第459話イナイの葛藤です!
あの後クロトが何かあると言った事をイナイに相談した。
イナイは、もしあの山に遺跡があるとしても、勝手に探索するわけにはいかないと言って、屋敷に戻って使用人さんに山の持ち主が居るかどうかを尋ねる事になった。
勿論、山に何か異変が有る様なので入りたいという旨も伝えた上で。
ただクロト自身に関しては、何か異変を感じる力があるという風に伝えている。
「あちらの山は特に持ち主と呼べる人間は居なかったと思います。あえて言うなら山を切り開くつもりのある人間が出てくるまでは、国が持ち主という所でしょうか」
「そうですか。では、私どもが山に入っても問題は有りませんか?」
「それは・・・その、ステル様の強さは重々承知しているつもりですが、万が一が有ります。
まずはこちらで調査の上で、もしくはせめて共和国の人員も共にお願いします。クロト様の感じた異変が何なのかはっきりしていない以上、余計に」
「そうですか・・・解りました。では、翌日ギーナ様が帰ってきたら、相談させて頂きます」
「申し訳ありません。そうして頂けると、一使用人としては大変助かります」
使用人さんはすまなそうに頭を下げてしまう。
この人が悪いわけでは無いので、何となくこちらも申し訳ない気持ちになってしまう。
イナイも頭を下げ、とりあえず自室で相談することにした。
「まじいな、ギーナが居れば話が早かったんだが」
「ギーナさんだったら『うん、解った。じゃあ行こうか』ってすぐ言いそうだよね」
ポヘタでは調査の会議が決まらないのが待てなくて、単独で来た人だし。
多分即決で行く気がする。
「明日迄の時間でも、不味い感じ?」
「何にも起こってねえなら問題ねえんだが、クロトが何か感じたってのが怖い。来て直ぐ何か感じてたんならともかく、散策中にだろ?」
「・・・うん、ここに着いた時は、何も感じなかった」
「となると、既に遺跡の中身が動いてる可能性がある。遺跡じゃ無けりゃいんだがな・・・」
イナイは眉間にしわを寄せながら、もどかしそうにしている。
もしあそこの魔人が出て来てるなら、時間が経てば経つほど不味い可能性があるからだろう。
どこで人を襲うか解らない。
けど魔人は国としては機密扱いらしいから、関わった人間以外に詳細は話せない以上、ギーナさんが戻って来て直ぐに動くのが一番早い事になる。
「内緒で行っちゃ駄目かな」
イナイは俺の言葉に、目を瞑って考える。
多分、動かない事の危険と、動いた事の不利益を考えているんだろう。
余計に眉間に皴が増えている。
「ここに来たのが完全に私用ならまだ動けたけど、あたしらは一応仕事で来てる。流石にウムルの名を背負ってるのに勝手は出来ねぇ。バレたら問題が有る。
偶々そこに居たってなら別だが、流石に山ん中に偶々いましたってのは通用しねーだろ。既に中身が起きてるなら外に出てる可能性がある。てことは外で戦闘する事になるからすぐにばれる」
イナイの結論は、やっぱり動けないという物だった。
ほっておけば危険があるかもしれない。それでも、自国に不利益を与えてまでは出来ない。
でも彼女は、他国の人間が死ぬかもしれない事に平然としていられる人じゃない。
その表情は辛そうだ。
「俺だけ単独でも駄目?」
「駄目だ。お前も今回はウムルの仕事で来てんだ。完全に休養で与えられた日ならともかく、今は一応仕事中な上、この国は形式上は最近まで敵対してた国なんだ。何か有ったらこの国も、あたしたちの国も困る」
「何かって?」
「お前が殺されたらって事だよ」
イナイの静かで重い声に、次の言葉が出なかった。
冗談じゃ無く、そうなる可能性があるとイナイは思っている。
「お前の力なら撃退は可能だろう。でも必ずじゃない。いつだって事故は起きる。それはあたし達だって例外じゃない」
昔の記憶を思い出しながら言うイナイに、背中に悪寒が走るのを感じた。
彼女に目に、ほんの少し恐怖が見えたからだ。
「戦闘能力だけが高くても倒せない力を持った奴ってのは存在するんだ。もしそういうやつが居たら、あたしらでも不味い」
「お、お姉ちゃんでも不味いの?」
「ああ、起きた所を何もさせずに速攻ならあたし達でも問題無いけど、時間を与えるとあたしらでも手におえねえ時が有る。事実リンが居なかったら手におえなかった事が有った」
さすがリンさん。別格過ぎるな。
リンさんが居れば全部片付くんじゃないかとは思うけど、流石にあの人も体は一つだけだしな。
それに今は王妃様だし、余計に動けないだろう。
『それだと向かってくれば良いけど、潜伏されると面倒じゃないか?』
「ああ、そっちの可能性も有って、どうしたもんかなと悩んでる。今まで仕留めてきた連中は意思確認したらその場で倒してたから、どう動くか解らねぇ」
イナイはあごに手を当てながら、思考を巡らせている。
なるべく早めに、なるべく被害が無い様に抑える為に。
でも、結局のところ結論は最初に戻ってしまう。
「やっぱ、ギーナに言うしかねえか。リンを下せるあいつなら、何とか出来そうだと思うし。人を動かすにしても、あいつの言葉ならスムーズに動かせるだろうしな・・・」
出来そう、という希望的観測。
イナイにして、弱気な言葉。
それが尚の事、事態の深刻さを示している気がした。
「・・・お父さん、お父さん」
「ん、どうしたのクロト」
「・・・勝手に行っちゃ、ダメなんだよね?」
「そうだな」
クロトに答えると、クロトはぽやっとした顔のまま、首を傾げる。
そしてしばらく俺の顔を見つめてから、口を開いた。
「・・・あの、アロネスって人は、良いの?」
「へ?」
「おい、まさか・・・!」
クロトの言葉に、何の事かと疑問を上げた俺と、慌てた様にクロトの言葉を聞くイナイ。
でも流石の俺も解った。一瞬何の事かと思ったけど、解ってしまった。
「・・・あの人、多分山の方にいるよ?」
予想通りのクロトの言葉に、イナイが激怒の叫びを上げたのは仕方ない事であろう。
ついさっきまで真剣に悩んでたのが、全部台無しである。
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