第451話親父さんはいつも通りです!

「ふぬぁ!」

「おお!?」


親父さんの振るう拳に、少し驚きの声を上げつつ避ける。

ギリギリだったとかそういうわけじゃ無いけど、まさかそんな事してくると思って無くて少し驚いた。

剣戟の合間に殴りかかるとか、今まではそんな気配一切無かったし。


「ちぃ、やはり付け焼刃では通用せんか!」

「いやー、結構驚きましたけどね」

「ぬかせ!余裕で躱している事が解らぬほど愚鈍ではないわ!」


避けて距離を取る俺に、即座に反応して距離を詰める親父さん。

今日は親父さん、いつもの大剣じゃなくて少し小さめの剣を使っている。

相変わらず両手剣ではあるけど、前より小回りが利く大きさだ。


「いい加減、一発ぐらいは食らわんか!」

「あー、一発殴られるぐらいは良いかなぁとは思ってんですけどね」

「だったらさっきの一撃を避けるでない!」

「いや、あれは食らったら絶対剣を続けて振るつもりだったじゃないですか」

「当たり前だろう!」

「流石にそれまともに食らったら、俺死んじゃう可能性有りますからね?」


保護全力でかけてりゃ痛いだけで済むけど、そんな事して無い状態で食らったらただじゃすまない。

ていうか、こっちの世界の人もまともに食らえばただじゃすまない筈。

リンさんやギーナさんみたいなのは例外中の例外だ。


「お父さんも、いい加減諦めないかな」

『無理じゃないか?私にはどこか楽しんでる様に見える』


シガルは呆れ顔で観戦中だ。勿論ハクとクロトも居るし、今日はイナイも一緒だ。

イナイとクロトはシエリナさんと一緒に、庭に用意されたテーブルでお茶してる。


「くおぬあぁ!」


下段からの切り上げを躱すと、さらに踏み込んで気合の叫びと共に上段からの振り下ろしが迫る。

今までの大剣では無理な速度だ。

おそらくこういった動きの為に、いつもより小さい剣を使っているんだと思う。


「よっと」


迫る剣を自身の剣に滑らせるように受けて、軌道を変えつつ下に打ち落とす。

振り切った勢いと、俺の振り下ろしの力がかかった剣は、思い切り下に叩きつけられる。


「ぐっ!」


おそらく叩きつけた衝撃で少し腕が痺れたのだろう、一瞬親父さんの動きが止まる。

その隙を見逃さずに剣を振り上げ、親父さんの首元にピタッと添える。

あれだけ思い切り振り切ったのに切り上げが楽なこの剣、ほんとずるいなと今更思う。


「ぐ、ぐぬっ!」

「はいはい、ぐぬっじゃないでしょ、お父さん。タロウさんの勝ち―」

「ま、待ってくれシガルちゃん!もう一回!もう一回だ!」

「そう言ってもう6回目じゃない。何回もう一回するの」

「次!次で最後にするから!」

「それもさっき聞いた」


冷たい目でシガルに言い放たれる親父さん、そしてそのヘイトはわたくしに向かってきております。

今もシガルと話しながらも、眼光は完全にこっち向いてるし。


「あなた、せめて一回休憩にしてください。タロウさんもお疲れでしょう」

「ふん!この程度で疲れたなどとぬかす様な軟弱な輩にシガルちゃんは――ー」

「あ・な・た?」

「そうだな!少し休憩にしようか!」


相変わらず親父さん弱い。何とも言えない親近感が沸いてしまう。

敵意を向けられる理由もシガルを愛しているが故だし、何というかやっぱ嫌いになれない。

むしろ割と好きなんだよなー、俺は。


「はい、タロウさん」

「ああ、ありがとう」


親父さんが若干不満そうに椅子に座るのを見ていると、シガルがタオルを渡してくれる。

礼を言いつつ受け取ると、なんでお前だけという視線が突き刺さる。


「し、シガル、向こうにもタオル持って行ってあげてほしいな、なんて」

「・・・はぁ、しょうがないなぁ」


シガルはため息を付きながら、親父さんの下へ歩いて行く。

ぱぁっと笑顔になる親父さん。解り易すぎる。

だがシガルは手に持ったタオルを親父さんの顔に叩きつけるように投げた。それはもう、鞭を叩きつける様に。


「ぐおおおおお・・・!」


衝撃で椅子から転げ落ち、痛みでのたうち回る親父さん。

シガルさん、なんか怒ってらっしゃる?


『シガルは父親と本当に仲が良いな』

「・・・どうしたらそう見えるんだ。シガルめっちゃ攻撃してるのに」

『あんな物、甘えているだけだろう。あの程度で自分を嫌いになる筈が無いと思っているだけだ』

「成程」


確かに、あの親父さんがシガルを嫌いになる所は想像できんわ。

そういう意味では、シガルは誰よりも親父さんに甘えているのかもしれない。

俺にはああいった対応はあんまり無い事を考えると、親父さんの方が家族としては、誰よりも家族と思える相手なのかもしれない。

何をしても、何を言っても平気な相手か。


「ちょっとだけ、親父さんが羨ましいな」

『種類が違うだけで、シガルはタロウにちゃんと甘えているよ』

「だといいけど」


確かに甘えてくれるのは解ってるけど、何処か遠慮している時が有る気がするのよね。

イナイに遠慮してる時とか有る気がするし。


『シガルは強い子だから、自分の弱い部分を良く解ってる。だからそこも含めてタロウに甘えているんだろう。最近はそう思うよ』

「シガルの弱い部分?」

『うん。シガルは強いけど、やっぱりまだ未熟なんだ。だからどうしても自分の弱さに目が行ってしまう。そんな自分を嫌だと思いつつも、誤魔化そうとせいいっぱい強くある』


弱さを誤魔化そうと強くある、か。

確かにシガルは、背伸びして、めいいっぱい走って無理しようとしている所が有ると思う。


『タロウはどっちのシガルも受け入れている。だからシガルは甘えられる。怖くても甘えようとする』

「どっちもってのが良く解らないけど、シガルはシガルだからね。そりゃ受け入れるよ?」

『あはは、タロウはシガルとイナイが大好きだもんね』


それは当然。あの二人が俺の傍からいなくなったら、俺は俺を保てない自信が有るぞ。


「いい時間ですし、お昼にしましょうか」

「いたぁ!シ、シエリナ、引きずるならせめて腕か襟首に、痛い痛い!」


シエリナさんは倒れている親父さんの足首を握り、引きずりながら家の入口に歩いて行く。

最初の時点で頭を打ち、その後も若干デコボコな地面に背中をすられながら痛がる様に、俺は同情を禁じ得ない。


「・・・シガルはああならないでくれると嬉しいなぁ」

「ならないよ。あれはあの二人だからだよ」

「あの二人はあの二人で築いてきた時間が有る。お前とシガルがああなるわけじゃ無いだろ」

「いやうん、解ってるんだけどね。何て言うか、親父さんの尻に敷かれかげん見てるとね」


俺は自分の我がままを聞いてもらってて、甘えさせて貰ってる自覚は有るけど、同時に尻に敷かれてるのも自覚してる。

本気で二人に強気で来られたら、俺は逆らえる自信はない。


「あたしはお前が間違えた時に、一発入れるだけだ」

「あたしもタロウさんが暴走してる時に叱るだけだよ?」


この発言の時点で、やっぱ尻に敷かれてるよな。

まあ、別に良いんだけどさ。この関係が心地いい所が有るし。

・・・結局俺は俺で、二人に甘えてんだよな。


「まあ、その分二人は甘えさせてくれるから、別にいいや」


そう言って二人を抱きしめると、二人ともその手を握り返してくれる。

イナイは少し照れた様子で、シガルは満面の笑みだ。


「貴様!親の目の前で娘に抱き付くなど良いどきょ、あいたぁ!」

「はいはい煩いですよあなた」


俺達を見て、というか主にシガルを抱きしめているのを見て叫ぶ親父さん。

シエリナさん軽く足を持ち上げて、波をうたせるような動きで地面に親父さんを叩きつけて黙らせる。

前にも思ったけど、後頭部容赦なく叩きつけるよな、あの人。怖い。


「と、とりあえずあのままじゃ親父さん可哀そうだし行こうか」

「そ、そうだな」

「いつものことだけどね、あんなの」

『やっぱり愉快な男だな』

「・・・お爺ちゃん、頑丈」


でもあれだけの扱いをいつも受けておきながら、めげない親父さんも相当だよなぁ。

多少は自分がやらかしてる自覚が有るとかなのかね?

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