第469話扱いきれていませんでした!
「よっと」
生き埋めになる寸前に、転移で上空に移動。
ちょっとタイミング見誤って、本当に埋まりかけて焦った。
そして焦って転移したのでかなり上に飛んでしまった。
「これ強化と保護かけないと死ぬなぁ」
自由落下しつつ、遥か下方の地上を見る。
山の中にあった遺跡が崩壊した事で、地形が凄まじく変わってしまっている。
間違いなく怒られるだろうな、これ。
「うぐっ、つう」
魔術を使おうとすると、右腕に異常な痛みを感じた。
見ると肩から先が血みどろで、骨が肉突き破っている状態で骨折していた。
怪我が大きすぎて、痛みが自覚出来なかったみたいだ。
仙術によるダメージなおかげで、魔術の使用に抵抗があったから気が付けた。
「ちょ、やばいやばい、千切れてなくてよかったあ!」
ちゃんとコントロールしたつもりだったのに、仙術の反動に完全に持っていかれとる。
内部ダメージどころか、思いっ切り外傷まで出てる。指とかぐっちゃぐちゃじゃねえか。
自分の腕の状態見る暇なんて無かったから、転移する前は全然気が付かなかった。
「治癒魔術はいけ、ぐあっ、つうっ!」
仙術の反動がきっつい、死にたくなかったら治癒後回しにして全力で保護かけるしかないか。
このまま地面に叩きつけられたら潰れたトマトが出来上がる。
痛みを堪えて何とか身体保護と強化をかける。
地上に落ちた時の衝撃でこれ以上右腕が悪化しないよう、左手で抱きしめながら落下に備える。
「転移の時はダメージ深すぎてマヒしてたんだろうな。段々痛みが増してきてるし」
単純に腕の痛みだけじゃなく、仙術の痛みも増してきている。
下手すると、痛みが全身に回ってくる可能性があるな。
腕の治療はイナイ達に任せよう。自分じゃ痛すぎて辛いわこれ。
保護と強化維持するだけで精いっぱいです。
「イナイ達はちゃんと安全地帯に移動してるし、今は自分の安全だけ考えるか・・・あれ?」
落下の衝撃に構えていると、こちらに何かが近づいて来るのが見えた。
あ、ハクだ。
高速でこちらに接近し、あっという間に俺の目の前までやって来た。
『何やってるんだタロウ』
「落下してるんだよ、見て解ってくれよ」
助けに来てくれたのかと思ったら、受け止める事も無く俺と同じ速度で落下していくハク。
この高さから落ちる位なら多分どうとでもなると思うけど、普通は受け止めない?
いや、今はちょっと調子おかしくなってるし危ないか。素直に助け求めよ。
「ちょとやり過ぎた。悪いけど助けてくれ」
『解ったー』
ハクは返事をすると俺の体を抱え、ゆっくりと落下速度を落としていく。
そこで俺は力を抜き、魔術も解いてハクに完全に体を任せた。
そしてハクはそのままゆっくりと、イナイ達の所に着地する。
『立てる?』
「一応、立てると思う」
ちょっと自信が無かったけど、立てると答えて地面に下ろしてもらう。
腕以外の所も色々と調子がおかしいな。
まだ痛みが増してきてるから、やっぱり仙術の制御失敗したって事だろうな。
明日はまともに動けなさそうだなぁ。まだ痛み増してきてるし。
「タロウ!」
「タロウさん、大丈夫!?」
イナイとシガルが俺の腕を見て駆け寄って来る。
倒れた二人を診ていたらしいギーナさんも少し心配そうにこちらを見るが、すぐに二人に目を戻した。
多分俺よりあの二人の方が深刻だと思うから、それが良いと思う。
精霊さん達はアロネスさんと何やら話し合っていた。
アロネスさんはちょっと苦しそうだけど、もう普通に話せるようだ。
「タロウ、とりあえず治療するから座れ」
「ごめん、お願い」
イナイの言う通り地面に腰を下ろし、ボロボロの右腕を左手で支えながら前に出す。
改めてじっくり見ると、本当に酷い様だ。
元の世界の医療技術では治らないんじゃないかと思う。無事な所が殆どない。
「ぐぅ・・つぅ」
「ひでえな。ぐちゃぐちゃじゃねえか」
イナイが顔を顰めながら治癒魔術をかけはじめ、シガルは心配そうにそれを見つめている。
「ぐっ、があ、ぎぐぐうう・・・!」
予想はしていたけど、イナイが治癒魔術をかけた瞬間、頭が真っ白になる程の痛みが走る。
痛みに構えてなかったら、間違いなく叫んでた。
「た、タロウ!?」
俺の様子に驚いて、イナイは治癒を途中で止めてしまった。
シガルも顔を青くしている。
「ご、ごめん、仙術の反動が酷くて。気にせずお願い」
「・・・解った。辛いと思うけど我慢しろよ。シガル、タロウを支えててくれ」
「う、うん!」
俺の説明で状態を把握したイナイは、再度治癒魔術をかけ始める。
シガルは俺が倒れないように、後ろから抱きしめる様に支える。
折れた骨が元の形に繋がって行き、裂けた腱と筋肉も繋がって行く。
ただ傷を塞ぐのではなく、ちゃんと元通りにしようというのが見て取れる。
「・・・がっ・・・ぐ・・・かはっ・・・・!」
最初こそ叫びが出そうだったが、続けての治癒に叫びすら出せない激痛が走る。
そんな俺の様子を見ながら、イナイは困った顔で治癒を続ける。
シガルは俺を後ろから抱きしめているので、様子は窺がえない。
「タロウさん・・・」
シガルの心配そうな声が聞こえるが、返事をする余裕はない。
もう、腕がどの程度治っているのかすら、確認する余裕がない。
治してもらっている筈なのに、今まさに破壊されている錯覚に陥る。
そんな激痛をかなりの時間耐えて、ふっと少しだけ痛みが消えるのを感じた。
いや、もしかしたら痛すぎてそう感じただけで、短い時間だったかもしれない。
痛みでまともに呼吸出来なかったせいか、視界が白くなっているように感じる。
微妙に定まらない視界で右腕を見ると、ちゃんと綺麗に繋がっていた。
大怪我が嘘のように元通りだが、腕についている血の跡が怪我が有った事を証明している。
「ぐっ・・・ありがとう・・・イナイ・・・があっ!」
イナイに礼を言って腕の確認をしようとすると、治癒してた時と同じぐらいの激痛が腕に走る。
やべえ、この間倒れた時と違って体は動くけど、痛みは今回の方が強い。
指先少し動かすだけで息が止まりそうな痛みが走る。
「タロウ、動くな。じっとしてろ」
「ご、ごめん、思ったより痛くて」
「いいから、じっとしてろ。シガル、グレットの背にタロウを乗せるから手伝ってくれ
「う、うん」
イナイは俺の様子を見てシガルに指示を出し、二人でグレットの背に乗せる。
既に痛みが全身に回ってきている事も有り、俺はその背にぐったりと体を預けた。
動けない事は無いけど、無茶苦茶痛い。
「会話は問題無く出来るな?」
「うん、話すのは平気」
「解った、とりあえず今回の事を少しギーナと相談するから、それが終わったら一旦全員でギーナの家に戻る。その後ちゃんと話を聞かせて貰うからそのつもりでな」
「ん、解った」
これに関しては謝らないとなとは思っている。
後の事を考えずに破壊したわけじゃなくて、解っててやったから怒られるのは覚悟の上だ。
山の中にあった支えが無くなれば、地上がどうなるかなんて少し考えれば解る。
「あいつにやれる物がそれ位しか無かったからな」
殺しておいて何をと言われるかもしれないが、何かを持っていかせてやりたかった。
だから、今回の事に後悔はない。
あいつを殺した事も、遺跡を壊した事も、ちゃんと決めてやった事だ。
「とはいえ怒られるのは気が重いけど・・・そうだ、クロトどこだ」
呟きながら首だけを動かしてクロトを探すと、精霊さん達の所に居た。
クロトまだ意識が戻っておらず、闇精霊さんと木精霊さんに面倒を見て貰っている様だ。
やっぱりあの三人、何か波長が合うのかもしれない。
「・・・大丈夫そう、だな」
クロトをじっと見て、クロトだという事を確認する。
といっても、今はもう見ただけじゃ解らない。
あの時、クロトがクロト以外の存在になって行くのが手に取るように判った。
ただそれは、多分仙術を使えたからじゃ無いと思う。
仙術を使う事で助けられたのは間違いないけど、それだけじゃ助けられなかった。
あの時の俺は、探知を使わずに黒の攻撃が、黒の位置が解った。
自分で感じた物じゃなく、違う誰かが俺の体に教えているような感覚だった。
あの時の手に纏った黒だって俺が使った訳じゃない。
まあ、今予想を立ててもどうしようもない。
クロトが覚えているなら聞いてみれば良いだけの話だ。
とりあえず今は休んでよう。
「あー・・・体痛い」
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