第458話リガラット首都の散策です!
今日一日はやる事無く、ギーナさんも居ないならアロネスさんの傍にいる意味が無い。
なので散策は何の問題も無くOKが出た。ただ、イナイの説教が終わってからだったけど。
俺達は説教終了待ちで、ギーナさんの屋敷の庭でのんびりしてます。グレット君も居るよ。
どうやらグレット君、使用人さんに気にいられたみたいで頭を撫でられてます。
因みに説教中に、正座をさせてその上に重りを置くと辛いよって教えてあげた。
板張りの上でやると尚辛いです。
アロネスさんから後で覚えてろよって叫ばれたけど知りませぬ。
この間の仕返しが出来たので、俺としてはすっきりです。
「タロウさん、本当にいい度胸してるよね」
それを見ていたシガルには、そんな事を言われた。
だって、あの人に関しては今更だし。
最初こそ気のいい兄さんって感じだったけど、段々と悪ふざけが増えていくんだもん。
こっちだって何もかも畏まって対応とかしなくなるよ。
「感謝はしてるし尊敬もしてるけど、アロネスさんだし」
それはそれ、これはこれ。
「普通は無理だと思うなぁ。救国の英雄で、錬金術師。つまりそれは魔術師としても高い能力を持っているって事だし、その頂点に立つ人にあんなに気安い行動はとれないよ」
「でもあの人、身近な人にはたいていあんな対応されてるよ?」
「そういえば初めてちゃんと顔合わせた時もそうだったね・・・」
飛行船の腕相撲の時だな。一応シガルも全員と顔合わせてるんだよな。
半分ぐらいとは、会話もしてるんだっけか。
「基本的にあの人達、権威は義務から発生する分にしか使わないから、あんまり気にしなくて良いと思うよ。イナイがそうでしょ?」
「確かにそうなんだけど」
「シガルはウッブルネさん相手だと結構気安かったんだし、あんな感じで良いと思うよ」
「おじちゃ、師匠は昔から知ってる人だもん。事情が違うよ」
まあ、昔からの知り合いと、分別付いてから会った人ではやっぱ違うか。
イナイは身内相手の時と公の場の時で自分を使い分けているし、その辺りもシガルが多少気を抜ける理由になってるのかな。
・・・あれ、そう思うと、物凄い今更な疑問が出てきた。
あのイナイが『シガル相手に』自分の素がばれるような行動を取ったんだよな。
公私を徹底してる上に、シガルの両親には変わらず公の顔で接している。
なのにシガルの前だけでは素の顔を晒した。もしかしてあれわざとやったのかな。
「ま、今更か」
その時睨まれたり怒られたりした気もするけど、まあ些細な事です。
色んな積み重ねが有って今が有る訳だし、別に構わない。
「どうしたの?」
小さな呟きにシガルが反応して、下から覗き込むように首を傾げながら聞いて来る。
そういうの可愛くて思わず抱きしめたくなるので、人の目があるところでは止めて下さい。
「ん、そろそろ説教終わったかなって」
「あ、あはは、なんか昔の話まで出て来てたし、もうちょっとかかりそうだよね」
「本当にあれでも大人しい方って事を、こんな所で知る事になるとは思わなかったよ」
防音張って説教してるから良いけど、俺でも解るレベルで聞かれたら不味い話が幾つも有った。
犯罪一歩手前どころか、普通に法に触れてるのがあってマジで笑えなかった。
なので流石にこれは聞いてられんと、庭で待機していたという訳です。
「あっ」
「へ?」
『逃げたな』
「・・・逃げた」
探知魔術にアロネスさんが転移で逃げたのと、それをイナイが防ごうとしたのを感じた。
シガル以外はアロネスさんの逃亡に気が付いたみたいだ。
相変わらずクロトはどうやって気が付いてるのか不思議だな。
「あんのやろう!」
イナイさん、イナイさん、ここギーナさんのお家だから俺達以外も居るよ。
彼女もはっとしたのか、その一言以外は聞こえなかった。
イナイも感情が高ぶりすぎてる時は、外でも偶に素の声が出るんだよな。滅多にないけど。
『くっくっく、アロネスもイナイには勝てないみたいだな』
「ネーレス様ってお姉ちゃんに頭が上がらない感じがするよね」
多分実際頭が上がらないんだと思う。
普段の軽口とか、世間話では対等な感じだけど、ふとした時にその上下関係が見える。
ただイナイの仲間たちは皆、イナイが好きだというのは間違いない。
だからこそ、余計に頭が上がらないのだろう。
式の記念写真の時の対応がそれを証明してる。
王様も王妃様も差し置いて、技工士が中央だからな。
その後しばらくして、イナイは貴族モード状態で庭まで出てきた。
でも若干イラッとしてるのが判るので、ちょっと怖い。
「皆、お待たせしました。行きましょうか」
ニッコリとしながら、出発を促すイナイさん。
イナイさん、イナイさん、イラっとしてるせいか探知魔術が揺らいでますよ。
突っ込むと怖そうなので、心の中に留めておく。
「ここまでの街にも泊まったから少し慣れたけど、やっぱりこれだけ人族以外の人が多いと圧巻だね」
街を眺めながら、素直な感想を口にする。
この国は本当に別世界なんだなと強く実感できる程に、人族が居ない。
偶に人族っぽい人を見かけるけど、殆ど人族に似てるだけで、やっぱり違う種族が大半だ。
獣化したガラバウみたいに狼の様な見た目の者も居れば、ほとんど人間と変わらないけど目だけが虫みたいな人も居た。
今更思ったけど、ガラバウは人狼そのままだな。普段は人の姿だし。
一番面食らったのは、完全にデカい蜘蛛の見た目の人だ。
喉がどうなってるのか知らないけど、普通に人語で話してる3メートルぐらいの蜘蛛だった。
あの種族は存在を知らなかったら化け物と思いかねない。
俺も、街で普通に悠々と歩いて無かったら剣を構えてしまうと思う。
意思疎通できるこの国の環境でなければ、あの人の生活は大変だっただろうな。
この国には他にもそういう感じの、人族から見たら明らかに化け物と思われそうな人種も沢山いた。
あ、可愛らしいのも居たよ。イナイと同じぐらいの大きさの猫が二足歩行で走り回ってた。
でもニャーとは鳴いて無かったので、やっぱ発声器官が違うんだろうな。
「ウムルにも彼らの様な種族は居るには居るけど、数が少ないからな」
王都にも居ないわけじゃなかったけど、たまに見かける程度だったからな。
地域によっては人族の方が少ない村とかが有るらしいけど。
因みにこっちにも人族はちゃんといる。
笑顔でこちらの国の人と接しているのを見かけるに、いい関係を築けてるっぽい。
「この国は色んな種族が乱立してるからか、露店の商品もばらばらだね」
シガルは人の流れよりも、そこから来る物の流れの方が気になったらしい。
確かに言われてみると、商品に統一性が無い感じもする。
売られている衣服の形と模様とか、器の形とか、食べ物の種類とか。
「でもその辺はウムルもそうじゃないのかな?」
ウムルだって、多種多様な人種が纏まった国だ。
それに南北に大きいから、生活様式はかなり変わっている筈だ。
「こっちの人間は種族が変わると体格がかなり違うし、生活の仕方も違うからな。
ウムルも確かに文化は違うが、種族的には同じ人族だ。よっぽど原始的な生活でも送っていたのでもない限り、ここまでの差は出ねえよ。芸術品は別だがな」
成程、その種族の自体の特性による文化か。
草しか食えない種族とかもいそうだな。
「それにしても皆こっちを見てるね」
こっちも回りを観察してるから何とも言えないが、道行く人皆こちらを見ている気がする。
「よそ者の人族だからな。その上こんなデカいの連れてたら目立つし気になるだろ」
「グレット大きいからね。置いてきた方が良かったかな。ごめんねお姉ちゃん」
「気にすんな。あたしらみたいなのが他国に仕事で行く時は、目立つのも仕事だ」
「うん、ありがとう、お姉ちゃん!」
目立つのも仕事か。確かに、イナイの立場としては目立つのも仕事なんだろうな。
でも俺は思うのです。それ本来、アロネスさんの仕事じゃね?
それにしてもあの人、どこに逃げたんだろ。夜にはちゃんと帰って来ると良いんだけど。
「・・・お父さん、お父さん」
クロトが俺の袖を引っ張って呼んでる。何だろ。
「どうした、クロト」
「・・・向こうの方、何かあるよ」
「むこう?」
「・・・うん、あっち」
クロトが指さす方向は山だった。
ぱっと見じゃ、俺には何があるのかさっぱり解らない。
念のため強化してみたけど、それでも特に異変は見えなかった。
普通に野生動物と、魔物らしき生き物は居たけど、それ以外は解らない。
「クロトには何か見えるの?」
「・・・何か有るって、さっき感じた」
「解った。ちょっとイナイと相談してみる」
クロトが何か感じるってことは、もしかしたら遺跡関連かもしれない。
俺は一度も魔人と相対してないから、どれだけ危ない存在かは若干実感がない。
けど、聞いてた限りヤバイのは解るし、イナイに言ったほうが良いだろう。
荒事にならないほうが良いなぁとは思うけど、どうなるかな。
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