、邪魔は入んねえだろうな・・・はぁ」
イナイは自ら俺の胸に額を付けて、ため息を吐く。
二度も甘えようとしたところで止められたせいか、積極的だ。
シガルもそんなイナイを見て、ニッコリと笑いながら俺に抱き付いて来る。
そしてベッドに腰かけて――――姉さん、今良いかな、というブルベさんの声が聞こえた。
「何だよもう!!」
『え、何!? ごめん姉さん、私何かしたかな!?』
イナイの八つ当たりの様な叫びと、状況を把握できないブルベさんの声が室内に響いた。
今日本当に間が悪いな。
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