第460話軍勢の力ですか?

「たっく、散々だったぜ」

『あはははは!お前が間抜けなだけじゃん!』


イナイに説教された事をぶちぶちと文句を言いながら歩く俺を指さし、大爆笑をする風精霊。

確かにその通りだが、ここまで笑われるとムカつく。


「せえな、笑ってねーでちゃんと探せよバーナウブエール」

『探してるっての。お前こそ勝手に動いて大丈夫なのかよ。バレたらイナイの嬢ちゃんにまた怒られるんじゃないのか?』

「全力で隠匿してるから大丈夫大丈夫。とりあえず軽く調査して帰るだけだから」

『俺はお前の擁護はしないからなー?』


風精霊は俺の言葉に対し、呆れたように薄情な言葉を返す。

こっちはちゃんと報酬用意して呼び出してるのに、酷いやつだな。


「バレなきゃいいんだよ、バレなきゃ」

『お前、それで最近も嬢ちゃんに怒られたばっかりだろ・・・』


それでも昔よりは周りの目を気にしてやってるよ。

昔だったら、見つかったところでごり押してたからな。


それに材料によっては、その国では栽培すら禁止されてる様な物とかも有ったのが悪い。

使い方を厳しく取り締まるなら分かるけど、全て焼き払おうとかしてたのも有ったからな。

勿体ない。毒はうまく使えば薬になるってのに。


鉱物類も危険だからと、鉱山を破壊しようとしてたやつらも居たしなぁ。

なんでこう、毎回破壊か根絶やしにしようとするのやら。

管理外で色々やられるのが面倒なのと、利点も解らず管理にコストがかかるのが嫌なんだろうけど。


「良いから仕事してくれよ。戦闘では全く役に立たない精霊様」

『ふっざけんな!お前らが強すぎるだけなんだよ!』

「あー、はいはい」

『よーし解った。この探索もしバレなくても、イナイの嬢ちゃんにチクってやる』

「あ、お前それは卑怯だぞ!」


そんな事されたら今度は説教じゃ済まねーかもしれねーだろ!


「よし、報酬を2倍にしてやる」

『3倍でどうだ?』

「・・・解った3倍で良い。その代わり絶対言うなよ?」

『約束は守るさ。お前と違ってな』


風精霊の要求にしぶしぶ了承した様に見せて、実は元々本来の報酬より常に多めに持っている。

なので、3倍どころか10倍でも余裕だ。

まだまだ甘いな風の大精霊(笑)よ。


「しかし他の連中も探せればいいのに、お前しか頼れねえのは困るよな」

『おまえ、報酬更に上げるぞ・・・』

「いや、お前が悪いとかそういう意味じゃなくて、人手が有ればなって話だよ」

『ああ、ヌベレッツの旦那も判んねーらしいからな』


俺が遺跡の探索に使える使える精霊は、この風精霊だけ。

たいてい地面にあるんだから土精霊にも解るんじゃと思ったのに、どうやらあの遺跡は何故か解らないらしい。

遺跡が土という存在というか大地と同一存在と化しているそうで、遺跡を見つけて形を把握するまで別物とは判別がつかないそうだ。

まあ俺らも探知で探してても、露出した一部を見つけるまで解んねーから似たような物なのかもしれん。


と言ってもこいつもはっきりとわかるわけじゃ無く、風に漂うほんの少しの違和感を、何となく感じるっていう程度だ。だから当てになる様で当てにならない。

けどこいつだけが唯一違和感に気が付く精霊だから、こいつに頼るしかない。


『・・・ん?』

「どうした、まさか見つけたのか?」


正直なんか珍しい物ないか調べついでの探索だったから、当たりが在るとは思って無かったので、風精霊の動きが止まった事に少し驚いてしまった。

俺一人で対処するのか。めんどくせえな。

つーか、戦ったら流石にイナイにばれるな。どうしよう。


『これ、もしかして・・・』

「おい、どうしたんだ?」


なんだ、遺跡が見つかったんじゃないのか?

やけに戸惑った様子を見せて――――。


「マジかよ」

『やっぱ、気のせいじゃ無かったか』

「頼りにならねぇ精霊だなぁ、おい」

『お前だって今気が付いたんだろうが!』


囲まれてやがる。

俺達の周囲を均等に囲っている辺り、明確に狙いは俺だ。

くそ、囲まれるまで全く気が付かなかった。

隠匿を重視して探知範囲狭めてたのが裏目に出た。


連中がいるのは探知の範囲ギリギリだから、距離はまだかなりある。

範囲をゆっくりと狭めて来てる辺り、逃がすつもりはないって事か。

それともこっちが気が付いている様子を見て、怖がらせようってか?


まあ、どっちにしろ関係ねえな。ここまで来たらやるしかない。

数は多いが何とかなるだろ。


『おい、気のせいじゃなかったら3百か4百ぐらいの数に囲まれてる気がするぞ』

「そうだな」

『余裕だなぁ』

「余裕だろ?」


この程度の魔力を放つ連中数百程度、何の問題も無い。

俺が何千相手に戦ってきたと思ってんだ。

ギーナ並みに力を消せるわけじゃ無ければ、何も問題ない。


『でも、多分これ魔人の群れじゃないか?』

「・・・は?」

『魔人の群れ。これぜーんぶ魔人の力を感じる』

「おいまて、冗談だろ?」


俺の探知には、少し魔力を強めに放ってる何かとしか感じない。

だから、魔人なのか魔物なのかは判別がつかない。

数百の魔人がこの土地に隠れてたって事か?

まじかよ、ギーナの奴何してんだよ。首都の傍が一番危険な土地とかふざけんなよ。


「・・・流石にやべえな、ただ戦闘能力が高いだけなら良いが、あの時の再来は勘弁だぞ」


油断してるなら、勝てるかもしれねえ。一対一なら、多分不意を打てる。

けど流石の連中だって、いくらかやられた辺りで舐める行動は止めるはずだ。

そうなったとき、俺が対処できる様な能力を持ってるなら良いが、そうじゃないならやばい。


俺が悩んでいる間にも、連中はゆっくりと距離を詰めて来る。

自分のみの安全だけを考えるなら逃げても良いんだが、ここで逃げたらこいつらが全員散り散りになる可能性がある。

それは駄目だ。魔人は一体で国を亡ぼせる化け物だ。放置は出来ねぇ。


『おい、何かが単独でこっち向かってきてるぞ』

「ああ、囲んでる連中より、少し早めに向かってきてるのが居るな」


俺達を囲んでいる群勢の後ろから、かなりの速さで近づいてるのが居た。

そいつは盛大な音を立てて土埃を上げながら接近し、俺達の目の前に現れると恭しく頭を下げた。


「お初にお目にかかります。わたくし、チャリガと申します」


俺も風精霊も、何だこいつという気持ちでその姿を見つめる。

見た目は普通の人族だが、この状況でこいつが人族だとは思えない。

服装は貴族の様な服装だが、それが余計に怪しさに拍車をかける。


「見た所人族と精霊のようですが、そちらの人族はフドゥナドル様の気配を感じます。もしやあの方の配下ですかな?

であればこの度の非礼をお詫びしたいと思いますが」


フドゥナドルの気配、ね。

なるほど、俺を囲んだだけで中々攻撃してこなかった理由はそれか。

クロトの気配を感じて近づいたのに居たのは人族だったから、どうするか悩んだ結果とりあえず確認に来たわけだ。

けど俺が人族だからだろうが、謝罪すると言いつつ目が見下してる。


「『あれ』とは友人だ。配下じゃねえな」


クロトは友人というには関係が浅いが、他に良い表現が出て来なかった。

まあ良いだろ、ギーナ怖い同盟って事で。


「・・・ほう、どうやらあの方に重宝されている様では有りますが、その図に乗った言動は見逃せませんな。少し立場という物を解らせてあげましょう」


奴はどうやら主が人族と同格に扱うような言動が気に食わなかった様で、殺気を放ってくる。

それと同時に囲んでいた連中が、凄まじい速度で迫り、肉眼で見える位置まで迫って来た。


「見えますか? これがわたくしの力です」


殺気と怒りが籠ったやつの言葉を聞きながら、それを観察する。

そこにいたのは人の姿をしてそこに有るのに、存在が揺らいでいる様に見える物だった。


「なんだ、これ」


初めて見る物に、疑問の言葉が漏れる。

それを聞いて、目の前の男は心底楽しそうに笑う。


「これがわたくしの力。わたくし一人の軍勢。今までに食った者達を兵に変える力ですよ!」


食った。食ったつったかこいつ。

つまりこれは、こいつに食われた人間か。こいつに食われて尚、こいつに良いように使われてるって事か。ざっけんなよ、この野郎。


「ほう、恐怖するかと思いましたが、怒りの目を向けてきますか。状況が理解できていないのですかね?」


おそらくこいつの言動からして、別に俺の命を奪う程度、主に咎められるとは思って無いんだろう。

だから殺せる。微塵の躊躇もなく、人を殺せる。

人を、食える。


「頭の悪そうな貴方に説明をしてあげましょう。どうやら理解出来ていないようですからね。

この軍勢はわたくしが食った人間と言っても、そのままの力では有りません。わたくしには流石に劣りますが、それぞれが魔人の力に等しい力を持つ存在です。

これがどういう意味を持つか、流石に頭の足りない貴方にも解るでしょう?」


にやにやと気持ち悪い笑みを浮かべながら能力自慢をする魔人に、冷たい感情が浮かんでくる。

これは、怒りすらも向ける意味のない存在だと。そのせいで俺の表情から感情が消えた。

奴はそれを恐怖したと取ったようで、また高らかに講釈をたれ始めた。


悦に入ったように語る男を、冷めた目で見つめる。

だが奴は俺の事などお構いなしにまだ語りを続けている。


「さて、あの方を『あれ』呼ばわりなどをした報いとして、四肢をもぎ取りギリギリまで生かして食ってあげましょう。喜びなさい、わたくしの軍勢の一人となって戦えるのですから」


そして語り切って満足したのか、奴は兵の足を進め始めた。

奴自身はその場から動かず、にやにやと俺を見つめながら。

おそらく、動けずにいる俺を嬲って楽しむとか、そんな所だろう。


「笑わせてくれる」

「どうしました、遺言でも?」


俺の呟きに、男はにやつきながら応える。

そんな奴を無表情で見つめながら、教えてやる。


「俺相手にこの程度の軍勢で挑むなんて、笑わせてくれるって言ったんだよ」

「なに?」


俺は魔道凝結晶を空高く頬り投げ、その力の開放によって強い光が周囲を埋め尽くす。

様々な力の奔流が、空間を飲み込む様に渦巻いて行く。


「な、何だ、何をした貴様!」


動揺する叫びが聞こえるが、答える気は無い。

その代わりに、見せてやる。俺の力を。

お前と同じ『たった一人の軍勢』の力を!


「なっ!?」


光りが収まり、俺の周囲に俺が契約したすべての精霊が、完全な力を持った状態で顕現する。

戦闘をするために、その力を十全に内包した状態で。

そして大精霊の周囲に大量の小さな精霊が、彼らに従う様に立っている。

数はこの時点で連中の半分は有る。

まだ、この程度では済まねえぞ。


「――――さあ、軍勢っていうのがどういう物か見せてやる」

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