第447話イナイは心配ですか?

「では、確かに送り届けました」

「ええ、手間をかけて申し訳ありません」

「いえ、お気になさらず。失礼致します」


タロウを送り届けてくれたバルフに謝罪をし、去っていくのを暫く見届けて扉を閉める。

振り返ってベッドに転がしたタロウと心配そうにベッドに腰掛けるシガルを見て、深くため息を吐いた。


「連日ぶっ倒れるとか何考えてんだこいつは」

「あ、あはは・・・」


ちょっとやる事が有るっつーから何しに行ったかと思えば、わざわざバルフに見せに行ったのかよ。

それも戦う為じゃなく、ただ見せる為だけに。


「まったく、手のかかる奴だな」

「・・・タロウさん、苦しそうだね」

「自業自得だ。ただでさえ負担のかかる魔術で更に無茶やってんだ。むしろこの程度で済んでるのが普通はおかしいんだよ」


こいつの使った魔術は、普通は使える筈が無い魔術だ。

あたしどころか、おそらくセルにもグルドにも出来ない魔術だ。

そんな物を使った反動がこの程度で済んでること自体、普通はおかしい。


あの魔術は、完全なタロウのオリジナルだ。

まず真似出来る奴がいないし、使う条件を満たせる奴がおそらく居ない。

いや、探せば見つかるかもしれないが、いても世界に数人というレベルだろう。


錬金術の精錬の制御、通常魔術と竜魔術と疑似魔法の同質制御、そして仙術の使用とそれに耐えられる身体制御。

これら全てを有し、同時に制御出来て初めて使える業だ。


魔力補充の為だけに安定させた複数の精霊石の用意、そしてそれを体内で純粋な魔力に変換。

明らかに内容限界値を超えている魔力を体内で循環させ、3種の魔術全てで2乗強化魔術を発動。

一切制御しきれていない暴走した魔力による反動を、無理矢理仙術で押さえつける。

そして数十秒だけ、私達に匹敵しかねない身体能力を手に入れる技。


無茶苦茶だ。話だけきけば自殺行為と何の代わりも無い。

そんな理想だけを並べた技が、使えるものかと鼻で笑うレベルだ。

だがこいつはそれを形にしやがった。大馬鹿だわ。


「・・・ねえ、お姉ちゃんは、タロウさんがあの魔術を使うのは心配じゃないの?」

「心配に決まってんだろ」


当たり前だ。あんな物まともな技とは言えない。

少しでも何かを間違えれば死ぬような技を、こいつは使っているんだ。

例えシガルの様に目で魔力を捉えられなくても、こいつがやってる事が異常な事ぐらい解る。


息を荒くして胸を上下させながら眠るタロウを見て、心配でない筈が無い。

このまま心臓が止まらないか不安になる。

負荷が単純な魔力暴走じゃないだけに、余計に。


「実際には見てねえが、理屈を聞いただけで異常だって解る技術だ。無茶苦茶だあんなもん」


あたし達は倒れたタロウから何をやったのか聞いただけで、結局その技を使ったところは見ていない。

実際に見たのはバルフとその部下たちが最初。だが流石のバルフも説明されなきゃ種自体は解るまいな。


「使わさないようにって、思わないの?」

「使わなくて良いなら使わねーでくれた方が、こっちの心労も少なくて良いな」


タロウの手を握り、こちらに目を合わせずに聞いて来るシガルに淡々と答える。


「けど、戦う力はあって困るものじゃ無い。平和なのが一番だが、誰もがそう考えてるわけじゃ無い。なら、こいつが強くなる為に求めた物自体を否定する気は無い」

「・・・お姉ちゃんはやっぱり強いね。あたしは心配でたまらない」


シガルは俯きながら、弱々しい声音で心の内を吐き出す。

それをみて、シガルの頭を撫でながら隣に座る。


「心配したら良いんじゃねえか。今回はこいつなりの意地が有ったみたいだけど、お前のその心配顔見たらそうそう使わねーだろ」

「そうかな?」

「そーだよ。何なら起きた時に一緒に一発殴ってやろう。連日心配かけんなってな。あたしだってそうポンポン使われちゃ心配だからな」

「あはは、そうだね、それもいいかも」


あたしの言葉に弱々しく笑うシガル。あたしとしちゃ、こいつもこいつで心配なんだがな。

ハクが色々何か教えたらしいが、シガルもタロウといい勝負で無茶するからな。

とはいえタロウよりは心配はしないで済む相手だとは思っているが。


「ま、心配させた分、ちゃんと返してもらおうや」

「・・・そうだね、起きたらちゃーんと返してもらわないとね」


ニヤッと笑いながらタロウが起きた時の事を言うと、シガルも少し嫌らしい笑みを浮かべる。

うん、まだ余裕は有るな。こっちの話題で復活されると、あたしは少し困るんだけどな。


「そいや、シガルは何を覚えたんだ。なんかハクとやってたんだろ?」

「あ、うん、えっと、何て言えばいいのかな。今の限界を無理矢理誤魔化す技、かな」

「あん、なんだそりゃ。大丈夫なのか?」

「結構疲れるけど、タロウさんみたいな本当の意味で無茶な技じゃないから大丈夫だよ」


本当に大丈夫なのか心配なんだが。こいつもタロウも似た者同士だな、まったく。

・・・あたしもあまり人の事はいえねーが。


「あんま無茶してくれんなよ。タロウも心配だが、お前も家族なんだからな」


自分より少し背の高い頭を胸に寄せる様に抱え、頭を撫でながら伝える。


「・・・うん、ありがとうお姉ちゃん。でも大丈夫だよ。あたしは、大丈夫」


頭を抱えられながら、上目遣いでしっかりとした声音で言うシガル。

ここまで言うなら信用しなきゃ、か。


「ん、解った」

「ありがとお姉ちゃん」


素直に頷いたあたしに礼を言いながら、腰に抱き付くシガル。

この子はしっかりし過ぎてるから偶には甘える位で丁度良いと思うんだがな。

本人が頑張るって言ってるうちはやらせとくか。疲れた時に、支えになってやればそれで良い。


とりあえずこのバカタレにはシガルと二人で釘をさしておくか。

起きたら一発殴っておかねーとな。

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