第471話遺跡の対処です!
翌朝、ギーナさんの屋敷の客間に全員揃い・・・いや、揃ってないな。
二人足りない。どうやらまだ回復していない様だ。
倒れた二人を抜いて皆揃い、全員が並んで座る俺とクロトを見つめている。
俺はベッドから起き上がって、イナイに少し支えられて座ってる状態だけど。
「で、約束通り説明を頼むぞ」
アロネスさんが俺達に説明を促し、俺とクロトは知っている事、解っている事を皆に話した。
勿論、もしかしたら皆が俺を殺さなきゃいけない可能性も、ちゃんと全部。
ただそこに関してはクロトが何とかすると言った後、皆それ以上突っ込まなかった。
俺が言うのもなんだが、それで良いのか。
説明を聞いたアロネスさんは、自分達を襲った痛みに関しては予想が付いていたと言った。
外に出て一息ついて、体の状態が仙術を食らった時に似ていると思ったらしい。
遺跡で動けなくなっている時も、魔術を使おうとするとかなり負荷が有ったりしたそうで、多分生命力自体に異常を起こしているのだろうと思ってはいたそうだ。
予想通り、ミルカさんからの攻撃で体に少し耐性が付いてたんだろうな。
仙術の使用の初期訓練もちょっとだけやった事有るらしいし。
遺跡を破壊した事に関しては、あの遺跡が有る事でまた同じような事が起きるなら破壊した方が良いと、ギーナさんが言ってくれたのでほっとした。
ただ、そこまで壊すつもりなら先に言いなさいと怒られた。
仰る通りです。
「しかしそうか、遺跡は壊した方が良かったか・・・」
全ての説明が終わると、アロネスさんが呟いた。
少し面倒くさそうな表情だ。
「今まで発見した遺跡って、全部そのままなんですよね?」
「壊したら何が起こるか解らねぇと思ってそのままにしてるな。けど今回の事で壊した方が良いと解った以上全部壊す」
成程、壊した方が危険な可能性も有ったって事か。
そりゃそうか。得体のしれない存在が出て来る遺跡だもんな。
壊して後々何か有る方が面倒と思うか。
「でもその場合、タロウ君の協力が必須じゃないかな。ただ壊しただけじゃ逆効果かもしれないわよ?」
「ミルカが居ますので、手分けは出来ますね。私も多少は使えるのですが、話を聞くに威力が足りませんね」
ギーナさんの疑問にはアロネスさんではなく、イナイが応えた。
予想はしてたけど、やっぱりイナイって一応仙術使えるんだな。
前にそれらしい事は言ってたし。
気になってちょっと聞いたら、どうやら俺が普段使ってる中距離攻撃一発使うだけで戦闘不能になるらしい。
うん、威力が間違いなく足りないです。
遺跡に居たあいつ吹き飛ばすには、俺の全力でも多分足りない。
それにもう一つ問題があると思う。
「あのー、多分、俺かクロトが行かないと遺跡に居る何かが見えないと思うんだけど」
「遺跡丸ごと破壊しても駄目なのですか?」
「遺跡っていうよりも、遺跡の更に下の方に有る何かを壊さないと多分後々危ないと思う」
「ということは遺跡は補助で、メインはそっちですか。遺跡が機能しなくなっても大本が残ってるのは確かに危険ですね」
そう、だから俺は大本を壊した。
最初の一発で命を吸う機能の様な物を壊しても安心できなかったから、大本を完全に壊した。
壊した時はまだそいつを認識出来てて、吹き飛ぶのも確認してから転移した。
だからあそこにはもう、本当に何も無い。
「ただ問題は、今の俺って普通の状態に戻ってるから、見えるか解らないんですよね」
「遺跡に居る時はクロト君と同調してたんだっけ。ならクロト君、意図的に同じ状態に出来ない?」
「・・・あの時は必死だったから、今はちょっと難しい。ごめんなさい」
クロトはギーナさんの問いに、申し訳なさそうに返事をする。
話しかけられた瞬間、少しびくっとしていた。やっぱ怖いんだな。
ギーナさんは怖がられている事に気が付いてるっぽいんだよな。ちょっと申し訳ない。
「良いの良いの、謝らなくて。そっか、んー、じゃあどうしたものかなぁ」
ギーナさんは特に気にしたそぶりを見せずに手を振って応え、頬に手を当てて首を傾げる。
「その大本が残ってたとしても、遺跡自体は壊した方が良いのかな~?」
羊の人がのんびりとした口調で問うと、何となく空気が緩んでいく様に感じた。
セルエスさんとは違う緩さだなぁ、この人。
あの人の緩さは胡散臭いけど、この人は何か和む。
「それは危険だろう。遺跡の仕掛けが見えているならばともかく、ただ壊しただけではやはり何が起こるか解らん。それに何よりも、どの遺跡も同じ仕掛けとは限らんだろう。
事実その少年は唯一、人の魂を飲み込んで出てくる筈だったんだろう?」
虫の人が渋い声で指摘する通り、その危険はある。
今回の遺跡はクロトがトリガーになっていたみたいだけど、他の遺跡も必ずそうとは限らない。
もしかしたら遺跡を単純に破壊した事で、周囲から命を吸い上げる危険だってある。
「ですが破壊した方が良いと解った以上、放置しておく方が危険でしょう。彼が一つ破壊するたびに寝込んでしまう程消耗する事が解った上で頼むのは心苦しいですが、他に手がない以上お願いするべきでは」
・・・リザードマンっぽい人が初めて口開いた事に驚いた。
だって、すげー綺麗な『女性の声』だったんだもん。
思いっ切り男の人だと思ってました。すみません。
「そうだね。俺もビャビャとレイファルナの事を考えると、遺跡をそのままにしておくのは危険だと思う。あいつらがなす術なく倒れるような危険な物、いつまでも放置はできない」
岩の人がリザードマンの人に続くように言うと、ギーナさんが困ったようにこちらを見る。
多分、取れる選択肢が無いけど、俺に頼んで良いのかどうか悩んでるんじゃないかな。
とはいえ、今の俺って一応ウムルの仕事で来てる様な物だから、勝手にやるって言ったら不味いよね。
「タロウ、今回の件は契約からは完全に逸脱している仕事です。勿論報酬は支払いますが、遺跡の破壊に関しては機密書類に記載されるだけで、表の業績とはなりません。貴方の体の負担も半端な物ではないでしょう。ですから貴方には断る権利が有ります」
どうした物かなと悩んでいる俺に、イナイが静かに語る。
てっきりやれと言われるものだと思ったら、断って良いと言われた事に驚いてしまった。
でもこれ断ったら、皆が困らない?
「ええ、そうね。タロウ君は国を背負うような立場に無い。今回の事に義務は一切ない。遺跡の破壊を苦労して全て終わらせても、世間からの評価は一切ない。勿論私達や、機密を閲覧しなければいけない立場の人間は評価するけど、それで終わり。だから無理強いは出来ない」
イナイに続き、ギーナさんも俺に無理矢理頼むことはしないと言う。
世間的な評価か。いやまあ、そこは別に必要としていないので構わないんですけどね。
「あー、もー、面倒くせえな。いいじゃんか、タロウに素直に頼めば。こいつならやるって」
「アロネス・・・」
「・・・台無し」
そして真剣な空気の中、身も蓋も無い事を言うアロネスさん。
イナイはアロネスさんをジト目で見つめ、ギーナさんは頭を抱えた。
いやまあ、頼まれればやりますけども。アロネスさん空気完全ガン無視だな。
「阿呆。形式や、タロウの判断に任せるなんて言ってる場合か。あの遺跡は危険だ。今回は助かったから良い。けど、タロウが居なかったら俺達は死んでいた。
そして次は、俺達じゃない誰かが死ぬかもしれない。そんな悠長な話じゃねえだろ」
だがアロネスさんは、二人の反応に少し怒気を孕んだ口調で語る。
そして俺をまっすぐに見つめた後、深々と頭を下げた。
「タロウ、手を貸してくれ。お前にしか出来ないし、お前にしか頼めない。頼む」
真っ直ぐに、アロネスさんが俺に頼んできた。
その姿を見てイナイは目を丸くし、ギーナさんは「へぇ」と呟いて笑った。
「そうだね、言う通りだ。申し訳ない」
ギーナさんはそう言って佇まいを直し、アロネスさんと同じように頭を下げた。
俺の方を向いて、深々と。
「リガラット共和国盟主としてお願い致します。タロウ殿、どうかお力添えを」
ギーナさんが言い終わると、ギーナさんの配下の方達も皆頭を下げて来る。
まさか頭下げてまで頼まれると思って無かったし、あのアロネスさんが俺に頭を下げるとも思わなかった。
なのでただ今少しパニックになっています。
「あ、っと、その」
「タロウ、私からもお願いします」
そして隣で俺を支えているイナイからも、同じように頭を下げられてしまった。
この状況で断れる強心臓の人間っているのかしら。
居るんだろうなぁ。
俺はそんな事無いので、素直に受けます。元々受けるつもりはあったし。
「えっと、俺で良ければ」
そう答えると、皆感謝の言葉を俺に告げてから頭を上げた。
シガルがなんかキラキラした目で俺を見てる。何かあの目久々に見た気がする。
心なしクロト君が得意げなのは気のせいかしら。
ハクはベッドで丸まってるから、聞いてるのか聞いて無いのか解んない。寝息は聞こえないので起きてるとは思う。
「ただ、クロトと繋がれないと役に立てないと思うので、今すぐっていうのは無理だと思いますけど」
「うん、勿論そんな無茶は言わないよ。大体その前に、今のタロウ君自力で立てないじゃない」
そうですね。今の状態だと、遺跡破壊どころかその辺の子供にも負けそう。
とりあえず俺が回復したら、クロトと同調の訓練をする方向で話がまとまった。
回復して同調出来る様になったら、まずはリガラットに有る遺跡を破壊して行きたいそうだ。
次は各国で確認されている遺跡を破壊。ウムルは一番最後にやるつもりらしい。
ギーナさんの配下の人族っぽい人、結局一言もしゃべらなかったな。
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