第462話戦闘の代償ですか?
『パペラファカちゃん、大・勝・利ぃーーー!』
光精霊がくるくると回りながら、周囲に光を花火の様に巻き散らかしながら登っていく。
俺はそれを呆れた目で見つつ、形を保った空の凝結晶に魔人を封じる。
『全員で暴れるのは久しぶりだったな!』
『うむ。最後に我ら全員が一堂に会したのは、10年以上前だったか』
風精霊が楽しそうに土精霊の背中を叩き、土精霊は昔を懐かしむ様に頷いている。
確かに全員呼んだのは戦争の時が最後か。
風と土は便利だから、よく顔合わせてるけどな。
『お姉さん、久しぶりに全力で暴れちゃったわぁ』
『細切れだった。むごい』
『あらぁ、バッちゃんだって全部灰に変えちゃってるじゃないのぉ』
『バッちゃん言うな』
水精霊が火精霊に絡んでいるが、あいつらは相反した存在のくせにやけに仲が良い。
いや、水精霊の絡みが長いから、諦めてるだけかもしれないが。
『アロネス、怪我、無い?』
『え、アロネス、怪我したの?』
木精霊が俺の身を案じる様に訊ねたのを聞いて、闇精霊が傍に駆け寄って来る。
こいつら二人とも声のトーンは上下するのに、無表情だから感情が読めない。
真顔ならともかく、ボーとしてんだよなこいつら。
「怪我なんてねえよ。俺はお前らの中央でじっとしてただけだぞ?
俺の心配は良いから、セッスタンダはヌベレッツと一緒に地形を元に戻しておいてくれ」
『解った。やって来る』
木精霊と闇精霊に応えながら人形を回収していき、木精霊と土精霊に戦闘の後片付けを頼む。
人形の損害は無しか。旧型でも十分通用するな。
新型で行けば、人形だけで片付けられたかもしれないな。
『それにしても、私達まで呼び出すのは珍しいですねアロネス』
本精霊が土人形の核を回収しながら声をかけて来た。
こいつの言う通り、他7体の精霊はめったに呼び出さない。
本精霊、盾精霊、剣精霊、槌精霊、斧精霊、槍精霊、音精霊。
どいつも『物』に宿った精霊たちだ。
本精霊以外は、そこまで有用な精霊じゃない。
本精霊以外はやれる事が少なすぎるし、精霊としても他の自然精霊と違って独立した存在だ。
ただ、単独戦闘能力はどいつもこいつも高いので、今回みたいな時には使える。
「数が多かったし、ムカついたからな。全力で叩き潰してやろうと思っただけだよ。全力出し切る前にくたばったけどな」
本精霊の言葉に応えながら、自我の無い精霊は先に帰す。
こいつら自我がなくてそこまで強くない代わりに、報酬とか煩くないのが助かる。
呼び出したときに与える魔力で満足してくれるからな。
『偶には呼び出してくれないと、守ってやらないぞ?』
「さっき魔人が飛び出してきた時守らなかっただろうが」
盾精霊が上から言ってきたので、悪態で返す。
そういうならあの時俺の前に立てよ。
『障壁が見えていたからな。お姉さんはちゃんと周りが見えているのだよ』
「うざい。まな板」
『がふっ!』
無い胸を張る盾精霊に、現実を突きつけてやる。
誰がお姉さんだ、誰が。大体お前どう考えてもお姉さんって年じゃねえだろうが。
精霊になってから何十年経ってんだよ。
『そうそう、お姉さんって言うならあたしぐらいのスタイルじゃ無いと、シャイラの貧相な体じゃねぇ』
『胸がデカけりゃいいってもんじゃないでしょ!』
『小さいよりはいいんじゃないかい?』
「あー、煩い」
槍精霊がどれだけスタイルが良くても、俺は獣人系の女は異性として見れねえんだよ。
そういう意味でなら、盾精霊の方がましだ。
『アロネス、さっきの人達解放できないのかな。あれじゃ可哀そうだ』
糸目槌精霊が、見た目に反した優しい声で尋ねて来る。
あの魔人に食われた人達を解放出来ないかと。
俺もできるならしてやりたいが、方法が解らない。
そもそもあいつらを完全に滅却する方法がないんだ。
「わりい、方法がねえ」
『そっか、アロネスが出来ないんじゃ、しょうが無いね』
『おーら、なに暗い顔してんだよ!とりあえずあいつらはもう戦わなくて良いんだから、とりあえずはそれで満足しとこうぜ!』
俯く槌精霊の背中をバンバンと叩き、励ましてるのであろう言葉を口にする斧精霊。
盗賊みたいな見た目の獣人で、こいつは槌精霊と違って完全に見た目通りの性格だ。
「さて、と」
人形も回収、核も壊れてるのも壊れてないのも全部回収。
精霊も大半返したところで、さっきからずっと歌ってる音精霊に向き直る。
「いい加減黙れ」
『わひゃぁ』
音精霊の足を引っかけ、転ばして歌を止めさせる。
いつまで歌ってんだお前は。
『酷いよアロネス』
「お前が何時までも歌ってると、パペラファカの花火が止まんねーんだよ」
『綺麗で良いじゃない』
「よくねーよ。目立ち過ぎなんだよ」
今更だけどな。
多分、完全にイナイにはバレてる。
というか、周辺の人間には完全にばれてるだろう。
土精霊と木精霊に山をある程度直してもらってるとはいえ、派手な嵐と地鳴りが起こり、目の眩むような光に不自然な闇が存在し、晴れた空に落ちる雷に立ち上る炎という不思議現象だ。
遠くから見ても明らかに何かが有ると解る変化だ。
魔術を使ったとしても、明らかに起きている現象の多様さで俺だってすぐばれる。
『アロネス、アロネス』
この後どうするかを悩んでいると、袖を引かれるのを感じた。
不定形から人型になった雷精霊が、褒めてほしそうに構えていた。
「ああ、はいはい。よくやった」
『えへへー』
人型になると男なのか女なのか解らない顔立ちになる雷精霊の頭を撫で、また思考を戻す。
戦闘開始した時点で、イナイにはバレている筈だ。
なのにまだここに来ないってことは、ここに来るのを躊躇しているんだろう。
今回はリガラットと和平を結んだ、初の公式の訪問だ。
だからイナイは自分の位置が解っている以上、下手に動けないと思っている筈。
なら、山はとりあえず元に戻したし、知らない振りしておけば解決しないか?
「アロネース?」
「アロネスってば、やっとリガラットに来たと思ったら、なーにしてるのかなぁー?」
ついさっきまで一切の気配を感じなかったのに、背筋が冷える程凄まじい威圧感を背後から感じる。
若干体を震わせつつ恐る恐る首を回すと、そこにはよーく知ってる背の小さい女と、鱗のついたしっぽを持つ大の苦手な女が居た。
二人とも、顔だけはニッコリと笑っている。
「あ、あはは、これはこれはギーナ様、お早いお帰りで」
まだ日が暮れるちょっと前なのに、もう帰って来たのか。
帰ってくるの明日じゃなかったのかよ。
「ええ、アロネス殿がやっと来たと聞いて、補佐に任せて急いで戻ってきたのですよ?」
「そのおかげで私も様子を見に来ることが出来ました。さて、先程の愚行はどういう事か説明して頂けますね?」
二人とも普段とは違う、馬鹿に丁寧な言葉で語る。
ヤバイ、これは不味い。
手汗と脂汗が止まらない。
「とりあえず」
イナイがぐっとこぶしを握りながら近づいて来る。
とりあえず殴られるらしい。
「歯ぁ食いしばれ大馬鹿野郎!」
イナイの言葉に従って歯を食いしばり、攻撃に備える。
食らうつもりであれば、いくらイナイの攻撃でも耐えられる。
「おらぁ!」
「げふぉ!」
だがイナイは歯を食いしばっている俺に、強烈なボディーブローを叩きこんだ。
予想外の位置への攻撃に、耐えられずに崩れ落ちた。
「歯ぁ・・食いしばれって・・・いったじゃねーか・・・」
「顔やったら治癒しないと目立つからな」
ああ、治癒魔術使わずに痛みに耐えてろって事か。
くっそ、滅茶苦茶痛い。
『あははははは!げふぉ!だって!あはははははは!!』
『ざまぁ!アロネスざまぁ!』
その様に指をさしてゲラゲラ笑う光精霊と風精霊。
水精霊と火精霊もそこまでじゃないにしろくすくすと笑って、土精霊は何か解った風にうんうんと頷いている。
木精霊と闇精霊と雷精霊は俺の心配をして寄って来るが、ギーナが怖いのかちょっとびくついてる。
ギーナはそんな精霊たちをぐるっと見て、口を開いた。
「さて、とりあえず山を下りつつ何があったのか聞かせて貰おうかな」
それを聞いた土精霊は痛みで動けない俺を抱え、先導するギーナの後ろをついてく。
精霊共は帰る気が無いようで、皆ぞろぞろついて来ている。
帰れよお前ら。
「聴取が済んだら説教だ」
イナイの声のトーンが静かなのを感じ、これは本気で怒られるなと覚悟した。
俺の余計な行動に怒ってるのも有るだろうけど、多分心配かけたぽいな。
精霊全員呼び出すなんてそうそう無いから、それだけの事が起きてると予想してきたんだろう。
しょうがない、今回の説教は逃げずに聞くか・・・。
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