第486話ドッドさんがボコボコです!

「すみませんでしたぁ!」


今俺の目の前には、何故か縛られた上にぼっこぼこにされたらしい痕の有るドッドさんが頭を下げている。

彼の後ろには、表情は解らないが怒りの雰囲気を纏うドローアさん、冷たい目のレイファルナさん、何より体が服の中で蠢いているビャビャさんが居た。めっちゃ怒ってる。


「あ、あの、これはどういう事でしょうか」


因みに現在、朝食を皆でとっている所であり、他の人達の目も有るのだがそこは良いのだろうか。

そう思っていると、皆そそくさと食堂から去って行く。厨房の奥から出てきた宿の親父さんは、鼻に皴が集まっていて機嫌が悪そうだ。


「朝っぱらから何だ一体。迷惑な」

「すみません、ですが今日はお許しを。早急にやっておかねばいけない事でしたので」

「何やったんだ、このバカ」


縛られて今も頭を下げているドッドさんを見て、目を細めながらドローアさんに問う親父さん。

俺も何で彼が頭を下げているのかが、良く解らない。

イナイがさっきから俺にどういう事だっていう視線を送って来るんだけど、俺だって知らん。


「先日、我々の命を救って下さった恩人であり、ウムルからの客人であり、これからの重要人物でもあるタロウさんに、軽い手合わせならばともかく、彼を気絶するまで叩き伏せたそうです」

「訓練、と、しての、報告も、何も、なし。後の治療も、してない」


レイファルナさんが絶対零度の目でドッドさんを見ながら説明し、ビャビャさんも声は相変わらず可愛いのだが怒気を感じる声音だ。

もしかして、昨日の手合わせでドッドさんこうなってるの?


「スエリとの言い合いで口を滑らしてくれたおかげで判明し、早急に謝罪をと」


ドローアさんの尻尾がさっきから床をべしべし叩いてるんだけど、あれはもしかして怒ってる動作なのかな。

口調は冷静な感じなんだけど、態度に出ちゃう人なのかも。


「だからって、もうちょっとやり方があるだろうが。俺の宿だからって気軽過ぎるぞお前ら」


親父さんは頭をかきながらため息を吐いている。既にお客さんは食堂に一人も居ない。

これは確かに迷惑だと思う。


「すみません、貴方の宿だと甘えたのは事実です」

「たく、埋め合わせはしろよ?」

「はい、勿論」


ドローアさんは親父さんの言葉に頭を下げて了承すると、親父さんは奥に引っ込んでいく。

奥からチラチラこちらの様子を見る息子さんが、親父さんに襟首掴まれて引きずられて行った。


「成程、先日のタロウとの手合わせが、この現状の原因という事ですか」


得心がいったと頷くイナイ。シガルは少し首を傾げている。

クロト君は我関せずデザートを食べてます。君甘い物食べている時だけはハクより自由人よね。

ハクは勿論未だ一切を気にせず食べている。ドッドさんが謝罪をした時もちらっと見ただけで食事を続行していた。


「あー、えっと、手合わせ自体は別に、俺も同意した事なので、ここまでしなくても」

「そうはいきません。万が一が無い様に人置いて、衆人の中の手合わせならばともかく、このバカは貴方が強く無かったら殺していた可能性がある事をしたんです」


俺は今も頭を下げた状態から動かないドッドさんが少し不憫になって彼を擁護するが、レイファルナさんがぴしゃりと否定する。

確かにこの人の相手は色々やばいと思ったけど、加減は上手い人だったと思うけどな。

少なくとも死ぬ様な攻撃は、一度もされていない。


「タロウさん、が、強いの、は、知って、る。けど、それと、これと、別」


ビャビャさんがホラー映画でありそうな、今にも服が内側から破れそうな動きで俺に説明をするが、少し落ち着いてと言いたい。

何でそんなに怒ってるの。


「確かに、現状を考えると、タロウに万が一が有りかねない事をしたという事実は、あまり良くない話になるでしょうね」

「はい、ですのでタロウさん、並びに皆さま方への謝罪をと。ドッドだけでなく、我々も同じく同罪と認識しております」


ドローアさんはイナイの言葉に応えると、膝をついて頭を下げた。

ビャビャさんとレイファルナさんも彼女に続く。


「タロウ殿、皆様、この度は、まことに申し訳ありませんでした」


静かに謝罪を告げるドローアさんと、頭を下げたまま微動だにしないレイファルナさんとビャビャさん。

イナイにどうした物かなと視線を向けると、彼女は小さくため息を吐いてから口を開いた。


「私共としては、謝罪は受け入れる所存です」

「ありがとうございます。寛容なお言葉に感謝いたします」


あ、これ普通に謝罪を受け入れるって言えば良かっただけなのか。

でもそれならここまでやる必要もない様な気がするんだけどなぁ。俺は別に気にしてないって言ったんだし。

うーん、俺がどうこうじゃなくて、後々こんな事があった事が発覚して、それに対し何の明言も無かった事が問題になるからって所かな。


「今回の事は、彼らが手合わせをした場がどうであったかは存じておりませんが、彼らが共に出かけた事は私も知るところです。ですので私も許可の上での判断という事で構いません」

「ありがとうございます。その様にさせて頂きます」


イナイの言葉にもう一度頭を深く下げ、立ち上がる三人。

ドッドさんは今だ頭を下げた体勢で固まっています。そろそろ許してあげて欲しいな。

ていうか、顔がめっちゃ腫れ上がっていて痛々しい。どれだけ殴られたんだ。


「あ、あのー、ドッドさんも、悪気は無かったと思いますし、そろそろ許してあげても。後その痛々しい顔も治してあげた方が」

「このバカはこの後も謝りに行く所があります。このまま行かせます」

「むしろ、もう一発、殴り、たい」

「今回は久々に本気で頭に来ましたよ」


だめだ、女性陣が皆怒り心頭過ぎる。怖い。

この人他に何やったんだ。


「では、早朝から失礼をいたしました」


彼女達は軽く頭を下げて去って行き、ドッドさんは縛られた縄を引っ張られながらとぼとぼとついて行った。

手合わせをした時の快活さが一切見えない、悲しくなる姿だった。

今度何かフォローしに行こう。俺も申し訳なくなってきた。


「俺は本当に気にして無いんだけどなぁ・・・」

「気にしてねえのは向こうも解ってるよ。解った上で来たんだ。お前の性格に甘えてなあなあで済ませる事を良しとしなかったんだよ」


あー、一応向こうも俺が全く気にしてないのは理解した上か。

ビャビャさんもそれとこれは別って言ってたもんな。

報告なしで色々やったってのも問題だったのかもしれない。何かほかにも謝りに行くらしいし。


「ビャビャさん・・・迫力あったな・・・」


シガルが何やらさっきのビャビャさんを思い出している様だ。

迫力あったっていうか、単純に怖いよあんなの。ぶちぃって服破れて何かが中から出てきそうだもん。


「・・・甘い」


クロト君幸せそうですね。

まあいいや、俺も食べよ。まだ食べ終わって無いのだよ。

つーかハクさんよ、俺の分まで食ってんじゃねえか。

何でイナイとシガルのには手を出してないのに、俺のだけ食ってんの。


「追加頼んでこよ・・・」

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