第450話グレットの力を確かめます!
アロネスさんの護衛の仕事までの3日間の間に、やりたい事をやっておこうという話になった。
そこで俺は、流れで放置になったグレットの魔術に関して確認をしたいと、ハクに協力を願う。
だって、俺一人だと、楽し気に首傾げるだけなんすもん。
という訳で今俺の目の前にはキュルキュルと鳴き声を上げるハクと、尻尾を丸めながらひゃんひゃんと返事をしているグレットがいる。因みに今日はハクさん、竜形態だ。
城にはもう他国の人間はほぼ居ないし、残ってる人もハクの姿を見られたところで問題ない人しかいないそうだ。
ハクが竜なのはこの城に勤める人は全員知ってるので、他国の人間さえいなければ全く問題ない。
そもそも別に知られること自体が問題ではなく、驚かれるのが面倒で人型になってるようなものだしね。
イナイはアロネスさんと仕事の話をしに行った。どうせ一緒に行くなら手伝えることは手伝ってやるとか言ってた。
シガルとクロトは仲良くベンチに座っている。とういうか、シガルの上にクロトが座っている。
若干クロトがご機嫌で、ハクが横目で不機嫌そうに見ているのは気のせいでは無い筈。
『うーん?』
グレットに話しかけるのを止めて、首を傾げるハク。
どうしたのかね。
「ハク、どしたの」
『昨日の魔術、どうやらグレットは偶々出来たらしい』
「へ、偶々?」
『逃げようと必死になった結果、私達が良く使う物を真似たみたいだな。ただそこに理屈も何もなく、唯々必死なだけで成したらしい』
つまり追いかけて来るハクが怖すぎて、見よう見まねで強化魔術を使ったら偶々出来たって事か。
あれ、なら魔力感知そのものは元から出来るって事かな?
「それなら、今も頑張れば出来るんじゃないのかね?」
『どうやら厩舎に戻った後、自分でも試してみたらしい。その時は何度やっても出来ない上に、体が痛くなったっぽいな』
らいし、ぽいってのは、意訳だからだろうな。
明確に会話が成立してるわけじゃ無いって言ってたし。
「成程、半端に魔力は流せるけど、ちゃんと出来てないから反動食らってるのか」
『流石にこればかりは、私も教えようがないな。詠唱はおそらく私の様に『言葉』とは少し違うだろうし、魔力操作は結局本人の慣れだからな』
「慣れって言うのも変な話だけど、まあそうだな。本人の感覚だよな、あの辺は」
そうか、てことはあの時の魔術は火事場の馬鹿力的なものだったのかもしれない。
でも一回できたって事は、頑張ればそのうちできるんじゃないかね。
『つまり、もう一度似たような状況にすれば出来るという事だな』
「止めてあげてください」
わざわざ怖がらせるのは可哀そうなので止めてあげて。
ハク的には追いかけっこ楽しいんだろうけど、ハクに追いかけられるグレットは間違いなく恐怖しかない。
まあ、ハクも気に入ってる子にあまり触れられないうっ憤を、せめてそういったもので誤魔化そうとしている節が有るので、毎回止めるってのが出来ないんだけど。
「しかしそっか、使えないのか・・・」
「タロウさん、残念そうだね。なんで?」
グレットが魔術をまともに使えない事実を知って、若干残念な表情の俺に、不思議そうにシガルが尋ねて来る。
「んー、単純に使えるならグレットが少し安全だなと思っただけだよ」
「安全?」
「うん、グレットは強いけど、強いって言っても結局危険な魔物程の強さじゃない。強化が使えるなら、そういうのに遭遇した時にグレット自身も安全だなって思ってね」
「え、でもグレットを倒す様な魔物って・・・」
「樹海の奥の魔物レベルが出てきたら、グレットじゃ多分勝てないよ?」
俺が中間試験で倒して来いと言われた魔物。あの鬼のような化け物。
あいつでも、多分グレットじゃ勝てない。亜竜なんて言わずもがなだ。
勿論あの時の俺の様に魔力の流れを見る事が出来るなら別だけど、反動食らってるようなグレットにそれをちゃんと感じ取れるのかは怪しい物だ。
それに俺は魔力を視覚で捉えているけど、普通は見ることは出来ないしな。
「タロウさん、そんな高クラスの魔物相手にする事なんてめったに無いと思うよ?」
「どうかな、未開の地に行く可能性を考えると、有りえなくは無いと思うけど」
「心配性だね」
「そりゃあ、一緒に暮らす家族の心配は当然でしょう」
俺の言い分に、シガルがクスッと笑う。
まあ、心配も何も、自分のわがままの延長線上に仕事が有った時点で、何言ってんだこいつって話なんだが。
だからこそ出来る限り全力で守るけど、グレット自身が力を持てるなら安全で良いなと思った訳だ。
「この間の速度は相当な物だったし、逃げ足だけでも確保できればなって思ったんだ」
「確かに凄く早かったもんね。見た所魔術の形としては、大分貧弱だったけど」
シガルさん、冷静に辛辣なお言葉を発せられる。
まあ、シガルは魔術に関しては元々技量が高いもんな。
旅に出た時なんか、普通に強化魔術を高い精度で使ってたし。
「まあ、使えないならしょうがないか」
「もともと使えないと思ってたんだしね。飼い主としてちゃんとあたしが守るよ」
『じゃあ、シガルは私が守ればいいな』
「あはは、ありがと、ハク」
ハクさんは何やらどや顔で言っているが、結局それはいつも通りという事では無かろうか。
頼りになるから良いんだけどさ。
「・・・僕も、守る」
「あはっ、そっか、ありがと、クロト君」
『・・・むう』
自分を抱えるシガルに、守ると告げるクロト。少し予想外だったのか、シガルはなんだか嬉しそうだ。
そしてハクさんは一気に機嫌が悪くなっていそうだ。
あれ、グレットが自分からハクに近づいてる。どうしたんだ―――。
「・・・キュル?」
ハクが予想外の事に言葉になっていない鳴き声を漏らす。
何故ならグレットが、自らハクの横顔をペロッとなめたからだ。
今までも舐めた事ぐらいは有るけど、どれもハクが近づいた時の話だ。グレットから行ったのは初めてな筈。
グレットは少しびくびくしながらも、ハクをどこか気遣うような雰囲気を見せている。
「キュ~♪」
嬉しそうな鳴き声を上げながら、グレットを撫でるハク。
グレットは若干怯えが見える物の、その手から逃げる様子は無かった。
「流石になれてきたって事かな。シガルはどう思う?」
「ハクは最近特に、グレットの世話焼いてたからね。怯えさせる事が有るせいでまだ怖いみたいだけど、そろそろ警戒しすぎなくても平気かなと思い始めたんじゃないかな」
世話してくれる人だけど、怖い人って感じかね。
そういえば今更だけど、あいつ竜のハクと人型のハクが同じって判ってんだな。
「・・・ちっ」
クロトくん、今舌打ちしなかった?
「キュルル~♪」
だがそんなクロトを気にすることなく、ハクは上機嫌だ。
まあやっと懐いてくれたんだし、そりゃ嬉しいわな。
今日の予定はグレットが魔術を使えるならどれだけできるのか確かめるつもりだったんだけど、予定が潰れたな。
まあいっか、イナイが戻ってくるまでシガルとまったりしてよ。
別に用意する物もほぼ無いからなぁ。
あ、そうだ、出発前に親父さんにだけは挨拶しとこ。
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