第464話翌日の予定です!

「相変わらず自由だなこいつら」


耳に入った声に振り向き、ギーナさん達が話してた部屋の窓から顔を出すイナイが目に入る。

防音はまだ張ってるみたいだけど、その外側に顔を出していた。


「もう話は終わり?」

「おう、一応な。明日はギーナも一緒に山に行くから、そのつもりでなー」

「解った」


ギーナさんも一緒に行くのか。

やっぱり遺跡絡みなのかな。

精霊さん達に軽く話を聞いた限り、魔人相手だったらしいし。


「やっぱ、遺跡がらみだよね?」

「おう」

「魔人は倒したし、安全じゃないの?」

「解んねぇな。今の所どの遺跡も魔人が出た後は特に何も起こってねえけど、絶対に何も起こらないとは限んねえ。遺跡が有るなら何かしら監視を付けてえんだよ。

それに今回出てきたやつが近場にいたのかどうかは解んねぇからな。近場に遺跡があるかもしれねえし、もしかしたらまだ眠ってる遺跡の可能性も有る」


ああ、あいつが何処から出てきたのか解らないからって事か。

クロトも何か感じたってだけだもんな。

因みにそのクロト君はもう何も感じないらしいので、現状は安全だと思う。

てなると、クロトって魔人を見つけるセンサーになるんじゃないのかね。


正直俺には魔人と別の生き物の違いが解らない。その辺の野生動物との区別がつかない。

戦闘になったらしい時は嫌な気配を感じたけど、それまではどれだけ探知を広げても良く解らなかった。いきなり数が増えて隊列組んだのは流石に異常だとすぐに解ったけど。

アロネスさんも精霊に判断任せてるらしいし、見た目で区別がつかないって今更だけど怖いな。


「そういえばアロネスさんは?」


俺の問いにイナイは親指でクイっと部屋の中を指したので、近づいて中を見る。

音が漏れない様にしているので気が付かなかったけど、アロネスさんがギーナさんに関節技を決められて叫んでいるのが見えた。

腕ひしぎ逆十字固めが綺麗に極まっている。

ギーナさんの腰が尻尾で少し浮かんでるから、尚の事えげつない角度になってる。


「・・・何やってんの」

「お仕置き」

「そ、そう」


どうやら今回の事はギーナさん直々にお仕置きをされている様です。

アロネスさん全力で抵抗してるっぽいけど、全く効果無さそうだな。

あ、腕放したと思ったら今度は膝十字固めに。アロネスさん完全に抵抗が出来てない。

ギーナさんは顔は笑顔なんだけど、張り付いた笑顔な感じで怖い。


「魔人が実際いて、アロネスさんはその脅威を取り除いたわけだし、少し位許してあげられないのかな」


アロネスさんの単独行動を擁護する訳じゃないけど、それでも危険を取り除いた事には変わりはない筈。

もしそのままだったら大惨事になったかもしれない。

その辺ちょっと気になるんだよな。


「だからあれでチャラにしてるんだよ。ギーナも事前に国民を守ってくれた事に関しての礼はした上で、それはそれとしてって話だ」


あー、魔人が暴れずに済んだ事に関しては感謝してるけど、結局アロネスさんの個人行動だったり、これまで待たせた事だったりのお仕置きって事かな。

結果オーライでは済まされない部分も有るか、そりゃ。


「あ」

「無駄な努力を・・・」


アロネスさんが強化魔術を使って無理矢理抜け出そうとしている事に声が漏れ、イナイは呆れたように呟いた。

結構な魔力量で強化しているにもかかわらず、ギーナさんは揺るがない。

むしろ一度わざと開放して、もう一度組み伏せて逆エビ固めをかけた。

それもアロネスさんの抵抗で家が壊れないように、家を魔術で保護しながら。


「全く効果ないね・・・」

「アロネスは体を殆ど鍛えてねーからな。強化を全力でかけて動きになんとかついて行ける程度なのに、力でギーナに勝てるわけがねえ」


イナイの言う通り、ギーナさんは強化魔術は使ってない。

あくまで家の保護だけで、全力強化らしいアロネスさんに生身で勝っている。

リンさんと一緒で、根本的に体のつくりが違う人だな・・・。

あ、極めながら尻尾でべしべし叩かれてる。痛そう。


「ギーナさんの尻尾って、頑丈そうだね」

「ああー、あいつ尻尾だけで人投げ飛ばせるぞ」


マジか、つまり尻尾で結構な威力の攻撃が出来るって事か。

かなり太いし、足と同じぐらいの威力で振れるのかな。








「やだ、俺あいつヤダ。もうヤダ」


アロネスさんはお仕置きが終わると、客室の隅っこで小さくなってしまった。

それを気遣う様に、木精霊さんと闇精霊さんは声をかけている。

ただやっぱりこの二人、何処見てんのか解んねぇ・・・。


暫く見ていると、アロネスさんの両隣に座ってぼーっとし始めた。

何なのあの子ら。


他の精霊さん達は土精霊さん以外は、変わらず各々好き勝手に動いている。

アロネスさんが戻って来ても、全く纏まりは無かった。


「ちょっとやり過ぎたかな?」

「いい薬だ。こいつは問題行動が多すぎなんだよ」

「あはは、私も人の事は言えないけどね。ただ他の国なら良いけど、ウムルにはすこーし慎重に動いてほしかったかな。もう戦争時代を知らない子もいるけど、やっぱり戦争に参加してた人達はウムルに思う所有るからね」

「それについては重ねてすまん」


ギーナさんにの言葉に、イナイが深く頭を下げる。

戦争してた相手、か。

そうだよな、戦争してたのって遠い昔の話じゃなくて、普通にまだ記憶に新しいんだよな。

どれだけ国が友好をって言ってたって、どこかに燻ぶる物を持ってるのが普通だろう。


『それにしても立派になったな、お嬢ちゃん』

『ほんと、初めて会った時はあんなに可愛らしい見た目だったのに』


剣精霊さんと槍精霊さんがギーナさんを見ながら、感心した様に言う。

この人達も昔のギーナさんの事を知ってるのか。

てことは戦争当時からアロネスさんは彼らと一緒に戦ってたって事かな。


そう考えると、ギーナさんも年齢不詳感凄いな。

見た目的には20代前半ぐらいにしか見えないんだが。

ミルカさんで今28か9ぐらいの筈だから、同じぐらいなのかね。


「10年以上前の話でしょ、それ。私あの時9歳よ?大きくなって当たり前でしょ」


は、9歳?

え、ちょっと待って。もしかしてギーナさん、俺と殆ど年変わらないの?

いや、それよりも、9歳で彼女は戦争の最前線に居たって事?


「・・・そんな年で、最前線に居たんですか」

「ああ、そっか。君は知らないんだっけ」

「その、はい」

「あの頃の私はね、力だけが有る子供だったんだ。だから間違えた。だから犠牲をたくさん出した。いっぱい、人を殺した」


寂しそうに笑いながらソファの背もたれに体を預け、ギーナさんは言葉を続ける。


「最初は、最初はまだ良かったんだ。仲間を助けて、ついでに捕らわれてた他の種族も助けて、皆に感謝されて。

今思えば浮かれてたんだと思う。自分には皆を救える力があるんだって。その力で押さえつけられてる人達を助けるんだって。

そう思って、私の身を案じてくれる仲間の言葉を聞き流して、走って走って、気が付いたら取り返しのつかない状態になってた」


彼女は語りながら、その時を思い出す様に辛そうに顔を歪める。


「自分が誰かを助ける為に動いた事は、仲間を助ける為に動いた事には後悔は無い。けど、もっとやりようが有ったのは、今ならよく解るんだ。

もっとちゃんと周りを見ていれば、もっと犠牲は少なかった。でも幼かった私には、それに気が付くのが遅すぎた。そのせいで、大事な人達も、何人も死んだ」


そこで言葉を切り、イナイを見て薄く笑った。


「彼女たちが居てくれて、暴走した彼らを止めてくれてよかった。でなければ私は、きっともう何も出来なかった。

リガラットの皆は英雄って言ってくれるけど、実際は頭の足りない小娘がただ暴走した結果なんだ。こんな弱音、国民の前では吐けないけどね」


前に聞いた、ウムルの英雄譚。

それに対する、魔王の経歴。

そこからは彼女が人の為に戦ったのではないかという予想が出来た。

事実最初はきっと、助ける為に戦ったんだろう。


けど、皆が皆そうじゃ無かった。

ただ助ける為に、当たり前に生きる事を求める為に戦った人だけじゃない。

恨みを晴らすために戦う人だって、数多くいるだろう。

彼女は、そういった人達をコントロール出来なかった。

出来ないのに、一緒に戦わせてしまった。


短期間に恨みを晴らせる力を手にしてしまった彼らは、集団となって力の塊になった人は、自分達以外を排する暴徒になった。

そんな止まらない暴徒に、きっと幼い彼女の心は一度折れたんだ。

助けたかった筈の人間が、戦おうと決めた相手と同じ事をしている光景に。


「それでも、それでもお前はもう一度戦った。また同じ事になるかもしれないという恐怖を知って尚戦った。ウムルという脅威から国民を守るために。

確かに焦りすぎた失敗は色々と目につく。けど、お前は確かに誰かを救ったんだ。それを皆解ってるからこそ、お前はリガラットで英雄と呼ばれている。胸を張れ、ギーナ」


悲しそうに口を噤んでしまったギーナさんに、イナイが良く通る声で語りかけた。

その声に皆がイナイを見つめ、誰よりもギーナさんが目を見開いて聞いていた。

そしてその言葉をかみしめるように一度目を瞑り、笑顔で口を開いた。


「はは、ありがと。流石皆に好かれてる英雄様の言う事は違うね」

「つっても、お前みてえに国の代表って訳じゃねえから、そこまで偉そうに言えねーけどな」

「ううん、ありがと」


二人にしか解らない、何かを背負って戦った人間同士にしか入れない空気がそこにはあった。


「あたし達、あそこにはちょっと入れないね」

「同感」


シガルの言葉に同意を示して、ふとアロネスさんに目が行った。

傍にいないと思ったら、精霊さんの横にクロトが増えて4人で隅っこに座っている。

どうしたクロト、その二人気に入ったのか。

ただアロネスさんはジト目でギーナさん見てるけど。貴方は自業自得です。


「さて、ごめんね暗い話しちゃって。えっと、そうそう、明日一緒に行くって話は聞いてるんだったよね。その細かい打ち合わせしちゃおう」


ギーナさんが少し慌てた様に俺とシガルに告げると、イナイも自然に打ち合わせに入った。

しかし調査って言っても、見つかんのかね。

俺が見つけた遺跡もかなり偶然見つかったレベルだし、毎回地中にあるって話だから難しそうな気がするけど。


「とりあえず明日はざっくり見て回ろう。もし今回の奴が近所から出てきたなら、くまなく調べなくても見つかるかもしんねえ。それでだめなら翌日はやり方を変えよう」

「そうね、まずは浅く広く探してみようか」


あ、そっか。既に見て解る状態になってる可能性も有るのか。

すぐ見つかると楽でいいなぁ。


そんな感じで、行く面子は精霊さん達と俺達、ギーナさんと彼女の配下を数人つれて行くことになった。

ギーナさんの配下か。どんな人達なんだろ。

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