第484話子供相手は相変わらずです!
「じゃーなー、タロウー!」
「もうちょっと勉強しろよタロウー!」
「明日も来いよなー」
「またねー、タロウ君ー」
「タロウお兄ちゃんばいばいー」
本日の学習を終え、それぞれ帰って行く子供達に手を振りながら別れを告げられる。
何だか知らないが、勉強に一緒に参加した後彼らの遊びにも誘われ、一緒に遊んだら懐かれた様だ。
いや、あれは懐かれたっていうか、単に同レベルの遊び相手が出来たって認識だな。
「何で俺、基本的に子供達に大人扱いされないのだろうか」
いや、原因は解ってるけどさ。
自分が身長低くて童顔で、性格も大人とは言えないからっていうのは良く解ってるけどさ。
もう少しこう、年長者扱いしてくれても良いんじゃね?
「申し訳ありませんでした、てっきりビャビャ様がこの学校で学ばせるために連れてきた子だとばかり」
「あ、いえ、気にしないで下さい」
俺の呟きに頭を下げる先生。俺の頭を撫でて褒めた先生だ。顔は蛇みたいな感じで、目がクリッとしてて凄く可愛い。爬虫類系の人の顔って、大体愛嬌ある顔してるな。
ドローアさんは目つき鋭いけど。
この先生は体も蛇に近い感じで、何というか曲がらない所が無い。手足も有るんだけど、腕がぐるんと丸まったのを見た時はビビった。
俺の事情を後で知って慌てたらしいけど、俺としてはお仕事にお邪魔してる様な物だからあまり気にしないでいただきたい。
良いんすよ、成長してない俺が悪いんすよ。でも流石に勉強面で子供達に負ける事は無かった。
遊びは素の状態でやってたから、結構負けたけど。
虎みたいな姿の子とか俺の腰ぐらいの身長なのに、俺より力が強いわ子供なせいか際限のない体力を感じるわ、ついて行くのが大変だった。
途中から完全にばてちゃったよ。
その後は静かな子たちの集団に混ざって色々と話を聞いた。
学校が楽しいかとか、国外ってどういう所だと思ってるかとか、最近子供達の間で流行っている事は何かとか。
知りたかった事も、他愛もない事も、色々と聞けた。
体を動かすのが好きな子も苦手な子も居るし、勉強よりも学校に来ること自体が楽しいって子もいた。友達がいるから学校に来るんだって子は少なくなかった。
勿論勉強をして、将来ギーナさんの役に立ちたいって言ってる子も、結構いたけどね。
これからは力を振るうばかりじゃダメなんです、頭も使えないといけない時代が来るんですと、俺の1,5倍ぐらいの大きさの子に言われた時は「そ、そうですね」としか返せなかったけど。
あれで子供って、大きくなったら宿の親父さんぐらいになるのだろうか。それともあの子が大きい子だったんだろうか。聞けばよかった。
「今日は、これで帰る感じですかね?」
「案内は、終わり。私はこの後、教員達と、話が、ある。ここで、お別れ」
彼女は別のお仕事が有るのね。
もしかして、俺のせいでその仕事止めさせちゃったのかな。
「もしかして、ビャビャさんの仕事の邪魔してました?」
俺の問いに、彼女はゆっくりと首を振る。
首を振ると触手がプルプル震えている。こうやってじっくり見ると、ちょっと柔らかそうで触ってみたい。男性ならともかく、女性に触らせてっていうのはちょっと頼めないけど。
女性と気が付かなかったら頼んでた可能性あるから、その前に気が付けて良かった。
「うう、ん。今日、子供達を見て、話したい事が、ある、だけ。気に、しないで」
ああ、今日気になった点を話し合う感じなのかな?
ギーナさんは教育機関に一番力を入れてるのは彼女だって言ってたし、やっぱり熱心なんだな。
それに俺が子供達と遊び始めたあたりから、彼女も子供達の相手をしていた。
子供達は彼女によく懐いていたし、彼女の子供達に対する態度も優しいものだった。
あれだけでも、彼女がただ子供達に勉強を詰める為だけに学校を作ったのではないと解る。
何より男女問わず彼女に懐いている子供たちの態度から、彼女がとても好ましい人なのだと感じられる。でも子供達も彼女の表情は判らないみたいだ。
彼女の表情当てゲームは悪いけど笑った。彼女がどんな顔をしているのかを子供達が当てるという遊びをやっていたけど、皆完全に勘だった。
怒りの表情だけは、皆すぐ判ったみたいだけど。
彼女は怒ると体中の触手が勢いよく蠢いて、頭回りの触手とかはぶわっと浮き上がるみたいだ。
勿論わざと怒りの表情を作ったので怒ってはいなんだけど、怒るとそうなるらしい。
怒られた事がある子が、ああなると怖いんだと言っていた。
いや、ああなると怖いんだっていうか、あの状態がもはや怖かったよ。
今日はビャビャさんパンツルックだけど、その服の内側が不規則に動いて頭の触手がうにゃうにゃ動いてる様は正直普通に怖かったよ。
「学校、どう、だった?」
俺の顔を覗くような動作で、首を傾げながら聞いて来るビャビャさん。
動作は可愛いんだけどなー。声も凄く可愛いんだけどなー。
人族か、そうじゃなくても獣系ならこの人物凄くもてそうだよなー。
「楽しかったですよ」
「そう、良かっ、た」
失礼な思考を追いやって素直な感想を告げると、彼女はとても嬉しそうに言った。
相変わらず表情は全然分からないが、その声音が嬉しくて堪らないと感じた。
彼女は表情からその想いは読み取れないけど、話せば解り易い人だな。
「ビャビャさん、最初解り難い人だと思いましたけど、結構解り易いですね」
「そ、う?」
子供達と話している時も、彼女の声音はとても柔らかく優しい声だった。
口数はそんなに多く無かったけど、子供達を想っている事が解る、心地の良いと言える声だった。
「ええ、会話しないと誤解しそうですけど、話すととても」
彼女はその返答をどう受け取ったのか、その後しばらく口を開かずにじっと俺を見ていた。
何だろう、気を悪くさせちゃったかな?
「タロウさん、は、良く喋る、方が、良い?」
「え、まあ、話して意思疎通できるなら、その方が良いと思ってますけど」
「そ、う、解っ、た。頑、張る」
何を頑張るのだろうか。もしかしてビャビャさん喋るの苦手なのかな。喋り方も独特だし。
今日は学校関連の事だから俺に良く話しかけてきたけど、普段は子供達と話していた時と同じぐらいで、あまり喋らないのかもしれない。
彼女の人の好さを感じた身としては、喋って誤解が無い様にあったほうが良いなとは思うけど。
「・・・タロウさんが、気にいって、くれて、良かっ、た。ここは、私と、ギーナ様の、夢。良いと、思って、くれて、嬉しかっ、た」
夢。
ここが彼女達の夢を形にしたもの、か。
ギーナさんの話を聞いた身としては、その夢の実現が彼女にとってどれだけのものか計り知れない。
彼女はこの夢を現実で見る為に戦って、折れてしまった人なんだから。
そういう意味では、彼女こそがギーナさんの本当の賛同者なのかもしれないな。
「素敵な夢だと思います。本当に、素晴らしい夢だと。何よりも夢で終わらせていない事に、尊敬します」
この夢は、明日を見た夢だと思う。今より更に前を向いている夢だと思う。
だから素敵だし、夢を夢で終わらせない彼女を尊敬する。
「あり、が、とう」
彼女は心底嬉しそうな礼を返してきた。
それ以上の満足は無いとばかりの、嬉しそうな声だった。
やっぱり彼女は、話した方が良いと思う。その方が可愛らしい女性だと、誰もが解ると思った。
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