第488話ギーナさんが気が付くのですか?

「以上が今回の報告となります」

「ん~?」


先日のタロウ君の件でドッド達を謝罪に行かせ、帰って来たファルナからの報告に首を傾げる。

タロウ君達の反応は解っていた。彼はこんな事で怒る子じゃない。

イナイも別に怒らない。シガルちゃんも心配はするけど、反応は薄いだろう。

個人的に問題なのはアロネスだ。あいつが何を言うのかが怖かった。


少し前なら、まだそこ迄の問題は無かった。

でも今はあの遺跡を破壊出来るのがタロウ君だけであり、タロウ君という人間の重要性が上がった事で今回の事は大きな問題になってしまっている。

今のタロウ君はウムルにとって、そして遺跡を知る各国の重鎮にとって大事な存在だ。国の安全を確保できる存在だ。

その彼に安全を配慮せず害したという事実はとても痛い。

特に、ウムルが大々的にその事を世間に言う様な事が有れば、あまりに痛すぎる。


リガラットは、世間に国として認められたばかりの国。

だというのに認められた大きな理由であるウムルに、リガラットが損害を与えたという事実は頭を抱えるに値する。

もしそんな話が世間に知れれば、リガラットは完全に信用を無くすだろう。結局所詮は亜人共の、頭の足りない劣等種族の集まりだと言われるに決まっている。

そんな事じゃ、結局ただの独りよがりな国家で終わる。きっといつか、また争いがおこる。


そしてその事実を、後々でタロウ君が別の国で洩らす可能性は少なくない。

彼の口止めの意味も込めて早急に対処する必要があった。

ウムルから何かしらの要求をされるとしても、憂いは断っておくべきだ。


だから、アロネスに警戒した。

ウムルの重鎮で、そしてこの国に来ている人間で無茶な要求をする可能性が有るのはあいつだ。

私は彼らとの付き合いは浅いし、そこまで親しくなったつもりはないけど、あいつの性格はある程度理解してる。


アロネス本人には今までの事も有って、色々適当な扱いでも許されるから油断してた。

本当に油断してた。

あいつはこういう機会を逃さない奴だ。絶対に等価値より上の無茶を突きつけてくる奴だ。

そう、思っていたんだけど。


「何というか、拍子抜けですね」

「拍子抜け、なのかなぁ」


ファルナの言葉に、疑問を持って返す。

私はどうにも、何かを見落としている様な気がしている。


アロネスの要求は至極優しい物だった。タロウ君をうちの国民にするぐらいなんて事はない。

むしろ大歓迎だ。彼は何でも出来る。うちの国に住み着いてくれるなら願っても無い。

その上彼がうちに来るという事は、イナイも、シガルちゃんもついて来る。

有能な人間がこぞって住み着く事に、何を否というのか。


「あいつが私に有利な要求を言う筈が無い。絶対に何か落とし穴があるはずだよ」

「そう、なんでしょうか。確かに私共もニョン以外は首を傾げましたが」


ニョンは確かに満足そうだった。

多分、彼がタロウ君を全面的に助ける判断を下したことが嬉しかったんだろう。

彼がタロウ君を可愛がっている事実に、気分が良かったんだろう。

ニョンもなんだか、タロウ君を気に入っている様だし。


きっと可愛がっている事自体は間違いない。

タロウ君は、彼自身が思っている以上に師匠達に大事にされている事は間違いない。

でもそれだけじゃ無い筈だ。絶対に、そんな事は無い筈だ。

あのアロネスだよ。戦場でだって、真正面から一対一なんて絶対にやらないあいつだよ。


あいつの罠にどれだけかけられたと思ってるんだ。今でも忘れてないぞ、何度も何度も罠にはめられたのは。

全部力押しで壊した私が恨み言を言うのは筋近いかもしれないけど、それでもあの嫌らしさは理解している。

あの男が素直に優しくするなんて、考えが甘い。


「多分タロウ君関連か、イナイ関連で何か有ると思うんだ」

「タロウさんよりも、イナイさんの方が可能性は高そうですね」

「まあねぇ、なんたってステル卿だからねぇ」


うちの国でも、家庭に普及してるイナイが作った技工具は少なくない。

街灯なんて当然の事、家庭にある小さな技工具も大半がイナイ開発作だ。

彼女の存在は、あまりに大きい。


その彼女に何かしらの問題があり、伴侶であるタロウ君を守るという名目で絡めという事かな。

うん、これは可能性がありそうだ。

とはいえ私の耳には、イナイが問題を抱えているという話は一切聞いていないのだけど。

むしろ彼女が危険な目にあう可能性なんて、遺跡関連しか考えられないし。

私が戦った中で、イナイは3番目に強い。彼女を下せる人間なんて、そうそういる筈が無い。


本当に強かったな、彼女。ただ戦う力だけじゃなく、その心がとても強かった。

戦う事に、振るう拳に信念の宿った、本物の強い人間だった。

彼女は私が尊敬する人間の一人だ。


「うーん、考えれば考える程、解らないなぁ・・・」

「本当に、ただタロウさんの身を案じただけの可能性も有るのではないですか?」


ここまで解らないと、本当にそうなのかと思えてくる。

確かに彼もタロウ君を可愛がっているのは事実だしなぁ。

タロウ君関連で面倒ごとって・・・。


「あ!!」

「ど、どうされたんですか?」


有った!

凄く大きくて、凄く面倒な案件があった!

正直言って絶対関りになりたくないって思っていた案件があった!

絶対あれだ、あれに私達を絡ませる気だ! それもきっと面倒な位置に立たせる気だ!


「くっそ、やられた! あいつやっぱり最悪だ!」

「お、落ち着いて下さいギーナ様」


火を噴きそうな程に叫ぶ私を見て、ファルナが肩を掴んで落ち着かせようとする。

私はそれに応えふぅふぅと肩で息をしながら、ゆっくりと心を落ち着ける。


「出来るかー!!」

「ちょ、ちょっとギーナぁ!」


落ち着いてられるかー!

関わったら絶対面倒な事になるから、関わらないって決めてたのに!

国土も遠いしこっちから行かなきゃ絶対向こうは来ないだろうから、皆にも関わらない様にって言ってたのに!


「ギー、ギーナ!お願いだから落ち着いて!」

「ふぅー!ふぅー!」


私の怒り様を見て、ファルナが部下でなく親友としての態度になってしまっている。

使用人達は何事かと覗きに来るが、私が暴れているのを見てそそくさと消えていく。


何とか心を静め、ドカッとソファに体を沈める。

今すぐどうにかはならないけど、今後絶対面倒くさい事になると、本当に頭を抱えてしまう。

間違いなく、面倒くさい事になる。解決できないなんて事はない自信はあるけど、絶対面倒な事が起きる。


「帝国絡みに協力しろとか、止めてよほんとぉ、あそこの人間本当にうっとおしいんだから・・・」


遠いか近いか判らない、いつか来るであろう未来の話に、心底面倒な気分を込めて呟いた。

あいつ今度泣かす。絶対泣かす。

私が苦手とか知った事か。

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