新たな仕事、意外な内容。

第448話仕事が決まったようです!

「ほら、おいでー!」


ガフガフと鳴きながらじゃれつくグレットに、シガルが声をかけて広い演習場を走り出す。

強化をかけていない状態なのでグレットはあっさり追いつくが、そのままシガルの周囲を楽しそうに跳ね回る。

図体のデカささえ気にしなければとても可愛らしい。


「何であれで落ちないんだろう」


俺はそんなグレットに乗るクロトを見て呟く。

だってクロト君、いつものぼーっとした顔で微動だにせずに背中に乗ってんだもん。


「あいつら仲いいみたいだし、どっちも落ちないように気を付けてんじゃねえの?」

『むう、私は乗ったらゆっくりしか歩いてくれないのに!』


だってそりゃ、尻尾丸めて足震えながらじゃ走れんよ。

何時になったらグレットはハクになれてくれるんだろうねー。

いい加減、世話してくれる相手だって認識しそうなものだけどなぁ。

やっぱり本能的な怖さってなかなか払拭出来ないのかな。


ん、クロトがこっち見てる・・・いや、ハクを見てる?


「・・・ふっ」


鼻で笑うような笑い方を、ハクに向けるクロト。

クロトってあんな事する子だっけ。ああいや、ハク相手にはする子だった。


『ふ、ふふ、ふふふ、良い度胸だ!』

「・・・グレット、にげろー」


風もなく低空飛行をしてクロトに突っ込んでいくハクに対し、グレットに逃げるように指示するクロト。

グレットはヒャンっていう何とも言えない鳴き声を上げながら全力疾走で逃げていく。

グレット君、巻き添えである。


「ハク・・・そういう事するから怖がられるんだよ・・・」


凄い速度で離れていく二人と一匹を見て、シガルは友人の行動に呆れた声音で呟くのだった。

ていうかあれ、クロト完全にわざとやってるよね。


「しかし、本気で追いかけちゃいねーとはいえ、あの速度で逃げられるグレットも大概だな」

「そうだね、その辺の魔物なんて相手にならないぐらい力も強いし。あの子は凄いと思う」

「え、何それシガル。魔物と戦わせたの?」

「戦わせたっていうか、暇だったから狩りに行っちゃったと言うか。ハクとグレットとあたしで出かけてる時に、あの子褒めて褒めてって感じで倒したの持ってきたんだ」

「あいつが街で暴れた時、支部の一番強いらしい婆さんが苦戦してたぐらいだからな。並みの魔物じゃ歯が立たねーだろ」


魔物狩って来たのか。まあ、あいつ普通に方いデカいし、力強いだろうし、それ位できるか。

今もハクと追いかけっこして逃げ―――。


「は?」

「へ?」

「え、なにどうし―――」


俺とイナイが間抜けな声を出し、それを見て俺達と同じ方向を見たシガルも言葉が止まる。


「ねえ、イナイ。グレットの種族って皆ああいう事出来るの?」

「いや、んなこたねえが。・・・前例がないわけじゃねえが珍しいな」

「び、びっくりした・・・」


俺達が驚いた理由。それは目の前のおいかっけっこが原因。

おいかっけっこ自体は平和な物だ。ハクはただ追いかけてるだけだし、グレットがそれから逃げてるだけ。

攻撃するわけじゃ無いので、平和そのものだ。グレットが怖がってる以上、平和というのもどうかと思うけど。


けど、そんな光景の中、一つおかしな事が有る。

『グレットが魔力を纏っている』事だ。


「あれ強化魔術だよね、たぶん」

「だな。すげー速度で走ってんぞ」

「元々が速いと、やっぱり凄いねー・・・いつから出来る様になったんだろうあの子」


因みに速くなったからといってハクを引き離せるわけでは無いのである。合掌。

でも流石にクロトが時々落ちそうになってる。

なんとか堪えてるけど、あれそのうち落ちるな。


「楽しそうだな」


その光景を眺める俺達に声がかかる。

今日は周囲に人がいるせいなのか、近づいて来るのが解っていたので驚かない。

ブルベさんだ。今日は王様モードだな。護衛も居るし当たり前か。

それに今日は隣にアロネスさんが立っている。


王様モードのブルベさん相手なら跪かなきゃと思ったけど、その前に手で制される。

イナイの方をちらっと見ると、こくんと頷かれたので素直に普通に頭を下げて挨拶をする。


「家族で楽しんでいる所すまんな、例の件で話をしたい」


例の件って言うと、仕事の話しか。どこに行くのか決まったのかな。


「いえ、気にしないで下さい。それでどうなりました?」

「そう言ってくれると助かる。内容に関してはアロネスに説明を任せている。イナイ、よろしく頼むぞ」

「はっ」

「では、私はこれで失礼する」


それで告げるべきは告げたのか、護衛であろう騎士たちを連れて去って行った。

何か凄いアッサリだな。アロネスさんに任せてるからかな?


「・・・で、お前今度は何やったんだ」

「いや、まてまて、何もやってねえよ!」


ブルベさん達が去ると、呆れた声音でアロネスさんに責める様に問うイナイ。

だがアロネスさんは慌てたように否定する。


「じゃあなんでお前が説明に来てんだよ。何かやった尻拭いじゃねえのかよ」

「最近殆ど他国に行ってねえよ!やりようがねえだろ!?」

「・・・お前だしなぁ」

「ひっでえな。最近本当に大人しくしてたじゃねーか」


アロネスさん、何か知らないけど、色々やってんだなー。

竜の山の一件だけじゃないぽいんだよなー、この人。


「で、実際なんだよ」

「・・・おいイナイ、解っててからかいやがったな」


楽しそうなイナイと悔しそうなアロネスさん。

アロネスさんも基本的にはイナイに頭上がらないよな。


「はぁ・・・んで内容だが・・・・ほら、えっと、その、なんだ」

「・・・」

「あー、っと、な」

「あんだよ、早く言えよ」


何だか凄く言いにくそうに俺をちらちら見ながら、どうしたものかという表情のアロネスさん。

もしかして俺達がいると言いにくい事とかなのかな。


「俺達離れてた方が良いですか?」

「そうだな、とりあえ――――」

「阿呆、却下だ」


俺の提案に乗ろうとしたアロネスさんに、鋭い瞳で却下するイナイ。

その瞳はとても冷たい。


「おい、アロネス。怒らねえから正直に言え。何やった」

「あ、いや、やって無い。マジ。そこは本当だって」

「じゃあわざわざブルベが来てタロウに何の話かを伝えてるのに、タロウに聞かせねえってのはどういう事だ」

「あー・・・うん、解った。ごめん。言う、言うって」


鋭く冷たい目に気圧されたのか、謝りながら白状するというアロネスさん。

イナイは暫く目の鋭さを変えなかったが、ため息を一つ吐くと普段通りに戻る。


「最初から素直に言えっつーんだ」

「悪かったよ」

「んで、何だよ。本当に怒らねーから言ってみな」

「・・・俺の護衛してほしいんだよ。イナイ達に」

「・・・・・・・・・・は?」


目の前の男が何を言っているのかさっぱり解らないという感じで、イナイの口から言葉が漏れる。

隣に立ってる俺も意味が解らない。アロネスさんを護衛?


「だから!俺が仕事で他国に行くから護衛してくれって言ってんの!」

「・・・アロネス、お前大丈夫か? 熱でも有るのか?」

「アロネスさん、もしかして具合悪いんですか?」

「至って健康だ!」


いや、健康ならそれこそ何言ってんのこの人。

イナイに頼むのはまだわからなくもないけど、アロネスさんが護衛要るって相当だぞ。

ぶっちゃけ俺達が行ったら、逆に足手まといになる。


「と、とりあえずちゃんと説明すっから・・・」

「おう、そうしてくれ。でねえとこのまま簀巻きにしてセルに治療頼むぞ」


俺も正直心配になる。

そしてもし本当に護衛がいる話なら、そんな所にシガル連れてけないぞ・・・。

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