第463話精霊さん達の自己紹介です!

『愛と美貌の精霊パペラファカちゃんでえーっす!』

『悲しい嘘をつくんじゃない』


くるんと回りながら宙を舞い、ポーズを決める妖精の様な真っ白な精霊を叩き落とす赤い髪の女性。

愛と美貌の精霊さんはぺちって床に叩きつけられてしまった。

彼女を叩きつけた精霊さんは、赤い髪が時々ゆらゆらと火が昇るように動いている。

いや、髪だけじゃなく、全身が時々揺れている様に見えるな。


『いったーい!なにすんのよーう!』

『貴女が嘘をつくからでしょ、光の駄目精霊』

『誰がダメ精霊なのよーう!あんただって燃やすしか出来ないじゃないのよーう!』


アロネスさん達と共に帰って来た精霊さん達は、まだ勢ぞろいしている。

これはギーナさんの案で、少しの間彼女達にはこの場に留まっておいて貰う事になった。

アロネスさんの精霊はぱっと見は人族以外に見える存在も多く、彼女達に事前に調査指示を与えており、アロネスさんが合流した際にトラブルがあったという事にしたいそうだ。


要は、人族以外に見える人達はギーナさんの指示で先行調査。

人族に見える人達は、事前に合流をお願いしていたアロネスさんとその部下。

そういう事にしてとりあえず民衆に説明し、彼ら自身の姿を見せる事で不安を与えた事も謝罪していた。

ギーナさんの指示で、今もその話を首都中に流しているらしい。

ただそれもギーナさんが予想外に早く帰ってきた事と、アロネスさんの戦闘で街の警備兵が動こうとしていたのを、ギーナさん自身が制止して現場に向かったおかげだ。


アロネスさんの戦闘は街にいても即わかる程派手な物だった。

イナイがそれを見て心配するような表情を見せていた所に、ギーナさんが転移で屋敷の庭に現れた。

とりあえず事情説明もそこそこに、ギーナさんは即動いてくれたので良かった。


その肝心のアロネスさんとギーナさん、そしてイナイの三人は別室で話をしている。

俺達はとりあえずその会話には席を外して欲しいと言われ、精霊さん達の自己紹介を聞く流れになったわけです。


『我が名はヌベレッツ。土の精霊だ』


重く静かな、けどどこか優しさを感じる声音で端的に自己紹介をする、土の様にも岩の様にも見える肌の大きな男性型の精霊さん。

この人横幅も大きくて窓からしか入れなかった。

そして座ってないと天井に頭がぶつかるので、邪魔にならないように自ら隅っこに座っている。

なんか不憫だ。


『もぐもぐ・・・ん、ああ俺か。風精霊、バーナウブエールだ。お、これ美味いな』


ここに来てからずっとお菓子を食べているふわふわと浮かんでいる男の子は、土精霊さんにツンとつつかれ自己紹介をし、済むとまた菓子に意識を戻して食べはじめた。

とりあえず何よりも菓子を食う事を優先している。


『私はバッパラボッポ。火の精霊。劇が好きよ。貴方は劇に興味はある?』


自分の自己紹介もそこそこに、その後は劇の良さを語り始める赤髪の女性。

自己紹介の時はきりっとした顔だったのに、劇の事を語り始めた途端にうっとりした顔になっていく。

ていうか、止まらない。次の人の紹介が始まらない。


『はいはいバッちゃん、困ってるからこっち来ようねぇー』

『な、なによ、ちょっと語ってただけじゃないの』


以前飛行船で紹介された水の精霊さんが、火の精霊さんの話を途中で切って連れて行ってくれた。

もしかして、止めなかったら延々語り続けていたんだろうか。

怒涛の様に語られたから止められなかったので助かった。


『セッスタンダ。木の精霊。木を操れる。でも木以外も植物なら干渉出来るよ』

『パッポ。闇精霊。暗く出来るよ。明るくても真っ暗だよ』


二人はどちらも声は明るい感じで紹介してくれたのだけど、声と表情があってない。

どちらもクロトの様にぼーっとしている。3人並ぶと兄弟姉妹の様だ。


木の精霊さんは人型の木という感じで、造形こそ人の形だけど肌の質感は思いっきり木だ。

それも綺麗にやすりがけされた様なのじゃなくて、普通に生えてる木の感じ。

闇精霊さんはなんというか、簡単に言うと堕天使みたいな姿だ。肌と羽が黒くて、目はさらに真っ黒だ。

二人とも見た目的には女性、かな?


『ラッカロッカ。雷の精霊だよ』


にこりと笑いながら自己紹介をしてくれる男の子は、偶に何かピリッとした感じの物を体から迸らせている。

紹介の通り、雷が出てるのかな。触って大丈夫なんだろうか。


『盾精霊のシャイラだ。私達は物に宿った精霊でな。見た目や性格は精霊化する前の持ち主に引っ張られている』

『物に宿る精霊は人の想いが込められて力を得た存在なので、どうしても持ち主に影響を受けるんですよ。あ、私は本の精霊のブットスクアです。正確には本精霊では無いんですけどね』


全身白の服装の白髪の女性と、本を常に手放さない司書か研究者の様な雰囲気の女性。

彼女たちは物に宿った精霊なのか。

大事にされた結果力を得たとか、そんな感じなのかな。


『剣精霊のカラナスだ。剣を振るしか能のない精霊だ』

『斧精霊のメッシだ! 俺もこいつと同じで斧を振るしか能がねえな!』


にかっといい笑顔で笑う頬に大きな傷を持つ青年と、青年の肩を組んで豪快に笑う筋骨隆々の虎男。

青年の方は普通に剣士って感じがするけど、虎男の方は山賊か何かの様に見える。


『槌精霊のマチャッドって言います。よろしくお願いします』


さっきの虎男並みに巨大な体を縮める様にしながら頭を下げて、優しい声で自己紹介をする糸目の男性。

ハゲ頭に大きなガタイという威圧的な外見に反し、とても周りに気を遣っている様だ。

今も風精霊が食べこぼしたお菓子のクズを、何の文句も言わず笑顔で拭きとっている。


『槍精霊のカルネアよ。よろしく、坊や』


多分流し目をされたんだと思うけど、獣人さんの表情はちょっと読み取りにくい。

スタイルの良い、豹のような顔の女性だ。

動きがいちいち出来る女性的な感じの動きをしている。素でやってるのか演技なのかどっちなんだろ。


『音精霊のロイラルです。私も本精霊と同じで、正確に言えば音精霊では無いんだけどね』


黒服なんだけど、スーツというよりも演奏家っぽい感じに見える服装の男性。

この人はさっきからずっと小声で歌っていて、自己紹介後もまたずっと小声で歌っている。

歌は素人なので難しい事は解らないけど、素人の耳にも彼の歌声は心地いい。


精霊さんが皆自己紹介をしてくれた所でこちらも全員自己紹介をして、暫く皆で雑談をして色々教えて貰った。

どうやら彼らはこの場での体は本体では無いらしく、今の体は破損しても特に問題無いらしい。

ただし体を構成するには結構な量の魔力が必要で、魔力が切れると霧散してしまうそうだ。


アロネスさんには魔力を大量に内包する道具があり、その魔力を使って精霊の体を顕現させて本人の魔力は殆ど使っていないそうだ。

アロネスさんと彼らを繋ぐ縁のような物の維持だけ、本人の魔力を消費しているらしい。

つまり前見た時の様に、精霊石の魔力を全て彼らの召喚や維持に使っているって事か。


そんな感じで彼らの力や性格、アロネスさんとの関係なんかを色々聞いて結構長い時間が経ったのに、まだ三人の話は終わらない様だ。

長いな・・・。


『にしても、タロウ君だっけ? なっかなか可愛いわねーえ』

「はい?」


なにやら唐突に、可愛らしいサイズの光精霊さんに可愛いとか言われた。

手乗りサイズの精霊さんの貴女の方がよっぽど可愛いと思うが。


『あー、パペラファカってば、だめよー。その子はお姉さんが先に味見するんだからぁ』

『あんたはもう何人も食べちゃってるでしょーが!あんた絶対水の精霊じゃなくて淫乱の精霊だわ!』

『あん、ひどい。ちょーっと味見してるだけなのにぃ』

『足腰立たなくなるまで食べるのは味見って言わないのよーう!』


何を言い出したかと思えば、下ネタ全開できたな。

ていうか、光精霊さんサイズ差がありすぎるんですけど、大丈夫なのかしら。

いや、興味があるとかそういう意味じゃなくて、純粋に心配になった。


「あー、えっと」

『ほっとけほっとけ。あの色ボケ共は相手してるときりがねーぞ』


菓子を食べ終わったのか、風精霊さんが俺の傍にふよふよと浮いていた。

後片づけは全て糸目の槌精霊さんがやっていた。お父さんか。


『あれらはあれらで、人を愛する精霊なだけだろう。ケレファグレマネに関していえば、人に限った話ではなく、生きとし生けるものに恵みを与える水の精霊だ。当然ともいえる』

『あいつ、人間以外の動物もほぼ全部手を出してるけどな』


そんな話聞きたくなかった。

水の精霊さん、思ってたよりやばい。


『我らの加護の下に生きる者への愛ゆえにだろう』

『お前、そういえば許されるって思って無いか?』


静かに水精霊を肯定する土精霊さんと、あきれた様子の風精霊さん。

悪いけど俺も風精霊さんと同じ意見だ。ちょっとどうかと思う。

その間も水精霊さんは光精霊さんと言い合いを、というか光精霊さんが遊ばれてる感じだな。

何となくだけど、水精霊さんが少しはしゃいでいる様に感じるのは気のせいかな?


他の面子に目を向けると、クロトは庭の端で木精霊さんと闇精霊さんの二人と一緒になってぼーっとしている。

三人で同じく庭で丸まっているグレットに寄りかかりながら、皆別方向を見つめて動かない。

何だあの三人。


ハクは斧精霊さんと楽しそうに庭で殴り合いをしていた。

剣精霊さんと槍精霊さんがヤジを飛ばしている。

流石に本気でやったら不味いのは解っているらしく純粋な殴り合いをしているんだけど、なんであいつら一切ガードせずに交互にぶん殴ってんの。


「人間殴ってる音じゃない打撃音が響いてんだけど、大丈夫かあれ」

『ああ、大丈夫大丈夫』


心配で出た呟きに、音精霊さんがにこやかに答えた。

音精霊さん、治療とか得意なのかな?


『音が周囲にもれない様にしてるから、近所迷惑にはならないよ♪』

「いや、そういう意味じゃなくて・・・」


駄目だこの人達。確かに近所迷惑も大事だけど、それよりもっと大事な事が有るでしょう。

ため息をついていると、盾精霊さんと本精霊さんが苦笑いをしていた。


『すまないな。私達は人の感性とは少し違う世界で生きているからな』

『まあ、そんなに心配しなくてもあの馬鹿も加減は心得ていますし、そのお嬢さんも相当強いみたいですから大丈夫ですよ。もし危なそうだったらすぐ止めて治療しますから』


ああ、この人達は比較的その辺の感性はまともなのか。

向こうの身内にストッパーが居るなら安心かな。


因みにさっきから俺の傍にいないシガルは、火の精霊さんに俺とのなれそめを聞かれています。


『素敵だわ!悪漢に襲われた所を颯爽と駆け付け少女を救い、少女の心を奪う男!

そしてその男に憧れ、自らを磨き続ける少女!

いつしか二人の関係はただの少女の恋ではなく、男こそが少女を必要とする恋物語り!ああ、素敵だわ!』


火精霊さんはシガルと俺の関係を、劇の一シーンの様に語っておられる。

なんかすげー恥ずかしい。

アロネスさん早く戻って来てこの人ら纏めてくれねーかな・・・。

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