第485話ギーナさんの側近の実力を知ります!
「かっ、はっ」
胸に流しきれない衝撃を受け、はるか後方に吹っ飛ぶ。
暫く滑空し、地面に背中から落ちてごろごろと転がり勢いを殺し、地面を叩いて体を起こす。
強化と保護をかけていたので深刻なダメージは無いが、胸にびりびりとした衝撃が残っている。
「おー、凄い凄い。今のに反応するかぁ」
起き上がった俺を見て、手を叩きながら楽しそうに笑う岩の人。もといドッドさん。
何故か今日はあの人と戦闘訓練をしている。いや、実際は訓練という名目で俺の力量を調べたかっただけだ。
だって訓練場っぽい広場に連れて来られて周りには誰も居らず、俺しかあの人の相手してないもん。
「ビャビャに付き合ったんだし、今日は俺に付き合おうぜ」
つって連れ出された。
俺、昨日の学校のレポート書いてたんだけどな。
「話には聞いてたけど、ほんとに凄いな、君」
「そ、そういうのは受けきれる速度で放ってから言ってくれませんかね」
3重強化でギリギリまともに食らわない様に下がる事が出来たけど、ほぼ反応出来なかった。
4重強化なら何とか追いつけると思うけど、向こうは常時その速度でこっちは制限時間付きだ。
勝てねぇわこれ。
しかもその上、あの動き加減してだからたまったものじゃ無い。
「じゃあ次は右から行くよー」
右腕をグルグル回しながら宣言するドッドさん。おそらく右は、彼から見て右だろうな。
呼吸を無理矢理整え、いつもの右手を前に出す半身の構えをとる。
と、同時に彼が視界からぶれた。
ぞくり、と下方から悪寒を感じ、反射的に体を後ろに仰け反らせる。
それにほんの少し遅れて俺の顔が有った位置にアッパーカットが走り、彼が前蹴りを放つのが見えてギリギリガードを間に合わせる。
踏み留まって受ける度胸は無く下がりつつ受けるが、それでも腕が痺れるような衝撃と共にまた吹き飛ばされた。下がりながら受けたのに腕が折れるかと思ったぞ。
「おー、やっぱり凄いな、受け止めるかぁ」
彼は追撃をせず、腕の痺れに耐えている俺を見て感心した様に言う。
この人、強すぎる。ミルカさんやセルエスさん達と同クラスだ。
多分4重強化しても、間違いなく簡単にいなされる。
でも―――。
「ふっ!!」
どうせもう手はバレてる。隠す意味も無いし、やってやれ!
4重強化をして全力で突っ込み、フェイントを織り交ぜつつ打撃を放つ。
「おお、凄い凄い」
俺は全力全開の本気で動いているが、彼は余裕の笑顔で打撃を捌いてゆく。
フェイントにかかって尚、本命の打撃を弾くという、明かに生きてる時間軸の違いを見せつけられた。
彼の防御の手以外に触れない。服に触る事すらできない。
「よっと」
明かに先の攻撃よりも遥かに早い、残像しか見えない様な蹴りを腹に貰い、後ろに飛ばされる。
一応打点はずらしたけど、やっぱりギリギリ反応できるレベルだ。
またも地面を転がり、体を跳ね上げて体勢を立て直す。
「うんうん、良い反応。ここまでまともに入れられない子と会うのは本当に久々だ。良いなぁウムルの英雄たちは。良い弟子が居て羨ましい」
感心すると同時に、本気で羨ましそうな声音で彼はしみじみと言った。
つまり、この国には彼の後継者と呼べる様な人間は居ないという事だろうか。
「リガラットには、居ないんですか?」
痛みを誤魔化しながら構えをとり、休憩をする為にあえて辛いのを我慢して喋る。
腹に食らったから、本当は喋るの辛いんだよ。でもちょっと休憩したい。
4重強化も一旦落として、仕込み状態で構えてる。魔力が足りねえっつの。
「うーん、筋が良いのは居るんだけどさぁ。ほら、今のリガラットって平和になって来てるし、仲良く学びましょって空気が強くなってるからさぁ。こっちに力入れる子って少ないのよ」
拳を握りながら彼は語る。
そうか、リガラットではあまり軍事的な物は進めていないのか。
それはそれで少し危険な気もするけどな。他の国もこの国を認めたとはいえ、まだ『亜人』と見下す国も無くは無いらしいし。
ギーナさんや彼らが存命のうちは良いが、その後が心配だ。
「それに力があっても、心が伴ってない奴じゃ話にならない。力を振り回すだけの人間はうちには要らない」
寒気がするような鋭い目で語る彼に、力の意味を問われた気がした。
俺は彼が言う様な、心の伴った力を持っているとは言えない。
メンタル弱い自覚有るし。
「そうなると、教え甲斐がある奴は少なくてさぁー。ほんと羨ましいわぁー」
さっき迄の真剣さの一切が消え、だらーんと項垂れるドッドさん。
そこまで居ないのか。でも俺は魔術が使えなかったら、この国の子供にも色々負けるんですけど。
昨日の虎の子とか、力じゃ絶対敵わない。
「さって、休憩は出来たかい?」
項垂れたまま視線をこちらに向け、十分に休息は取れたかと質問をされてしまった。
時間稼ぎが完全にばれてら。
「ええ、まあ、何とか痺れは取れてきました」
完全に取れたわけじゃないが、動けない事は無い。
正直腹に食らったのがかなり響いてて、動くの辛いけど。
「うん、良いね。結構重めに打って影響も出ているだろうに、まだやる根性も有るか。腹の一撃の影響を誤魔化せる程度に鍛錬を積んでるのは本当に良いね」
おうふ、腹の一撃の影響がデカいのも全部バレてるじゃないですか。
まあ、あれだけ思い切り貰ってればそう思うのが当然か。打点を何とかずらしただけで、躱したわけでも流したわけでもないからなぁ。
リバーにモロに食らってたら吐いた自信がある。
「じゃあ、すこーしだけ、本気で行こうか」
彼の言葉とその後に放たれた攻撃に、俺は続けると言った事を心底後悔した。
先の残像の様な攻撃を何度も貰い、ほぼ抵抗出来ずにノックアウトされた。
動いたと思ったら既に貰っていたし、連撃で来られると貰った後の立て直しも何も出来ない。
一応全く見えないって事は無いんだけど、全てがぶれて見えるだけで対応出来なかった。
「うーん、流石に無理だったかぁ」
意識を取り戻した時に、彼はカラカラと笑いながら言った。
せめて意識が飛ぶ前に止めてほしかったなぁ。
しかも彼、魔術は得意じゃないらしく、素の性能であれだ。
ニョンさんといい、この人といい、本当によくこんな人達奴隷にしようとか思ったな昔の人族!
「でもそれでも良い動きだった。躱せない受けられないと判断して、致命にならない様にずらして食らっているのを見た時は、本当に良く鍛錬を積んでいると思ったよ」
「まあ、ついて行けない動きの相手にぼっこぼこにされるのは割と慣れてるんで」
リンさんとかリンさんとかリンさんとか。後リンさんとか。
真面目について行けない速度で打ち込んでくるからな、あの人。
何回骨折して、何回のたうち回ったか。
「しっかし強いですね、もしかしてこの前の遺跡探索の面子って、皆同じくらい強いんですか?」
よく考えたら魔人相手の戦闘になる可能性が有るのに、彼らは探索面子だったんだよな。
それも彼らはチーム分けでは身内の居ない状態だった。つまり最悪単独で戦う状況になる可能性があって、それでもどうにか出来ると思われていたんだ。
ギーナさんが有名すぎて陰に隠れてただけで、彼らも凄まじい。
いや、この国では彼らも有名なのかもしれないな。
「あー、俺よりドローアとフェロニヤの方が強いよ。特にフェロニヤ。あいつ本気でやるとシャレにならないから」
マジかよ、あの喋らない人そんなに強いのかよ。
何この国。本当にこの人達奴隷として圧迫された環境に生きてたの?
明かにもっと、自由人として生きて行ける力あると思うの私。
「流石にギーナ様には誰も勝てないけどさ」
やっぱりギーナさんの方が強いのか。
あの人リンさん倒した人だもんな。格が違うよな。
しかしとんでもないな。
あ、そういえば遺跡探索面子にビャビャさん居たって事は、あの人も強いって事だよな。
でもあの人、可愛い声と学校でのイメージが強すぎて戦う所が想像できない。
他の人は何となく解るんだけどなぁ。
「あ、因みに俺達の中で一番弱いのはスエリだよ」
意地の悪い笑みをしながら言うが、この表情は何となくだがアロネスさんのいたずらの時を思い出す。
あんまり信用しちゃだめだなこれ。
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