第466話異変です!
アロネスさんの下に着くと、すでに全員が揃っていた。
ただ水精霊さんが縛り上げられているのは何故なんだろうか。
いや、何となく予想が付くから触れないようにしよう。
「すみません、遅くなりました」
「申し訳ございません、皆さま」
「・・・ごめんなさい」
待たせてしまった事を謝る俺とレイファルナさんとクロト。
いや、クロトは俺が抱えてたから急ぎようがないし、気にしなくて良いんだよ?
火精霊さんは特に言葉は発さずに、縛られて転がっている水精霊さんを冷たい目で見ている。
この人食事の時と劇の話の時以外表情変わらないから、内心は解らないけどね。
「いや、気にすんな。急ぎすぎなくて良いって言ったろ」
アロネスさんは苦笑しつつ、用意していたらしい飲み物を渡してくれた。
どうやら集まって一旦休憩していたみたいだ。
アロネスさんの足元を見ると傍に深い穴が有り、以前見かけた遺跡にそっくりな突起物があった。
穴は下の方でふさがっているけど、おそらく一度掘ったであろう形跡がある。
昨日の魔人が掘って出て来て、下の方は埋まった感じなのかな。それなら安全そうなんだけど。
「さて、中には誰がいこうか」
ギーナさんが皆を見ながら、腕を組んで首を傾げる。
この面子だと、アロネスさんとギーナさんは確定かな。
アロネスさんは遺跡関連には一番触れてるらしいし、ギーナさんなら誰かいても負ける筈も無い。
そう予想しつつギーナさんの言葉を待っていると、イナイが先に口を開いた。
「ギーナ様は万が一の為に外に待機していた方が良いでしょう。中にはアロネスとタロウ・・・後は・・・」
ありゃ、ギーナさん抜きなのか。
つーか、俺で良いのかね。一緒について行っても役に立たない気がするが。
「私と、ビャビャも同行します」
イナイが後の人選に悩んでいると、レイファルナさんが参加の意思を示す。
けど、ビャビャってどの人だ。
あ、触手の人が前に出てきた。この人の名前ビャビャって言うのか。
「解りました。ではお二人と・・・」
「松明とヌベレッツは来てくれ。あとはどうせ居るならシャイラも」
イナイの思案の声を遮って、アロネスさんが精霊さんに声をかける。
でも松明って誰の事かしら。
『承った』
『はいはい、任せなさい』
『誰が松明なのよう!』
アロネスさんの声に静かに土精霊さんが答え、盾精霊さんがうんうんと頷きながら胸を張って応える。
だが光精霊さんが大声で文句を上げた。ああ、松明ってそういう事か。
光ってるもんな。
「俺は誰もお前とは言って無いぜ? てことはお前は自分が松明だって意識してたんだな」
『なっ!へ、屁理屈よ屁理屈!いつもいつも松明代わりに使う癖にぃーい!』
「いやー、でも俺はお前の名前呼んでねえぜ? ああ、でも今度からちゃんと松明って呼ぶから安心しろ」
『やぁーだぁー!私松明じゃなぁーいぃー!』
アロネスさんに摘み上げられながら、ジタバタ暴れる光精霊さん。
ちょっと可哀そうになって来た。
「アロネスさん、あんまりからかっちゃ可哀そうですよ」
「へいへい。んじゃほいよ」
俺がアロネスさんを咎めると、あっさりと光精霊さんを俺に手渡した。
光精霊さんは俺の手の中でフルフルと震えながら俺を見つめていた。
あれ、どしたんだろう
『タ、タロウ。ううん、ダーリン。何、私に何を望むの。助けてくれたんだから出来る事は何でもするわよ?そうね、今からちょっと式を上げに行きましょう。ええ、それが良いわ。だってあの男の手から救い出してくれたんですもの、きっとダーリンだってわたぶべぇ!』
俺の手の中で目をハートにしながらまくし立てて来る光精霊さんに唖然としていると、火精霊さんのチョップが彼女の後頭部に叩き込まれた。
俺は反応出来ずに一瞬びくっとなってしまう。
『暴走するなダメ精霊』
『いった!いった!ちょっとぉ!今の一撃本体にまでダメージ来たじゃないのーう!』
『そう殴ったんだから当たり前じゃない』
『この外道!悪魔!』
『もう一発叩かれたくなかったら黙りなさい』
『はい!私黙ります!』
殺気を醸し出しながら手刀を構える火精霊さんの説得により、光精霊さんは静かになった。
そうか、火精霊さんの方が強いのか。
「全く、気が抜けるな」
虫っぽい人に渋い声で咎められ、ため息も吐かれてしまった。
すみません。そしてとても良い声ですね。
「すみません」
「ああ~。いいよいいよ~、あんまり気にしないでね~。こいつ仕事中はちょっと神経質になるんだよ~。ごめんね~」
「ああ、ちょっとした軽口みたいな物だ。気にする必要はない」
すぐに謝ると、羊の人と岩みたいな肌の人がフォローしてくれた。
羊の人は気が抜ける喋り方だな。無意味に肩の力が抜ける。
岩の人は何というか、いたって普通。見た目は特徴的だけど、声も喋り方もどこにでもいそうな感じだ。
そういえばこの人達、移動の時一切喋って無かったから初めて声聞いたよ。
リザードマンみたいな人とビャビャって人はまだだけど、どんな感じなんだろ。
ていうか、ビャビャさん喋れるのかな。
「じゃあ、それで行こう。あんまり全員でぞろぞろ行っても閉鎖空間の中じゃ邪魔になるしね」
ギーナさんが手をパンと叩いて視線を集め、彼女の言葉に皆が頷く。
リーダー感あるな、やっぱり。
「ヌベレッツ、今回はとりあえず入れりゃいいから、よろしく頼む」
『承った、我が主。元々掘った形跡が有るようだし、これを利用させて貰おう』
土精霊さんがアロネスさんの指示で遺跡に沿うように入口までのトンネルを作りはじめ、それをじっと眺める。
魔力の流れがもやがかかってるみたいで良く解らんのだが。
昨日の音精霊さんの結界も言われないと気が付かなかったのもそうだけど、精霊さんの使う力って何か良く見えない。魔術とはまた違うのかな。
『出来たぞ。この身も通れるようにしたので、少し大きいが問題無い』
「大丈夫だ、お前の事は信じてるよ」
『主の信頼には全力で応えよう』
アロネスさんは土精霊さんをトンと叩くと、そのまま穴の中に入っていく。
土精霊さんも後ろからついて行った。
それに続いて他の人達も入って行き、最後に俺が続こうとするとイナイに袖を引かれた。
「イナイ、どしたの?」
「クロトもつれて行って下さい。彼なら誰にも解らない何かに気が付けるかもしれません」
成程、俺達には気が付けない事でも、クロトなら何か解るかもしれないな。
納得していると、イナイがこそっともう一つ告げてきた。
「それにギーナの傍にいるのが怖い様なので、連れて行ってあげて下さい」
「あ、はい」
何かそっちがメインの様な気がする。
傍に寄って来るクロトの手を握って一緒に遺跡に入っていくと、ちょっと手が震えてた。
結構我慢してたなこれ。
てことは昨日も結構我慢してたのかもしれない。
昨日はしょうがないけど、やっぱ今日は宿取った方が良いな。
クロトを連れて中に入り、アロネスさんの誘導について行きながら周囲を観察していると、前に入った遺跡と同じ造りなので一度来た事があるような錯覚に陥りそうになった。
確かもうちょっと進んだら棺桶が有るところだったよな。
ここも同じなんだろうか。
「・・・僕が居た所より、なんか壊れそうな感じがするね」
「あ、ほんとだ、あそこよりボロいな」
確かに言われてみると、クロトの居た遺跡はしっかりしてたのに、ここはちょっとぼろい。
所々大きなひびも入ってる。
クロトの言葉に納得しつつ歩を進め、前に入った遺跡と同じように棺桶のある部屋に辿り着く。
ただその棺の扉は、開いて床に落ちていた。
「やっぱ、開いてんな」
『昨日の魔人は、やっぱりここの遺跡にいた奴じゃないか?』
『ほぼ間違いなくそうでしょぉー。でなきゃ他の奴が報復に来てるとおもうわよぉーお?』
「私も同意見です。自分達の種族を優位種だと思ってる者が、同格を手にかけられて大人しくしてるとは思えません」
『この石櫃からは特に何も感じんし、ここはもう害は無いのではないか?』
皆がそれぞれに遺跡の最深部の事に思う事を述べながら石棺を調べているのを、クロトの手を繋ぎながら眺めていた。
だって言いたい事全部言われてるし、調べるにしても俺がアロネスさんより役に立つとは思えないし。
とりあえず邪魔にならないよう―――――。
「は?」
――――ドクンと、何かが鳴動するような音が聞こえた気がした。
得体のしれない感覚が、何か良くない物が動き始めている様な感覚が全身を襲う。
なんだ、今の世界が揺れるような感覚は。
「なんだ、今の」
「ん、タロウどうした?」
「え、今何か変な感じがしたんですけど、アロネスさん達は感じなかったんですか?」
「いや、俺はなに―――」
アロネスさんはそこで言葉が途切れていきなり膝をついた。胸を押さえて、驚愕の表情で苦しんでいる。
この人が、あのアロネスさんがいきなり倒れたという事態に、俺は驚きで思考が止まってしまった。
「・・・え?」
同時にさっき感じた鳴動が、また聞こえた。
そしてドクン、ドクンと、その感覚は段々と短くなっている。
「―――ロウ、にげ、ろ」
「っ!」
奥底からなんとか振り絞ったのであろうアロネスさんの声に、呆然としていた意識が戻る。
正気に戻った視界には、苦しそうに倒れ伏したレイファルナさんとビャビャさん、立ってはいるものの動けず苦しんでいる精霊さん達がの様子が目に入った。
「・・・が、あ・・・ぐぅ・・・」
クロトの呻きが耳に入り、そこで初めてクロトを見て気がついてしまった
鳴動が明確に感じられるようになって、余計にその正体を感じ取れてしまった。
この鳴動はクロトから聞こえている。
いや、正確にはクロトじゃなく、クロトと繋がっている何かから聞こえている。
クロトじゃない何かが、クロトの中で起きようとしている。
何でそんな事が解るのか、自分でも解らない。
けど、何故かそう感じた。
そしてその何かは、ここに居るすべての命を飲み込もうとしていると。
今この状況の原因は、他の誰でもないクロトだ。
「ぐっ、くう・・足りん・・・この程度の命では、足りん・・!」
クロトの姿で、クロトの声で、クロトじゃない言葉をしゃべっている誰かが居る。
なんだ、お前は。
アロネスさんに何している。
レイファルナさんとビャビャさん、精霊さん達に何をしている。
「・・・ぐ・・止め・・ロ・・俺・・僕はお前じゃ・・・・ない・・・!」
―――――俺の家族に何してやがる。
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