第442話やる事が増えました!

「うーん、見栄を張りすぎた。あの顔はバレてるなぁ・・・」


地面に横たわりながら、さっきのシガルの反応を思い返す。

見せておかないといけないと思う反面、彼女が見たら絶対心配するのが解っているから本当は見せたくなかった。

この魔術はぶっちゃけ、制御なんか出来ちゃいない。魔術そのものを発動し、その在り方だけを維持しているだけ。


「そんなもん、魔力が目ではっきりと見える彼女が見たら、どう考えても怖いんだよなぁ・・」


明らかに、魔力が纏まっていないからなぁ。

自分でやってても怖いもん。めっちゃくちゃ力が暴れまくってるし。

他人がやってたら絶対止める。


「しかし本当に体が動かん。血が通って無くて痺れてる時にちかいな」


シガルを見送った後、俺はその場で崩れ落ちた。

つっても仙術で無理矢理立っていたので、立っているための生命維持を切っただけだけど。


この状態の気功の流れは、乱れているというより流れ自体が弱い感じだなぁ。

・・・ふむ、気功の流れが弱い状態、か。

体が回復したら、わざとこの状態にしてみようかね。

すぐには動けないと思うけど、少しずつ下げて慣らせば行けるんじゃ。


「お、指は動き始めた」


ふむ、反動自体はそこまで長時間じゃなくてよかった。昨日はイナイの膝枕で寝ちゃったからなー。

それにそこまで長時間じゃないってだけで、十数分は経っているし、戦闘中にこんな事になったら命取りだけど。


とりあえずは体が動くようになったら、さっきの倍の時間使っても反動が同じぐらいなのかどうかを確かめよう。

仙術そのものの反動じゃないかどうかわかるように、そこも加減しないとな。


「ん、うっし、起き上がれる。よっと」


掛け声をかけて立ち上がり、体を動かして状態を確かめる。

気功もゆっくりと正常な状態に戻っていっている。


「んじゃ、次はさっきの倍の時間やってみますかね」


2度ともちゃんと成功したとはいえ、結局は制御出来ていない魔術を使っているような物。

細心の注意を払って、また2乗強化をかける。


仙術で生命維持をしているから一瞬の痛みが走る程度で済んでいるけど、その痛みがすげー痛い。

正常に保つって言っても同じような乱れ方をしているわけじゃ無いから、常に乱れた後に治す形になる。

結果、どうしても後手に回る以上痛みは走る。


「ぎっ・・ぐっ・・・」


シガルが目の前にいる時は大分強がって平気そうに見せてたけど、やっぱきつい。

リンさんにボコられた経験が無ければ、耐えられる気がしない。

・・・まあ偶に、痛みも感じずって時も有ったけど。


「もう・・・ちょい・・・・」


腕時計を見ながら、さっきの倍の時間までこれを維持し続け、時間になったと同時に魔術を解く。

完全に暴走していた魔力は霧散し、さっきまで有った異常な負荷は消える。

だが魔術を切った瞬間、流れの弱さにさっき気が付いたおかげか、気功の流れが弱まったのを感じる。

勿論通常状態に保っているので、流れの強さも今は普通の状態だ。


「よし、これ多分倒れる」


頭から倒れたりすると痛いので、自ら地面に倒れ伏し、仙術の使用をやめる。

すると予想通り体は動かなくなった。


「・・・あれ?」


体は動かない事は変わりがないのだが、気功の流れはさっき倒れた時と変わらない。

これもしかして、仙術を使い過ぎさえしなければ、反動は変わらない?


「とりあえず動けるまで転がってりゃ解るか」


そして回復まで待ってみるとその考えは間違っていなかったらしく、回復にかかる時間は殆ど同じだった。

どうやら体が動かなくなる理由は、気功の方に有るっぽいな。

今まで気功の流れを強めたり正常にしたりはしても、わざと弱めた事なんて無かったから気が付か無かった。


「んじゃ、試しに弱めてみるか」


急激に弱めると何が起こるか解らないので、ゆっくりと落としていく。

すると段々と体が重くなっていき、一定ラインを超えると完全に体が動かせなくなった。

ふむ、何で体動かなくなるのかは解ったけど、なんでこの状態になるのかが解らないな。


「とりあえず、動けなくなるところまでの半分ぐらいに落として歩いてみるかね」


流れを落とした状態で歩くと、すぐに体に異常を感じる。

体に血が通ってないかのように、全身の感覚が明らかに鈍いし重い。

一歩一歩踏み出すのも、体の軸がしっかりしない。頭がふらふらする。

これはきついな。


「えっぷ、気持ち悪。視界が狭まって来るし、若干吐き気もしてきた」


動き出す前はただ流れが弱いだけだったのだけど、動くと流れ自体が乱れたので多分それが原因。

要はあれか、強制的に貧弱にしてるのか、これ。

気持ち悪さを我慢して歩いていると、本気で吐き気がこみ上げてきた。


「ぎもぢわる・・・」


とりあえず流れの弱さは維持したまま、その場に寝転がる。

呼吸を落ち着けようと深呼吸をし、ゆっくりと乱れが治るのを待つ。

普段ならそんなに困る事のない呼吸の戻りも、かなりの時間をかけて正常に戻った。


「きっつ・・・でも多分、これに慣れたら弱まった状態でも動けるかもしれない」


もし弱った状態でも動けるなら、2乗強化を多少気軽に使える。

0に何をかけても0だけど、1でも良いから有れば強化魔術で動ける。

使った後の心配が、少しだけ消える。


「つまり試す事増えたって事じゃん」


あの魔術をちゃんと戦闘で使えるレベルにして、この弱化状態でも動けるようにして、更に切り札の魔術も使えるようにする。

・・・時間、足りるかな。

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